魔神王様、只今異世界へお出かけ中 作:野生の松ぼっくり
数日の旅を得て、アリアンとオルムは王都オーラブに辿り着いた。
非常に大きい都市だ。ララトイアの倍以上はあるだろう。
オルムとアリアンはオーラブの一区画、売店が並ぶ地点を歩いていた。
「随分と活気があるな」
「そりゃ王都だもの。活気あふれて人も多くて当然じゃない?」
オルムがアリアンと雑談しながら歩いていると喧騒の中から怒声が聞こえ始める。
気になったオルムは少し歩き、怒声の方を見やる。
「てめぇ! この野郎!」
そう叫ぶのはガラの悪い人間だ。
ガラの悪い、言ってしまえばチンピラの様な人間が三人、一人の小柄な人間を囲っている。
チンピラと比べると小さい体。帽子を被った姿にへそが見えている服という中々強気なファッションをしている一見男に見える女だ。
「喧嘩か」
さてどちらが勝つかな、とオルムは興味深そうに顎に手を当て考える。
「そうね。多分……」
オルムの呟きに目ざとく返し、アリアンは女の方を視線で見る。
喧嘩は続き、チンピラが女に殴りかかる。
それを女はひょいと除け、代わりに足を出し転ばせる。
すかさず殴り掛かったもう一人の男に肘打ちをみぞにかましダウンさせ、残る一人に俊敏に近寄りアッパー!
瞬く間に三人の男を打ちのめした。
(やるな、あの少年)
そして一連の流れを観察していたオルムは素直に感心する。
ついでに性別を勘違いしている。
不意に女はオルムの方を向いたかと思うと、ずかずかと近寄って来る。
「ちょっと、オルムがじっと見つめるからよ」
小声でアリアンが諫め、オルムはどうしたものかと悩む。一瞬殺すかと思考が物騒になるが抑える。
「お久しぶりです。外套の人」
女が発した声に、オルムは聞き覚えがあった。というかオルムの肉体は高スペックなので一度見聞きしたことは忘れない。
「あの時の忍者か」
声を思い出し、その正体を言い当てる。
「やはり、聞き間違いでは無かったのですね」
帽子をずらし、女──チヨメは顔を見せた。
(何でこんなところに? ──いやこいつも売買契約書がらみか?)
「……この子は?」
チヨメの事を知らないアリアンが問いかける。
「ディエントの襲撃時に居た私たちとは別の襲撃者だよ。売買契約書を渡して来た奴だ」
「貴女が……」
「少しお話したいのですが、お時間の方大丈夫ですか?」
アリアンは一瞬悩むと「大丈夫」と返す。
「良かった。ここで話す事でもないので付いてきてくれますか?」
と、オルムたちはチヨメの案内の元王都を歩いて行く。
王都の中央通りを外れ、人気の少ない場所に三人はたどり着く。
そのうちの一つ、小さな宿に三人は入る。
宿の店主に一声かけ、三人はチヨメが泊っている部屋に入る。
「どうぞ座ってください」
オルムとアリアンは大人しく椅子に座る。オルムはガタイが大きいので少々手狭だ。
「まずは自己紹介から。ボクはチヨメ。
「刃心一族?」
「刃は刃、心は心を表す言葉で、耐え忍ぶものという意味です」
(……忍、か?)
オルムは考察を一旦やめ、自己紹介をする。
「私はオルム。傭兵だが今は分け合ってエルフ族に協力している。あぁ、こちらはポンタだ」
きゅん、とポンタが紹介に合わせて可愛く鳴く。
「私はアリアン・グレニス・メープル。カナダ大森林、メープルの戦士よ」
「オルム殿にポンタ殿、アリアン殿ですね……早速オルム殿聞きたいのですが、ディエントでボクと会った時、何故忍者と呼んだのですか?」
ふむ、と一呼吸おいてからオルムは返す。
「私の知識にあるものだとあのような黒装束の者を忍者と呼ぶのだ。何故この知識があるかは私にもわからないがね」
「忍者とは我が一族にのみ伝わる秘伝の名……もしかしたらオルム殿は初代様と同じ国の出身なのでは?」
「ふむ。そうかもしれないね……その初代様というのは?」
「六百年前に居たとされる、伝説の御方です。伝承のみが伝わって居まして……」
「なるほど、成るほど」
(その初代というのは私と同じ日本人、あるいは日本人フリークな外国人か──最低でも地球を知っている存在なのは確定だな。住んでいたレベルか知っている程度かはわからんが)
「それで……チヨメ、ちゃん? オルムに話したいことって?」
チヨメは固まる。何かを言うのを決心しているような形だ。
(大方、アリアンと似た依頼だろうな)
チヨメの種族は獣人であり、ディエントでの襲撃から察せる物がある。
「仲間の……獣人族の救助にご助力願えませんか?」
(やはりそうくるか。だが──)
「すまないが今の私はアリアンに雇われて動いている身だ。その上で依頼を受け動くわけにはいかない」
「……っ、それでも!」
「待ってオルム。そう無下にする事無いじゃない」
「しかしだね、アリアン」
「私も動くわけに行かないのはわかってる。けど同胞を救おうと動く貴女に思わない所が無いって訳じゃないの」
「アリアン殿……」
アリアンとチヨメのやり取りに、仕方が無いなとオルムはため息をつく。
「勿論、今回の件で報酬も支払います。その報酬は、あの時渡した売買契約書の相手についてです」
オルムがチヨメから受け取った売買契約書には足りない情報が幾つかあった。
エルフを売った側の情報はあっても、エルフを購入した者の情報は今一つ欠けていたのだ。
「なるほど。ならば受けぬ訳にもいかないか」
オルムは諦めた様にほほ笑んだ。
■
「あそこが、獣人族が囚われている場所です」
チヨメの案内の元、オルムとアリアンは王都のはずれまで来ていた。
其処には大きな建物……というよりは小さな砦というべきものが建てられている。
警備もまた厳重。オルムの視力で見れば決まった装備を来た人間が何人も居るのが分かる。
「エツアト商会は中央との繋がりも深く、襲撃を受ければ直ぐに王国軍が動き、来るでしょう」
「それだと逃げるのが難しいんじゃない?」
「はい。なのでアリアン殿とオルム殿には侵入し派手に暴れて欲しいのです」
「それだと、助けられる人数が──」
「成るほど。エツアトは囮かね?」
「……同時にこの王都にある四つの奴隷商にも襲撃をかけます。既に仲間達もオーラブに潜入しています」
「一番大きなエツアトに注意が向く間に他の者達を救う、と」
「そんな……」
悲痛な声を上げるアリアンにチヨメは苦しそうに言う。
「全員を救う事は出来ません……ならば一人でも多くの同胞を……百を救うのに十の犠牲がいるというのなら、僕たちはそれをするまでです。オルム殿とアリアン殿の力があれば、その犠牲を減らせる事は出来るはずです!」
アリアンがじっと、オルムに何かを言うように見つめる。
「そう言う事なら私も全力をもって最後まで戦わせていただくとしよう」
「いえ、オルム殿にそこまでしていただく訳には──」
「実を言うとね、私は転移魔法を使う事が出来るんだ」
「転移魔法……初代様と同じ時空忍術を?!」
「同一かはわからないが、まぁ制約は多いが使える術だよ」
「この術があれば、救える仲間も多いはずよ」
アリアンが微笑むように言う。
「オルム殿! 僕は直ぐにこのことを仲間達に伝えてまいります!」
直ぐにでも動きだしそうなチヨメを見てオルムは諫める。
「そうそう! 襲撃は今夜なので準備の方お願いします!」
そう言い残すとチヨメは跳躍し、その場を離れるのだった。
「……私には襲撃は今夜って聞こえたのだけど」
「奇遇だね。私にもそう聞こえたよ」
仕方が無いので準備をしよう、と二人ともその場を離れるのだった。