けれど雨は止むことなく   作:無明の旅路を照らす知識の灯火

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ステージ名にSTが付くのはゲーム本編だと戦闘無しでストーリーのみの幕間ですが、本作では回想みたいな感じで運用しています。


SR-ST-2 黒狼・上

 

 オレがテキサス──チェリーニア・テキサスと初めて対面したのは、十五と少しの頃だ。友好関係にあるファミリーが集まる密会のような場──表立っての集会はファミリー間の結託を疑われるので避けるのが常だ──で、オレの父親が幹部(カポ・レジーム)を務めるファミリーも参加していたから、オレもその場にお邪魔していたのだと思う。

 ちなみにシラクーザにおいてオレくらいの年齢でファミリーに参加するのはそれほど珍しいわけではないが、その手合いは下っ端も下っ端、捨て駒に近いような奴らが大半だ。当然ながら彼らはこういう会合に参加できるような地位にはない。

 翻ってオレのように幹部だとかドンだとかの血縁だと、将来的にそういう立場を継ぐ可能性が高いから、顔見せの意味で本人の地位には関わりなく会合に連れてこられることもある。もちろん、ある程度の経験と能力があって人前に出せること前提だが。

 

 ただそういうケースでも、顔と名前の周知がなされた後は、子供たちは手持ち無沙汰になることが多い。いくら幹部候補だと言っても幹部ではないのだから、秘匿性の高い会話には入っていけないのだ。

 実のところ子供が話に割って入るな、という明文規定があるわけではないが……それをやらかすと大変なことになると理解できないような奴は、そもそも会合の場に呼ばれないので。

 ただいくらそういった分別があるとはいえ、子供は子供だ。大人たちが何やら秘密裡に話している間、何もせずに大人しく待っていろと言われても中々に難しいわけで。

 

 なので、似たような境遇の子供どうしで集まって暇を潰すということもよく起きる。

 大体は他愛もない世間話というか雑談というかで、大人たちも将来的なコネクションのきっかけにでもなればいいと軽く流すようなものだ。

 しかし一方で、オレのような……自分の戦闘能力に増長したガキは、むしろ喧嘩を売っては自分の優位を知らしめることを選ぶこともある。それはそれで、幹部になった時の箔がつくから大人たちは咎めることはないが。

 オレはそうやるのが常だったし、大体は適当に相手をあしらえるくらいだったから自信もそれなりにあった。

 

 ……だから、壁に背を預けて退屈そうにしているチェリーニアのことを見つけた時に。

 ここがアークナイツの世界だと気付いてから初めて原作キャラを目にした興奮もあったとはいえ、有無を言わさずに試合を持ちかけたのは……まあ、若気の至りとしか言いようがない。

 今となっては恥ずかしい限りだが、逆にこれが無ければオレとチェリーニアの間には何の繋がりも無かったかもしれないので、後悔はそんなにしていないが。

 

「……好戦的なのは、ラップランドだけで間に合っているんだがな」

「そう言わないでくれ、オレだって誰彼構わず喧嘩を売っているわけじゃない。テキサス、君が君だからだ……いやこう言うと告白めいているな?」

「そちらの方がマシだった気もするが……はあ」

 

 致し方なく、といった感じでオレの挑戦を受けたチェリーニアだったが……その気怠げな素振りとは裏腹に、今から見てもおかしいくらいには強かった。

 当時のオレは割と普通の近接戦を好むタイプだったのだが、そもそも間合に入ることすら簡単ではなかったのだ。

 剣雨──テキサスのスキル2の方だが、無数のエネルギー塊を空中に生み出して射出するアーツだ。大した予備動作もなく発動可能、エネルギー塊の生成地点も自由、射出コースも変幻自在……戦闘用のアーツとしては、シンプルながらきわめて強力だ。

 しかも命中するとスタン……つまりは身体を動かせなくなるというオマケ付きとなれば、ゲームならまだしもそれが現実になった今だと一発くらった時点で負けみたいなもの。

 当時のオレはそれを完全回避できるほどの力量なんぞ無かったので、普通に完封負けだった。

 

「ぐ……くそ、分かっていたはずだが悔しいな……!」

「……」

 

 歯牙にもかけず、とはまさにああいうのを言う。

 汗すら流さずにオレのことを無力化したチェリーニアは、剣を床に突き立てて膝をつくオレを一瞥もせず、何の感慨もなしにその場を後にした。

 チェリーニアが生半な実力でないことは重々承知していたはずだった……先鋒にしろ特殊にしろ、テキサスは同職分・レアリティ内で最高レベルの性能を誇っている。必ずしもゲーム内の性能と世界観的な強さが一致するわけではないが、ゲームで強いオペレーターは大体が世界観的にも強者とか才能あるやつが多い。

 というか戦闘技能:卓越のラップランドと互角ないし優勢なので、よく考えなくとも強者である。

 

 それでも、どこか侮っていたのだろう。

 それは単純に実力を軽く見積っていたという事もあるが……何よりも、チェリーニアのことをかつてオレがドクター(プレイヤー)として運用してきたオペレーター・テキサスとして見ていたからだ。

 まだチェリーニアはテキサスではないし、もうオレはドクターではないというのに、とんだ勘違いもあったものだが。

 だって仕方ないだろう、頭の上ではここがアークナイツの世界だと分かっていても、その象徴となりうるものとは全く接点が無かったんだから。鉱石病(オリパシー)はオレの目の届く範囲ではまだ感染者がおらず、天災もそもそも移動都市にいれば基本的に縁のない存在だ。他の旧人類の遺物や北方の悪魔とかは言わずもがな、それらの近くにいなければ実感することはない。

 だからオレはまだどこか浮ついた気分でいて、自分が足をつけて生きているはずのこの世界のこともどこか見下していたのだ……まあ厨二病と言われればそれまでかもしれないが。

 

 それをチェリーニアに正面から粉砕されて、オレはしばらく茫然としていたが。

 次第にその事実に理解が及んでくるにつれ、思わず笑いが浮かんできて困ったのを覚えている。周囲からすれば惨敗して地に塗れ、土埃と涙で顔を汚していた子供がいきなり笑い出したのだから、気が狂ったとでも思われていたのかもしれない。

 余人の目など、それで恥ずかしく思うこともないが……その時ばかりは、自分の馬鹿らしさに羞恥を覚えていたものだ。

 それをひとしきり呑み込んで、オレはチェリーニアの滞在するサルッツォファミリーの門戸を叩いた。まあそこに至るまでに父親との衝突と説得とか、諸々の根回しとかもあったが、それは些事だろう。

 

 どうしてそう煩瑣を背負ってまで、チェリーニアのことを追いかけようとしたのかは……今のオレにも完全には分かっちゃいないが。

 ただ確かなのは、チェリーニアがオレの蒙を啓いてくれたきっかけであるということだ。向こうからしたら喧嘩を売られて適当にあしらっただけなのかもしれないが、オレにとってはまさしく人生の転換点と呼んでも差し支えないほどに大きな変化だった。

 だから、勝手な感情だと分かってはいるが……オレはチェリーニアに恩義を感じているし、それを返すべきだとも考えている。つまりオレがチェリーニアに執心する理由の一つはここにあるのだろう。

 ……チェリーニアがそれを望んでいないのなら、放っておくべきだという論理も分かるが。それを拒絶したのは、まあオレのエゴでしかないな。誰だって一目惚れということはあるものだし。

 

 ちなみにオレがチェリーニアに喧嘩を売ったことをどこからか知ったラップランドが、オレをボッコボコにしたのもこのすぐ後のことだ。

 チェリーニアの一件でもとより自信などへし折られていたが、それを更に粉々に粉砕されたというか。無表情で最適手を打ち続けてこちらを詰ませてくるチェリーニアと違って、笑いながら遊ぶように蹂躙してくるラップランドは別の方向で精神にくるものがある。

 結局ラップランドの方が興醒めしたのか途中で切り上げて帰っていったが、その時点でオレはメインウェポンだった直剣を破壊されて万が一のために懐に潜ませていた短剣一本で戦う羽目になっていたので、まあ惨敗も惨敗である。

 殺されなかっただけまだマシ、という感じだった。

 

 それはさておき。

 サルッツォファミリーにお邪魔することになったオレと出会したチェリーニアは、どうやらオレのことを覚えてはいてくれたようで、挨拶をすれば返してくれる程度ではあった。オレがサルッツォにいるのに怪訝そうにしてはいたが。

 ただそうは言っても、オレとチェリーニアの関係は普通の同僚くらいのものだった。互いに顔と名前を知っていて、それなりに話すこともあるが、深く踏み込んだ話題はしない。そういう感じの。

 この頃はどちらかというとラップランドの方がオレと近しかったくらいだ……あいつはあいつでチェリーニアに執着しているので、同じ穴の狢といったところだろう。テキサスファミリーの粛清があるまではラップランドもそこまで狂気的な感情をチェリーニアに向けていたわけではないので、同担拒否みたいなのは無かったし。

 

 それが多少なりとも変わったのは、ある任務でオレとチェリーニアが二人で割り当てられてからだ。

 シラクーザのとある移動都市にいるターゲットを暗殺する、という単純なものだったのだが……そのターゲットが予想以上に粘りに粘り、最終的には移動都市の外郭部まで逃げおおせたのだ。当然ながらそれを追うオレたちもそこまでたどり着いたわけで。

 背後には移動都市の航跡が刻まれた荒野のみでもう逃げ場は無い、という状況でターゲットは火事場の馬鹿力を発揮したのか。チェリーニアはともかく、オレの方はそれなりに苦戦を強いられていた。まあ総合的に見ればオレたちの優勢ではあったのだが。

 そしてあと一手、というところで油断していたのだろう。オレはターゲットの捨て鉢の攻撃……というより、オレもろとも移動都市の外へ飛び出そうとしたそれに、まんまと引っかかってしまったのだ。オレも意地でターゲットは殺したのだが、その時点でもうオレの身は空中に投げ出されて移動都市から落下しようとしていた。

 アーツでオレの身体を引き戻そうにも、その当時のオレのアーツは重量物を自在に動かせるほど強力ではなかった。というか今でも重力に抗う形でのアーツ行使は普通にきついので、当時のオレならば何をか言わんや。

 遠ざかるチェリーニアの姿を見ながら、これは死んだかな、なんて馬鹿みたいなことを考えていたのだが。

 

「──チェリーニア!?」

 

 オレを追って宙に飛び出したチェリーニアに、思わず驚愕の声をあげた。

 ターゲットの殺害は完了しているのだから、これ以上チェリーニアが何かをする必要は無かったのだ。だというのに黒髪をたなびかせてこちらに向かって飛んでくるその姿は、頼もしくはあったが。

 

「何を馬鹿なことをしているんだ!?オレを助けようとしてくれたなら有難いが、二人とも死んでは本末転倒だろう!」

「都市の壁上に戻る必要はない。私たちを壁の近くまで動かしてくれ」

「……。いや、分かったともさ。だが君の身が最優先だからな!」

 

 十五歳の少女二人分の重量を動かすのは簡単ではなかったが、上方向に戻ろうとしないのならまだやりようはあった。アーツを全力で使用してオレたちを移動都市の外壁側に吹き飛ばす。

 オレ自身も細かい制御を放棄した全力のそれは滅茶苦茶な機動を発生させたのだが。チェリーニアはそれでもオレのことをしっかりと捕捉し抱き寄せた。

 そして空いている片方の手で、源石剣を起動させ外壁に突き刺す──当然ながらすぐに折れ飛び、外壁にわずかな傷を残しただけだったが、すぐさま次の刀身を形成し再び突き刺す。折れる、突き刺す、折れる、突き刺す。

 刀身をアーツで形成する源石剣だからできるその制動は、少しづつだが確かにオレたちの落下速度を緩めていった。

 

 だが、それが可能なのも外壁が続く限りの話だ。移動都市は大体が履帯とかの移動プラットフォームの上に都市を建造することで成り立っているから、接地面から一定の高さまでは都市の外壁ではなく移動プラットフォームしか存在しない。

 さすがにそこを使っての制動はできない……何せ、そこに近付けば巻き込まれて落下死よりも無惨な結末を迎えることになるだろうから。

 落下の勢いを抑える術を失って、大地がオレたちを抱擁しようとその手を伸ばす。まだまだ地面は遠く、ターゲットの成れの果てと思しき赤い染みが小さく見えるが、このままいけばオレたちもあれと同じようになってしまうだろう。

 

 ……そうはさせるか、という話だが。

 

「こんな所で、オレのせいで君を死なせてたまるかよ……ぐっ」

 

 アーツの出力を最大化する──アーツユニットのみならず、オレの身体すら悲鳴をあげるような無茶振りだが、その分効果は今までと比べ物にならない。本来ならオレの度胸とか覚悟とかを別にしても、能力の面でこんな真似はできないはずなのだが。

 それが叶ったのは、オレが主人公みたく窮地で覚醒でもしたのか……今となっても分からない。

 ただ確かなのは、オレはその時に酔ったような全能感を感じていたというだけだ。

 

 アーツの見えざる手がオレたちを支えて落下速度を漸減させる。

 それと同時に、オレとチェリーニアの位置を入れ替えて、オレの方が下にくるようにする。オレはチェリーニアよりも体格がいいから、もしオレがチェリーニアの上に落ちるなどしたらどうなることか。まあオレの方が小柄だったとしても同じことをしただろうが。

 あとはせめてもの足掻きに手足を広げて、はためくコートが風を受けて膨らむようにするが……まあ気休めにもなりやしない。

 

「があっ……!」

 

 背中に、もはや何と形容すればいいのか分からないほどの衝撃がぶつかる。

 おそらくは骨も内臓もいかれたのだろう、痛みが全身を駆け巡り朦朧とする意識の中で……遠く離れていく移動都市と、オレのことを心なしか心配そうに覗き込むチェリーニアを最後に、オレの視界は真っ暗闇に落ちていった。




一話で回想パートを終わらせようとしたんですが、想定以上に長くなったので分割。
こういうことをしているからテンポが悪くなってるような気も……。

あと本編とは何らの関係もないですが、音律のティザーPV、とんでもなく良かったので皆さんもどうか見てみてください。
作者はラップランドとペンギン急便のところで歓喜しました。カッコイイ……。
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