けれど雨は止むことなく   作:無明の旅路を照らす知識の灯火

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SR-9 巻狩

 

 戦闘におけるオレのナイフの使い方は、某国民的ロボットアニメで言うところのビットやファングみたいなのが近い。本体であるオレから射出されるが、別にオレが触れていなくともアーツで操れるし、だから地面に落ちたり刺さったりしてもそれはオレにとって持ち札であり続ける。

 一度避けたはずの攻撃を、だが意識から外すことができない……これは中々に厄介で、たとえオレがそのナイフを再利用することがなくとも、「もしかしたら飛んでくるかもしれない」と意識をそちらに割くことを強要する。そうして相手の意識を分散させ、出来た隙に致命の一撃を叩き込むのがオレの戦闘スタイルだ。

 もちろん重装兵みたいな全身金属鎧でガッチガチに固めたような奴だとそもそもナイフが通らないからこの戦法は通用しないが、そもそもオレのターゲットにそういう類は殆どいない。万が一そういう手合いとぶつかった時のための手札も無い訳ではないが。

 ともあれ、今相対しているレッドはそんな重装甲ではない。だからオレとしては戦いやすい部類に入る、のだが。

 

「だからと言って、優勢に立てるとは限らないか……!」

「影から、いく」

 

 まーじで攻撃が当たらん。チェリーニアがどちらかと言えばパリィで攻撃をいなしていたのに対して、レッドはそもそも高速で動き回って狙いを定めさせてくれないし、当然のごとく回避もしてくる。確かゲームだと物理・術回避+50%とかだったが、目算だとそれよりも回避してるのは勘弁してほしい。

 しかも深追いしようとして追撃にナイフを動かすと、それで出来た隙間から一瞬で肉薄して攻撃してくる。おかげでそこそこの数のナイフをオレの周囲を旋回させて万が一に備えなくてはならなくなった。

 レッドの方も、無理に攻めてくれば刃雨に四方八方から襲われると分かっているのか積極的に攻撃はしてこないからいいが、まあ膠着状態とか千日手とかそういうのに陥っているわけだ。

 オレがたまにナイフを飛ばして攻撃し、それを躱したレッドが後隙をついて飛び込んで来る。んでオレが旋回させていたナイフで迎撃し、レッドが距離を取る。

 そういう感じのが、もう十数回は繰り返されているのだ。

 

 ただ留意すべきは、オレがレッドと単独で相対しているのではないということだ。ルナカブはオレがレッドと正面から戦っている間、虎視眈々とその隙に狙いを定めているのだから。

 狙撃オペレーターとして兎にも角にも迷彩状態を獲得することに特化していたルナカブは、本来であれば前線を誰かに任せて後方から射撃するのが本分だったはずだ。だがシラクーザの都市の中では群れの獣たちを同道させることもできず、一人で乗り込むことになっていたのだ。

 それでも十数人のマフィアを蹴散らすあたり普通に強いのだが、レッドを相手取るには少しきつかったらしい。そこをオレが補っているのが今の状況なので、ルナカブも含めればオレたちの優勢とも言えるだろう。

 まあ人数差のあるマッチアップで、何を得意げにしているんだという話ではあるんだが。

 

「そこだ!」

 

 ルナカブの一射が、飛び退ったレッドを空中で襲う。足場の不安定な、というかそもそも足場すらない状況でそれでもレッドは身を捩ってそれを回避したが、無理な空中での機動で体勢を崩さざるを得ない。

 そこにすかさず突進して無理矢理に切り結ぶ。右手には直剣、左手には逆手のナイフという変則的な二刀流だが、オレとしてはこれが一番しっくり来る。イメージとしてはダークソウルの深淵の監視者の構えに近い感じだ、まああっちは右手に持つのが直剣というか大剣の部類だが。

 ちなみにわざわざ二刀流もどきを使っているのは、単にチェリーニアやラップランドの真似事というだけだ。だってあれカッコイイし……。

 

「っ、オマエ、強い。レッド、驚き」

「それは何より……!」

 

 何とか近接戦に持ち込むことには成功したが、実のところオレとしてもこれは本意ではない。オレだって別に近距離戦を特別に得手としているわけではないのだ、ただこの膠着を打破するためにはこうしなければいけなかったというだけで。

 体格差を利用して半ば力押しの形でレッドに迫る──互いが掲げた刃と刃が鍔迫り合って不快な音を立て、まるで抱擁しているような距離でオレとレッドは見つめ合う。

 鋭く研ぎ澄まされた刃のようなそれに、だが臆することはなく。左手で握ったナイフで、レッドの持つ武器を絡め取るようにしてその手から弾き飛ばす。

 この手の武装解除術は殺し殺されのシラクーザではあまり見るものではないが、オレは一応習得している。いずれ役に立てばいいな程度のものだったが、こうして活用できているのでかつてのオレの先見に感謝しなくていけないな。

 

「まだ、やれる……!」

 

 だが、レッドも牙の一本を抜かれたところでくたばるような弱卒の狼ではない。

 オレの左手が振り切られ、まだ引き戻すことのできないその一瞬の隙の間に、レッドは赤い影と化してオレの左にその身体を滑り込ませた。

 左手でレッドを迎撃するにはもう遅く、右手の直剣も間合いの内側に入り込まれては即応はできない。いやはやこいつはまずいな──

 

「がっ……」

 

 突き出された掌底が、オレの顎をぶち抜く。

 脳にまで直に伝わってくる衝撃に一瞬オレの視界は白く染まり、手から力が抜けて直剣が石畳を跳ねる音が微かに聞こえてきた。

 意識が飛びかけたのは一瞬で、すぐに戻ってきた視覚と聴覚で辺りを探るが、レッドはオレの視界にはもはや居ない。

 

 反射的に全てのナイフをオレの背後に飛ばす。仕込みとして残しておいた分も含めた、後先考えない大盤振る舞いだが……そうでなければやられるという予感があった。

 金属と金属のぶつかり合う音が複数回響き、続いて微かに苦悶の声がこぼれる。

 それを聞いたオレが振り向きざまに放った横薙ぎの一閃を、あちこちに切り傷を負ったレッドはそれでも姿勢を低くして避ける。

 再び懐に潜り込みオレを攻撃しようとしているレッドを迎撃する手段は、オレには無い。

 

「……狩りは、群れでするものなのだ。それを忘れた一匹狼は荒野で生き残れないぞ」

 

 ──まさしく絶技と言っていいだろう。

 オレとレッドが超至近距離で戦闘しているそこに、だがオレには掠りもさせずレッドを狙い撃ちにしたルナカブの一矢は、レッドの右腕を貫いてつんのめらせた。

 その隙にレッドの手を掴み、身体を入れ替えて地面に突き倒す。オレがチェリーニアにされたのと同じような感じで、体重を乗せた拘束はそう簡単に抜け出せるものではない。

 

「ぐ、うぅ」

 

 唸り声のような低い音を漏らすレッドは、それでも戦意を喪失していないようだが。万が一にも反撃されないように、首筋を叩いてそれを沈黙させる。

 加減を間違えると気絶どころか死んでしまいかねない類の荒技だが、そもそもテラの住人は頑丈なのでまあ大丈夫だろう。一応はこれも訓練しておいたし。

 

「……沈黙したようだな、よくやったのだ。アンニェーゼもお前のことを褒めているぞ」

「それはどうも。オレもここでやられるわけにはいかなかったからね……アンニェーゼの牙よ」

「その呼び方。さっきも気になったが、お前はルナカブのことを知っているのか?ただの狼がアンニェーゼのことまで知っているのは気味が悪いのだ」

「荒野を離れて文明を生きる狼が、純粋な力強さの代償に得た新たな力がこれだからね。君が標的にしていたザーロの牙は、まさにその手合いだよ……今こうしてオレと君が話しているのも、いずれ彼の知るところになるだろう」

「……ルナカブにはよく分からん。それのどこが力なのだ?」

 

 いつか分かるさ、と適当に返答して、レッドの右腕に刺さった矢を慎重に引き抜く。返しのついた鏃が肉や神経を傷つけることのないように、注意を払ってはいるのだが……医療関係はずぶの素人だからな。

 応急処置は施したが、後遺症が残らないとは言い切れない。ウォルシーニの病院は、通常滅多にないはずの矢傷から爆傷まで手当ができるとかいう手練の集まりではあるが、レッドを連れて行っても診てもらえるかどうか。シラクーザの住人ではないからな……。

 まあ、その前にルナカブと話をつけなければならないのだが。

 

「さておき、オレたちは狼主の牙をこうして無力化したわけだが。アンニェーゼの牙、君は彼女のことを殺すつもりはないのか?」

「……アンニェーゼはそれを望んでいないようなのだ。それに、ルナカブは無駄に獲物を殺すのは好きじゃないからな!」

「ふふ、アンニェーゼは君のことを大切に思っているようだ。オレとしても彼女を殺されるのは困ったから、ありがたいんだが」

 

 互いに争い続けるという本能。その原始的(プリミティブ)な闘争本能は、狼主とその牙に深く根差して楔のように荒野に縫い止める。

 だがアンニェーゼはそれを嫌った──ルナカブに、牙としての服従と闘争ではなく、友人としての互いに笑いバカみたいな話を出来る関係を求めたのだ。

 それはともすれば砂漠で一本の針を探すような無理難題だ。アンニェーゼの言うところの「慣性」、本能、衝動。そもそも一人の意志で抗えるようなものを、そうは形容しないのだから。

 とはいえ……ルナカブのこの様子を見れば、アンニェーゼのその願いも無為ではなかったのかもしれない。

 

「オレはこれから彼女を病院に連れて行くが、君はどうする?一宿一飯くらいなら、君に提供することも出来るが」

「うーん……いや、やめておく。どうもこの都市はルナカブにとって合わない感じがするのだ。だからルナカブは出て行こうと思う。ただ、お前は都市の狼の割に強かったのだ。荒野の匂いもする。付いてくるなら、一緒の群れに加えてやってもいいぞ」

「ありがたいお誘いだが……この頃のゴタゴタが片付いたら考えておくよ。アンニェーゼにもよろしく伝えておいてくれ」

 

 言うか言わぬかという時点で、ルナカブはもうどこかに去ってしまっていた。

 レッドとルナカブの衝突を避けていたのか人通りの絶えていた公園にも、まばらに人影の戻りつつある。まあ木陰だの建物の裏だのに死体が転がっているのが珍しくないシラクーザでは、市民もそういった場所をわざわざ見に行くこともしないから、オレとレッドが見つかることもそうはないだろうが。

 とはいえこのまま放置しておくわけにもいかないしな……。

 

「はあ……まさかレッドにこんな所で出会うなんてな。しかもロドスを一人で離れてという話だし……ん?」

 

 怪我の功名というか何というか。こいつは使えるかも、と思い立ったオレは。レッドをお姫様抱っこで運びながら、まずはウォルシーニのトランスポーター詰所に足を向けた。

 

 

 ◇

 

 

「アンニェーゼ、どうしたのだ?ルナカブは狼の牙を打ち倒したぞ、アンニェーゼの勝ちなのだ」

「後は、ザーロの牙だけ……」

「まだいるのか?荒野に潜む狼主……「秘牙」?」

 




主人公が使っているナイフですが、手持ちで使う前提の数打ちの安物(ゲーム内でモブが持っているようなもの)と、アーツで飛ばす用の特注品(どちらかというとナイフというより鏢とか手裏剣みたいなもの)の二種類があったりします。
まあ、今回の戦闘で大半を使い潰す羽目になりましたが。
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