けれど雨は止むことなく   作:無明の旅路を照らす知識の灯火

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SR-34 オオカミの力

 

「な、ラップランドお嬢さん……!」

 

 死に際にただ驚愕の念を浮かべ、オレの眼前のマフィアが一撃で膾斬りになって崩れ落ちる。

 オレが近くにいたばっかりにとんだ不幸だろうが、まあ、そもそも人生なんてものは理不尽なわけで。好きに生き、好きに死ぬ……それができる奴なんて、一握りの強者だけだ。あるいは強くあればある程にくだらない柵も増えるから、そんなこと誰にもできないのかもしれないが。

 オレとしては生き方はともかくとして死に方くらいは好きにしたいと思うけれども、その辺はどうなることやら……

 

 哀れなループスが倒れ込んだ、その血飛沫の雨の向こう側に見えた人影に思わず嘆息を溢したくなるが。オレの身体はそれに反して、どうやら笑っているようで。

 絶体絶命にまで追い込まれると思わず笑うしかないというのはよく聞く話だが、オレにもそういう感性があったりしたのだろうか?

 まあ、事実この状況は限りなくオレにとって窮地であることに違いはない。ケルシーとアスカロンを相手にするだけでも、阻止限界まで持ち堪えられるかは怪しかったというのに……はあ。

 

「ッハハ、いいねシルウィア!一体いつそんな力を手に入れたんだい?七年前に比べたらまるで別人みたいじゃない!」

 

 オレの物とはまた違った種類の笑い声と共に、ラップランドは剣を振りかぶる。

 オレとラップランドの間の距離は、目算で5メートルほど。いくらラップランドの得物が長目の刀とはいえ、攻撃の届かない間合いだ。

 そう考えていたが……オレの身体は自然と、あるいは勝手に動いていた。

 

「……!」

 

 狼魂──ラップランドのスキル2だが、そいつで飛ばされているようなエネルギー塊がオレに向けて殺到する。

 それを旋回させているナイフで相殺し、逸らし、それでもなおオレに向かってくるものを身を捩って避ける。

 僅かにコートの端を掠めたその攻撃が、けれどコートを引きちぎって襤褸布に変えているが……いやとんでもない威力だな?

 

 というかこのエネルギー塊、一体何なのやら。

 狼の魂、という名前だけあってオオカミみたいな見た目はしているのだが……だから何だ、というのはオレにも分からん。

 ラップランドはアークナイツのサービス開始から実装されていたオペレーターなわけだが、それに反してあのオオカミの正体について言及されていた部分も無かった気がするし。

 何となく、昇進2イラストの背後に描かれている感じのやつに近いのかとも思うが。

 

 まあ考えても仕方ないんだが。

 今重要なのはこれの正体よりも、どうやってこれに対処するかだ。幸いにして、対処が不可能なレベルではない……そう思えるなんて、随分とオレらしくないが。

 まあ、今になってはオレらしさなんぞどうでもいいか。

 

「昔っから気になってたんだけど、キミはこのシラクーザのこと、好きじゃないでしょ?煌びやかな都市のお祭りよりも、葡萄畑で未熟な果実の剪定をしてる方が楽しそうにしてたし、それよりも外の荒野を放浪するのが好きみたいでさ。昔はそれを押し殺してたみたいだけど」

 

 狼魂と共に突撃してきたラップランドの斬撃を、交差したナイフと直剣で辛うじて防いだ。

 刃と刃が火花を散らす──オレとラップランドはともすれば額がぶつかるんじゃないかと思うくらいに、顔を突き合わせて激突を繰り返している。

 その度にオレのナイフは欠け、折れ、砕けて減っていく。対してラップランドの刀は僅かな傷すらついていないし、あの狼魂を使うにも全く消耗していないようだから、ジリ貧もいいところだ。

 

 そんなだから、オレには何かを話す余裕すらないが。ラップランドはなおも愉しげにオレに向かって語りかけてきていて、それが……耳障りで、鬱陶しくて、たまらない。

 

「だからこんなことをしたのかなぁ、って思ってたんだ。キミが思いつく中で一番文明的じゃない方法で、シラクーザっていう文明をぶち壊してやろうって考えたのかなって。そういう意趣返しは、ボクも好きだしね」

 

 そんな高尚な考えが、オレにもあればよかったな。

 オレはそれを考えつくことは結局無くて、こうして行き当たりばったりでやってきた結果に偶然こうなったというだけだ。

 シラクーザを破壊するというのも、それができそうだから色々と後付けで嘯きながらやっているというだけで。

 

 全くもって情けないし、それはラップランドにも見抜かれているようだった。

 

「でも……どうやら違うみたいだね?キミは結局、自分を誤魔化すのに慣れすぎちゃったんだ。シラクーザで生きるために被ってた仮面が、肌に張り付いて剥がせなくなっちゃって……アッハ、こんな愉快なことってあるかい?」

 

 なら、それは表皮と変わりないだろう。その何が悪いというんだ?

 

 そう心の中で返して、ラップランドのことを蹴り飛ばした。

 オレ自身が驚くほどに鋭く重く繰り出された蹴撃は、ラップランドのことを後退させて距離を開けた。ちょうど狼魂も展開されていないから、ラップランドがオレのことを攻撃する手段は無い。

 

 その隙に、もう一度認識阻害のアーツを発動するために深く息を吸い込んで、咆哮を──

 

「……!?」

 

 突然に降り注いだ剣雨に身体を切り裂かれて、彫像みたいに硬直する。

 

「ナイスタイミングだね、テキサス!まるでボクが何をしたいか分かってたみたいだ」

「お前の動きは、これまでに嫌というほど目にしてきたからな。むしろ不安なのはお前ではなかったが……ああも変わるものか」

「あれは借り物の爪と牙だけど、だからって本物よりも弱いなんてことはないでしょ?」

「……まあいい、合わせろ」

「了ー解、こうして肩を並べるなんていつぶりかな?ロドスでもドクターは滅多にキミと同じ部隊に編成してくれなかったし」

「万が一があれば被害を受けるのはあちらだからな。仕方のないことだろう……今回は、何があろうと私達に返ってくるだけだ」

 

 その言葉と共に剣雨と狼魂、それらが波濤のように押し寄せて、捌ききれずに被弾が重なる。

 もとより満身創痍だったのを、ボルティニアの医療アーツのおかげで誤魔化して戦っていたようなものだ。たった数回の被弾ですら視界が揺れて白く染まり、意識が朦朧と飛びそうになる。

 それを何とか抑えて、身体から力が抜けるのを堪えるが……チェリーニアとラップランドを相手取って、こんな状態で長く保つ訳もなく。

 

 お返しとばかりにラップランドに蹴り飛ばされて、司令塔の壁面に身体をぶつける。

 半ば体重を壁に預けるようにしてでも、立ちあがろうとするが……その時には、既にチェリーニアはオレの眼前に立っていた。

 

「シルウィア……お前は、私のことを羨ましがっていたな。七年前のあの日に、シラクーザから逃げ出した私のことを」

「それはボクも同じだけどね。だってまさか、何もかもを捨てて一人去っていくなんてさ!」

「ラップランドと違って、お前は私をシラクーザに引き戻そうとはしなかったが……それは、こうすることを決めていたからか」

 

 それは違う。

 チェリーニアのことをシラクーザに引き摺り込もうとしなかったのは、そうでなければオレが報われないからだ。

 チェリーニアですら、シラクーザから逃げられないというのなら……どうしてオレがそこから逃げられる?

 オレが希望を抱くためには、チェリーニアにはシラクーザから逃げてもらわなければ駄目なのだ。

 単に、そういうだけのくだらない理由でしかない。

 

「これはお前なりの逃避なのか?非道と自己犠牲を装って、それだけでシラクーザから逃げられると考えているのか?」

「ん、自己犠牲って?」

「お前は自分の行動を、わざとチェルノボーグでの一件に重ねているだろう。そうして自分を感染者を利用する黒幕に仕立て上げて、悪人として断罪されるのを待っている……チェルノボーグ事変はロドスの介入で幕を下ろした。それ以来、ロドスは感染者問題に対処する組織として名を上げることになったが。そのロドスを引き出して、自分の引き起こした問題を対処させようとしている」

「ああ!なるほどね、今回の件でロドスが派遣したのはケルシー先生とS.W.E.E.P.だけだけど……もしかしたらボク達もロドスのメンバーとして見られるかもしれないし、そうでなくてもロドスが介入したっていう事実は変わらないわけだ……ハハッ、よく考えたじゃない!」

 

 ロドスは、チェルノボーグ事変を解決した「英雄」だ。

 そして、そのチェルノボーグ事変と酷似した──まあ実態はてんで違う張りぼてだが──事件がシラクーザで起き、それをロドスが解決する。

 そうなれば、人々はロドスのことを強く意識することになる。一度なら偶然の産物だったかもしれないが、二度もあれば必然だからだ。

 

 そうしてロドスに対する英雄的なイメージをシラクーザ人の間で植え付けて。

 その上で、ロドスのスリートップの一人であるケルシーがここウォルシーニを訪れ、自ら事件の首謀者であるオレを討ち取ったということも流布させる。

 そうなれば、ロドスがシラクーザへの介入を行なったという事実は否定のしようがないものになる。

 いくらロドスがシラクーザとの関係を持ちたがらないと言っても、事実としてケルシーはシラクーザに来ているのだ。だというのに、無関係を装うというのは無理筋というものだ。

 

 そして。

 そうである以上、人々はロドスがシラクーザでの活動を拡大することを期待するだろう。スリートップの一人が訪れて、それで何もないなどというのは誰も信じない……たとえ事実そうだったとしても、人は信じたいものを信じるのだから。

 あるいは期待ではなく、懸念を抱く者も少なくないだろう。むしろファミリー達はそちらで、自分たちの利権が脅かされるのを嫌ってロドスに攻撃を仕掛けるかもしれない。

 だがいずれにせよ、そうして生み出された「ロドス」のイメージは、きっと本物のロドスを動かすに足るだけの力を獲得する筈だ。

 

 とんでもなく楽観的な考え方だが……そうでもしなければ、意味が無い。

 

「自分を悪役にして、それを私達に殺させることで……シラクーザにおける感染者問題、それをロドスが対処せざるを得ない状況を作り出す。それ自体は私が口を挟むものではないだろうが……その自己犠牲と露悪は、結局のところ現実からの逃避だな」 

「……あるいはそれは、怠惰とすら言っていいだろう」

 

 一瞬の静寂と、重く低い唸り声のようなものが聞こえた直後。

 

「がっ──」

 

 赤黒いオーラを纏ったMon3tr。

 その重撃が、防御のために咄嗟に構えた直剣ごとオレを切り裂いた。

 

 




戦闘シーンで会話させるのが難しすぎて、途轍もなく変な感じになってしまいました。
これを違和感なく書ける方は凄いですね……。
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