守護刀と境界戦線   作:寝る子は粗雑

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モテ……?

 

「――――モテたい」

「……はい?」

 

 人の賑わうボーダーの食堂。

 お昼時という事も相まって、後から来た職員や隊員が先に座っていた知り合いと相席になる事も珍しくない。

 

 この日、とんかつ定食を食べていた竹叢の座っていた席にやって来たのは、ゴーグルが印象的な生駒達人と生駒隊の現地指揮官を担う出来るブロッコリー、水上敏志であった。

 冒頭のセリフは、生駒の口から飛び出たものである。

 

「急にどうしたんですか、生駒さん」

「あー……なんや、学校の方でなんかあったみたいでな」

 

 竹叢の疑問に補足を入れる水上。

 副官として隊長を止めたりしないのか、という話だが。ランク戦ならば未だしも、日常生活までブレーキ役をして疲れるような事をするタイプではない。

 ダウナー気味で、サラッと嘘を吐いて相手を揶揄うタイプな男が水上であった。

 

「ムラクモちゃん」

「何ですか?」

「俺、モテたいんよ」

「はぁ……えっと、僕じゃなくて、嵐山さんとかの方が良いんじゃないですか?僕も別にモテる訳じゃ――――」

「んな事あらへん!!」

「ッ!?」

 

 突然の噴火に、竹叢の肩が跳ねる。

 

「ムラクモちゃん、女の子の知り合い多いやん。ほら、那須隊の熊谷ちゃんとか」

「それは……まあ、一応僕が師匠をやらせてもらってますから」

「帯島ちゃんもやろ!?」

「帯島さんは、弓場さんの紹介で攻撃手寄りの万能手の動きを教えただけですよ。僕も万能手寄りの攻撃手ですし」

「那須さん!」

「熊谷さんのご紹介ですね」

「三上ちゃん!」

「真木さん経由です」

「照屋ちゃん!」

「柿崎さん経由です」

「小佐野ちゃん!」

「諏訪さんですね」

「加古さん!」

「太刀川さんです」

「綾辻ちゃん!」

「佐鳥さんですね」

「国近ちゃん!」

「太刀川さんですね」

「氷見ちゃん!」

「二宮さんです」

「仁礼ちゃん!」

「影浦さんからですね」

 

「……ッ!………ッ、ッ!!」

 

 二人のやり取りを間近で聞いていた水上は、折角食べた中華丼を噴き出さないように必死に口元を抑えて耐えていた。

 生駒の方は終始真顔であるし、竹叢は竹叢で淡々と困った表情で答えているのだから。

 

 それは兎も角、男女割合だと男性の多いボーダーだが、だからといって出会いがない訳ではない。

 現状のランク戦に参加している部隊は何れもオペレーターであれ実働部隊であれ、女性が少なからず居るのだから。

 自然と、他部隊との付き合いがあれば出会いもある。

 

「えーっと、モテたいという話ですけど、生駒さんはどういう形を求めてるんですか?」

「おん?形?」

「はい。例えば、嵐山さんの様に黄色い声援を四方八方から浴びたいのか。或いは、烏丸さんの様にヒソヒソと広がる様な声援が良いのか」

「ふーむ……」

 

 カレーを掬っていたスプーンを下して、生駒は考え込む。

 モテたいと言う割には明確なビジョンと呼べるものが無かったらしい。

 静かになった隊長に代わって、どうにか笑いのツボを鎮めた水上が戻ってきた。

 

「んん!はぁー……オモロ。竹叢とイコさんって、いつもこんな話しとるん?」

「そうでもないです。真面目な話もしますよ?大抵は、ランク戦の時ですけど」

「あー、成程。上位攻撃手は入れ替わり激しいもんな」

 

 うん、と水上は頷き、掲示された順位表を思い出す。

 元々点の伸びにくい万能手や、不動のトップが居る射手、ランキングに拘らないものが多い銃手、そもそもポイントの取得が特殊な狙撃手。

 上記と違い、攻撃手の個人ポイントは純粋な実力がものを言う。シンプルな攻撃手段であるからこそ、各員の特色と技量が如実に反映されるからだ。

 その中でも、攻撃手の上位陣は互いに点を食い合うような間柄となっている。

 点を食い合うという事は、自然と顔を合わせる事も増えるという事。ぶっちゃけ、攻撃手の一万点越えの面々は総じて化物揃いと言って差し支えないだろう。

 

「…………うんっ!正直、嵐山は羨ましい!」

「正直やないですか、イコさん」

「せやろ?イコさんは、正直者なんや。せやから言うけど、ぶっちゃけプライベートが無いんは、大変やなぁ、とも思う」

「それは……そうですね。嵐山隊の皆さんは、基本的に忙しそうですし」

「まあ、広報の仕事やし。しゃーない事やないんですかね?幸い、自衛はトリガーがある事で出来る事やしな」

 

 有名人は、有名人としての苦労がある。

 しかしそれはそれとして、

 

「モテたい……!」

「えっと……じゃあ、誰かを紹介しますか?」

「ええんか?でも、俺って女の子と話しちゃ、アカン顔しとるやん?」

「え?生駒さんは、カッコイイと思いますけど……」

 

 サラッと、そんな事を言う。

 

(マジか、コイツ。ここまでサラッと言えるか?普通)

 

 ギョッと目を剥く水上。

 竹叢は、老若男女問わず交流が広い。自分から行くパターンと、知り合いから更に紹介されるパターンが基本。

 特に後者が多いのは、彼の穏やかな気質と丁寧な対応が主な理由だろう。事実、緊張しいな氷見亜季は同じ部隊の隊員である鳩原未来からのアドバイスを受ける前に竹叢とは面と向かって話せるようになっていた。

 

「お、お食事中にすみません……!た、竹叢さん、少し良いでしょうか……!」

「はい?どうしました?」

 

 水上が戦慄していると、C級の隊員が声を掛けてくる。

 呼ばれた竹叢はというと、箸をおいてから席を立つと少し離れて何やら話し込む。

 解決したのか、C級隊員はパッと顔をほころばせてから勢いよく頭を下げると走って行ってしまった。

 その背を見送って、席に戻って来る竹叢。

 

「どないしたん?」

「あ、はい。あの子、僕の中学の後輩の子で、その好で少し面倒を見てたんです。それで、新しく入った子たちにトリガーの使い方を教えてもらえないか、って話です」

「んなことやっとるんか……働き者やな」

「そういう訳じゃ……ただ、C級の中にはトリガーの使い方がいまいち分かっていない人も珍しくありませんからね」

「成程……」

 

 基本的に一定以上のトリオンがあれば、ボーダーに隊員として入隊できる。若しくは、スカウトを受ける場合もあるだろう。

 ただ、その中にはトリガーの紹介はあれども、その中身の明確な説明までは無い。

 ボーダーは、軍事組織だ。学校の部活や習い事のスイミングスクール、バイトなどとは毛色が違う。ある程度の緩さはあれども、一足早く社会経験を積む場にもなる。

 一応、先輩隊員などが新規入隊の隊員たちを気に掛けたりもするが、如何せん全員を掬い上げるには人数が多すぎた。

 竹叢の行動も似たようなもの。

 急いで残った定食を掻き込んでから、一つ断りを入れて少年はカウンターへと食べ終えた食器を返して、C級隊員のブースへと駆け足で向かう。

 

「…………イコさん」

「なんや?」

「アレが、モテる人間の行動っちゅう奴やないですかね」

「奇遇やな、俺もそう思う」

 

 見た目が整いながら、同時にその内面も百点を与えられそうな善人。

 モテの神髄を見た気がした、二人であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

「真木ちゃん?どうかした?」

「いや、何でもない」

 

 覗き込んでくる三上歌歩に、真木は首を振る。

 ラウンジ。彼女が固まったのは、どこぞのゴーグル隊長の大声が聞こえていたから。

 彼女含めて、冬島隊は年下の方が確りしている。そもそも部隊の結成自体が真木に尻を蹴られた男衆が集まって出来たものだ。

 だからという訳ではないが、男衆は揃って真木に対して頭が上がらない。誤解の無い様に補足をすれば、彼らは彼らでこの関係を気に入っている節がある為成立している仲である。

 

 そんな面々でも、真木としては後輩にあたる竹叢を自分なりに気に掛けているつもりだ。

 寧ろ、自分の為に料理をして、剰え好きなものである梅干しを態々自作してくる。掃除の手伝いをして、時折作戦室で映画を見る事もある。

 自然と頭の片隅に、ベビーフェイスな後輩の事が過る。

 

「――――竹叢くんの事かな?」

「……顔に出ていたか?」

「うん。真木ちゃん、優しい顔してたから」

 

 年齢以上に幼い顔立ちの三上は、優しい笑みを浮かべてくる。

 

「竹叢くん、いろんなところに出入りしてるみたいだね」

「そうだな……」

「この前は、那須隊の人達とお出かけしてるのを見かけたよ」

「ほう?」

 

 ボーダー内でも有名なレディースチームの片割れ。

 因みに、竹叢は最初から彼女らと一緒に出掛けてた訳ではなく、出先で迷子になって絡まれていた那須隊の日浦茜を保護して、そのお礼として共をしていただけ。その際には、逆に支払いを先に済ませたり、荷物を持ったり、車道側を自発的に歩いたり、と。色々とやらかして、お礼じゃない!と熊谷に突っ込まれたりしたのは蛇足だ。

 

「少し、聞く事が出来たな」

 

 先輩として、オペレーターとして。そんな理由を付け乍ら、真木は食事の残りに口を付ける。

 そして、そんな常には見ない彼女の様子を楽しんでいる、三上。

 意外に強かな彼女の今のブームは、後輩に過干渉しかねない友人を揶揄ってみる事だった。

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