怒れ、怒りがお前を強くする   作:クシャトリラ・ダストン

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緩やかな変化

「    はっ!」

 

 

 それなりの速度で拳を突き出す。

 狙いは正面に構える女だ。

 

 

「なんのっ!」

 

 

 女こと、花戒は繰り出される拳を難なく受け止める。

 しかしそれだけじゃ終わらせない。

 

 右に、左と、攻め手を辞めない。

 さてどうするよ!

 

 

「っ、受け止めます!」

 

「そうかぁっ!」

 

 

 花戒が選んだのは、徹底した守勢。

 じゃあ遠慮なく攻勢を続けさせてもらうだけだぁっ!

 

 

「ほっ、そらぁっ!」

 

「ぐ! なん、のっ!」

 

 

 俺の拳を受け止め、逸らす。

 ……やっぱ、花戒は手堅いなぁ!

 

 

「しかしそれだけだなっ!」

 

「しまっ」

 

 

 受け止めた時の反動で、バランスが崩れる。

 そこを突いての……足技っ!

 

 

「きゃあっ!」

 

「気は抜けねぇぞ!」

 

「ぁっ……!」

 

 

 拳で空いた顔面を    !

 

 

「っ……!」

 

「……なんてな」

 

 

 寸止め。

 

 攻め続きで見えた綻びを見逃す理由はないんだが、まあ組み手だし。

 しかし今はいいけど、俺らが加わるのは命を賭けた戦いだ。

 

 

「……ほら、起きれるか?」

 

「すみません……」

 

 

 手を貸して花戒を起き上がらせる。

 今回の組み手は、ちょい前に言ってたアレを案外直ぐに暇ができたからやろうと俺が誘った形だ。

 

 

「やっぱ花戒、守りは凄えよ」

 

 

 俺はグレイフィアさん直々に鍛えられてるからどっちもできなきゃダメなんだけど、それありきの俺でも中々攻め切れない。

 同世代ならいいとこ行けるんじゃないかね。

 ……まあ俺の知ってる人相手なら。

 

 

「俺プラス戦車のフィジカルに対してあんだけ耐えられるんならすごい方なんじゃないか?」

 

「ありがとうございます」

 

「まあ確かなことは言えねぇけど。それでもまあ攻め切れないってのは困らされること多いと思うぜ、攻めた側の意見として」

 

「はいっ」

 

「俺の所感はこんな感じだけど、花戒はどう思ったよ」

 

 

 意見交換としては、花戒の意見も欲しい。

 俺は何が足りない、こうしたら的な。

 

 

「……鬼怒川さんは攻めも受けも、搦手もバランス良く出来ていると思います」

 

「グレイフィアさんに仕込まれてるからなぁ」

 

「はい、流石は最強の女王であるかと」

 

「それもあるけどあの人鬼スパルタだからな……ハハ」

 

 

 いやあキツい、人の限界の270%くらいを目安にしてくるからなあの人。

 まあ乗り切れたからこそここにいる訳だが……まだまだお世話になる気しかしねぇなあの人には。

 

 

「やはり、問題点とするなら神器になるのではないでしょうか」

 

「だよなぁ」

 

「はい。このレベルであれば素のフィジカルに問題がない以上、足枷になっているのは……」

 

「はっきり言ってくれて助かるよ」

 

 

 いやぁあの斧どうしたらいいか。

 力の引き出し方が一向にわからんのよな。

 火力は出るから使っちゃいるんだが、どんだけ俺を鍛えても重いままだし……。

 

 

「ま、あれはなんとかするさ、つかしなきゃ戦車として不甲斐ない」

 

 

 


 

 

 

 それから少しの間、堕天使どももほとんど動きを見せず……アーシアとは偶に出会う、と言った日々が続いていたな。

 

 

 

「は?」

 

「だーかーらー! 夕麻ちゃんと話したんだって!」

 

「いやおま……えぇ」

 

 

 殺されかけたっての覚えてる?

 一途さには天晴れと言いたいが、もう少し自分の身をだな。

 

 

「まあいい、それで何て言われたんだ?」

 

「……もう自分達とも、悪魔とも関わるなって……」

 

「は、そりゃ間違いない助言だな」

 

 

 皮肉なもんだ、関わる様になった原因が関わるなと忠告するとは。

 

 

「それでも! 夕麻ちゃんは悲しそうな顔をしてたんだ」

 

「だからどうしたいって?」

 

「それは……」

 

「そこら辺はちゃんと考えろ。お前は人間で、その夕麻とやらは堕天使だ」

 

 

 個人的にはその堕天使のスタンスが定まってないってのが気になるけど。

 何が何やら、だ。

 

 

「……まあ、なんだ。いざという時は助けるさ。クラスメイトだしな」

 

「ありがとよ。……ってか心までイケメンなのかよお前は!」

 

「何の話だ」

 

 

 くっそー! といつもの調子を取り戻したかの様に振る舞う兵藤。

 そうだよ、覗きその他色々問題点はあるが、そうやって笑って過ごせるのはお前の美点だろうよ。

 

 

「というか、お前っていっつも安定してるよな」

 

「安定?」

 

「なんつーか……最近はこうやって、普通の話もする様になったから余計に感じるんだけどよ」

 

「最近になってようやく普通の会話ができる様になったって事実の方が困りもんだが」

 

「イケメンが悪い!」

 

 

 ひっでぇ。

 

 

「木場や小猫ちゃんは、戸惑いだとか俺に対する嫌悪感みてーなのがちゃんとあるんだよ」

 

「言ってて悲しくならんのか」

 

「うっせーもう慣れたよ! ……でもお前はさ、何と言うか」

 

「感情、押し殺してないか?」

 

「……人並みに感情表現はしてるつもりだが」

 

「そうじゃなくって、自分を型に嵌めてる感じ……っていうのか? ガッチガチな雰囲気がするだよなお前、あほら、あのちょー可愛い生徒会長とか」

 

「蒼那生徒会長ねぇ……」

 

「あの人は立場的にそうしなきゃならない人なんだろうけど。鬼怒川はなんて言うのかなぁ……すまん、言葉が浮かばねぇわ」

 

「……」

 

 

 なんか。

 

 

「兵藤、お前ってさ」

 

「? 何だよ」

 

「スケベなことが関わらなかったらすっげーまともなんだな、ちょっと見直したわ」

 

「……うっせー!」

 

 

 気恥ずかしいのかさっさと行ってしまう兵藤。

 一途なところと言い、悪癖しか見えなかった頃からすると驚く程印象が変わって見える。

 変態ではあるが。

 

 

「にしても、型に嵌ってるとは」

 

 

 自覚はない……てか、自覚したところでどこをどう改善すりゃいいんだ?

 つまり今のままか。

 

 

「今は、それに向き合ってる暇はないかもなぁ」

 

 

 ……この前アーシアにあった時、神父の同僚ができましたと言っていた。

 彼女が優しいのと、バレてないってだけで悪魔と神父・シスターは相容れない。

 

 

「今日も見回り行きますか……っと」

 

 

 嫌な予感がするなぁ。

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