魔神王様、只今異世界へお出かけ中 作:野生の松ぼっくり
殺してくれ
あの後、ファングボアが出現し討伐し、魔石だけ受け取り肉と毛皮をラタ村の人間にオルムは分けた。
そしてそれから、数日が経った。
「ここか」
オルムは空の上から洞窟を見下ろしていた。
オルムが今回受けた依頼は盗賊退治だ。
オルムはゆっくりと下降すると洞窟の目の前に降り立つ。
「見張りも立てないとは、随分と杜撰だな」
オルムは洞窟の中へと入っていく。
石の洞窟だ。灯りは所々にある松明だけ。
光源としては弱いが龍には暗視能力が備わっている。故に問題は無い。
「なんだ、てめぇ!」
そうして歩いていると盗賊に遭遇する。
オルムはスキルを使わず一瞬で盗賊の眼前に移動。そのまま頭部を掴みくるりと人回転させる。
頭をねじ切ったオルムは頭を無造作に捨てる。
──人を殺す事にも随分と成れたな。
元から殺人鬼の素質があったのか。或いは龍の肉体的に引っ張られているのか。オルムにはわからない。
そもそも元の人格──原作のオルムの精神は何処に行ったのか。幾ら意識を集中しても原作の記憶を吸い出す事が出来ない。
オルムはこの肉体を神か何かが作り上げた"魔神王オルムの肉体"ではないかと疑い始めていた。空っぽの肉体に自分という精神を入れられたのではないかと。
それはそれでじゃあこの世界は何だとか誰が作ったのかと問題が生じるが。
オルムはそんなことを考えながら洞窟を進み、盗賊を素手で殺しながら先へと進む。
「ここが最奥か」
最奥には盗賊団の頭らしき男が居たが即座に上半身を弾けさせ殺害済み。
「む」
不意に小動物の気配を感じる。
檻が並ぶ所まで歩き、正体を探る。
「キツネ……か?」
其処に居たのは薄い草色の翠の毛の動物だった。
頭から尻尾までで凡そ六十センチ程。尻尾が体の半分を占めており、尻尾はまるで綿毛のようでもある。
頭部は狐の特徴そのままで三角の耳が立っている。身体の前足と後ろ脚にはムササビのような被膜が付いている。
腹は白い毛に覆われており、小動物の類だった。
「……出してやるか」
オルムは何となく助けようか、しゃがんで檻に手をかける。
オルムが盗賊団を壊滅させた以上檻から出る手段が無いこの動物は餓死するしかない。それを哀れに思ったオルムは檻に手をかけ、少し力を入れるとべキリと檻が壊れる。
壊れた檻をそこらに捨て、オルムは小動物に話しかける。
「ほら。もう自由だぞ」
何となく手を差し出す。
がじり、とオルムの指がかじられた。
無論龍の肉体だ。痛痒など有るはずもない。
「大丈夫だ、怖くない──なんだ。怪我をしているのか」
オルムがよく見れば前足に傷が付いているのがわかった。
「治してやろう」
オルムは月属性の天法を発動する。
月属性にも天法は多数存在する。オルムは龍であり女神が作った生物だ。魔の力も天の力も両方高レベルで扱える。
月の天法を使い小動物の怪我を治してやれば、小動物は己の怪我が治った事に驚愕している。
「きゅいきゅい!」
「なんだ? 嬉しいのか?」
小動物が可愛い鳴き声を上げ、オルムは可愛いなこいつと放心し始める、
いかんいかんと頭を振り、オルムは立ち上がる。
「ではな」
これ以上構っている訳にはいかない、とオルムは外に向けて歩き出す。
「きゅい!」
「む」
すると小動物がオルムの前まで走って来る。
「……ついてきたいのか?」
小動物はまるで肯定するかのように鳴き声を上げた。
「……まぁ、良いか。良いぞ。まずは名を付けてやらねばな」
オルムがしゃがんで手を差し出すと、小動物は手に乗って来る。
そのまま立ち上がれば小動物は腕を伝い頭部にまで登って来る。
「ふむ……キツネっぽいから……キツツキ……キツンコ……グリーン……は安直だな」
提案される名に抗議の声を小動物は上げる。
「そうだ。ポンタというのはどうだ?」
「きゅいきゅい!」
上げられた名に小動物は歓喜の声を上げた。
「そうか。ならお前は今日からポンタだ」
オルムがそう言うと小動物──ポンタは歓喜の声を上げた。
そうして出口付近まで歩いてから、オルムはふと疑問に思った事をポンタに問いかけた。
「しかし他にも檻があったが、あれにはおまえの用に他の動物を捉えていたのかね」
「きゅい?」
まぁ、分かるはずも無いかとオルムが洞窟から一歩出た瞬間──剣がオルムを襲った。
「む」
即座にバックジャンプ。剣を回避する。
剣を向けて来たのは美しい女性だった。
薄紫色の滑らかな肌。雪の様に白く長い髪。鋭くとがった耳を持つ。
金の瞳をもってオルムを睨みつけている。
身に纏った灰色の外套。長袖長裾の地味だが動き易い衣服に身を包み、その上に革製のコルセットの様な防具を装備している。
一言で言えばうら若きエルフの戦士、という風貌だ。
特に特徴的なのは胸元が露出した大きな胸だ。女性として視線を集める事間違いないだろう。
女は再度剣を構え、オルムに肉薄する。
オルムは意識を切り替える。
途端、女の動きが止まる──いや止まった様にオルムは感じる。
オルムの速度は常人のそれではない。意識一つ切り替えれば一秒を永遠に等しい時間に変えられる。
俗にいうタキサイキア現象──全てがスローモーションに感じるそれを意図的に出せるというような感じだ。実際の原理は違うが。
その刹那の永遠でオルムは考える。なんだこいつ、と。
殺すのは余りにも簡単だ。適当にでこぴん一つ放てば容易く肉塊に変わる。
だが、これで殺してはいおしまいには成らない。何故殺しに来たのかの問題が生ずるからだ。
取りあえずは生かして捕獲するか、とオルムは意識を切り替えた。
時間軸が戻り、女が剣を持って斬りかかる。
オルムはそれを避ける。避ける、避ける。
一撃、二撃、惨劇と連続の斬撃全てをオルムは軽やかに交わしていく。
斬撃を十回ほど避けたところで、女が声を上げた。
「攫った子供たちを返してもらうわよ!」
「──どうやら誤解があるようだね」
オルムはそれで女の目的が分かった。
(大方この盗賊はエルフを奴隷として攫っていて、この女エルフはそれを救いに来たという所か、まだエルフと決まった訳ではないが)
そこまで一瞬で考え付いたオルムはどう無力化するか考える。
(とりあえずルナテンタクルで──)
そこまで考え始めたところで、オルムの頭部からポンタが飛び出した。
「──ベントゥヴォルピーズ?!」
「ベン……何?」
女は攻撃を辞め、止まる。
「ベントゥヴォルピーズ……精霊獣の事よ。通称、綿毛狐
精霊獣は警戒心が強くエルフにさえ懐くのは稀……ましてや人族なんかに……」
(ああ、そりゃ私は人じゃないからな)
オルムの正体は龍だ。ならば人に懐かぬ獣が懐いても不思議ではない。
「怪我をしていたのを治してやったら懐かれてね。取り合えず連れて行こうかと思っている」
「精霊獣と心を通わすなんて……」
女は絶句する。
「──どうやら嘘をつくような人では無さそうね。行き成り斬りかかった事は謝るわ」
「わかってくれたようで何よりだ……しかしなぜ、エルフである貴女がこんなところに?」
「ここいらの盗賊がエルフ狩りに加担しているという話を聞いたのよ……」
「成るほど。この盗賊団には檻があった……しかしながら、中身は既に無かったがね」
「……一足遅かったか」
オルムはふと、とあることを思いつく。そのまま口に出す。
「何か事情があれば手伝おうかね? こう見えて私は傭兵をしていてね。報酬次第では何でもやろう」
「必要ないわ。人族の助けなど要らない。これは私たちエルフ族の問題よ」
「そうかね? だが、心変わりしたら何時でも言ってくれ。力に成ろう」
オルムがそう言うと女は鼻をならし、去って言った。