けれど雨は止むことなく   作:無明の旅路を照らす知識の灯火

4 / 52
SR-3 再会、二人目

 

「シルウィアさん……あんたが色々と掻き回してくれたおかげで、俺たちの計画は滅茶苦茶だよ」

 

 赤髪のループス、ディミトリ・チェルタルド。シラクザーノではベルナルドに踊らされ裏切られ、最後にはレオントゥッツォとも決別する結末を迎えた、まあ損な役回りを演じたやつだ。

 ベッローネファミリーの他の面々が何かしらの形でシラクーザを変えようとしていたのに対し、こいつだけは旧来のシラクーザから逃れられなかったがための結果だ……いやツートップとラヴィニアがおかしいだけで、描写されていない大半はむしろディミトリ側なのだろうが。

 そういうわけでオレからしてもちょっとばかり親近感のあるわけだが、そいつは今オレの目の前で額に手を当てて嘆息している。まあそうなるのも当然というか、オレに命じた建設部の事務員の殺害は失敗し、そのオレの口封じも当然失敗、しかもそのために動かした新しい駒であるカポネとガンビーノもオレが取っていった……となればオレに文句の一つや二つ言いたくなるだろう。

 彼のボスであるドン・ベルナルドとオレが親しいばっかりにオレをそう簡単に害するのもできないから、こうして対面で抗議しているわけだ。

 

「木端役人の暗殺失敗は、まあ申し訳ないと思うが。それ以外に関してはオレがどうこうという話じゃないだろうに……あんなちゃちな脅しをかけずとも、沈黙の掟(オメルタ)くらい守るともさ。五年以上そうしてやってきたんだから分かってほしいものだ」

「確かにあんたは暗殺者としてどのファミリーからの仕事も請け負ってきたし、その中身を一切漏らさなかったさ。このシラクーザで、そういう独特な立ち位置にいるのも分かっている。だがドンとことさら懇意にしているというなら、今が俺たちベッローネにとって大切な時期だということも分かるだろう」

「だから……オレは少なくともこの一件の片付くまで、君たちの仕事を請けるようにしているじゃないか。そういう約束だからね、ドン・ベルナルドとの」

 

 オレはそもそもとして、どこのファミリーにも実質的に属さない蝙蝠のような身分にある。シラクーザでそんなことが可能なのかと言われれば基本は無理だが、オレはここでも運がよかった。

 どのファミリーからの仕事も請け負い、どのファミリーのメンバーも殺す。そういうのは普通なら扱いづらくて始末されるのがオチだが、オレはそういうのを退けられるくらいには強く、またそれぞれのファミリーにとって看過しがたい一線は超えないように立ち回ってきた。そうやってなあなあのままに仕事をこなし続け、既成事実を積み重ね、「最重要の仕事こそ任せられないが、それ以下の雑事ならうまく処理してくれる便利屋」という地位を獲得したのだ。

 ついでにオレが決して仕事の内容を口外しない、口の固いやつだということも段々と知れていったことも多少はその助けになっていただろう。

 オレとしてもファミリーにとっての本当の機密にあたるような仕事、つまりはドンの暗殺とかは荷が重いのでそういうのが丁度いい塩梅だった。そういうのはどこからともなく漏れるものだし、第一にドンの地位にあるやつは大体が馬鹿みたいに強い。アルベルトなんか、ラップランドを普通に殺せるとかどういう実力してるんだか分からん。

 

 そんなわけで今回の件も、オレに回ってきたいわば雑事だった。建設部の事務員を殺して、ベッローネが優位に立ちつつあるヌオバ・ウォルシーニ建設へ一石を投じる。と見せかけて、実はベッローネもといベルナルドの自作自演で、弱体化を装って他ファミリーを調子づかせ、ファミリー間の抗争を引き起こすための起爆剤なのだが。

 まあ殺せはしなかったが、襲撃を受けたというだけでベッローネの名前には傷がつく。そう考えれば目的自体は達成されていると言えるだろうし、だからこそオレに差し向けられたのもカポネとガンビーノだけだったのだろう。失敗への叱責と口外の禁止、改めてそうしたことをオレに伝えるためだけの。

 それに……

 

「次の、カラチの方はしくじらないさ。そちらが重要なのはオレだって重々分かっているからな」

「だったらいいんだが……」

 

 カポネとガンビーノを引き抜いた分の穴は、オレが埋め合わせることになるのだからまあいいだろう。

 先の建設部の事務員のような下っ端ではなく、建設部のトップにあたる人物の暗殺。これもまたベルナルドによる肉斬骨断の一手な訳だが、その影響は段違いに大きい。このカラチという男、一応は立場的に中立でどのファミリーにも属していないのだが、秘書にベルナルドの息子であるレオントゥッツォを置いていたりと、ベッローネに近しい人物と見なされている。このシラクーザで最も強力だとみなされているファミリーなのだから然もありなんというところだ。

 今更カラチ一人が死んだところで移動都市建設が止まるわけはないが、その主が誰になるのかを決めるくだらない争いには波紋を浮かべることになるだろう。そうでなければ困る。

 

「とはいえ……まさかテキサスファミリーの遺児を若旦那の護衛に持ち出してくるとはオレにも予想外だったが」

 

 白々しくそう言う。実際はチェリーニアがベルナルドあるいはザーロとの契約を果たすために龍門からシラクーザに戻ってくることなんかとうの昔に知っていたわけだが、しがない暗殺者であるオレはそんなこと知るはずがないので。

 しかもチェリーニアはレオントゥッツォの護衛であり、そしてレオントゥッツォは先述のとおりカラチの秘書だ。つまりチェリーニアがカラチの護衛を担当することになるわけで、それも知っていたとはいえ文句の一つ二つは言いたくなる。

 

「ドン・ベルナルドの差配にケチをつけるつもりはないが、もう少し気楽にこなせる仕事の方がオレ好みではあるな」

 

 ま、何を言おうが喚こうが、カラチはきっちりと殺すんだが。

 

 

 ◇

 

 

 場面は変わって、ベッローネの主催するパーティー……いわばチェリーニアのお披露目な訳だが、そこにちょいとお邪魔しているのがオレだ。

 暗殺者がなんでこうも簡単に潜り込めているのかというと、まさにパーティーの主であるベッローネこそが暗殺の依頼主だからだ。多分原作でも、こんな感じで内側から色々と仕掛けられていたんだろうな……カラチの奴は、それを知っていたんだろうか。

 このマフィア蔓延るシラクーザに憤り、それに抗おうとした無名の英雄。最期はファミリーの都合で爆殺された彼が、どこまで知っていて何を思ったのかはシラクザーノではまったく描写されていなかった。その想いはルビオ、そしてレオントゥッツォへと受け継がれていったが、彼はそれを知ることなく帰らぬ人となった。

 まったくもって尊敬すべき人物だろう。そしてそれを殺すオレは、掛け値なしのクズとしか言いようがない。

 だがシラクーザの大半はそんなクズどもの集まりなのだ。その泥沼に首まで浸かった奴が何を言おうとも、今更という話だが。

 

「ああ……やっぱり来たのか、ラップランドは。あいにくテキサスはまだ到着していないが」

 

 会場の片隅で、そこらの給仕から貰ってきたグラスを傾けながらあたりを見回していれば、見覚えのあるモノトーンの衣装が目に入った。あちらもオレに気づいたのか手を振ってきたので、空いている左手を軽くあげてそれに応じる。

 まあ今から暗殺しますっていう時に誰かと話し込むのもアレだし、向こうからしても余計な疑念を持たれるのも面倒ではあるだろうから、それきり互いに知らん振りをするが。

 炭酸の弾ける感覚を舌の上で転がして楽しんで時間を潰していれば、入り口の辺りからざわめきが伝わってくる。これは旧友のお出ましかな?

 

「……あの黒髪にオレンジ色の瞳、まさしくテキサスのそれだ!」

「では本当に、ベッローネがテキサスの末裔を抱え込んだと?今このタイミングでか……」

「ロッサティがいったいどう出るか見当もつかん。グレイホールの老ぼれたちが意を翻さないとも限らんぞ」

 

 ただそこにいるだけで周囲の目を惹き、支配する……シラクーザマフィアとしてはこれ以上ない、天性の素質だ。その持ち主がたとえシラクーザ人でも、クルビア人でもありたくないと願っていたとしても、周囲はそれを許さないだろう。

 だからこそ彼女は全てから目を背けて逃げ出したのだ、あの大火の下で。ラップランドやオレを置き去りにして。

 

「チェリーニアが来たということは……レオントゥッツォも居る、それであれがカラチか」

 

 パリッと糊のきいたスーツに身を包み、人当たりのいい笑みを浮かべては会う人会う人に挨拶をしている男。ファミリーのクズどもをそれでも「利益」という首輪でうまく飼い慣らす、そういう類の傑物だった。今もベッローネの傘下にある中小規模のファミリーの奴らに何かの利権をぶら下げては交渉でもしているのだろう。

 未来の利益のために現在の己を抑圧する。それはまさしく文明が育み築き上げた経済という概念の、骨子とも呼べる部分だ。マフィアとはつまるところ文明とは縁遠い、暴力の荒野にしか生きられない獣でしかないが……彼がいれば、いつかはファミリーがただのいち経済主体としてシラクーザの下に置かれる日も来たのかも知れない。

 

「ま、所詮はたらればの話なんだが」

 

 ひっそりと気配を消してカラチの方に近付く。まるでオレなんて存在していないかのように──あるいはオレが取るにも足らない誰かでしかないように。オレの方に注意を向けるやつは誰もいない。

 そういうアーツだ。ゲーム的に言えば、攻撃していない間ステルスとブロック不可を得るとかそういう感じの、オレにうってつけの。

 実はチェリーニア相手だと気取られる危険もあったのだが、どうやらラップランドが絡んで気を逸らしてくれているようだ。まあラップランドにはそのつもりもないだろうが。

 何も知らないベッローネの護衛たちをすり抜けてカラチの背後に立つ。オレの手には、どこで買ったのかも覚えていない数打ちのナイフが握られていて。

 

「……すまんな」

 

 一閃。それで首を掻き切った。

 血飛沫が勢いよく吹き上がり、赤いカーペットをさらに紅く染める。一瞬の静寂と、すぐさま戻ってきた喧騒がパーティー会場を埋め尽くした。

 後悔か怨嗟か、諦念か解放か。きっと理不尽にも踏み躙られたその思いが残った瞳を閉じさせてやって、床に横たわらせた。せめてどうか、死に目だけでも安らかに……そう思うが、それすらもこのシラクーザでは叶わない願いだ。人の死すらも、生きる誰かへの脅迫に使うようなそんな国家なのだ、ここは。

 

 ようやく下手人であるオレに気が付いたのか、パーティー参加者に紛れていたベッローネの下っ端どもがオレを取り囲むが。どいつもこいつも、威勢だけは結構な雑魚ばかりだ。

 突き出されるナイフをアーツを使ってコートの表面で止めて。ナイフを握るそいつの腕を持ってぶん回し、周囲の雑兵を吹き飛ばす。

 そっちに衆目の意識が向いた隙に、オレは再びアーツでステルスを獲得し──まだ動揺の抜けきっていないレオントゥッツォへと疾駆する。いわゆる高台先鋒であるレオントゥッツォは本人は決して肉弾戦を得手とするオペレーターではなく、銃型のアーツユニットを用いた遠距離戦がその本分だ。

 つまりステルスのオレとは相性が最悪なわけで。オレが振りかぶったナイフの柄がレオントゥッツォの頭に直撃しようとしたその瞬間に。

 

「今日は昔の知り合いによく会う日だ……こういう場で再会したくはなかったが」

「はは、シラクーザへようこそとでも言っておこうか。オレは君の来訪を歓迎するよ、チェリーニア・テキサス」

 

 チェリーニアの双剣がオレの手からナイフを弾き飛ばし、すんでのところでレオントゥッツォは難を逃れた。まあもとより本気で殺しにかかるつもりはなかったから構わないのだが、少しは痛い目は見てほしかったんだが。

 七年と少しぶりのチェリーニアに、オレとしても万感の思いがあるが……それを抑え込んで、オレは二本目のナイフを取り出す。正直な話、チェリーニア相手に勝つのは厳しい。とはいえここで素直に退くのもできないので、まあ。

 

「龍門の天気はどうだったか知らないが……シラクーザの長雨も、楽しんでいくといい」

 

 言い終わると同時にナイフをアーツを込めて高速で投げ放ちながら、オレはチェリーニアに吶喊した。

 




ディミトリ君、続編イベントにも出てくるんでしょうかね。
旧来のシラクーザから抜け出せなかったIFのレオンみたいな感じなので、もしレオンが出るなら登場を期待したいところ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。