守護刀と境界戦線   作:寝る子は粗雑

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部隊結成?

 

「よう、竹叢(たかむら)。ここ空いてるか?」

「こんにちは、当真さん。どうぞ」

 

 綺麗にサバ味噌の骨を抜き取りながら昼食を食べる後輩の前の席にラーメンの乗ったトレイを置いて、当真勇は席に着いた。

 

「相変わらず、綺麗に食ってんな」

「そうですか?……まあ、確かに気を付けて食べてはいますけどね」

「俺だったら、そういかねぇよ。何で、魚の形そのままに骨が残ってるんだ?って話だ」

 

 呆れたように笑う当真に、竹叢雲助(たかむらくもすけ)は首を傾げる。

 日本人らしい黒髪に、まだまだ幼さの抜けないあどけない顔立ちをした少年は現在中学二年生。当真とは二歳差なのだが、ボーダー内では年齢差があっても仲が良いのは珍しくない。

 かくいうこの二人も、それぞれB級隊員でありながら部隊に所属せずフリーである事も手伝ってポジションは違うながらも交流があった。

 

「この後、何か予定あるか?」

「いいえ。一応、夕方からの防衛任務はありますけど、それまでは暇ですね」

「お、マジ?んじゃ、後で諏訪さんの所に行こうぜ。麻雀教えてやる」

「…………僕、中学生なんですけど?」

「大丈夫だって。金かける訳じゃなし。それに、バレなきゃ――――」

 

「――――バレなきゃ、何?」

 

 当真の言葉を遮って、テーブルの上に手が置かれた。

 スッと二人の間に上体を割り込ませるのは、ショートカットの気の強そうな少女である。

 

「ま、真木ちゃん………!」

「こんにちは、真木さん」

「ええ、こんにちは竹叢。それで、当真。返事を聞かせてもらえる?」

「うっ………って言われてもなァ」

 

 修羅場だろうか。そう考えた竹叢は心の中で当真に詫びつつ、食べる速度を速めていく。

 だが、そうは問屋が卸さない。

 

「あー……えっとぉ………そ、そうだ!真木ちゃん!」

「なに?」

「竹叢も部隊に入ってねぇんだ。それに、マスタークラスだぜ?」

「当真さん?」

 

 何で巻き込むの?と非難の目を向ける竹叢だが、その前に真木の目が彼へと向けられる。

 

「…………竹叢?」

「ッ、ぼ、僕としましてはまだ部隊に入れるだけの技量がありませんし……そ、そもそも、当真さんと違ってありふれた攻撃手ですから!」

「竹叢……!」

 

 逃がさねぇ、とガンつけるリーゼントと逃げたい少年の一騎討ち。因みに、逃げ損ねた方はジッと自分達を見据えてくる氷の美人に締められる。

 そんな彼らの状況を壊したのは第三者の介入によってだった。

 

「――――おい、ムラクモ!」

「!こんにちは、影浦さん」

 

 ほとんど食べ終えた竹叢の首に腕を巻きつける様にして肩を組んできたのは、黒いボサボサの髪をした人相の悪い男性だった。

 

「おまえ、この後俺らと防衛任務だろ。その前に一戦付き合え」

「あ、はい。大丈夫ですよ」

「おし。んじゃあ――――」

「ちょい待ち、カゲ。竹叢はちょっと用事がな…………?」

「あ?飯は食い終わってんだろ」

 

 ここで竹叢を逃すと、自分と真木のタイマンになるため、当真はどうにか留めようと声を変える。

 だが、影浦雅人は意に介さない。

 

「何なら、当真。おまえも相手しろよ」

「いや、お前狙撃効かないじゃん。無駄弾撃ちたくねぇよ、俺は」

「……とにかく、こいつは連れてくぞ。来い、ムラクモ」

「あ、は、はい!当真さん、真木さん。お先に失礼します」

 

 ぺこりと頭を下げて、竹叢はトレイを手にカウンターへと小走りに向かってから影浦の後をついて去っていく。

 逃げられた、と顔を顰める当真の一方で真木理佐は首を傾げる。

 

「ムラクモって?」

「ん?ああ、竹叢のあだ名って奴さ。ほら、フルネームだと竹叢雲助だろ?その真ん中を取って、ムラクモ」

「……そのあだ名、誰が言い始めたの?」

「王子」

「……でしょうね」

 

 ボーダー内でも変わり者の少年を思い浮かべて、真木は眉間を揉んだ。

 珍妙なあだ名をつけることで有名な彼の命名からすれば、竹叢に付けられたあだ名は少々尖っているがまだマシだった。

 

「そうだ、真木ちゃん。折角だから、竹叢とカゲの試合見に行こうか」

「何でそうなるの?」

「いやー、俺としちゃ真木ちゃんにスカウト受けてるのも吝かじゃないんだが、そんな俺からの推薦って事でさ」

 

 その言葉に、真木は目を細めた。

 彼女が当真に目を付けたのは、実力があるのにプラプラとしたプータローの様な有様であったからだ。

 そんな男からの推薦。真木自身、竹叢の為人を知っている訳ではない。顔を合わせれば挨拶をするがそれ位か。

 

「煙に巻くつもりなら容赦しないから」

「いやいやいやいや、そういうつもりはねぇよ!?これでも、後輩を思って言ってんだから!」

 

 両手を挙げて宣言する当真。裏が無い事は否定しないが、それはそれとして年下の竹叢に対するお節介を焼こうとしているのもまた事実。

 

 

 当真がラーメンを食べ終えるまで待ってから、向かったのは個人戦ブース。

 その一角にて、攻撃手同士の激突が起きていた。

 

「アレは……」

「珍しいだろ?」

 

 顎に手を添えて目を細めた真木に、当真は笑みを浮かべて画面を見上げる。

 その中では、影浦と竹叢が真正面からぶつかり合っている所だ。

 

 影浦が振るうのは、スコーピオン。強度はそれ程でもないが、文字通り変幻自在の変形性を有しており使い手のセンスと技量が高レベルで要求される攻撃手トリガー。

 一方の竹叢が振るうのは、弧月。鍔の無い日本刀のような形状をした攻撃手トリガーで、癖が無く高い耐久性と攻撃力を両立した業物。ボーダー内でも装備している者が多いトリガーだ。

 ただ、竹叢の場合は少し変わった使い方をしている。

 彼は、右手に弧月本体を。そして左手に逆手で弧月の鞘を持って振るっているのだ。

 

「態々左手を埋める理由はあるの?」

「そりゃあ、あるさ。ほら」

 

 真木の疑問に、当真は画面を指さす。

 影浦の振るったスコーピオンを躱しながら、横回転する竹叢。

 一瞬だけ背を向けた次の瞬間、回転の勢いを乗せた右腕が振るわれるが、コレを影浦はスコーピオンの形を変えてガード。

 だが、その鋭くも脆い刃が止めたのは弧月の刀身ではなく、鞘である。

 間髪入れずの左一閃を影浦は跳躍して回避。自身の真下を光刃が通過すると同時に、体内を通して分岐したスコーピオンの刃を出現させた踵落しを敢行。

 竹叢は鞘と弧月を交差させるように防ぐ。

 

「確かに、トリオン体にはトリガーの攻撃以外、効果は薄い。でも、薄いだけで影響がない訳じゃない。鞘でも叩かれれば動きの阻害になるし、さっきみたいに一瞬で持ち替えてタイマン状態で不意打ちも狙える」

「…………」

「何より、竹叢の強みは攻めじゃない。堅実な守りなのさ」

 

 当真の説明の中でも、画面内は目まぐるしく場面が突き進んでいく。

 再び、右手に弧月左手に鞘という構えになった竹叢は、影浦の猛攻を真正面から捌いていた。

 全てを阻む事は出来ない。現に小さいながらも、竹叢の体には傷が刻まれておりソレはつまり影浦の攻撃の中で対処しきれなかったものが幾つかあったという事。

 だが、致命傷は全て避けている。何より、どれだけ斬りつけられようとも少年の集中が途切れる様子はない。

 

 ぶつかり合う二人。互いに腕が飛び、身体が切りつけられ、やがてトリオン流出過多によって緊急脱出(ベイルアウト)

 

 十本勝負の中で、影浦は6、竹叢は4取って前者に軍配が上がった。

 

「むー……やっぱり影浦さん強いですね。いい所まで行ったんですけど」

「まだまだ甘ぇよ。ただ、武器破壊狙いの斬撃は悪くねぇんじゃねぇか?」

 

 ガシガシと竹叢の頭を撫でる影浦の機嫌は良さげだ。

 彼は、サイドエフェクトとして、とある体質を有している。その結果荒れた生活と、情緒の激しい性格をしているのだが、その一方で自分の懐に入れた相手には存外優しく、甘い。

 そんな二人の元へと近付く人影。

 

「よっ、途中からだけど見てたぜ」

「何だよ、結局来たのか?」

 

 当真が影浦に声を掛け、一方で真木が竹叢へと向き合う。

 

「竹叢」

「えっと……何でしょうか、真木さん」

「単刀直入に言おう。これから私が立ち上げる部隊に入れ」

「…………はい?」

 

 これが最初の出会い。

 後に、A級上位の冬島隊が組まれる発端の出来事である。

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