守護刀と境界戦線   作:寝る子は粗雑

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料理番

 ボーダーで部隊を編成すると、作戦室を与えられる。

 基本的にその内部構造は、部隊内で自由に変える事が可能でその内装はそれぞれの持ち合わせた雰囲気が如実に反映された物ばかりである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「~♪」

 

 鼻歌を歌いながら、手際よく混ぜ合わせた肉のタネ。コレを手のひら大の楕円形に整形して、そこからキャッチボールで空気を抜いていく。

 成形が終われば、ラップを敷いたバットの上に一つずつ丁寧に置いていく。

 

 A級部隊冬島隊。その作戦室に設置された本格的なキッチンにて、竹叢雲助は上機嫌に調理を進めていた。

 キッチンに直接つながるメインルームの方では、当真が寝床であるソファの上でその縦に長い体を脱力して惰眠を貪り。ソファ横のテーブルでは椅子に座った隊長である冬島慎次が何やら作業をしている。

 因みに、メインルームからキッチンを挟んで反対の扉の向こうには、冬島隊オペレーターの真木理佐の書斎があり、基本的に立ち入り禁止の聖域となっていたりする。

 

 程なくして、キッチンの方から肉の焼ける良いニオイが漂ってきた。

 

「……ヤベェ、腹減ってきた」

「寧ろ良いんじゃないか?」

「いやー……竹叢の飯を食うようになってから、腹回りが……」

「おまえまだ高校生だろ……?」

「そういう隊長こそ、どうなんよ?腹回り」

「お、俺はアレだよ……ちゃ、ちゃんと動いてるし!」

「えー?何つーか、開発室に籠りっきりの姿しか見た事ねぇけど」

 

 そんなダラダラとしたやり取りをしながら、二人は自然とテーブルの上を片付けていく。

 天板の上がすっきりして、台拭きで拭いた所でキッチンへの扉が開いた。

 

「出来ましたよー。場所、開けてくださいねー」

「おー、こっちこっち」

 

 当真が手招きして、竹叢は右手に大きなトレーを持ってテーブルの方へ。

 トレーに乗るのは四枚の皿。その上には、こんがりと焼かれたハンバーグとそれから付け合せのポテトやニンジンなどが鎮座している。

 

「これが、冬島さんと真木さんの分です。こっちが、僕と当真さんでお願いしますね」

「ん?何が違うんだ?」

「冬島さん達の方は、豆腐ハンバーグです。ほら、この前言ってたじゃないですか。冬島さん、脂っこいものを食べると胃もたれするって。その対策に作ってみました」

「おおー、至れり尽くせり」

 

 竹叢の言葉を受けて、当真はチラリと自分の前に置かれた皿と、冬島の皿を見比べた。

 傍から見ても、違いなど全く分からない。強いて挙げれば、焼け方が違うのか、程度の物。

 そして何より、竹叢の気遣いは終わらない。

 

「ソースはお好みで。ケチャップ、デミグラスソース、大根おろしとポン酢、塩、梅たれを用意してます。好きなものをどうぞ」

「毎度思うけど、竹叢の料理スキルって高すぎておじさんちょっと引いちゃう……」

「そうですか?木崎さんとかを見てると、僕もまだまだ精進が足りないと思うんですけど」

「いやそれって、玉狛のメシウマじゃん。竹叢も十分旨いって」

「ありがとうございます」

 

 サラダ取ってきますね、とキッチンへと戻っていく背中。

 

 事の発端は、冬島隊が作戦室を貰うという事になった時。

 基本的に自己主張の少なかった竹叢が、唯一この時だけ手を挙げて提案したのだ。

 

『キッチンが欲しいです』

 

 という風に。

 住むつもりか?という話になったが、ボーダーで部隊を組む場合防衛任務もシフト制で入れていかなければならない。

 そしてそうなると、夜勤であったり早朝であったりと時間が微妙なタイミングがある。

 そんな時に空腹で任務に臨むのは宜しくない。かといって、その都度買い食いをしていれば懐にも健康にも宜しくない。

 その為の自炊。その為のキッチン。

 冬島と当真は、特に何も言わなかったが無駄を嫌う真木は少々難色を示した。

 

 結果、彼女を納得させるために竹叢は料理をふるまい。最終的にはキッチンを設ける事を了承。更に、腕前の向上を目指して料理上手な隊員に教えを請うたりしていた。

 

 閑話休題

 

 サラダのボウルとそれからご飯味噌汁を持って戻ってきた竹叢と、それから彼が声を掛けた真木がメインルームへと揃って手を合わせる。

 そして、食事開始。因みに並びは、長テーブルの短い辺をそれぞれに真木と冬島。そこからソファに面した長辺に竹叢と当真の並び。

 

「真木さん真木さん」

「どうした」

「今年の梅干しは、どうでしょうか?」

「ふむ…………良い味だな。塩味と酸味、そして梅本来の味も含めて良いバランスで漬かっている。今年も、合格だ」

「それは何よりです」

 

 変なやり取りだが、実の所竹叢が真木にキッチンを認めさせたのはこの梅干しの味というのもあった。

 

 冬島隊は今日も平和である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 冬島慎次は、ボーダー隊員であるが元々は技術者(エンジニア)として入隊し、その後真木のスカウトを経て隊長に就任した経歴を持っている。

 

「冬島さん」

「ん?どした?」

「いや、携帯なってます」

 

 キーボードを叩いていた指を止めて、冬島は傍らの端末を手に取った。

 画面に目を落として、フッと口元を緩ませる。

 

「何、ニヤニヤしてんすか?」

「ああ、いや、な」

「彼女でも出来たんですか?あの冬島さんが?」

「違うって!というか、酷くないか雷蔵」

「じゃあ、何見てるんですか」

「これだよ、コレ」

 

 そう言って、冬島が持ち上げた携帯の画面へと寺島雷蔵は目を向けた。

 

「……ああ、竹叢」

「ん?知り合いだった?」

「まあ。時々、レイガストのデータ取りを手伝ってもらったりしてますよ。で、何のお誘いなんです?」

「ああ、夜食を作ってくれるらしい」

「へぇ?」

 

 寺島が首を傾げる一方で、冬島は携帯の画面へと文字を撃ち込んでいく。

 時計はそろそろ遅い時間を示そうかといった所。

 

「なあ、雷蔵」

「何です?これから、カロリー摂取の為に車出すか非常食を喰うか決めるとこなんですけど」

「いや、竹叢がな?開発室に他のスタッフが居るのなら一緒に夜食を作ってこようか聞いてるからさ」

「「「お願いします!」」」

「「カップ麺飽きた」」

「菓子でお腹膨らますのどうかなんで、頼めるなら」

「ま、満場一致。七人分か……イケルっぽい」

「頼んどいて何だけど、竹叢って中学生じゃないっけ?」

「うちの末っ子、凄いからね」

「というか、冬島さんの所は、下の子ほど真面目じゃん」

「おじさんも頑張ってるんだけどねぇ……とりあえず、ニ十分後ぐらいに来るってさ」

「んじゃ、もうひと踏ん張りしましょうかね」

 

 技術者ゾンビが動き出す。

 それからしばらく。時計の長針が進んだ頃、開発室の入室チャイムが鳴った。

 いそいそと冬島が出れば、扉の向こうに居たのは柔和な表情の少年。

 

「こんばんは、冬島さん。お夜食持ってきました」

「おう、ありがとな。大変だったろ?」

「作り甲斐があって楽しかったですよ」

 

 入っても?と竹叢が問えば、冬島は道を開けた。

 彼が入室すれば、ゾンビたちは急いでテーブルに空きペースを作る。

 そこに置かれるのは、大きな三段お重と抱える大きさのスープポット。

 

「簡単なものですけど」

 

 そう言って、開かれたお重。

 中に詰められていたのは、大量のおにぎりである。

 どれも丁寧な角の緩い三角形でノリが巻かれている。

 

「まず、一段目は、梅干し、おかか、昆布の三種類です。二段目は鮭フレーク、ツナマヨ、ちりめん山椒。三段目は唐揚げと味玉が入ってます」

 

 ここからここまでがこの味です、と竹叢は指でおにぎりを示す。

 続いて、スープポット。

 

「こっちは、お味噌汁が入ってます。冬島さんに確認しましたけど、使い捨てのコップはあるという事でしたので温かい汁物があった方が良いと思ったので」

 

 スープポットの蓋が開けられればふんわりと味噌とだしの香りが開発室の中に広がった。

 それだけで、唾液腺が刺激される。

 生唾を飲み込む音が、嫌に大きく聞こえた。

 

「ソレでは、どうぞ。あ、苦手な味だったら各自で交換したりしてくださいね」

 

 竹叢が言うや否や、美味しいニオイに誘われた猛獣たちは我先にと、黒い山へと手を伸ばした。

 程よい塩加減の白米に、炙られて香り豊かなノリ。

 更に、その中の具材もまた美味しい。

 

「梅干しすっぺぇ!でも、うめぇ」

「サケフレークの塩味が良いな。後引く旨さって奴?」

「ツナマヨもいけるぞ。マヨネーズの分量が神ってる」

「山椒良いな。目が冴えてくる」

 

 各々が各々におにぎりを貪りながら笑い合う。更に、紙コップに注がれた味噌汁もまた美味。

 

「はぁ~……やっぱ、味噌汁よ」

「こういう時、日本人だなって自覚するよね」

 

 夜食の評判は、上々だ。

 そんな彼らから少し離れた席に座って、竹叢は自身の夜食に口を付けていた。因みに、彼のおにぎりは唐揚げマヨとおかか。

 手早く作った割には、上手く行った。一工夫施した唐揚げの味付けに、竹叢は内心で丸を付けた。

 

「はい、お茶」

「!ありがとうございます、寺島さん」

 

 おにぎりを一つ食べ終わった所で、紙コップに入ったお茶を差し出され、竹叢は頭を小さく下げた。

 ふくよか系エンジニアの寺島は、椅子を少年の側に寄せてその上に腰掛けた。

 

「おにぎり、美味しかったよ。それに味噌汁も」

「お口に合って何よりです」

「いや、ホント。この頃レトルトとか買っといたパンとかばっかりだったからさ。久しぶりに人の手が確りと入った夕飯食べた気がする」

「そ、それはそれでどうなんですかね……?」

 

 開発室の闇が見え隠れする言葉に、竹叢の頬が引き攣る。

 とはいえ、渦中の寺島含めて、彼らは割と好きで残業している節がある。トリオンという未知の技術を研究する事は、好奇心の赴くままの探求であったから。

 

「そういえば、あの唐揚げ。何かタレみたいなのが付いてなかった?」

「あ、はい。僕が唐揚げを作る時は半日程度はタレに漬け込んでおきたいんですけど、今回は下味をつけて一度揚げて、それからトロミをつけたタレに潜らせてますから。苦手でしたか?」

「いや、丼にしてかき込みたくなる程度には美味かったよ。確か、レイジに料理習ってるんだっけ?」

「はい。木崎さんには料理だけじゃなく、筋トレや格闘のトレーニングメニューもお世話になってます。寺島さんは、木崎さんとお知り合いなんですね」

「まあね。高校も同じ所だし。レイジも嬉しそうだったよ。めきめき上達して教え甲斐があるって」

「そ、そうですかね」

 

 寺島の言葉に、少し嬉しそうにしながらも気恥ずかしいのか、竹叢は頬を掻く。

 

 その後、時折美味しい夜食が開発室には届けられ、若干の腹回りの増大を気にしたエンジニアの一部がボーダー本部施設内のトレーニングルームに顔を出す様になった…………らしい。

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