「というわけで、君たちにはオレの部下を引き連れてミラノ劇場に行ってもらうことになったから」
「……何がどういうわけなのかさっぱり分からないんだが。説明してもらってもいいか?」
「ん、オレの部下なんだから意図なんて聞かなくても動くものだろう?……そう身構えないでくれ、まあ冗談だ。オレはラップランドほどその手の脅しは得意じゃないからな」
「ならさっさと本題に入れ。お前の小間使いでウォルシーニ中を走り回らされてて、こちとら気が立ってんだ」
チェリーニアと話していたのとは別の拠点……珍しくピッツァ屋とは一体化していないやつだが、そこにオレはカポネとガンビーノを呼び立てていた。
二人のことはどのファミリーにも所属していない便利な手駒として、あっちこっちで連絡役とかをさせていたわけだが、流石にそろそろ物語も佳境に入りつつあるわけだし。そういうわけで、本格的に動かそうと思っての招集だ。
とはいえ雑用ばかりだと思われても仕方ないし、というかそう思っているようだ。ガンビーノは割と血の気の上りやすい気質なので、こうしてオレを目前にして少し苛立っている。カポネはその辺を呑み込めているようで、まあ破れ鍋に綴じ蓋というか。本人たちは認めないだろうが。
「まあ、君たちにも華やかな活躍の機会をあげなくてはと思ったからね。何せ十二家が手を組んでの大抗争だ、君たちの名前を売るには絶好の機会だろう?」
「はあ?俺はシラクーザを離れて……本当に忌々しいことに長いが、それでもミズ・シチリアが敷いたルールくらいは覚えてる。十二家どもが同盟なんぞ組んだらすぐさま叩き潰されるのがオチだろ。まさか俺らが追放されてから、あの女はそこまで耄碌したってのか?」
「まさか。ミズ・シチリアは龍門にいた君たちのことを把握できるくらいにはやり手だし、今もその厳格は変わってない……単に、ベッローネとサルッツォがミズ・シチリアの支配を打ち壊そうとしてるだけさ。のうのうと追放されただけの君たちとは違ってね?」
「んだと、てめえ……!」
激昂するガンビーノとそれを見て嘆息しているカポネは、二人ともシラクーザから追放された元シラクーザマフィアだ。そのうちのシチリアマフィアとかいう分類らしいが、この辺はよく分からん。そもそもシラクーザ=シラクサ=シチリアみたいなもんでは?
まあそれはさておき、シチリアマフィアはかつてミズ・シチリアによりシラクーザ追放の憂き目にあったわけだ。テキサスファミリーとは違って鏖殺まではいかなかったようだが、それでも大半は亡き者にされたようだし……カポネとガンビーノに関しては、直近にもミズ・シチリアがラップランドに「処分」を命令する書簡を出していたりする。
まあラップランドはそれを燃やして捨てたわけだが。だからこそ二人はこうして再びシラクーザの土地を踏むことができているのだし。
そんな二人にとって、ミズ・シチリアへの反抗というのは恐怖であると同時に羨望の対象でもあるのだろう。
自分たちでは到底及ばないことが分かっていて、だがその成功を夢想するような……まあ特にガンビーノについては、シラクーザでマフィアとして再起することを狙うあたりは半ば諦念の方が強いのだろうが。
一方でカポネは何だかんだで慎重派というか、シラクーザでなくともやっていきそうな感じもする。シラクザーノだと最後はどうしてたんだっけか?確か本編ではなく、個別行動か何かだったような気がするが。流石にその辺までは覚えてないからな……。
「武器を下ろせよガンビーノ。俺たちがあの女に手も足も出なかったのは事実だろうが……業腹だがな。お前がもうちょっと強けりゃこうはならなかったかもしれねえが」
「チッ……」
「まあ、君たちがどうあれベッローネとサルッツォの動きは変わらない。慎重派のロッサティを襲撃して、ドンを交代させつつシラクーザ中を抗争の渦に巻き込もうとしてるわけだ。そうすればミズ・シチリアも出て来ざるを得なくなるだろうし……それは彼女を引き摺り下ろす最大の機会でもある」
「大した自信だな、十二家サマともなりゃ。機会さえあれば自分たちなら出来ると信じきってやがる」
「ま、あのサルッツォでさえこの賭けに乗ったわけだからね。彼らにとって、これは分の悪い物じゃないのさ」
実際のところはどうなのやら、さっぱり分からないが。だってミズ・シチリアが戦闘する場面が描かれたことはないし、そもそも十二家の最大戦力もよく分かっていないので。
ただミズ・シチリアの方は「狼の口」なる配下を揃えていることは分かっている。ポジション的には炎国の禁軍、ウルサスの皇帝の利刃とかに近しいと思われるから、普通にヤバそうではある。
一方で十二家は、それぞれドンとかの特記戦力は判明しているものの、それ以外に関しては正直そんなに強いわけではない。少なくとも幹部とかまで行かなければ、ほとんどが弱卒である。
まあ基本はアークナイツの世界観的に、数は正義というのがあるので……「狼の口」の数次第ではファミリーの方に勝ち目があるのかも知れない。大前提としてファミリー同士が団結すればの話だが、ミズ・シチリアという共通の敵の前でならそれも出来る、はず……。
それを彼らなりに察したのか、二人は若干の苛立ちを発露させながらも頷いた。
妬ましく、恨めしく、何より怒りが込み上げてくるが……それでも認めなくてはならない、という苦み走ったものだったが。
「だがロッサティのドンだと?そんな奴をどうやって襲撃するってんだ。あいつらだって馬鹿じゃねえ、そう簡単に隙なんざ見せねえだろう」
「そこで最初の話に戻るわけだ。当代のロッサティのドンは、オペラ好きで知られていてね。明日に上演される『テキサスの死』第二幕にも来ることが分かってる……ああちなみに、ベッローネのドン・ベルナルドはミラノ劇場の事実上の支配人だ」
「なるほど、のこのこと敵地の只中にやって来たそいつを袋叩きにしようって魂胆か。んで、俺たちもそれに参加しろってか?」
ガンビーノの方はかなり乗り気だ……まあ、ドンの殺害となればこれ以上ない首級だからな。シラクーザで成り上がっていこうというガンビーノにとっては垂涎ものの話ではあるのだろう。
まあジョヴァンナの戦力についてはあまり気にしていなさそうなので、その辺に考えが及ばなかったのがこうして落ち目になっている原因な気もしてならないが。直情的というか脳筋というか。
一方でカポネの方は、オレの話を吟味しているようで黙り込んでいる。リスクとリターンを天秤にかけてあれやそれやと考えているのだろうが、その目はオレの話に乗り気であることを雄弁に物語っていた。
まあ、彼らの想定は全部根本からしてずれているのだが。
「いいや?むしろ逆だよ逆。君たちにはベッローネとサルッツォの刺客からロッサティのドンを守ってもらう」
「はあ?」
「シラクーザの秩序に抗う十二家たち、それを阻もうっていうんだから君たちの名はそれはもう知れ渡るだろうね。もちろん成功したらの話だけど」
梯子を下されたみたいに困惑を隠しきれず、オレに問い直してくるガンビーノを見て笑ってしまうが。いやオレは一言もジョヴァンナを襲撃しろだなんて言ってないからな。もしかしたら勘違いされるかもな、とは思ってたが。
まあ名前を売るというのについては、ベッローネとサルッツォに真正面から喧嘩を売ることになるのだからそう変わらないだろう。旗揚げするには十二分な知名度を得られるだろうし……それに伴うあれそれはさておき。
とはいえ二人にとって、オレの明かした目的は受け入れ難いものだったようで。
「ミズ・シチリアに追放された俺たちに、ミズ・シチリアのために働けってのか?俺たちのことを舐めすぎだぜ」
「それに言いたかないが、十二家の精鋭どもを相手にするなんざご免だね。あんたの部下は腕利き揃いなんだろ?そいつらを動かせばいい」
「今はまだその時じゃない……と言うと大袈裟だが、実際そうでね。少なくとも今はオレの名前を出して動きたくない。その点君たちはシラクーザではもう根無草だし都合がいいのさ」
もう、のところを敢えて強調して言ったから、また二人が殺気立つが……まあ大したものではない。今この部屋にいるのはオレと二人だけだが、外にはボルティニアを筆頭にオレの部下が控えてるし。
実のところジョヴァンナの暗殺を妨害するための戦力自体は十分ではあるんだが、オレはその場で表立って動くわけにも行かない理由があるし、ボルティニアたちもある程度は顔と名前が売れているので裏にいるのがオレだと分かってしまう。
もう少しすれば大っぴらに活動する予定ではあるが、残念ながらまだ早いというのが実情だ。
そこで、もうシラクーザでの地位を失って久しい二人は色々と便利なのだ。かつての栄光を取り戻すためにロッサティに取り入ろうとしている……くらいのカバーストーリーも立てやすいし。
「それにこれは、ミズ・シチリアのためにやろうっていうんじゃない。考えてみてくれ、ロッサティのドンが殺されたとする……次代のドンはおそらくウォラックになるだろうが、別にそれは驚くべきことじゃない。ロッサティ内部でも、当代のドンの極端な慎重姿勢には疑問があがっているからね。急進派のウォラックがドンの座につくのもそう遠くはないんだ、元々から」
「ならベッローネとサルッツォはどうしてそれを待たねえんだ?ちょっと我慢すれば望む結果が得られるっていうのによ」
「まさか。彼らはシラクーザマフィアなんだよ?欲しいものがあればすぐにでも手に入れる、そのための犠牲は知ったことじゃない……そういう古いタイプのね。特にアルベルトの方はそれが顕著だ。だからミズ・シチリアに反旗を翻そうとしているわけだし」
「時代は変わった」──アルベルトが言ったことだが、彼はそれを否定的に捉えていた。邪魔をする奴を殺してでも奪うのではなく、役人や商人を通じてしか欲しいものを手に入れられなくなったからと。
全くもって自分勝手だが、シラクーザのマフィアの多くは依然としてこういう考えを持っている。それが抑えられているのは、ミズ・シチリアの敷いたルールがあるからで……そういう点では、彼女は新しい時代を築き上げた人物ではある。
問題は、それすらももはや時代遅れになりつつあるということだが。だから彼女はシラクザーノでは一貫して旧時代の番人を演じていたのだ、かつては彼女が挑んだであろうその配役を。
「それを抜きにしても、今このタイミングしか無いというのはある。彼らとしては、穏健にドンが交代されたんじゃ口を挟む余地が無い。いくらウォラックが急進派とはいえ、就任後すぐに他のファミリーに喧嘩を売るようなことはしないだろうし……それでは遅すぎるのさ。今ヌオバ・ウォルシーニという新しい利権を巡ってシラクーザ中のファミリーが注目しているこの瞬間でなければ、彼らの目論む大抗争は起こせない」
「だからロッサティが動かざるを得ないようにドンを殺したがってるってわけか。ならそれでいいと思うが」
「彼らからすればね。だがオレとしてはそいつは頂けない……何故なら、ロッサティのドンが存命の方が都合がいい」
そう言って、親友の生死すら利益でしか語れないオレにも嫌気がさすが。
利益、効率……カラチはファミリーを統御するためにこれを使ったし、レオントゥッツォもこれを学んだからこそ新しいやり方に気がつけたのだろうが。ただ、無機質に全てを評価するこの尺度と概念は、オレにとって少し気持ちの悪いものでもあった。
文明とはつまりそういうことだと、分かってはいるのだが……これなら旧弊なシラクーザの泥濘に嵌まったままでもいいんじゃないかと。
全くもってアルベルトのことを笑えない。むしろ一貫して旧時代を生きる彼よりも、どっちつかずのオレの方が碌でもないとすら言えるだろう。ただ自分が楽でいられる方が居心地がいいから、どちらも嫌いでどちらも好きだという、そういう二律背反だ。
そんな想いを込めた溜息を、だが呑み下して口を開く。
「先に言ったとおりロッサティの内部にドンに反発する向きがあるのは確かだが、同時に賛同するやつだっているからね。いわばロッサティは二つに分かれつつあるのさ、この局面に来て。だがドンの殺害が成功してしまえば、彼らは復讐の名の下に再び統合されてしまうだろう」
「それがどうしてあんたにとって問題なんだ?」
「分からないかい?オレは君たちみたいな、ファミリーに居場所のなくなった奴らを集めて部下にしているんだから……ロッサティにも、好き放題に分裂してもらった方が都合がいい」
「火事場泥棒かよ……」
「今更だよ、むしろ褒め言葉みたいなものさ」
呆れたように言うカポネに、逆に嗤笑をくれてやる。
あるいはそれは、オレがオレに向けた嘲弄だったのかもしれないが。
「それに……シラクーザ開闢以来の大舞台なんだ、演者は多ければ多いほどにいいだろう?分かたれ混沌として、誰にも制御の出来ないほどに」