魔神王様、只今異世界へお出かけ中 作:野生の松ぼっくり
息抜きの作品の息抜き作品です。どういう事?
追記
ちょっと内容変更しました。
「何処だ、ここ」
森の中で男が呟いた。
立派な体躯を持つ偉丈夫だ。身長は百九十センチはあるだろう。
青い肌という人では有り得ぬ色を持ち、黄金の瞳をしている。こめかみからは山羊にも似た角が生えている。
黒い髪を靡かせる姿は実に絵に成るだろう。
マントで体格を隠す姿はおどろおどろしくもある。
「……いやほんとに何処?」
外見に似合わぬ軽薄そうな口調で男はここが何処なのか虚空に問い続ける。
吹き抜ける風と、自然の匂いが男を混乱させる。
(落ち着け、え、夢? にしてはリアルすぎるんだけど)
男はなんとなく頬をつねろうとして、己の腕が青い事に気づく。
「なんじゃこりゃ」
夢は夢でも質の悪い夢らしいと、男は溜息をつく。
「しかしこれはどういうことだ?」
腕を見て、つねる。
その痛みで目が覚めない事から夢では無いと主張してくる。
「……異世界転移という奴か? いや、姿が変わっているから異世界転生か?」
はぁ、と男は溜息をつく。
「夢か異世界なら空ぐらい飛べないかな……」
何となく意識を集中して、男は自身が飛ぶ姿をイメージする。
「お、おお?」
すると不思議な事に男の体は浮かび始める。
ふわふわと空中に滞空し、男は空を飛んでいる実感を得る。
──どうせならこのまま飛んでみるか。
男は何となく勢いをつけ、空を飛んでみる事にした。
ぐんぐん景色が変わっていく。
生まれて初めての空の旅は実に快適なものだった。
体に当たる風も痛くもかゆくもなく、急停止に急降下と自由自在。
男は五分程飛んで遊んでいると不意に地上に川を見つける。
──川の反射で自分の姿が見えないだろうか。
なんてことを思い、川まで降りていく。
川は澄んでおり、綺麗な水質をしている。
男の予想通り水の反射で姿が見えるようだった。
「……魔神王オルムじゃんこれ、書籍版の」
魔神王オルムとは野生のラスボスが現れた! に登場するキャラクターの一人である。
魔神族を束ねる王であり、幾多の魔物を従える王。
その戦闘力は作中でも上から数えた方が早いぐらいには強く、例を挙げるならばその気になれば惑星破壊も可能な怪物である。
何なら宇宙空間でも問題なく生存可能なうえ、世界からのバックアップを受けることで毎時肉体は修復されスキル使用のSPも回復するというチートっぷり。
尚惑星破壊余裕なオルムより強いのが野生のラスボスが現れた! の主人公である。インフレ極まれし。
そんなオルムの正体は月龍というもので全長がクソ長い。どれぐらい長いかというと地球一周分ぐらいには長くてデカい。
鱗の一つ一つが二百メートルはある巨大な龍こそが魔神王オルムだ。
もはや強すぎてギャグの領域に片足入れかけている怪物。それが男の外見であった。
「……いやいやまさか。外見だけだろ」
男は何となく、意識を集中する。
魔神王オルムが使える能力に魔法も当然ある。
意識すればわかる。魔法の使い方が。
「──ルナシューター」
何となく掌を開いて、男は呟いた。
極太の閃光──レーザーが男の手から生じて突き進む。
月色の閃光、レーザーだ。レーザー以外に描写の使用が無いそれが生まれ出る。
川向こうの木々を吹き飛ばし消し飛ばし、閃光はこの星の重力圏を声て真っすぐと宇宙空間まで跳んでいった。
「──ふぁ────ー!!!」
男は絶叫した。
五分程男が頭を抱えた後。男は正気を取り戻した。
「……よし、どうせならオルムロールプレイでもすっか」
訂正しよう。男は正気を取り戻していなかった。
「取り合えず人里を……いや。人里を探すとしようか……エクスゲートは使えるかな?」
男は何となく両手に魔力と天力を合わせる。
野生のラスボスが現れた! には魔法と天法という物が存在する。
分かりやすく言えば攻撃が魔法。回復やバフが天法だ。
それらはそれぞれ魔力と天力という力を使う。
より正確に言うならば、無から有を作り出すのが魔力。有を強化するのが天力だ。
それらを合わせることで世界に空白を生み出し、隙間が生まれる。
それを通るのがエクスゲートの術だ。
「おお。出来た」
そしてそれは成功する。
世界にぽっかりと穴が開き、虚空が見える。
男は──オルムは空間を通る。
向かう先は最初に居た場所。問題なく転移は成功し、元の場所に戻る。
成功したことに安堵した男は再度エクスゲートの術で川まで戻る。
(外見も変えないと不味いな)
人間が居たとして、その人間と交流する場合角が生えてて青肌の人間等恐怖と差別の対象でしかない。
ならば安全に交流する為に外見を変えるのは急務だ。
オルムは意識を集中する。自らの体を変える様意識すれば体の形は変わっていく。
肌は普通の人間と変わらない肌色となり、角は消える。
「成功したか」
川の反射で変わった自分を見ながらオルムは安堵する。
作中で明言されていないが、外見を変えるぐらいなら出来るだろうと思った男の考えは正しかった。
魔神王オルムは野生のラスボスが現れた! の世界で過去幾度も世界を危機に陥れている。
時には巨人の王として。時には邪神として。
そういった過去から考えれば自らの外見を変える能力を持っていても可笑しくない。世界の脅威が常に同じ外見では問題もあるだろうから。
「さて、人里を探そうか」
オルムはそう言うと空へと飛びあがり。空の彼方へと飛んでいった。
かくしてオルムが空を飛んで数十分。人外の聴力で声を聴く。
それは悲鳴だ。歳若い女の悲鳴。
気になったオルムは声の方へと飛んでいく。
「いや! 辞めて!」
「へへへ、辞めねぇよ」
(うわ、テンプレだ)
其処は正しく今から凌辱しますよ、という現場だった。
壊れた馬車の傍には女性が二人──正確にはまだ女の子と言える年齢の者と妙齢の女性だ──が服を裂かれていた。
その場には屈強そうな男が五人程。どれも武器を手にしている。
(さて、どうするか)
恐らく助けようと思えば助けられるだろう。
だが、前後関係が分からない以上介入するのは不味いのでは、とオルムは考える。
例えばこれが男側が正義の側かもしれないし、女性側の自業自得かもしれない。
例えば男たちは重い税金に苦しめられる農奴で、一揆しているだけかもしれない。
そういった過去は一切なく単に盗賊が女性を襲っているだけという可能性も勿論あるが。
オルムは考える。ここで助けた場合のメリットとデメリットを秤にかける。
不意に。オルムの目が正に凌辱される寸前の少女の目と合う。
無論それは気のせいだ。オルムは遥か上空にいるのだから目と目が合うはずもない。
「──助けた恩で情報を得るのが最善かね」
オルムは諦めた様にそう呟くとエクスゲートの術で正に少女を襲う暴漢の背後に転移する。
そのままオルムは拳を突き出す。単純な正拳突きは男の胸を貫き、破壊する。
男は最期の言葉を残す事無く絶命する。
「な、何だお前は!」
推定盗賊団の一人がオルムを見て叫んだ。
「ふむ……雑兵だな」
さてどうするか。オルムは一瞬悩んだ。
どのような手段で殺すか。自身の攻撃能力では攻撃規模がデカすぎる。
下手なスキルや魔法を使おうものなら森が消し飛ぶ。文字通りに。
「仕方がない」
スキル、瞬歩。
敵との距離を一瞬で詰めることが出来るストライダーのスキルだ。
野生のラスボスが現れた! には様々な職業が存在する。
ライトウォーリァーやヘビィウォーリァー。アーチャーにレンジャー等など。
それら各種職業に人族は着くことが出来る。
だがモンスターは職業につくことが出来ない、がスキルの習得は出来る。
これは作中でも獅子王レオンが各種スキルを披露している事から確定情報だ。
更に女神が作り出した最強の生物である龍ならば多少の制約など無視してスキルを習得できる。
オルムは瞬歩を使い盗賊の眼前に移動する。
そのまま拳を頭部に向けて放つと盗賊の頭部は綺麗にはじけ飛ぶ。
それを計七回、盗賊団分繰り返した。
「──さて、大事ないかね?」
オルムは余り直視しないよう気を付けながら少女の方を向きながらそう問いかける。
少女の姿は目に毒だった。服は破かれ正に事が行われる直前といった有様だ。
「助けて頂き、ありがとうございます……!」
少女が礼を言うも、オルムは少し顔を反らす。
「……服を変えた方が良い。その姿は目に毒だ」
「これは失礼しました!」
少女はそう言うと倒れていたもう一人の女性と共にオルムから離れる。
「さて……」
オルムは徐に自身が頭部を消し飛ばした男の死体をまさぐる。
(外見は地球の人間と酷似──同一と言ってもいいな。中身はそも知識が無いからわからんが……とりあえず金目のものだけ取っとくか)
そしてふと、オルムはある事に気づいた。
人を殺したのに、何とも思わない。
まるでそこらの蚊を潰しただけかの様に、心に何の変化もない。
自らの手で殺した感触は残っているというのに、だ。
(心も龍のそれに変わっているのかな?)
等と思いながら、オルムは盗賊の剥ぎ取りに移った。
オルムは襲撃していた盗賊全員分剥ぎ取った。
「馬もいるのか……これは盗賊団のものか」
馬がいるとは、余程規模のデカい組織だったのだとオルムは考察する。
馬とは非常に便利な動物ではあるが、その維持には金がかかる。
オルムが知るだけでも相当な量を一日に食べる。例を挙げるならば一日に十二キロから十五キロは食う。
その馬が六頭もいるのは大規模な集団と言って間違いないだろう。
それを確認したオルムはやっぱ助けたのまずかったかなと若干の後悔をし始めている。
「旅人様、危ない所を助けていただき誠にありがとうございます」
「私からも、改めて感謝の言葉を、本当にありがとうございます」
「何。礼には及ばない。偶然近くを通っただけなのでね」
三人は会話もそこそこに。それぞれ馬車と馬に乗る。
オルムにとっては生まれて初めての乗馬だが魔神王の身体能力で問題なく行えた。
「わたくしはルビエルテ家のローレン・ラーライア・ドゥ・ルビエルテお嬢様に仕えるリタ・ファレンと申します」
「……私はオルムという、ただの旅人だ」
かくして魔神王オルムになった男の異世界生活が始まった。