君と歩む冬の色 作:雪原
恐らく、細かい修正は後々入るかと思います
ダイレクトアタック、通称DA。
大正時代に活躍したとされる暗殺部隊、『彼岸花』。その名を受け継ぎ、現代へと続く影の組織。今、その司令室では数多の情報員がひたすらに、目の前の巨大なモニターを見つめていた。
分割された画面に映し出されているのは、二人の少女。
一人は、黄色がかった白髪の少女。可愛らしく、短いツインテールを揺らしながら、俊敏な動きで建物内を駆け抜ける。その表情には焦りも迷いもなく、ただ無邪気にさえ見える笑みが浮かんでいた。
錦木千束。
そして、もう一人。
静かに息を整え、スコープを覗く少女。
透き通るような白い肌に、白い髪。何処までも飲み込むかの様な濃く深い青の目は微動だにせず、冷静に標的を見据えている。
彼女が今スコープを覗いているのは、普段は前髪に隠された右目だった。
冬空雪菜。
彼女の右目は、左目の何処までも透き通るような綺麗な青色とは異なり、深く濃い青色をしている。スコープのレンズ越しに微かに差し込む街の光を受け、その瞳はほんの一瞬、紫色に輝いた。
この右目を通して見る景色は、左目とは違う。明暗のコントラストがはっきりとし、視界の奥行きがより明確になる。細やかな動き、わずかな空気の揺らぎまでも捉えることができる。
それが、雪菜の“視る力”だった。
彼女は数キロ離れたビルの屋上に身を潜め、千束の動きを見守る。スナイパーにとって、わずかでも感情に乱れが生じれば、その瞬間に精度が落ちる。雪菜は無心になり、ただ目の前の世界を見つめ続けた。
千束は電波塔内部を駆け上がり、雪菜は屋上から彼女の進行ルートを確保する。彼女たちの役割は明確だった。
千束が最前線で敵を翻弄し、雪菜がその背後から確実に援護する——二人の連携が、この作戦の鍵を握っていた。
DA司令官・楠木は、モニターを見つめながら、静かに息をついた。
「後は見守るしかないな」
彼女の横に立つ補佐官が、不安げな表情で小さく尋ねる。
「……大丈夫ですかね?」
楠木は一瞬だけ目を閉じ、それから、ふっと笑みを浮かべた。
「先に送った部隊は全て壊滅状態だ。もはや、現代最強と呼ばれているリコリス二人に任せる他ない」
彼女の言葉に、補佐官は黙ってモニターに目線を戻した。
画面の中で、千束は軽やかに走り、雪菜は冷静に狙いを定める。
こうして、テロリストによる電波塔制圧事件——後に『旧電波塔事件』と呼ばれる最大級の事件が、幕を開けた。
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電波塔の内部は、静寂と緊張が入り混じる異様な空間だった。
非常階段の踊り場に立つ少女——錦木千束は、手際よく装備を確認しながら息を整える。耳を澄ませば、微かに風の音が吹き抜ける以外、何も聞こえない。通常であれば人々の足音や機械の動作音が響いているはずの場所は、今や異様なまでに静まり返っていた。
「千束、状況は?」
インカム越しに届いたのは、雪菜の落ち着いた声。数キロ離れたビルの屋上から、彼女はスナイパーとして千束の動きをサポートしている。
「今、非常階段の四階。敵は三人いたけど、片付けたよ〜。次の階に行くね」
千束は軽やかに答えながら、階段を駆け上がる。彼女の動きには迷いがない。まるで遊びにでも来たかのような軽快さすら感じさせるが、その眼光は鋭く、完全に戦闘態勢に入っている。
五階へと足を踏み入れた途端、千束は一瞬立ち止まる。
——静かだ。
今までの階では、潜んでいたテロリストたちが物音を立てたり、かすかな気配があった。しかし、この階は異様なまでに静寂が支配している。
「ユキ、五階が妙に静かなんだけど」
「了解。スコープで確認するね」
数秒の沈黙の後、雪菜が報告する。
「……窓際に一人。動いてない。伏せて待ち構えてる可能性が高いよ」
「そっか、じゃあ——」
千束は言い終わる前に、すでに動き出していた。
彼女は足音を極力抑えながら、慎重に廊下を進む。壁際を伝い、物陰に身を潜めつつ、そっと覗き込むと——確かに、窓際に伏せる影が一つ。
千束は無音で距離を詰め、躊躇なく敵の首元を打つ。テロリストは何が起こったかも分からぬまま意識を失い、その場に倒れ込んだ。
「クリア。六階に進むね」
「了解。気をつけて」
雪菜の声は淡々としているが、千束にはその向こうに微かな緊張があることが分かった。
六階へと続く階段を駆け上がる。次の階は明らかに動きがある。開け放たれた扉の向こうから、小さく人の声が聞こえてきた。
「敵が二人、会話中。背後に回れる?」
雪菜の冷静な指示に、千束は口角を上げながら応じる。
「うん、回れるよ。ナイスアシスト、ユキ!」
六階の廊下に入り、音を立てずに敵の背後へと忍び寄る。テロリストたちはまったく千束の接近に気づいていない。
——一瞬。
千束の動きが閃光のように速くなる。
一人の敵の首筋を狙って、拳の一撃。続けざまに、もう一人の肩に銃口を突き立て、動きを封じる。
「制圧完了っと!」
「やっぱり凄いね、千束……」
インカム越しに、雪菜の小さな感嘆が聞こえた。
「えへへ、褒められた〜♪」
軽口を叩きながら、千束は次の階段へと向かう。
七階、八階、九階と、着実に進むたびに敵の配置が増えていく。しかし、雪菜の索敵と千束の迅速な戦闘のコンビネーションは完璧だった。
「千束、気をつけて。最上階の直前、十階には四人いる。一人は重火器持ち」
「おっけ〜、先にそっちを片付ければいいんだね」
十階に到達すると、千束はまず慎重に身を潜めた。
「ユキ、ちょっと援護お願いしてもいい?」
「了解」
雪菜はビルの屋上から微調整しながらスコープを覗いた。
右目が光を捉える。深い青が、レンズを通して紫に反射する。
スコープの中で、標的がわずかに身体の重心を変えた。その微細な動き——普通の人間なら見落とすほどの僅かなズレまで、雪菜の目は正確に捉えた。
——引き金を引く。
銃声は抑制され、音はほとんど鳴らなかった。しかし、弾丸は完璧な射線を描き、迷いなく標的へと吸い込まれていく。
まるで、引かれるように。
男は何の抵抗もできぬまま、その場に崩れ落ちた。
「……当たった」
囁くような雪菜の声が、僅かに遅れて千束のインカムに届く。
「ナイスショット!」
重火器を持っていたテロリストが膝をついたその瞬間、千束が残る三人へと飛び込む。
当然、テロリストの男達は千束に向かって銃口を向けるが、幾多もある射線をまるで初めから知っていたかのように避け続ける千束は、一人目の男の懐へと入り込み至近距離からの銃弾を一発。そして二人目、三人目。
ついに最上階へと続く扉の前に立った。
「ついに最上階……だね」
インカム越しに、雪菜の声が静かに響いた。
千束は深く息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。そして、軽く笑みを浮かべながら答えた。
「さて、ここからが本番だね!」
そう言いながら、千束は扉に手をかけた。
扉を開けると、目の前には五人のテロリスト。
一瞬の間もなく、彼らは反射的にトリガーを引いた。アサルトライフルの銃口が炎を噴き、数発の弾丸が千束を貫こうと一直線に飛んでくる。
「っとぉ、乱暴だなぁ!」
千束は素早く反応し、瞬時に横へ跳ぶ。床を蹴り、まるで風に舞うように流れる動きで弾道をすり抜ける。弾丸は彼女の髪をかすめ、壁に食い込んだ。
床を転がるように着地しながら、千束は即座に反撃に転じた。
まず一人、弾倉を交換するために隙を見せた敵の足を狙い、接近と同時に低い姿勢のまま蹴りを叩き込む。男のバランスが崩れた瞬間、手にしていたアサルトライフルが床に落ちた。
「おやすみ♪」
そのまま首筋へ掌底を叩き込み、一人を制圧。
残り四人。
敵の動きは鈍くない。千束の速さに対応するため、間隔を取りつつ包囲しようとしている。銃口が次々と千束へ向けられ、再び引き金が引かれる。
——それでも、千束には遅すぎた。
「はい、次!」
彼女は鋭くステップを踏み、弾丸の合間を縫うように進む。もう一人の敵の至近距離に入り、銃を構える腕を掴むと、勢いをつけて背後へ投げ飛ばした。男は無様に転がり、後頭部を床に強打して気絶。
「二人目、クリア〜」
残る三人。
そのうちの一人——目に包帯を巻いた緑髪の男が、包帯越しにじっと千束を見つめていた。彼は動くことなく、冷静に周囲へ指示を出す。
「煙幕を投げろ」
その言葉とともに、部下の一人が手榴弾サイズの煙幕弾を床に投げた。
ボンッと鈍い音が響き、白い煙が視界を埋め尽くす。
「——っ」
千束の視界が一瞬で真っ白に染まる。濃い煙が辺りを包み込み、輪郭すらも霞んでしまう。敵の気配も消え、今どこにいるのかもわからない。
足音すら聞こえない静寂。
千束は息を殺しながら、慎重に一歩ずつ後退する。敵もまた、煙が晴れるまで迂闊に動かないのかもしれない。
長いようで短い数秒——。
煙がゆっくりと薄れていく。
その時。
視界の先、ぼんやりと人影が浮かび上がる。
「——っ!」
煙幕が完全に晴れた瞬間、目の前にアサルトライフルを構えた男が姿を現した。
「しまった!」
男が引き金を引いた瞬間、千束は体をひねり、ギリギリで弾道から外れる。すぐさま距離を詰め、男の腕を掴むと、そのまま銃を強引に逸らしながら回し蹴りを放つ。
「はい、おしまい!」
男は弾かれたように吹き飛び、壁に叩きつけられて動かなくなった。
——だが。
「……一人足りない?」
千束は違和感に気付いた。煙幕が晴れた後、確かにもう一人いるはずの敵の姿がない。
その瞬間——
「千束、後ろ!」
インカム越しに雪菜の声が響いた。
直感的に振り向く。
だが、それでも間に合わなかった。
視界の端、敵の銃口が千束を捉え、トリガーが引かれる。
(——まずい)
銃声が響く。
千束は一瞬、覚悟した。
——だが、撃たれたのは敵だった。
男の体がゆっくりと崩れ落ちる。
「……え?」
千束の目が大きく見開かれる。
発砲したのは、雪菜だった。
しかし、それだけではない。
敵が放った弾丸は、本来なら千束の胸元を撃ち抜くはずだった。
——だが、空中で消えた。
「……相殺?」
千束の目の前で、雪菜の撃った一発目が、敵の弾丸と正確にぶつかり、相殺していた。
まるで、計算されたかのように。
いや、計算されたのだ。
雪菜の視界には、普通の人間では見えないものが見えている。
弾丸の速度、軌道、発射の瞬間の僅かな銃身のブレ——それらすべてを雪菜の目は捉え、完璧に導き出した。
——撃ち落とせる。
彼女はそう判断し、実行した。
そして、そのわずかな間に放たれた二発目。
敵が発砲する瞬間には、すでに着弾する計算で放たれた雪菜の狙撃弾。
寸分の狂いもなく、それは敵へと吸い込まれていった。
男は、なすすべもなく倒れた。
「……危なかったね、千束」
雪菜の静かな声が響く。
千束は息を整え、安堵しながら引き攣った笑みを浮かべる。
「は、はは……助かったよ、ユキ」
しかし、まだ終わりではない。
「……さて、最後の一人だね」
緑髪の男が、静かに銃を構える。
彼は数発、千束に向かって撃つが、千束はそれを軽やかにかわしながら、一歩——また一歩と距離を詰める。
男の眉が僅かに歪む。
「チッ……」
千束は一瞬の隙を突き、男の腹を足で蹴り飛ばす。
吹き飛ばされた男は床に転がり、息を切らす。
しかし、直ぐに起き上がり体制を整えようと考え、すぐに視線を上げる。
瞳に映るのは千束の銃口。
「終わりだね」
しかし、男は笑った。
「クソが……!」
彼は倒れたままスマホを取り出し、画面に表示されたボタンを押した。
その瞬間——
轟音とともに、電波塔が爆発した。
建物が崩れ、へし折れる。
「っ——!!」
爆風が千束を襲う。
視界が揺れ、崩落する鉄骨が落ちてくる。
インカム越しに、雪菜の声が響いた。
「千束!!!」
しかし、その声は爆音にかき消される。
電波塔は、その形を失いながら——ゆっくりと、崩壊していった。
———後に語られる『旧電波塔事件』は。
たった二人の、それも齢10にも満たない少女らによって数多の犠牲を伴いながらも終わりを迎えた。
電波塔事件って、原作でそこまで詳しく書かれてないから難しい。