守護刀と境界戦線   作:寝る子は粗雑

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守勢の剣

 攻撃手というポジションは、その名の通り攻撃力、部隊における切込み役を求められる場合が多い。

 実際、攻撃手の個人ポイントランキングの上位陣は何れもランク戦に於いて、一人で切込み点を取れる者が多い。

 

 そんな中で、上位アタッカーでありながらどちらかというと守備寄りの動きをする竹叢雲助という少年は異質さを孕んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あたしに、剣を教えてほしいんだ」

 

 個人戦ブースにて引き留められた竹叢は、首を傾げた。

 

「僕に、ですか?えっと、熊谷さん……ですよね?」

「あたしの事、知ってるの?」

「あ、はい。それで、剣を?」

「うん、そう」

 

 頷いた彼女、熊谷友子は一種の覚悟を持ってこの場に臨んでいた。

 

 B級部隊の那須隊。隊長である那須玲と、攻撃手である熊谷。それから狙撃手の日浦と、オペレーターの志岐小夜子の四名からなる女性チームだ。

 ランク戦には参加したばかりだが、華やかな見た目も相まって既にファンが付く程度には注目を集めている。

 因みに、もう一つの理由はSFチックなデザインの隊服も挙げられるのだが、それはそれ。竹叢は、見た目に相手を基本的に()()()()()で見ない為割愛。

 

 熊谷が、竹叢に声を掛けたのはその戦闘スタイルにあった。

 

「何故、僕に?攻撃手なら、もっと強い人が居ますよ?」

「そうなんだろうけど……あたしの戦い方、見たことある?」

「はい。少し前のランク戦を観戦させてもらいましたから」

「そっか。なら、話は早いや」

 

 そこから彼女が語ったのは、ランク戦での気付き。

 元々、熊谷は攻撃手ではあるものの、だからといって攻め手が得意と言う訳ではない。寧ろ、どちらかといえば決め手に欠けるタイプ。

 那須隊は、隊長である那須がポイントゲッターでありエース。日浦と熊谷は、彼女のサポート及び護衛が主な仕事であり、チームの方針でもある。

 だが、

 

「…………正直な所、あたしはあんまり部隊の役に立ててないんじゃないかなって……思ってさ」

 

 熊谷のぶつかった、壁の厚さ。

 B級下位の部隊ならば、何とかなる。中位も留まる事が出来る。

 だが、B級上位となれば話は別だった。

 彼らはB級だが、だからといってA級部隊にも迫る実力を持つ者も珍しくない。ポイントゲッターともなれば、那須であろうとも太刀打ちできない可能性がある。

 何より、()()()()()()()()()()()。この事実が熊谷を苛む。

 

「玲は強い。機動力もあるし、リアルタイムでバイパーの弾道を引ける能力もある。でも………」

「熊谷さん達のピンチに飛び出してしまう、ですよね」

「見たんだったね………うん、そう。玲って、華奢だけど激情家だから」

 

 クールな見た目に熱い心。那須玲という少女は、そういう人物であった。

 仲間想いは、良い事だ。だが、度が過ぎるのならば頂けない。

 事実、ランク戦では熊谷が落とされた際には、周囲にバレる事も厭わずにフルアタックのバイパーを熊谷を落とした相手に叩き込むほどだった。

 如何に機動力があろうとも、周囲全てが敵になってしまえばどうにもならない。

 特に、シールド技術が発展している昨今で射手は点を取りにくいポジションとされている。点を取れるとすれば、それはトリオン能力が常人を大きく超える者位。

 故に、現在のランク戦の主流は、射手や銃手がサポートに回り、攻撃手を通すか狙撃手の射線へと相手を誘導するか、という戦術が多かった。

 

 同時に、熊谷は自分ではそんな動きは出来ない、と思ってしまった。思ってしまったからこそ、ログを漁って見つけたのだ。

 

 たった一人で周囲の目を集めながら動いて場を掻き乱し、浮いた駒から狙撃手が撃ち落としていく冬島隊の戦い方を。

 

「正直、コレだって思ったの。あたしが出来るかどうかは別として、()()()()()()()()って」

「成程」

 

 竹叢は頷く。

 A級となれば、独自の戦法を持つ部隊も珍しくないが、取り分け冬島隊は特殊だろう。

 アタッカー、スナイパー、トラッパーの前衛一枚、後衛二枚の組み合わせ。

 オマケに、スナイパーはというと()()()()()()()()()。落とせると判断せねば引き金を引かない、当真勇である。

 基本的に、竹叢が冬島と当真の準備が終わるまで孤軍奮闘で動き回り、その後狙撃で落とす事が彼らの定石。

 雑だがコレで勝てるのだから、彼らの個々の実力が突出している証明でもある。

 

「竹叢くんほど動けるようになるとは、あたしも思ってない。でも、このまま玲に頼ってばかりじゃダメなんだ」

 

 だからお願い、と熊谷は頭を下げる。

 対して、竹叢はというと。

 

「良いですよ」

 

 アッサリと頷いた。寧ろ、頼む側は拍子抜けするほどあっさりと。

 目を丸くして顔を上げる熊谷。

 

「……頼んでおいてアレだけど、良いの?」

「はい。指導者に向いているかは分かりませんが、ここまで頼まれて断るほど狭量じゃありませんから」

 

 頑張る人を無碍にするような事は、しない。それが、竹叢雲助という少年である。

 

「ちょっと待ってくださいね」

 

 そう言って、竹叢は内部通信を始めた。

 少しの間をおいてから、改めて熊谷へと向き直った。

 

「作戦室の方に、真木さんが居るそうです。ですから、冬島隊の訓練室で訓練しましょう」

「え、良いの?那須隊の方でも良いんだけど……」

「今日は、熊谷さん以外に那須隊の方はいらっしゃってますか?」

「え……ううん。今日は玲の検査もあるから、オフの日だし……」

「でしたら、やはり冬島隊の方へと向かいましょう」

「……何で?」

「熊谷さんが女性で、僕が男だからですよ」

「?」

 

 熊谷の頭上にハテナが浮かんだ。

 自分が女で、竹叢が男など分かり切った事。しかし、両者には微妙な差異があった。

 

「コレは、父からの教えなんですけどね」

 

 前置きを一つ。

 

「曰く、女性と二人になる際はその相手が恋人や家族でない場合、四本の足が地に着いた上で、常に第三者の介入を可能とする状態であるべき、だそうです」

「…………何というか、変わった人……?だね」

「まあ、兎に角。僕と二人きりで居たという事で、熊谷さんにあらぬ噂が出たり尾鰭がつくのを避けるための措置だと思っていただければ。真木さんは、その手の話題を脚色して話すような人ではありませんからね」

「あー……確かに?」

 

 堅物オペレーターの顔を思い浮かべて、熊谷は頷く。同い年だが、どこか年上の様に落ち着いて、且つ年上の男性陣を尻に敷くその姿は女傑と言って良いだろう。

 同時に、熊谷は目の前の少年の気遣いのレベルにも驚いていた。

 ボーダーは、年齢の割に落ち着いた者が多いが、流石に中学生が女性の周囲関係への配慮を行うとは思わなかったのだ。

 

(ちょっと、ヤバいかも)

 

 思わず、熊谷は自身の顔に手をやった。

 頬が熱くなったのは、気のせいではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 三種の攻撃手トリガーに於いて、最もシンプル且つ使用者の多いトリガーは、弧月である。

 柄、ブレード、鞘の三部位で構成され、カスタムによる僅かな変化はあれども大まかな部分に差異は無い。

 

「――――成程」

「ッ!」

 

 故に、弧月使いがオプショントリガー無しでぶつかり合う場合の差は、単純な地力の差が如実に表れていた。

 鍔を付けた弧月を手にへたり込む熊谷と、鞘に納めた弧月を左手に持つ竹叢が向かい合う。

 

「守りと返し技は良い水準に達していると思いますよ」

「そ、その割には……結構簡単に突破された気がするんだけど………」

「それは単純に、僕が強い人と何度も戦った経験があるからですね。少なくとも、上位攻撃手なら問題なく対処してくると思いますよ」

「そっか……」

 

 冬島隊の訓練室で始まった師弟関係。

 まず最初に手を付けたのは、現状の熊谷の実力把握。

 

(これが一万ポイント越えの攻撃手の実力……)

 

 熊谷は、内心で唇を噛む。

 トリオン量と運動能力の観点から攻撃手を選択した彼女だが、守勢は兎も角攻撃力に関しては一歩劣るのが現状であった。

 悔しさをにじませる熊谷だが、一方で竹叢は違う。

 

「熊谷さん」

「ッ、なに……?」

「僕と熊谷さんの役割はよく似ていますよね」

「え……うん」

 

 言われ、熊谷は素直に頷いた。

 点を取るよりも味方の利になる動きを率先する。例え自分が落とされるとしても、エースを通せるのならそれで仕事は果たせた形になる。

 頷いた彼女に、竹叢は笑みを浮かべた。

 

「僕らに求められるのは絶大な攻撃力じゃありません。継戦能力と生存能力です。僕らは生き残るだけで仕事ができるんですから」

「生存能力は分かるけど、継戦能力は?」

「仮に生き残っても、手足を失ってると僕らの仕事は出来ませんからね。スコーピオンでも入れておけばまた別なのかもしれませんけど」

 

 攻撃手トリガーのスコーピオンは、その変幻自在な攻めが特徴的だがその可変性を利用する事で手足の欠損を義手義足の様に補填する事が出来る。

 かなり繊細な調整が必要にはなるが、スコーピオンを使い慣れた者ならば可能だろう。

 

 竹叢の言葉を受けて、確かにと熊谷は頷いた。

 剣の扱いに際しての手足の欠損。それは単純に握りや踏み込みだけでなく、肉体動作のバランス感覚にも影響を及ぼす事になる。

 故に、弧月使いは手足を狙う事もまた定石の一つであったりする。

 

「とりあえず、熊谷さんはこれから幾つかの身に付けてほしい素養があります」

「ん、どんなの?」

「一つは、どんな状況でも焦らない精神力」

「え……いや、出来たら苦労しないけど………」

「そうですね。僕だって、焦る時は焦ります。問題は、この焦りを表に出さない事です」

「えっと……?」

「剣の勝負では、技術と地力も大切ですが同時に表情なんかも大切なんです。冷や汗の一つが、戦況を変える事もあります」

「竹叢くんは、そんな経験ある訳?」

「ありますよ。因みにその時は、そのまま押し切られて真っ二つにされました」

 

 因みに、太刀川戦である。

 

「まあ、僕の話は程々に。もう一つは、忍耐力です」

「忍耐力?」

「はい。僕や熊谷さんの様に守勢を基本とした攻撃手は、先に音を上げちゃいけません。只管に、耐えて耐えて一分でも一秒でも時間を稼ぐ事こそが大事です」

 

 切り結ぶ時間は、呼吸が止まる。互いの実力が高ければ高い程に、集中力とプレッシャーにより敵を斬る事に不要な部分が削ぎ落されていくのだ。

 その地獄のような時間を一秒でも長く、相手よりも長く体感し続ける必要が二人にはある。

 

「まず、只管に僕と斬り合いましょう」

「ひ、只管に?」

「只管に。熊谷さんには、基礎があります。ですから、まずは戦い続ける感覚を養いましょう」

 

 弧月を抜き放った竹叢に、熊谷の頬が引き攣った。

 彼の師匠は、戦闘狂(太刀川慶)

 柔和に見えて、存外修羅ってるのが、竹叢雲助と言う少年であった。

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