けれど雨は止むことなく   作:無明の旅路を照らす知識の灯火

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本作品が日間ランキングの末尾に名を連ねていたようです、ありがとうございます。
これを機にアークナイツ、というかラップランドとテキサスの良さが広まってくれると嬉しい……


SR-5 弔鐘は雨に濡れる

 

「"お前は強く、だがそれはお前の力じゃない。お前は自由で、だが両足は彫像のように固まっている"〜♪」

 

 一日中降り続いてまだ止まない雨がオレのコートにうちつけ、表面を伝って靴を濡らすその天気の下で、オレは一人歌いながらくるくると踊っていた。

 傘もささず、濡れることも気にしていないオレは周囲から奇異の目で見られるのだろうが……そこはまあ、便利なアーツの出番だ。誰かが変なことをしているけど、まあ別にどうでもいいか──そういう印象しか持てないようにする。全くもってオレ向きのアーツだと言えるだろう。

 五年ほど前にちょっとしたことで手に入れたこのアーツ、認識阻害とかそういうものなのだろうが、本当に使い勝手がいい。こいつのおかげでオレは顔が知られているにも関わらず暗殺者なんていう仕事ができているのだから。もちろん戦闘においても普通に強力で、ちょっとでもオレから意識を外せばもうオレがどこにいるかが分からなくなる。というか分かってはいるのだが対処できない、という感じだろうか。

 ゲーム的に言えば、ステルス+ブロック不可+すり抜け+攻撃封印みたいなもんである。とんでもないクソエネミーだが、オレとしてはこういうアーツもなしに似たようなことをしているゴースト兵とかクラウンスレイヤー、デーゲンブレヒャーの方が恐ろしい。特に黒騎士殿は一切アーツ無しの純粋な技量でそれってどういうことだ。

 まあテラの上位層はマジで訳分からん実力の奴ばかりなので気にしていても仕方のないことではあるのだが、鉱石病(オリパシー)とか巨獣とかシーボーンとか獣主とか、いわゆる厄ネタに全く絡まずにあの実力なデーゲンブレヒャーは中でも個人的には尊敬したい。

 カジミエーシュはカジミエーシュで、シラクーザに負けず劣らず腐敗し切った国だし。テラに腐敗してない国の方が少ない?まあそれはそうだ。

 

 ともあれ、このアーツはオレをオレだと認識できなくするわけだが。それでも無条件で何でもかんでも隠蔽できるほどの万能ではなく、オレのことをオレだと判別しやすければしやすいほどに効果は弱まっていく。

 先程も最初はパーティー会場の誰からも注意を向けられなかったのに対して、一度カラチを殺して注目を浴びた後はアーツを使っても気付く奴はオレのことを目で追えはしていた。というかチェリーニアに至ってはオレを真っ向から認識して攻撃してきていたし。

 その後の激突……というか蹂躙でも、隙あらば注意を逸らそうとしていたのだが、ほとんど効果が無かった。普通なら一瞬気を逸らす程度はできるのだが……ああも効かないとは。一応チェリーニアはオレのこのアーツは初見のはずなんだが……。

 まあチェリーニアは外れ値だとして、一般人であっても切っ掛けさえあればオレのアーツを破ることはできる。例えばオレ、つまりシルウィアという人物がその時点でその場所にいるということを強く認識していて、かつその上でオレが普通であれば目立つようなことをしていればどうにか、というくらいだが。

 

「探しましたよシルウィアさん……ええ、本当に」

「"お前は抗いきれず、ただ落ちていく……"〜♪」

「……ボス?」

「ん……ああ、待たせてすまない。キリのいいところまで歌っておきたかったからな」

 

 そういうわけで、事前にオレから集合場所と時刻を伝えておいた奴なら、こうしてアーツを使っているオレを見つけることもできる。まあそれなりに苦労したようだが。

 呆れた感じで嘆息しているこのヴァルポの男──ボルティニアは、オレが独自に集めている配下の一人だ。そこそこ裕福な家庭に生まれたが、鉱石病に感染して半ば勘当される形で家から飛び出し、十把一絡げの弱小ファミリーに入って糊口を凌いでいたものの、結局は捨て駒にされてくたばる……というところでオレが助けてやったという経緯がある。

 もうそれなりに長い付き合いになるが、その分オレの扱いも割と雑だ……まあ部下の見ているところではしっかりしているのでオレとしては咎めることもないが。

 

「いい歌でしたよ、おかげでボスを見つけやすかった。聞いたことない感じでしたけど、それを今度ミラノ劇場で歌うんです?」

「いいや?ちょっとした……まあ、懐古みたいなものさ。というかオペラって曲調じゃないだろうに」

「その辺は無学なもんで。ボスも俺がそういうの苦手だって知ってるでしょう……」

「だから色々と手配しているんだがね。そういう趣味の一つや二つ嗜んでいるべきだよ、ファミリーで高い地位を得るならば──ましてベッローネやサルッツォに並び立とうというならば」

 

 何せベッローネのドン・ベルナルドは名高いデッラルバ劇団の芸術監督でもある。表の顔と言ってしまえばそれまでだが、少なくともそこで芸術に対して注がれた熱量もまた本物ではあると思うのだ。ソラの演技の練習に立ち会ったり、劇場のスタッフの名前をすべて記憶していたり。これらがパフォーマンスに過ぎないとしても、それが可能な時点で相応の熱量を捧げていると言っていい。

 サルッツォのドン・アルベルトの方はどうだったか覚えていないが、まさかその手のことに無頓着というわけではあるまい。ああもワンマン体制でファミリーを率いる以上、相応の格というものがなければやっていけないだろうし。

 まあベントネキシジオスあたりが聞けば「虚飾」とバッサリ切って捨てるかもしれないが、オレとしては虚飾でもいいと思う。少なくとも、そう取り繕うだけの余地があるということなのだから。

 

 あとサラッと言ったが、オレの部下たちには「新たなファミリーを立ち上げる」ということを伝えている。そういう分かりやすいお題目があった方が人も集まりやすいからだ。

 ベッローネとかに並ぶ、というのはまあ大言壮語みたいなものだが、こういうのは言ったもん勝ちな所がある。少なくとも弱気で現実的な目標しか掲げないよりは、こういうのもあった方がいい。

 まあ実際に人数の上ではそれなりにいるから、時期を見計らいつつ本気でそれを目指せば不可能ではないのかもしれないが。

 

「まあ、それはこの一件が終わってからにしよう。ボルトロッティはどうしてる?ディミトリがわざわざご指名してきたわけだが」

「もう向かってますよ。あいつなりにラヴィニア裁判官に思うところがあったんでしょうね、珍しく乗り気で出かけて行きました」

「ああ……そうだな。あいつの気持ちはオレにもよく分かる。渡りに船と思って飛びつくのも分からないではない……」

 

 しばらくの間、瞑目する。

 ボルトロッティ……本来なら根無しの殺し屋をやっていたはずのそいつは、オレの配下に組み込まれていた。これに関してはオレも会って名前を聞くまでは知らなかったし、何なら名前を聞いてからしばらくしてようやく原作での立ち位置を思い出したくらいだが。

 きっとボルトロッティは死ぬだろう。ラヴィニアの殺害があいつの仕事だが、ラップランドに唆されたチェリーニアがラヴィニアを守るために向かっている以上、あいつの勝つ目は無い。どころかディミトリたちに殺される可能性すらあるだろう。

 そうと分かっていて、オレはあいつへの依頼を通した。何となればラップランドにその情報を流してもいるのだから、あいつの死因はオレにあると言っていいだろう。

 その誹りから逃げるつもりはない。オレは掛け値なしにクズだし、あいつはオレの勝手に巻き込まれて死んだ被害者だろう。

 だからせめて、あいつが生まれ変わったらシラクーザに生まれないように……あるいは、テラに生まれないように。そういう願いを込めて、被っていた帽子を目元まで引き下げた。

 

「ボス?」

「死にゆくものに弔意を表していただけだ。シラクーザでは、人の死を悼むのも難しいからな」

「……ええ。ラヴィニア裁判官も、本当にいい人でしたから」

 

 オレの真似をして瞑目したボルティニアは、きっとボルトロッティの死なんて思いもしていないのだろう。だが、誰かを悼むということにおいてはオレと同じだった。

 感染者として、医療の未発達なシラクーザで虐げられてきた日々はきっとボルティニアから色々なものを奪い去って行ったのだろうが、その気持ちを失っていないというのは本当に得難いことだ。

 

 ……感染者。シラクザーノではあまり焦点が当てられなかったが。マフィアで腐り切ったシラクーザでも、鉱石病は容赦無く命を刈り取り続けている。

 ススーロのようにそれに立ち向かう医者がいないわけではないが、圧倒的にそれは足りていない。ファミリーどもは感染者を捨て駒にするのが常のようだが、それは「家族」を模した関係を紐帯とするファミリーにとっては致命的な行動だと言わざるを得ない。病気を患っただけで勘当してくるような家族など、そこに人が集まるわけがないのだから。

 それに気付けた時には、もう手遅れになっているだろうが。

 

 それに感染者問題といえば、我らがドクターを擁するロドス・アイランド製薬の出番なのだが、悲しいかなシラクーザにはロドスの支部はない。まあ国家としてはそれほど大きいわけではないし、何よりファミリーの排他的な姿勢はロドスの介入を躊躇わせるには十二分ということだろう。

 オレとしても元ドクター(プレイヤー)であるからには感染者問題は心苦しい限りだが、同時にオレ個人の力ではその解決には全く足りない。そもそもそこに割く余力など存在しない。これからも多分存在しないだろう。

 

 まったくもって、クソッタレな世界だ。外側から見る分には良かったが、こうして中で暮らしてみると本当にきつい。それは単純にファミリーだの鉱石病だのに苦しめられているというのもあるが、それ以上に己の無力を突きつけられるからだろう。

 チェリーニアやラップランドのような強者ならいざ知らず、オレではいささか以上に足りていないのだ、意志も力も何もかもが。

 それに打ちひしがれることすらもできないオレは、本当に碌でもないと思うが。

 

「……哀惜はこれまでにしておこう。こうしてわざわざお前を呼び立てた時点で察したかもしれないが、ボルトロッティの件は本題ではないからな」

「でしょうね。俺にまでこんな高級なスーツを着せて……一体誰と会うんです?」

「……ロッサティのドンだ。気を引き締めてくれよ、オレたちの今後を左右するかもしれないんだから」

 

 ジョヴァンナ・ロッサティ──原作ではともすればオレ以上にテキサスに執心していた彼女は、だが今のオレにとって得難い味方でもあった。




主人公が歌ってるのは「狼之主」。神曲です。
国外の楽曲扱いだと思うので、歌詞使用のガイドラインを読んでも引用の可否がよく分からない……。英語の歌詞の和訳も駄目ならカットします。

ボルトロッティは原作キャラです(名前は二回くらいしか出てきてないですが)。元裁判官だった殺し屋ですね。

で、名前も似ててややこしいですがボルティニアの方は本作のオリキャラです。部下が全員名無しだと流石に話を進めづらいのでやむなく投入。
境遇はキアーベ一味に似ているかも?
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