けれど雨は止むことなく   作:無明の旅路を照らす知識の灯火

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SR-31 決別

 

「──」

 

 満身創痍の朦朧とする意識の中で、それでもケルシーとアスカロンの鋭い視線を一身に受けていることを確認して、思わず安堵のあまりに息を吐く。

 

 自分の足だけで立っているのも辛いからコンソールについた手を支えにしていたのだが、それも関節から力が抜けて頽れてしまいそうだ。

 安堵からくる脱力以前にそもそも、右腕だけで体重を支えるというのも無理筋だったのだろうが。

 というのも、オレの心臓より僅かに左側を抉るように持っていったアスカロンの一撃は、肩の周りの肉を破壊し尽くしていたから、左腕は動かそうと思ってもピクリとも反応しない。つまりは完全に無用の重しと化してしまっているわけで。

 まあ、だからといって自分から切り捨てるほど覚悟が決まってはいないというか、そういう優柔不断な性分でもあるわけだが。

 

 不要だ、見苦しい、捨てるべきだ消すべきだとは分かっていても、自分でそうするのは怖くて見苦しいから。

 だから、オレではない別の誰かがそれを成してくれることを願って後を託す。

 それは、だらりとぶら下がる左腕に始まって、シラクーザでのファミリーの問題や感染者問題に至るまで、何もかも悉くがそうだ。

 他力本願で、責任も義務も何もかもを放棄した思考だろう。オレもそれは分かっているし、だからこそ自分のことがこの世界では有害だとも思うけれど。

 同時に、そんなオレを消すために自裁することも怖くてできやしない……そういう見苦しい存在なのだ、オレは。

 

 そしてそんなオレにとって、今のケルシー達は紛う事なき救世主だ。

 それはあなたを裁く救世主であり、奈落へ落とす執行者です──どこかで耳にしたフレーズだが、まさしくそれだ。待ち望んでいた終末だと言っていい。

 本来ならミズ・シチリア辺りがこの配役に収まっていたような気もするが、今回はそれを譲ったということだろうか。

 まあ、別に誰だって変わりはしないというのは正しい事実ではあるのだが、個人的にはケルシー達の方がいいな。欲を言えばチェリーニアとかラップランドであってほしかったが、まあ高望みというものだろうし。

 

「うぐ……こんな劣勢では様になりませんが、一応はそれらしく脅迫でもしておきましょうか。ヌオバ・ウォルシーニがウォルシーニ旧市街に激突するまで、猶予はおよそ二時間ほど。ただし減速から停止に至るまでの時間を勘案するなら、阻止限界までは……まあ、一時間と少し。それまでの間に、オレが掌握した新市街の制御権を奪還する必要がある」

「……お前を殺して、その鍵を奪えばいいだけの話だろう。至極容易いことだ」

「まさか。物理キーだけで都市を制御できるはずがないでしょう?認証コードを入力しなければ移動都市の停止は不可能ですし……ッ、それを知るのはオレだけ。さっき書き換えさせてもらったのでね……」

「君にそれが可能であるのかは疑わしいな。移動都市の制御システムはその規模に相応の複雑さを伴わざるを得ず、使用するにあたっても高度な専門性を必要とすることが多い。特に認証に関わるセキュリティ面においては、余人が手を出すことのできないように設計されている筈だ」

 

 理詰めで問い詰めてくるケルシーだが、口調の割に断定を避けているのは……まあ、万が一にもオレの言うことが本当だった場合、それを無視すれば洒落にならない被害が出るからだろうが。

 認証コード自体は前からあったセキュリティなので、エンジニアの奴らに聞けば判明するだろう。というかベルナルドはそうして知っていたのだし。

 だがそこから変わっていないと断定して、彼らに尋ねればそれで万事解決と思い込んでしまえば、もしオレがコードを変更していた場合に詰みに持っていかれるわけで。

 なのでケルシーとしても、可能性を排除することはできないのだろう。

 

 でもって、実際にオレはコードを変更していたのでその想定は正しいし。

 どうしてオレがそんなことを出来たのかというと、ちょっとロッサティの技術者に頼んでそこら辺の技術とかシステムとかを教えてもらったからだ。

 ロッサティはクルビアから移動都市建造技術を持ち込んだ張本人だけあってか、ファミリーとしては珍しく技術畑の人間を少なくない数抱えていたので、実際に制御システムに携わった奴も居たわけだ。そいつにコンタクトを取るのも、オレがジョヴァンナの所にお邪魔していた理由の一つでもある。

 ……まあ、当時はこんなことをする羽目になるとは思いもしていなかったので、セキュリティ関係はあんまり教えてもらってなかった。

 つまり付け焼き刃だったわけだが、上手くいったから何でもいいだろう。

 

「まあ、そうお考えならそれでもいいですが。いずれにせよ、ヌオバ・ウォルシーニを止めるのはオレの持つキーとコードが無ければ不可能ということです。チェルノボーグの時のように、動力機関を停止させるような猶予は無いでしょう?」

 

 何せヌオバ・ウォルシーニがいくら最新の移動都市だとは言っても、所詮はテラにおける通常の技術を利用して建造されているので。

 チェルノボーグの石棺のような、旧人類の魔法じみた技術なんて全く使われていないわけで……動力機関も、言ってしまえば原始的な源石(オリジニウム)エンジンでしかない。

 でもってこの源石エンジン、エンジンという響きとは裏腹に、前世で一般的だった内燃機関の類では全くない。少なくとも、移動都市の動力に使われるような大規模な奴はそうだ。

 だって、源石を利用して物理的な運動エネルギーを取り出してどうこう、なんて余りに非効率的だから。移動都市を支える履帯なり車輪なりの数は膨大で、最初から運動エネルギーとして取り出していてはその伝達の過程でのロスがとんでもない量になるのは想像に難くないだろう。

 

 ならどうやって動作しているのかというと、源石を活性化させて、そこから熱なり電気なりのエネルギーを取り出すという形になるわけで。

 それ自体はまあ問題ないのだが、活性源石はいわば不安定な状態にあるわけで……一度活性化すると、それを安定させて反応を停止させるまでにかなりの手間と時間がかかる。核分裂炉が、制御棒で停止した後もしばらく熱を発し続けるのと同じような感じだ。

 なので、源石エンジンの停止と一口に言っても、そう簡単なことではない。少なくとも今からケルシー達が動いてどうにかなる問題ではない。

 

 それを当然ながらあちらも分かっている訳で、だからこそこうしてオレの話を聞いてくれているのだろう。

 少なくとも、速戦即決で殺すのは得策でないと判断したから。

 

「……何?分かった。装備を回収したらこちらに合流しろ。今は人手が欲しい」

 

 通信機から何事かを聞いたアスカロンが、ケルシーに耳打ちして……何を言ったのか気になるが、出血のせいか聴覚がいつもより調子が悪い。

 大事そうなのは見て分かるが、一体何だ?

 

 あと、アスカロン以外にも誰か人員がいるんだな。そりゃレッドを迎えに来たのだから、今ここにいるアスカロンだけな訳もないか。

 同じくS.W.E.E.P.所属だとすると、スカベンジャー辺りだろうか。

 あるいはマンティコアだと、似たようなアーツを持っているので相性が良いのか悪いのかよく分からんことになりそうだが……あっちは、アーツ適性が高いと気配自体は察知されるらしいので、その辺の心配が無いオレの方が若干有利か?逆にアーツ適性に関係なく見破られることもあるが。

 

「拷問なり尋問で、聞き出せると思われているのなら心外ですが。曲がりなりにもファミリーの掃除屋をやらせてもらっていますのでね、そういうのには慣れていますし……まあ、される側よりする側が多かったですけれども」

「だが、結局のところ君の計画は我々が移動都市の制御システムに掛けられたプロテクトを突破できないという前提のもとに成り立っている。そしてそれは、困難であるかもしれないが、絶対に不可能という訳ではない……無論、君が我々を妨害するというのならば話は別だが」

「流石にこの状況で、あなた方を足止めできると考えるほど自惚れていませんよ。そも万全の状態でも不可能でしょうしね、そんなこと。ナハツェーラーの戦神の孫弟子だけでも荷が重いのに、その怪物を従えたケルシー女史まで相手にするなんて悪夢でしか無いでしょうに」

 

 白兵戦闘力だとアスカロンが頭抜けて高いが、ケルシーの従える化け物──Mon3trも、普通に脅威だ。というかそちらの方が脅威度が高いだろう。

 今も咆哮を上げてこちらを威嚇してきているが、何か自我があるのはおかしくないか?そんなもん脊髄に飼うとかケルシーが怖い、色んな意味で。

 そういう疑問とかを置いても、ゲームで言うところの確定ダメージを与えてくるスキルが現実でどんなもんなのか未知数なので、警戒せざるを得ない。何となく、回避とか出来なさそうな感じはするが……。

 

 Mon3trの低い唸り声をバックノイズに、オレも通信機から聞こえてくる報告に耳を傾ける。

 何やら騒がしいが、概ね順調に進んだようで──

 

「まあ、オレ一人では不可能ではありますが……ゲホッ……その辺りは、オレらしく他に頼るとさせてもらいましょう」

 

 オレが言い終るか否か、というタイミングで司令塔の管制室の扉が開け放たれて、どっと人が流れ込んでくる。

 揃いも揃ってスーツを着込んでいるあたりから察することができるかもしれないが、シラクーザマフィアどもだ。ベッローネとロッサティはこの第二中枢区画の争奪戦から降りたが、逆に言えばそれ以外のファミリーはまだまだここを狙っているわけで、それがようやく到着したというわけ。

 まあ実際には、さっきまでの邪魔にならないように調整していた訳ではあるが、今はむしろ横槍を入れて欲しいタイミングなので。

 

 大きいところだとサルッツォで見知った顔が何人か居るし、それ以外のファミリーもあれやそれや入り混じっての大乱闘だ。

 オレは認識阻害のアーツを使いつつ隠密しているので、あまり狙われることはないが……まあちょくちょく攻撃されはするので、何とか防御しているけれども。

 対してケルシーとアスカロンは、ファミリーどもに寄ってたかって攻撃されている感じだ。どうも認識阻害自体は効いてないっぽいが、単純にファミリーどもが肉の壁になってこちらに手を出しづらいようで、オレとしても有難い。

 

 そうして生まれた若干の膠着状態の中で、オレの事を捕捉してアーツで治療をかけてきたのは、ボルティニアか。いやはや全く、頼りになる部下を持てて嬉しいね……オレには勿体無いくらいだ。

 

「お疲れ様、ファミリーの誘導ありがとう。最高のタイミングだったよ……うぐっ……」

「いいから安静にしててください!その傷で生きてるのが奇跡みたいなもんなんですから!」

「ッハハ、斬首されかけたんだから当然だがね。ああ治療が難しいのは放置でいいよ、あいつら程度じゃ大した時間も稼げないだろうし」

「ボスをそれだけ圧倒できる相手なら、そうでしょうが……ああくそ、親父の言う通りに医療アーツをしっかり学んでおけばよかった……!」

 

 少し焦燥した感じのボルティニアを宥めつつ。

 本人は卑下しているが、普通に医者としてもやっていけるんじゃないかと思うくらいには練度の高い医療アーツだ。まあ、このシラクーザではそんな進路は叶わないが。

 

「ま、大きな傷は応急処置くらいはできたかな。左腕はまだ使い物にならないけど、出血がおさまっただけ有難いし……というか首の傷がまさか治療できるとはね」

「傷口があまりにも綺麗だったんで。血管とかも駄目になってなかったので、そのまま結合しましたが。所詮は急場凌ぎです、長くは持ちません」

「十二分だとも、これでアーツを使わなくても延命できるんだし……ああそれで、感染者達の方はどうなった?」 

「……順調です。ボスのご指示通りに、有る事無い事流布させて煽動しましたが」

 

 そこで僅かに言葉を区切り、ボルティニアは息を吐く。

 嘆息ともつかないそれに乗せられていたのは、良心の呵責とかそういうものだったのだろうか。あるいは自身の行動に対する、どうしても捨てきれない疑念とか逡巡とか。名残惜しさ、と言ってもいい。

 

「……本当に、これで良いんですか?これまで何年もかけて築き上げてきた感染者達との関係を、こうも……」

「自分からぶち壊してるって?まあ、それもオレらしいだろうしね、矛盾しててさ。……それで、それなら結構!お前はここで戻るといい、正直あれら相手で守れる気がしないし……こんなところで死にたくないだろう?」

「それは、いえ、はい──ありがとうございました」

 

 こちらこそ、だなんて返して、去っていくボルティニアを見送る。

 オレの我儘で、オレの後始末を全部押し付けたのに……ああも実直にいてくれるのは、本当にオレには過ぎた奴だったが。

 まあ、感謝してもしきれんだろう。向こうがそれを望んでいるかは知らないけれども。

 

「はあ……」

 

 ちょうどファミリーを片付けたらしいケルシーとアスカロンに相対して、オレも深く息を吐いた。

 ボルティニアのおかげで大分楽になったから、意識も明瞭だし──改めて、覚悟なんてのも、らしくはないが出来ただろう。

 

「罔両が、影に問う──」

 

 アーツを限界まで励起させる。

 先程までよりも更に深く、遠く。

 誰もオレのことを認識できないように。

 アスカロンもケルシーも、あるいはオレですら、オレのことを知覚できないように──




こ、公式の怒涛の供給に溺れる……!
イベント前のこの盛り上がっていく雰囲気は堪りませんね。

あと、主人公がもしボスユニットとして登場したら、というのを考えてみたので下に載せておきます。
特定の場面・特定の戦闘における主人公というより、主人公全体をボス化したような性能なので、若干ストーリーとは噛み合わないかもしれません。
ついでに今後のネタバレが含まれる、かも。

「秘牙」シルウィア
 
 攻撃方法:遠距離 物理
 重量:6
 HP:C+
 攻撃力:B
 防御力:C
 術耐性:C
 移動速度:S
 攻撃速度:A
 元素耐性:E
 損傷耐性:E
 耐久値減少量:2
 種別:ボス
 睡眠、凍結、戦慄無効
 
 詳細説明文:
 シルウィア・アクエドリア、ウォルシーニにおけるレッドの一件でロドスに接触してきたシラクーザの掃除屋。
 ファミリーと市民、非感染者と感染者。対立するそれら全てに助力し裏切り、今回のシラクーザの混乱を生み出した張本人である。
 その相矛盾する行動は、感染者のみならずシラクーザ全体を破滅に陥れるもの。
 座して看過することは決して許されない。
 
・「血債」の自然増減条件を以下に変更する。
 増加:ステージ上の敵ユニットの数に応じて毎秒増加、味方ユニットが撤退する度に増加
 減少:ステージ上の味方ユニットの数に応じて毎秒減少、敵ユニットを撃破する度に減少
・【相矛盾】(パッシブ):「血債」が低いほど物理・術の被ダメージが減少し、「血債」が高いほど与ダメージが増加する。
・「粛清の時」中、【秘牙】が無効化され、攻撃力が大幅に増加するが移動速度・攻撃速度が大幅に減少する。
×【秘牙】(パッシブ):ステルス、ブロック不可、味方ユニットに狙われにくくなる。この能力の無効化状態が一定時間継続するか体力を一定割合失うと、全ての状態異常を回復し【罔両】を発動する。
・【すり抜け】(自動回復):ブロックされた時、ブロック相手をすり抜け、【罔両】を発動する。
・【罔両】:周囲の味方ユニット全てに一定時間攻撃行動を行えない状態を付与し、SPを減少させる。SP減少量に応じて、自身のSPと「血債」を増加させる。
 
 第一形態
・恐怖無効
・通常攻撃時、「血債」を増加させる。
・【三扇才】(自動回復):ランダムなユニットを召喚する。発動する度に、ユニットの種類が感染者系→市民系→マフィア系の順番を繰り返して変化する。
・体力が0になった時、???
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