魔神王様、只今異世界へお出かけ中 作:野生の松ぼっくり
「あら。もうこんな時間。晩御飯の用意をしなくちゃ」
夕刻になって。オルムは要約グレニスとの戦いから解放された。
「いやはや実に身になる鍛錬でした。ありがとうございます」
なんかオルムルールプレイ出来てねぇなと思いながらオルムは感謝を口にする。
「朝かいちゃった。お風呂に先に入ろうかしら」
「──風呂があるのですか?」
風呂という言葉に元日本人として食いつく。
「あら。オルム君先に入る?」
「……出来れば入りたく思います」
等と話しながら、二人は家に戻っていったのだった。
■
夕刻。オルムは風呂につかっていた。
そこそこの広さを持つ風呂場だ。オルムの日本の家の風呂場の倍以上はある。
オルムはあーと唸りながら風呂を満喫する。
余談だが、オルムの今の外見は青い肌に眼の白い部分が黒くなった黄金の瞳、そして角が生えている状態だ。
どういう訳か分からないが最も楽な形態がこの姿で固定されているのだ。無論やろうと思えば幾らでも姿を変えれる。デフォルト設定がこれで変えれない、という感じだ。
「気持ちいいか、ポンタ」
ポンタと一緒に風呂に入りながら、オルムは何となくポンタを弄りまわす。
「……長湯するのも悪いし、あがるとするか」
■
オルムが風呂から上がると、其処にはアリアンとディランが居た。
どうやらメープルから戻って来たらしく、オルムを席に着くよう誘導する。
大人しく席に着くとディランが口を開く。
「さて、我々の今後の動きだが……この売買契約書に書かれている人物について調査する事が決まった。そこでオルム君には引き続きアリアンの手伝いをお願いしたい。エルフの戦士が表立って堂々と動き過ぎる訳にはいかないからね」
「なるほど。了解した」
「だが、正直言って私たちが支払える報酬は左程多くない。無論金銭で支払って欲しいというのなら相応の額を払おう」
「ふむ。報酬ならば別途欲しいものがあるのだ」
「というと?」
「私が安住出来る地を……人もエルフもいない大地を求めている。其処に私は終生暮らしたいのだ」
「ふむ。そういった土地には少々心辺りもある。こちらで探しておこう。腕の良い建築士も手筈しようか」
「頼みたいところだ」
「話は終わりかしら? そろそろご飯にしましょう」
グレニスはそう言うとテーブルに料理を載せ、全員が食事を始めたのだった。
■
翌日になり、朝早くからアリアンとオルムは旅に出た。
エルフの里ララトイアから出てローデン王国の王都オーラブを二人は目指す。
(──こうして歩くとなると何か移動手段が欲しい所だな)
ここは原作にあやかって車型ゴーレムでも創ろうか、とオルムは思案する。
だが問題なのは材料が一切ない。ある程度素材は自作出来るとしてもほぼ全てを自分で用意しなくては成らないだろう。
野生のラスボスが現れた! の世界ではアルケミストが作った素材が一般的に販売しているがこの世界にはそんなものはない。
作るとなると結構な時間がかかるだろうなとオルムは考える。
「む」
そうして脳内でゴーレムの作成について考えていればオルムの耳に妙な音が入る。
羽音だ。ブブブという特徴的な音であり、人によっては不快感を感じるであろう音。
その音の正体は直ぐにやって来た。蟲が飛んできたのだ。
蟲と言っても標準的なサイズではない。成人男性ほどの大きさを持つ蟲だ。
形としてはトンボが近いだろう。だがトンボの様に可愛らしい見た目ではなく、牙もついた肉食的な見た目だ。
その蟲──ドラゴンフライという蟲はオルムに向かって集っていく。
「邪魔だな」
オルムは腕を振るうと暴風を生み出す。
オルムの攻撃力ならば通常攻撃で風圧を生み出す事も容易だ。これはそれを利用した攻撃。
暴風に身を裂かれたドラゴンフライ達は力なく大地に堕ち、死んでいった。
「先を急ごうか」
■
オルム達はララトイアを出て二日、とある宿場町に来ていた。
その夜も更けて来た頃、オルムとアリアンは宿の一階部分に併設された酒場で食事をしながら今後について話していた。
「見て。本来なら街道が森を避ける様に続いてるけど、私たちは森を突っ切る事で行程を狭めたいと思うわ」
アリアンが取り出した地図には森が書かれており、街道がそれを大きく迂回する形で作られていた。
正直に街道を移動しようものなら三日以上はかかるだろう。森を通ればその行程は半分以下になるだろう。
「あんたら、森を通る気かい?」
其処に、料理を運んできた給仕の女性がアリアンに話しかける。
「そのつもりだが」
人と余り話したくないアリアンに変わりオルムが返答をする。
「辞めときな。居間森にはボーンデッドウルフつう魔獣が出るんだ。危険だよ」
ボーンデッドウルフ、という言葉にアリアンは反応する。
「魔獣か……何問題ない。実力はあるのでね」
対しオルムは自身満々に返答する。
「何人もやられたって話だけど……忠告はしといたからね」
給仕は机の上に料理を置くと、気を付けなよと言い去っていく。
「……どうした。アリアン」
ボーンデッドウルフと聞いてから様子が若干変なアリアンにオルムが問いかける。
「……ボーンデッドウルフか……ううん。何でもない。食事にしましょ」
「……そうかね」
絶対何かあるだろ、と思いつつも深くは関わらずオルムたちは食事をするのだった。
■
翌日の早朝。オルムとアリアンの二人は森を歩く。
森とは言っても多少は整備──というか人が歩いて均しただけの道はある。
歩くのに苦労することは無く、二人は歩いて行く。
其処に、オルムの鋭い聴力が異音を聞く。
「ガルルル」
現れたのは白い体毛に覆われた狼だ。普通の狼よりも一回り大きい。
それがオルムの真横の木々の隙間から襲撃してきた。
だがオルムにとって狼程度敵ではない。腕を振るい迎撃し──腕は虚空を振り払った。
「何?」
確かに其処に居た筈、とオルムが思った瞬間次の狼がオルムに襲い掛かる。
今度はそれを蹴り飛ばし、今度は狼が死体となる。
「幻術の類か」
実体の無い幻を見せる技は、オルムにとって有効だ。
これが他者の精神に干渉して何かを起こす、系統である場合素のステータスで無効化出来るが実体の無い幻を見せる……ホログラムのような物の場合オルムにはその手の耐性が無いため通じてしまうのだ。
そうこうしているうちに狼──ボーンデッドウルフ達はオルムとアリアン、ポンタの三人を囲む。
「はぁ!」
アリアンが剣を振るい、幻影を斬り払った次の手で実体のあるボーンデッドウルフを斬り捨てる。
オルムもまた観察眼を使い実体と幻影を見分け戦う。
(頭は……あれか)
恐らくは歴戦の個体なのだろう身体に傷のついた他のボーンデッドウルフよりも三回り程大きく、かつ尻尾が二つ多いボーンデッドウルフをオルムは見つける。
即座に観察眼でそれが本物かどうか見分けようとし──妙なステータス異常を見つけ疑惑の目で群れの長を見つめる。
(隷属? これはいったい……)
見た事の無い異常にオルムは興味を持つ。
どうせなら、とオルムは周囲のボーンデッドウルフを無視して瞬歩で長の眼前に移動。
高位の月属性の解呪魔法を行使する。
パリン、と何かが割れる音がした。
その音にオルムが視線を向ければ其処に会ったのは黒いリングが外れて落ちていた。何故か赤く脈打つ妙なリングだ。
長は何が起こっているのかわからない、という顔をし──数秒後雄たけびを上げた。
その声に追従する様にボーンデッドウルフ達は撤退して行った。
「何があったの?」
「解呪魔法をボーンデッドウルフの長にかけてみた。見たらこんなのが付いていてな」
オルムはしゃがんで長についていたリングを持ち、アリアンに見せる。
「なにこれ?」
「わからん。が、何かしらの……魔獣を操る類のものなのだろう」
「……誰が、何のために?」
「そこまではわからん。が、碌な事には使われんだろうな」
話は一旦そこで終わる。
アリアンが言いにくそうに口火を開く。
「あの……出来ればボーンデッドウルフの毛皮を剥ぎたいのだけど……」
「? まぁそこまで急ぐ旅でもないから良いが……」
「やった!」
アリアンは喜ぶと早速ボーンデッドウルフの解体に移る。
適当な木にボーンデッドウルフを釣るし、作業を開始する。
「……今度、姉が結婚するの。それで姉への結婚祝いにボーンデッドウルフの毛皮を使ったベールを渡そうと思って」
「姉が居たのか。なるほど。プレゼントというのは大事にしなければならないからな」
アリアンの言葉にオルムは納得する。
「きゅん!」
其処に、唐突にポンタが鳴き声を上げる。
なんだ、とオルムがポンタを見ると何処かへ向かって走っていく。
「ポンタ? ──すまないアリアン。ポンタを追っていく!」
「き、気を付けてね!」
アリアンは作業に入っており着いて行くには問題がある、とアリアンを置いてオルムはポンタを追いかけて行った。
■
「……また襲撃か?」
オルムはポンタを追って走っていった先で襲撃が終わった場所に来ていた。
其処には横転し倒された馬車が数台と規則的な装備を纏った者達が大地に伏している様子がうかがえる。
周囲にはそれを成したのであろう黒いローブを纏った集団が居る。
「珍しい獣だ。売れば金になるかな」
其処にポンタを捕まえている男がそんな言葉を口にしたのを聞き、オルムは即座にエクスゲートで男の真後ろに転移。
そのまま男の首を掴み一回転させねじ切る。
「な、なんだ?!
「何処から現れやがった!」
「雑魚だな」
オルムは体感時間をズラす。
刹那を永遠に変えた超越者だけに許された時間停止にも等しい高速の世界。
オルムは俊敏に動き黒いローブを纏った者達を殺していく。
素手で。足で。
頭部を砕き上半身と下半身を裂き殴って嬲って千切って殺して周る。
オルムの体感時間で五分。現実時間で一秒未満で全員の殺戮が終わった。
「さて……」
体感時間を戻し音が戻った世界でオルムは倒れている死体に目を向ける。
(死んでからそう時間は経ってないな……どうするか)
この先の事を考えたら無視するのが一番だ。だがオルムは無視しない事を決めた。
どうせなら、天法の実験にでも使おうーオルムはそう考えたのだ。
オルムは天力を纏い月属性の高位の天法──死者蘇生の天法を行使する。
倒れている死体……他より豪奢な服を纏った少女の死体に天法をかければ直ぐに息を吹き返した。
「よし、成功か」
この調子で行くか、と襲撃者ではない者達に死者蘇生の天法をかけて回る。
天法をかけても死体の損傷が酷かったり時間が経っていたりで蘇らなかった者もいる。
それでも蘇った者達は多数おり、半分近くは蘇っていた。
「よし」
そしてオルムは死者蘇生がきちんと効果を発揮したことに満足し、エクスゲートでアリアンの元まで転移して帰ったのだった。