魔神王様、只今異世界へお出かけ中 作:野生の松ぼっくり
数日の旅を得て、オルムたちはエルフの都市ララトイアに辿り着いていた。
森の中にあるが、都市としてはしっかりとしている。木の壁に囲まれた城塞都市に近く、防備も厚い。
その門の前で、オルムはアリアンと話す。
「じゃあ、中に入れるよう許可を取って来るから、待っててね」
「了解した」
オルムは一人取り残され、門の前でポツンと待つ。
五分経ち、十分経ってもアリアンが来ないオルムは暇だな、とスキルを使う事を決意する。
其処らの地面に向かってアルケミストのスキルを使い、簡易的な椅子と机を練成する。
オルムは不意に出来た暇な時間で思考する。
自分は何なのだろうか、と。
野生のラスボスが現れた! に登場するオルムの外見と力を有するが、分かっているのはそれだけだ。
肉体に記憶があるなどという都合のいい事は無く、あるのは自分の記憶だけ。
残っている最後の記憶は家に帰ってベッドに横になって眠ったところまでだ。殺人鬼に襲われた記憶もトラックにひかれた記憶もない。
本当に唐突に力と姿を与えられている。
この力も不意に消えることがあるのだろうか、とオルムは考える。
唐突に与えられた力だ。唐突に消えても何も可笑しくない。
それは出来れば御免被りたいところだ。オルムとしての能力は非常に優秀であり、手放したくない力だからだ。
アリアンとダンカとの出会いもオルムの姿と力が元。この縁は消えてほしくないとオルムは思う。
頭から降り、構えとやって来るポンタを片手でわしゃわしゃとしながらオルムは思考の海に落ちる。
自分はいったい何なのか。未来はどうなるのか。この力を世界にどう活かしていくべきか──
「お待たせー! ようやく許可が取れたわ!」
思考の海を泳いでいたオルムはアリアンの言葉で浮上する。
見上げれば時刻は夕刻であり、空がオレンジ色になっている。
「て、なにこれ、椅子?」
アリアンは行くときには無かった机と椅子に一瞬混乱するが直ぐに転移魔法で持ってきたのかと考える。
「もうこんなに時間が経っていたか」
オルムは立ち上がると練成のスキルを使い椅子と机を地面に戻す。
「オルムってホント多才ね……家具も作れるなんて……」
「人より出来ることが少し多いだけだよ」
オルムはそう返事し、アリアンの案内の元ララトイアの中に入る。
ララトイアの中はオルムが思っていたような──木の上に集落があるような形では無かった。
木を使っているのだろう半球状の独特な形の家が並び、道は石で舗装されている。
街灯も存在し、動力は不明だが道を照らし出している。
見た事の無い形の街を前にオルムが内心興奮しながらもそれを表には出さず、アリアンに追従しララトイアの奥へ進む。
奥にあったのは大きな建物だ。
いや、建物というには語弊がある。それは木の中にあるのだ。
三十メートル以上はあるだろう樹齢何年かわからぬ大木の幹の中に生まれる様に建物が入り込んでいる。
建物前まで歩いたアリアンとオルムは建物の前に人──エルフが立っているのを目撃する。
片方はアリアンと同じ薄紫色の肌。薄いピンクの髪色をしたおっとりとした印象を受ける女性だ。
もう一人は男。ダンカと同じ皮膚と金の髪色をしている壮年の男であり、緑眼を持っている。鍛えられている雰囲気は無く、戦闘者の感じではない。
「よく来てくれた」
男の方が口を開いた。
「私はディラン・ターグ・ララトイア。この里の長をしている」
「妻のグレニス・アルナ・ララトイア。アリアンの母です」
「始めまして。長殿、奥方殿。私はオルム。流浪の傭兵を営んでおります。……というか、アリアン殿の父君と母君とは」
聞いてないんだが、とオルムは一瞬アリアンを睨んで直ぐに視線を元に戻す。
「娘が大層世話になったそうで」
「私は今年で百七十歳です♡」
グレニスの言葉にアリアンがぼそりと二百四十三歳でしょと反論する。
「娘から大体の経緯は聞いたよ。エルフ族を代表して礼を言おう。だが今回領主まで襲撃したのはちょっと予想外の事でね」
ぎくり、とディランの言葉にアリアンが硬くなる。
「条約があったのに無視してローデンの貴族が関わっていたのよ!」
アリアンが即座に反論するが、ディランもまた口を開く。
「今回は誘拐犯の拠点を潰すという話だったのに何故領主屋敷まで?」
「それはっ!」
ヒートアップしそうなため、オルムが身を乗り出す。
「詳細については私から話そう」
「であれば、どうぞ家の中へ。ゆっくりと寛いでください」
ディランの案内の元オルムは家の中に入る。
ごく普通の、現代にもありそうな家の間取りだ。
玄関には靴箱が置かれ、靴を脱いで上がるのだとわかる。
全員が靴を脱いで玄関に上がり、オルムもまた靴を脱ぐ。
玄関から少し歩くと其処はリビングルーム。大きめの机と椅子が置かれている。
リビングからはキッチンが見える形になっている。
「さぁ。どうぞおかけになって」
グレニスが声をかけ、オルムは大人しく椅子に座る。ガタイが大きいため少々手狭になる。
「では──」
オルムは今回の一連の流れを説明する。
誘拐犯の拠点襲撃時に居た謎の黒装束の存在、それから齎された売買契約書と領主に囚われているエルフの存在。
「なるほど。そんなことが……」
ディランがふぅむ、と喉をうならせる。
「では明日、今回の件についてこの売買契約書と共に中央の大長老会で説明するとしよう」
「難しい話は終わったかしら? そろそろご飯にしましょう」
グレニスがそう言うとテーブルに料理が運ばれる。
シチューとパンという言ってはなんだがごく普通の料理だ。
いただきます、と全員が食事を始めた。
■
翌朝。
オルムは客室で一晩泊って居た。
朝になり、オルムは自然と目が覚める。
龍の肉体は便利だ。その気になれば起きる時間を設定する事も出来る、がオルムはそういう事はせず自然に任せていた。
部屋で着替えを行い、外套を纏うとポンタを起こし肩に乗せ、部屋から出る。
客室は二階に作られており、一階へ降りると其処にはグレニスが居た。
「おはようございます」
元日本人のサガかオルムはこういう時自然と敬語で挨拶をしてしまう。
「おはよう。今日はゆっくりと眠れたかしら?」
「えぇ。ぐっすりと眠れました」
オルムは案外図太い性格をしており、部屋が違ったり枕が違う程度何ともない。それに龍の肉体は高スペックだ。何処でだって寝れる。その気になれば溶岩の上でだった眠れるだろう。
「もうすぐご飯用意できるから、座って待っててね」
「ありがとうございます」
言われるがまま、オルムは椅子について待つ。
五分と経たず朝食が置かれる。朝食はパンとサラダのセットだ。
いただきます、と手を合わせてからオルムは食事に手を付ける。
「アリアン殿とディラン殿は?」
「朝早くから森都に出かけたわ」
「なるほど。もう大長老に報告に行ったと」
「えぇ……ところでオルムさん。今日のご予定は?」
「予定はないですね。何か家事などを手伝おうかと思っていたのですが……」
「あらそう、じゃあ……私と少し、手合わせしてみない?」
「はい?」
■
オルムとグレニスは家から出てララトイアを歩く。
朝も過ぎ、外にはエルフ達が顔を出している。
その視線はオルムに集まり、良くないものも含まれている。
何故ここに人が、エルフ以外が居るのだという視線。恐怖、あるいは嫌悪の感情が含まれたものもある。
中には小声で何で人が居るんだ、と口に出している者もいる。
オルムはそれを龍の聴力で正確に聞き、まぁ自分は人じゃないんだがと心の中でちょっとした反論をしながら歩く。
「あ! マントの人!」
そうして歩いていると、エルフの子供たちの集団と出会った。
「あぁ。君たちか」
オルムの高ステータスによる記憶力──野生のラスボスが現れた! にあるINT(知力)は魔法攻撃力と記憶能力の高さを示す。
オルムはなんでも一瞬で覚えれる瞬間記憶能力と一度覚えたことを忘れない完全記憶能力を持つ。
その記憶からすれば見覚えのある子供達であり、つい先日ウドランという男に森で囚われそうになっていた子供達だった。
「おじさん! あの時はありがとう!」
子供たちは次々に感謝の言葉を口にする。
オルムは軽く微笑み手を返し返事をした。
「すまない。待たせたかね?」
「いいえ。平気よ」
ふふ、とグレニスは笑った。
アリアンの家から離れた場所に広間はあった。
草が生えただけの場所であり、子供が遊べる程度の広さの場所だ。
其処でオルムとグレニスは相対する。
オルムは普段と何も変わらない恰好、外套を翻しながらグレニスを見つめる。
見た感じでは戦闘者という雰囲気はない。だが観察眼のスキルを使ってみればそのステータスは高く、アリアンよりも上だとわかる。
「ふふ、娘と関わり合いのある男性と聞くとどうしても確かめたくなっちゃってね」
グレニスはそう言うと剣を構える。
訝し気な眼をするオルムにグレニスは安心させるかのように語る。
「私たちダークエルフ族は身体能力に優れているの。それにあの子に剣を教えたのは私。だから安心してちょうだね」
そこまで言うと話は終わりとでも言う様に眼を鋭くする。
「それじゃあ。始めましょうか」
お互いに木製の剣を手に、戦闘が始まる。
先に動いたのはグレニスだ。身をかがめながらの突撃。
(速い!)
オルムが観た今までのどんな敵よりも早い。チヨメという忍者すらグレニスの前では霞むだろう。
だが、それだけだ。音速や光速の半分といった理不尽な速さではない。
オルムの龍の動体視力ならば捉えられる。
グレニスはオルムの前まで接近すると剣で切り上げようとする。即座にオルムも反応し剣で防ごうとする。
だが──フェイント。力を込めてない動作でありグレニスは軌道を変えて剣劇を放つ。
無論オルムはその程度どうとでもなる。理不尽な身体能力でオルムも剣の軌道を変えて防ぐ。
「あら?」
おっとりとした口調でグレニスは疑問府を口にするとバックジャンプして距離を取る。
「眼が良い……だけじゃないわね。身体能力も高い。けれどそれだけね」
「──わかるかね」
一瞬で自身の弱点を見抜かれた事にオルムは内心驚きながらも平坦に返事する。
そう。オルムには戦闘技術が一切ない。
元より喧嘩や戦い等義務教育である柔道ぐらいしか経験が無い。
完全な余談だがオルムは帰宅部だった。
「けど、そうね。ふふ。ちょっとお母さんやる気が燃えてきちゃった」
グレニスは本気を出す事を決意し、オルムに挑んだ。
■
「うーん。ちぐはぐな強さね」
剣劇をして三十分程経った頃。グレニスが切り出した。
「身体能力も動体視力も、いえあらゆる能力が異常と言っていい程に高い。だけどそれを使いこなせていない……」
「……そこら辺もまぁ、事情があってね」
自らの欠点を言われたオルムはまさしくその通りと肯定する。
「じゃあ。オルム君には悪いけど手加減して貰っちゃいましょうか? その力を振り回すだけでなんにでも勝てちゃうでしょうけど、世の中上には上が居るもの。それら相手に技術で劣っていれば勝てる敵にも勝てなくなるわ」
「正しくその通り、ですね」
オルムは意識して力を墜とす。
全力で手加減をしたうえでの剣劇をし合ったのだった。