守護刀と境界戦線   作:寝る子は粗雑

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四方山話
師匠


 竹叢雲助(たかむらくもすけ)攻撃手(アタッカー)となったのは、何も特別な理由が有った訳ではなかった。

 単に、一番最初に触ったのが“弧月”であり、それによって最初の疑似トリオン兵討伐に置いて5秒という好記録を叩きだしたから。

 因みに、この時から既に右手に弧月、左手に鞘という変な戦闘スタイルとなっていた。

 

 そのままでも彼はさっさとB級隊員となっていた事だろう。それだけのセンスと能力が彼にはあったのだから。

 

 だが、この時の出会いがあったからこそ自分はもっと上に行けた、と竹叢はその時の事を思い返す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――やっ!どうもどうも、初めましてー」

「?えっと、初め、まして?」

 

 C級隊員の隊服に身を包み、ポイント稼ぎをしようとC級隊員のブースに居た竹叢は初対面で妙にフランクな相手に呼び止められて、足を止めた。

 

「成程成程………やっぱり、君だ」

「あの……?僕が、何か?」

「ああ、ごめんごめん。こっちの話。おれは、迅。迅悠一ね」

「あ、はい。竹叢雲助です」

「うんうん、よろしくね雲助。早速だけど、ちょっとおれに付いてきてくれないかな」

「……はい?」

「大丈夫。心配しなくても、悪いようにはしないから」

 

 ね?と結構強引に迅は竹叢の肩を組むと、すたすた歩きだしてしまう。

 初対面であり、且つかなり強引なやり方に少年は目を白黒させるが、しかしその一方で無理矢理振り払うような事はしなかった。

 正確には、出来なかった。

 竹叢は、つい先日入隊の折に自分の今の体、トリオン体が通常の人の体よりも能力が高く、力が強いという事を説明されていたから。

 要は、自分が無理矢理振り払って迅が怪我を負うのではないか、と危惧したのだ。そして、迅は迅で少年のお人好し部分を()()()()()()で動いていた。

 そんな彼らの微妙な内心をそのままに、向かったのは正隊員の個人戦ブース。

 

「や、太刀川さん。お待たせ」

「遅ぇぞ、迅。そいつか?例の……」

「まあね。ごめんね、雲助。無理やり連れて来ちゃってさ」

「いえ、それは良いんですけど……」

 

 顔見知り同士の間に、完全な外野として連れて来られた形の竹叢は気まずそうに言葉を濁す。

 

「へぇ……」

「あの……?」

「ああ、悪い。迅が推す俺の弟子候補ってんでついつい見ちまっただけだ」

「弟子?あの、迅さん。話が見えてこないんですけど……」

「おっと、そうだった」

 

 パンッ、と両手を打ち合わせて迅はにこやかな笑みを浮かべる。

 

「まず前提として、おれは未来が見えるんだ」

「……未来、ですか?」

「そ。副作用(サイドエフェクト)って言ってね。トリオンが多い人間に、偶に発現する特殊能力みたいなもの」

「……そういえば――――」

「それで、雲助にもその、サイドエフェクトがあるんだよね」

「僕は、未来とか見えませんよ?」

「サイドエフェクトは人それぞれだよ。まあ、それが太刀川さんが面白がるタイプだから。それに、こうした方が良い未来に繋がるし」

「えぇ……」

「おいおい、勝手に話を進めるなよ。俺が弟子に取るかどうかは、また別の話だろ?何より、ここで俺がこいつを弟子に取らないなら、それはお前の予知を覆したって事になるだろ?」

「そう言わないでさ、太刀川さん。雲助はC級だけど光るものがあると思うよ。それを見てからでも遅くないんじゃないかな?」

 

 ね?と迅は軽薄なウインクを一つ。

 かなり強引ではある。同時に、太刀川慶は興味も湧いてきていた。

 その興味の矛先は、竹叢の持つサイドエフェクトに対して。何より、ここまで強引な紹介というのも興味を惹く。

 

 そのまま、あれよあれよという間に訓練ブースへ。

 その中で、太刀川と竹叢は向かい合っていた。

 

「よーっし、竹叢だっけか」

「あ、はい!太刀川さん……で良いですか?」

「好きに呼んでくれて良いぜ。んで、お前のメイントリガーは何だ?」

「えっと、弧月です」

「ほう、良い選択だな。よし、来い」

 

 会話もそこそこに、太刀川は両手を開く。

 彼の得物は、腰の両脇にそれぞれマウントされた弧月の二刀流。典型的な、攻撃手である。

 一方で、竹叢はというと。設定を弄って、弧月を腰のマウントではなく左手に握る形でセットしていた。

 

(……何でこんな事に)

 

 竹叢は遠い目をするが、しかしここまで来たなら腹をくくるしかない。

 左手で鯉口を切る様に柄を動かし、弧月を抜刀。

 

「行きます!」

 

 そのまま前傾となって前へと駆け出した。

 

(へぇ……?)

 

 太刀川は内心で感心する。

 良い踏み込みだった。入隊したてであると事を加味すれば、合格点を貰えるだろう。

 だが、彼にしてみればまだまだ遅い。

 迎え撃つ様に左腰の弧月を抜刀し、右手で握って駆け込んでくる竹叢の頭に照準を定めて振り下ろした。

 完璧なカウンター。このまま行けば、頭部がスイカの様に真っ二つとなる――――

 

「!ほう」

 

 事は無かった。

 振り下ろされた太刀川の一刀に対して、竹叢はまるで分かっていたかのように体勢を起こすと、駆ける勢いを床を滑る事で削りつつ右手の弧月と順手に持ち替えた左手の鞘でコレを受け止めたのだ。

 

 そこから始まる斬り合い。といっても、太刀川はもう一振りの弧月を抜く気配はない。

 剣の技量は、圧倒的に太刀川が上だ。だが、どうしても決めきれない。

 本気ではないというのもある。だが、それ以上に竹叢の動きが局所局所で太刀川の動きを超えるのだ。

 技量は拙い。拙いが、その拙さを加味しても只管に速い。

 

「――――成程な」

 

 時間にして、三分ほどか。受け太刀と同時に大きく竹叢を弾き飛ばして距離を取った太刀川は、頷いた。

 

「迅!これが、こいつのサイドエフェクトか?」

「太刀川さんは、どう思った?」

「要所要所の返しが速い。致命傷になる瞬間だけ、異様に動けてるな」

「そう、それ。雲助のサイドエフェクトは、危機的状況下における集中力と情報処理能力の強化って所。言うなれば、危機察知集中体質って感じかな」

「面白いな」

 

 面白い。それは太刀川の心からの感想だ。

 ゾーンという状態がある。スポーツなどでよく適用される言葉だが、要は極限の集中状態。周囲の余分な情報が排されて、ただ一点への超集中となった状態。

 竹叢の場合は、このゾーンの状態と走馬灯を見ている状態の合わせ技の様なもの。それは、至近距離で放たれた弾丸であろうともその回転を視認しつつ回避する事が出来る身のこなしを発揮する。

 優れている点は、その集中状態がパッシブで発動する点か。それこそ、一キロ離れた相手から狙撃を受けたとしても、サイドエフェクトが発揮される。間接的にだが、狙撃も効かない。

 

 ただ、ここまで強力なサイドエフェクトだとその分のデメリットがあった。

 

「とりあえず、太刀川さん。エンジンかかってる所悪いけど、雲助と出てきてくれる?」

「あ?何でだよ」

「雲助のサイドエフェクトにも、デメリットがあるからさ」

 

 ほら、早く早くと急かす迅に眉を上げて、渋々太刀川は弧月を鞘に納めた。

 そして二人揃って訓練室を出れば、迅が待っている。

 

「それじゃあ、雲助」

「はい?」

「トリガーの換装を解いてくれるかな?」

「え……えっと、トリガーオフ」

 

 言われるがままに、竹叢は換装を解いた。

 C級隊員の隊服から、通っている中学校の制服姿へ。

 そして、

 

「あ、れ……」

 

 ふらりと他二人に比べて頭一つは余裕で小さいその体が揺れた。

 そのまま倒れそうになったその体を、迅がキャッチ。そのまま背負って近くのソファへと座らせた。

 それから徐に彼はポケットから白い粉状のものが入った袋を取り出すと、ソレを指でつまんで何を思ったのか項垂れる竹叢の唇を持ち上げて歯茎へと塗り始めるではないか。

 流石の奇行に、太刀川も眉を上げる。

 

「何してるんだ?」

「あ、コレ?砂糖だよ」

「砂糖?」

「そう。雲助のサイドエフェクトは強力な分、脳を酷使するからね。使い過ぎると、こうやって換装を解いた後に低血糖になって倒れるんだ」

「大丈夫なのか、ソレ」

「本当は救急車とか呼ばなくちゃいけないんだけど、雲助の場合はサイドエフェクトの影響か復帰が速いんだよね。あ、ほら。言ってる内に」

 

 迅が言うように、黒い頭が揺れて竹叢は目を覚ました。

 

「おはよう、雲助。気分はどう?」

「……()()、倒れました……」

「今回は、こっちが悪いから気に病まなくて良いよ。吐き気とかは?」

「大丈夫です。すみません、慣れてますから」

 

 若干ふらつきながらも立ち上がった竹叢は、制服のポケットを漁ると小さな箱を取り出し、その中から数粒を口に含んで噛み砕いた。

 

「何食ったんだ?」

「ラムネです。僕、集中すると昔から周りが見えなくなって……酷い時にはこうやって倒れる事があったんです。低血糖だって言われて、こうやってラムネを持ち運ぶようにしてるんです」

 

 サイドエフェクト(副作用)の副作用。人よりもゾーンに入りやすい竹叢だが、それはイコールとして出入り自由とはならない。

 寧ろ、下手な深みに嵌って結果倒れる、何て事も昔はザラだった。

 

「どう?太刀川さん。興味出てきたんじゃない?」

「つっても、直ぐに倒れるってんなら話にならねぇだろ。介抱なんて出来ねぇし」

「そこは心配いらない。言ったでしょ、危機的状況で発動するって。つまり、雲助の技量が上がれば上がるほどにサイドエフェクトの発動可能性は減るって訳。そしてそうなるかどうかは、太刀川さん次第」

 

 どう?と挑戦的な迅の流し目が、太刀川を捉える。

 自分次第で、強敵となりうるかもしれない弟子を育てる。それは存外、面白いかもしれない。

 

「……ハッ、こいつに負ける様になってもへそ曲げるなよ、迅」

「それは、太刀川さん次第だってば」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 剣閃が走り、街が切り裂かれ、アスファルトが捲れ上がる。

 

「ッ、ハウンド(追尾弾)!!」

 

 クジャクの尾羽の様に放射状に広がった光弾が、緩い弧を描いて迫る。

 

「すっかり万能手(オールラウンダー)だな」

「僕としては、万能手寄りの攻撃手のつもりですけど、ね!」

 

 光弾の嵐を局所シールドで被弾なしに突っ切った太刀川の弧月と、竹叢の弧月がぶつかり合う。

 ニ、三度ぶつかり合い、どちらともなく距離を取りつつ弧月を納刀。

 

 放つのは、必殺を狙う一撃。

 

「「旋空弧月」」

 

 横一閃と×字交差。

 両者がぶつかる瞬間すら見る事無く、互いにグラスホッパーを展開して急加速。上下左右は愚か天地逆転した状態でも何度も何度も剣を交える。

 

 個人ランク戦が行われているブースでは、今まさにトップクラスの攻撃手のぶつかり合いを多くの隊員たちが目にしていた。

 

 A級隊員 太刀川隊隊長 個人総合1位 太刀川慶

 

 A級隊員 冬島隊隊員 No.7アタッカー 竹叢雲助

 

 師弟関係である事は、交流のある隊員なら周知の事。

 

 画面の向こうでぶつかり合う二人を見つめ、迅は笑みを浮かべた。

 

 未来は良い方向へと進んでいるのだから。

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