君と歩む冬の色   作:雪原

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タイトル考えるの、難しいですね。


3人でリコリコの活動①

 リコリコの活動のため、私たち三人は外へ出かけた。

 

 最初の目的地は幼稚園。

 

 朝の空気はひんやりと澄んでいて、園庭には朝露の香りがわずかに漂っていた。門をくぐると、すぐに子どもたちの元気な声が迎えてくれる。

 

「せんせー! こっちきてー!」

 

 園児たちは私たちの周りをちょこまかと駆け回りながら、無邪気に手を振る。その光景に、自然と頬が緩む。

 千束はすでに園児たちの輪の中に入り、軽やかに鬼ごっこを楽しんでいた。彼女の明るい笑顔と俊敏な動きに、子どもたちは歓声を上げて追いかける。

 

 私はそんな千束を横目にしながら、小さな手に引かれ、砂場へと向かう。

 

「ねぇねぇ、おねえちゃん、一緒にお山作ろ!」

 

「うん、いいよ」

 

 しゃがみ込み、子どもたちと一緒に砂を積み上げる。

ふわふわとした小さな手が、一生懸命に砂を掴んでは落とし、また掴んでは形を整える。その光景が微笑ましく、私はゆっくりと手を添えて土台を固めた。

 

「大きくしようね」

 

「うん!」

 

 子どもたちは嬉しそうに頷き、さらに砂を重ねていく。

 

 ………こういう穏やかな時間って、いいな。こうしてると、私も普通の人みたいに思える。

 

 ふと視線を上げると、たきなさんが園児たちに囲まれていた。彼女の表情はどこかぎこちない。どう接していいのか分からないのか、真剣な顔で園児たちを見下ろしている。

 

「たきなおねえちゃん、肩車してー!」

 

「いや、私は……」

 

「わーい!」

 

 たきなさんが言い終わる前に、すでに子どもたちは彼女の腕にぶら下がっていた。たきなさんは困ったように口を開きかけるが、結局、園児たちの期待に応えるようにそっとしゃがみ、器用に肩に一人を乗せる。

 

「……こんな感じでいい?」

 

「高いー!」

 

 園児の歓声が響き、たきなさんは少し戸惑いながらも、そのまましっかりと支えていた。うん、なんだかんだで優しいよね、たきなさん。

 

「たきな、意外と子どもに好かれるタイプかも?」

 

 隣に座った千束が、くすっと笑いながら私に耳打ちする。

 

「……かもね」

 

 私は微笑んで、小さく頷いた。

 

 次の目的地は語学学校。

 

 教室の窓からはやわらかな陽光が差し込み、空気には紙とインクの落ち着いた匂いが漂っていた。静かな空間に、黒板のチョークが走る音だけが響く。

 

「今日は新しい先生が来てくれました。では、自己紹介をお願いします」

 

 教壇の前に立つ千束とたきなさん。私は教室の隅からそれを見守っていた。

 

「こんにちはー! 錦木千束です!」

 

「井ノ上たきなです。よろしくお願いします」

 

 千束は明るく手を振り、たきなさんは真面目にお辞儀をする。その対照的な姿に、生徒たちは興味津々といった様子だった。

 

「それじゃあ、今日は挨拶を少し勉強してみよう!」

 

 千束が楽しげに言い、黒板にスペイン語の基本的なフレーズを書き出す。

 

「おはようございます」

 

「ブエノス……ディアス?」

 

 生徒たちは一生懸命発音しようとする。たきなさんは黒板に向かいながら、ホワイトボードに細かく説明を書き込み、一人ひとりの発音をしっかりと確認していた。

 

「おー、たきな、ちゃんと先生っぽい!」

 

「当たり前です」

 

 千束の軽口に、たきなさんはきっぱりと返す。そのやり取りに、生徒たちがくすくすと笑った。うん、なんだかんだで馴染んでるなぁ。

 

 最後の目的地は組事務所。

 

 事務所の前に立つと、たきなさんの眉がピクリと動いた。

 

「……ここに何の用が?」

 

「ちょっとしたお届け物がね」

 

 千束は軽い調子でそう言うと、迷いもなくインターホンを押した。しばらくすると、扉が開き、いかつい組員が顔を出した。

 

「お?なんだ?ここはガキの遊び場じゃねぇんだよ」

 

「組長さんに用があるんですけど」

 

 千束はにこやかに答える。組員は胡散臭そうに目を細めた。

 

「親父に用事?からかってんのか? お前ら……」

 

その瞬間、背後から重い足音が響いた。

 

「……客人だ」

 

 組員の首根っこを掴みながら、組長が静かに言う。組員は驚いた様子で振り返った。

 

「マジすか?」

 

 中に通されると、千束はわざとらしく紙袋を差し出した。

 

「例のものを」

 

 組長が袋の中を覗き込む。私はすでに中身を知っているから、特に驚くこともなかったけれど……。

 

「……上物だな」

 

「できたてホヤホヤですよ」

 

 千束のこの言い方、絶対わざとだ。私はピンときた。

 

案の定、たきなさんの動きが止まり、鞄の中の銃に手を伸ばしかける。

 

「……」

 

 千束は、それを止めるようにそっとたきなさんの手に触れた。

 

「いい匂いでしょ?」

 

「うちのコーヒー豆は」

 

 私は心の中で小さくため息をつく。やっぱり、からかってたんだ……。

 

事務所を出ると、千束は満面の笑みを浮かべた。

 

「ねぇねぇ、危ないものだと思ったでしょ? 思ったでしょ!? やったー!」

 

「……!」

 

 たきなさんは無言で千束を睨み、私はそっと肩を叩いた。

 

「まぁまぁ……千束、こういうの好きだから」

 

 

⭐︎★⭐︎★⭐︎★⭐︎

 

 

 暫くして、私たちは広場へとやってきた。今日の用事はもう済んだし、一時休憩にしようと言う事になったからだ。

 

 広場のベンチに腰を下ろすと、爽やかな風が頬を撫でた。

 

 空は高く澄んでいて、陽射しはまだ強いものの、吹き抜ける風が心地いい。広場には親子連れや散歩を楽しむ人たちが行き交い、どこかのんびりとした空気が漂っていた。

 子どもたちの楽しげな声が、穏やかな昼下がりの景色に溶け込んでいる。

 

 私は、ふっと深く息を吸い込む。

暖かい日差しと、風に乗って運ばれる街の匂いが混ざり合って、どこか懐かしさすら感じさせる。

 この時間がずっと続けばいいのに。そんな考えが、ほんの一瞬、頭をよぎった。

 

「……幼稚園、語学学校、組事務所と共通点が見出せません。ここの部署はどのような活動をしているんですか?」

 

 たきなさんがぽつりと呟いた。彼女の口調はいつも通り落ち着いているけれど、その言葉には戸惑いが混じっている。

 

「困ってる人を助ける仕事だよ」

 

 千束が、ごく自然な調子で答える。まるでそれが当たり前のことのように。

 

「困っている人を助ける仕事………」

 

 たきなさんは、小さく繰り返しながら考え込むように視線を落とした。

 

 私はそんな彼女を横目で見つつ、少し笑ってしまう。

 

「最初は戸惑うよね。でも、やってることはシンプルだよ」

 

 たきなさんが私の方に目を向ける。彼女の目は真剣で、どこか納得できないものを感じているようだった。

 

「保育園の先生も、語学学校の先生も、組長さんも、みんな喜んでくれるよ?」

 

 千束が続けるように言って、ニコッと笑う。

 

「……私たちは国を守る公的秘密組織のエージェントですよ?」

 

 たきなさんが僅かに眉をひそめ、まっすぐ千束を見つめる。

 

「そういうと映画みたいで、ちょっとかっこいいねぇ」

 

 千束が冗談めかして返す。その顔は楽しそうだけど、ほんの少しだけ真剣な色も滲んでいる。

 

「でもさ、凶悪犯を殺して回る殺人犯とも呼ばれてる」

 

 その言葉に、一瞬だけ静寂が訪れる。

 

 私は視線を落とし、手をぎゅっと握った。リコリスという存在は、決して綺麗なものではない。

 

 ーーー人を守るために、人を殺す。

 

それが正義なのかどうか、考え始めると答えは見つからない。

 

「……ああいうことが起きる時代ですから。私たちは必要です」

 

 たきなさんは迷いなく答える。その視線は、遠くにそびえる電波塔の残骸へと向けられていた。大事件とも言われたテロリストの襲撃によりへし折れた電波塔。それが今もなお、壊れた状態で残っている。

 

「そうかもねぇ。そうなんかもねぇ」

 

 千束が、少しぼんやりとした声で繰り返す。彼女の視線もまた、電波塔へと向かっていた。

 

 それにつられ、電波塔を見上げる。あの塔が崩れたのは、たしかに大きな事件だった。

 でも、それが終わってからもずっと残されているのは、何か意味があるのだろうか。

 

「……しかし、新しい電波塔が完成間近なのに、何で残しているんですか?」

 

 たきなさんが疑問を口にする。

 

「壊れてできた意味もあるんじゃない?」

 

 千束は、あまり深く考えていないような口調で答える。

 

「確かに……どうして残ってるんだろう?」

 

 私もたきなさんの問いに同調する。普通なら、壊れたものは撤去されるはずなのに。

 

 風が吹く。頬を撫でる感触が、一瞬ひやりと冷たく感じた。

 

 まるで、その風が私の体の奥深くまで染み込んでいくような錯覚を覚える。

 

「……意味不明ですね」

 

たきなさんが、淡々とした口調でそう言った。

 

「でもそこが好き」

 

 千束が、どこか満足そうに微笑む。

 

「だから意味不明なことしてるんですね」

 

「言うねぇ〜」

 

 千束は、たきなの言葉に楽しげに笑った。

 

 そして、ふと立ち上がる。

 

「DAが興味を持たなくても、困ってる人はいっぱいいてさ。助けを求めてる」

 

 たきなさんの方を振り返り、千束は手を差し出した。

 

「だからさ、たきな、力を貸して?」

 

 たきなさんは千束の手を見つめたまま、しばらく動かない。

 

私は、その間の空気を感じながら二人を見守る。

 

「……千束は、ほんと真っ直ぐだよね」

 

 思わず口にすると、千束がちらりと私を見て、片目を閉じてウィンクした。

 

「でしょ?」

 

 たきなさんは、視線をそらし、迷うように少しだけ指を動かす。

 

そして、ゆっくりと手を伸ばし、千束の手を握る。

 

 その瞬間、そよ風が吹き抜けた。

 

広場では、子どもたちの笑い声が弾ける。

 

 何かが残ることで意味を持つのなら——私も、今ここにいることに何か意味があるんだろうか。

 

まるで、何かが少しずつ変わり始めたような、そんな気がした——。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『風の流れが少し変わったような。それはきっと、ただの気のせい。』

 




早く、くるみとミズキの絡み書きたい。
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