To the next century - 全国女子高等学校競技ストリップ選手権大会 作:添牙いろは
パン! と手を叩いて胸を張り、私は声高らかに開幕宣言!
「それでは、第一回……
「いえーい!!」
と、元気よくノってくれるのが、我らがムードメーカー
「それじゃー、大会のルールをおさらいするねー!」
私は前に置かれたホワイトボードに向かった。しかし、昨日の落書きがそのまま残っているのを見て、私は思わず眉をひそめる。露骨な漫画っぽいウッフン♡ なポーズを取る女のコのイラスト――たぶん、千夏が描いたのだと思う。線は雑なんだけど、表情とか力の入り方が絶妙すぎて……はぁ、こういうのを画力の無駄遣いっていうんだろうなぁ。どこでこんな絵の描き方覚えたの……
ということで、私は見なかったことにしてクリアボタンを長押し。サーッと落書きが消えて、ようやくまともに白板が使える状態になった。千夏が何となく名残惜しそう。ちょっとした力作だったらしい。
という視線は無視してペンを握り直すと、私は真剣な眼差しで文字を書き込む。
「全国大会はこの四種目で競います!」
・課題
・衣装
・即興
・総合
「この四種目に挑む出場枠は四名! そして、ありがたいことに、我らストリップ部の部員数は……なんと総勢九名!!」
どうよ、この大所帯! 一学期の終わりに立ち上げたばかりなのに、この大盛況はもはや感動モノじゃない!?
「二チーム作れますやん。何なら紅白戦でもやります?」
「バスケじゃないんだから」
かがりちゃんのバスケ部ジョークに、ショートカットの前髪がきっちり揃った由香――
「ということで、皆さんには自由に立候補していただきます! ただし、希望がかぶった場合は、第二回選抜会議で勝敗を決めるってことで!」
すると、静かな声で「はい」と手を挙げたのは――
「どうぞ! 舞先輩!」
私は元気よく指差した。
「私、『総合』」
このひと言で――シンとした緊張感が室内に走る。
「い……いえ! だから、そういうのを避けるために、秘密の投票にしようって……!」
私はあわあわと手を振って全力拒否! ここは公正な選抜会議なのだから、ちゃんとルールに則って決めるべきでしょ! みんな納得のうえで決めたいのに――
「けれど、もし他の誰かが総合に立候補したら、不要な血が流れるでしょう?」
――むぐ。真理を突く舞先輩の言葉に、私は黙って固まるしかない。部室の空気も、一瞬でピタリと静止する。そもそも、私がストリップ部を作ろうと思ったキッカケは、舞先輩の『ストリップ・ライブ』を見たことだった。先輩のステージに惹かれて、感動して、こういう世界をもっと広めたいって思ってこの部活を立ち上げたと言っても過言ではない。それくらい、舞先輩のパフォーマンスは圧倒的だし、プロとしての実力も揺るぎない。
全国大会の『総合』はまさに花形。実力的にも、舞先輩が出場するのは当然と言えば当然。でも、だからって――……
「それに、私が総合以外を選ぶわけがないし」
舞先輩は涼しげな笑みを浮かべながら、わずかに顎を上げた。その視線には揺るぎない自信が宿っている。まさに、当然のことでしょう? と言わんばかりの態度で言い切られてしまった。
た、たしかになぁ……。舞先輩が『衣装』とか『即興』に出場したら、それはそれで世界は大混乱だろうしねぇ。
部室に流れるのはグダグダした空気。
「…………」
私は、ゆっくりとペンを動かし、『総合』の下に『如月舞』と記入する。
その横に、念のため『決定!』と花丸を添えておいた。
「さ、さて……出場枠はのこり三名となったわけだけど……」
よし、気を取り直して次の選抜に進もう! そう思ったそのとき――コンコン――静かに部室のドアが叩かれる。部室内のざわめきが一瞬止まった。誰もが視線をドアに向けるなか、扉がゆっくりとスライドする音が響く。
「遅くなりました。生徒会の仕事を片付けておりましたので」
その声とともに姿を現したのは、生徒会長――
そして、その後ろから――
「ああ、私は大会棄権で」
ぶっきらぼうに言い放ったのは、副会長の
「え? 何で? 私、かのちゃんと一緒に出場したかったのに……」
静音ちゃんが慌てて声を上げた。奏音ちゃんと全く同じ髪型なのに、表情の柔らかさで少しだけ違って見えるのが不思議。
「似たようなのがふたり出ても仕方ないでしょ。私はシズのサポートに回るわ」
さらりと言い放つ奏音ちゃん。双子だからって、『似たようなの』なんて自分で言うことはないと思うけど。何しろこのふたり、似たような顔して性格は全然違う。強くてしっかりしている妹の奏音ちゃんが、のんびりふわふわな静音ちゃんを何かと支える、というのがふたりの関係。なので、こういうとき、いつも身を引くのが奏音ちゃんなんだよなぁ。
ちなみに、奏音ちゃんは静音ちゃんのモノマネが得意で、これをやられると本気でどっちがどっちだかわからなくなっちゃう。それも、奏音ちゃんが自分を『似たようなの』と言ってしまう一因かも。
そして、最後に入室してきたのが――
「ところで、すでに『総合』の枠が決定、になっているのですけれど」
「うん、そうだね」
私は一応頷いてみる。だって、舞先輩が『総合』って、事実上決定事項だし。
けれども、佳奈ちゃんはきっぱり言い切る。
「投票は、全員が揃ってから、という話ではありませんでしたか?」
ピシャリ。室内には、何ともいえない沈黙が。千夏が小声で「それはそーなんだけど」と呟き、由香が軽くため息をつく。視線が私に集まり、居心地の悪さを感じながら、思わず佳奈ちゃんから視線をそらした。だって、真剣なんだもん。私、めっちゃ追及されてる……!!
「…………」
舞先輩のほうに目で助けを求めると、先輩は首を傾げて、のんびりとした声で佳奈ちゃんに問う。
「貴女、『総合』やりたかった?」
いやいやいや! そういうことじゃないから!! 私は思わず心の中で全力ツッコミしたけど、佳奈ちゃんはそんな舞先輩の質問に、淡々とした表情で応える。
「投票は、鈴木先輩のアカウントへのダイレクト・メッセージにて申告する、というルールのはずです。事前に話し合っては談合や圧力の原因になりますので」
ズバァァァァァン!! 超正論!!
「ごめんなさいね。私の存在自体が圧力だから」
ギャァァァァァァン!! 舞先輩、それ、自分で言っちゃう!?
「それは認めますが」
あ、佳奈ちゃんも認めるんだ。
「ルールはルールです。それを守らせるのが部長の務めでは?」
ピシャリ(本日二回目)
「ううっ……」
言い返せない……! つい忘れがちだけど、私が部長なんだよねぇ……。こうして改めて指摘されると、責任感がのしかかってくる。やっぱり私、こういうところで部長らしくできてないなぁ。私はすごすごとクリーナーを手に取り、先ほど意気揚々と書いた「如月舞(決定!)」と花丸を静かに消す。
「後輩に論破されてどーすんの……」
小声で千夏にツッコまれてしまった。
「正論だから仕方ないわね」
由香も冷静に頷く。しょぼーん……私、部長なのに……しょーもないところで敗北感……。とはいえ、ここでゴリ押ししてたら、圧力系暴君になっちゃう。仕方ない、ここはルール通り、もう一度仕切り直しだー!
「ところで……本当にいいの? 桜ちゃんは……」
静音ちゃんが、不安そうに私を見つめている。事前に話していたことだけど、まだ納得いってないみたい。けど、私自身が納得してるから。
「うん、私は補欠で」
改めてそう言った瞬間、部室が少しだけ静かになる。みんな、そのことを思い出すように。
たしかに、私はこのストリップ部の発起人だし、本当は――出たい。出たくないはずがない。全国大会の舞台に立ちたい。そこで踊りたい。輝きたい。
でも、気づいたら、部員は九人にも増えていた。こんなに仲間がいっぱいなんだもの。そんななかで、私が『出たい!』なんて主張することは――
「ずっとみんなで全国大会目指してたのに」
千夏が、ぽつりと呟く。
「みんなで大会に参加できる、ってだけで私は嬉しいから」
私は笑ってみせる。……いや、ちょっと強がりも入ってるかも。けど、みんなの夢を支えるのも、部長の役目だ。私は補欠として、みんなを全力でサポートする。それがいまの私の役割だって、そう思う。
みんなが良い結果を出せるために、私は――
「まあ、私が出るのだから酷い結果にはならないでしょうけれど」
「でしょうね……」
舞先輩が、ぼんやりしたままサラッと尊大なことを宣言する。まるで、自分は誰の支えもいらない、と言わんばかりに。それは、私としても認めざるを得ない。
「けれど、私としては、貴女から頼まれて……貴女が頼むから入部したのよ」
……むぅ。それを言われると、ちょっとだけ心苦しい。そう、私は舞先輩のファンだ。だからこそ何度も何度もお願いして、このストリップ部に加わってもらった。だから、私たちと一緒に来てくれることとなったとき、本当に嬉しかったし、夢みたいだった。
だから、いまも――私の中で、特別な存在。舞先輩はわずかに眉を上げ、口元にかすかな微笑を浮かべる。しかし、その声のトーンはどこか低く、淡々としていながらも確かな意思がこもっていた。
「桜、大会のルールは覚えているわね?」
舞先輩からの、刺すような鋭い視線に――私の口から
「……『各校は他の高校から生徒を誘致して参加することができる』」
ストリップって、やっぱり敷居が高いんだよねぇ……。一般的な競技ダンスとは違って、どうしても誤解を生みやすいし、『ちょっとやってみよう!』みたいな軽いノリでは始めにくい。だからこそ、全国大会でも、人数を集めやすいように『他校からの選手招待OK』というルールがあるんだろうけど――
「私は、貴女と大会に参加したい。けれど、
舞先輩のその言葉に、私は思わず目をパチパチ。
「いやいや、私が舞先輩に敵うわけないじゃないですかー!」
慌てて手をブンブンしている私に、舞先輩はじっと私を見つめたまま、いつもの穏やかな口調で続ける。
「いえ、貴女のストリップには目を見張るものがあるわよ」
うわぁ……舞先輩に褒められるなんて……! と、喜んだのもつかの間。
「まあ、私には及ばないけれど」
こういうところ、舞先輩らしいなっていつも思う。
「でしょうね……」
私は再び苦笑するしかない。いや、本当に敵わないのは事実だし。褒めてもらえただけで十分だよね。
なんて喜んでいたら……舞先輩の笑顔が、ふと優しくなる。
「けれど……もし私が出られなくなっても、貴女になら代わりは託せるわ」
――へ? 私は驚きすぎて、私は間抜けにも口を開けたまま固まってしまった。けど、その言葉の意味を理解すると――
「むむむっ、無理ですって! 私が舞先輩の代わりなんて!!」
これはすかさず全力否定! 思わず後ずさりしちゃったよ! でも、舞先輩は『そう?』って顔で、相変わらずぼんやり微笑んでいる。私が舞先輩と競うとか、舞先輩の代わりになるとか、そんなの異次元すぎて想像もできない。
さっきからいろんな人に翻弄され続けている私を見かねて、会長さんが舵を切る。
「欠員が出たのなら、そのときに第三回選抜会議を開けば良いでしょう」
ですよね! いまから舞先輩が抜けることなんて考える必要ないですしっ!
「そっ、それじゃっ……!」
私は慌ててスマホを握り直して高々と掲げる。
「希望が決まってる人から私のDMに送ってねー!!」
私はあえて明るく宣言して、選抜会議の次のステップへ強制移行した。すると、すでに決まっている人たちから、ポンポンとメッセージが飛んでくる。
「かのちゃん、どうしよう……」
スマホの画面を見つめたまま、指を小さく動かしては止めるの繰り返し。決めきれず、静音ちゃんは奏音ちゃんに視線を送っている。
「シズがやりたいことにしなさい。私は何でもサポートするから」
奏音ちゃんは静かに微笑む。うん……ものすごい安心感。奏音ちゃんって、本当に静音ちゃんのことをよく見てるし、きっと静音ちゃんが何を選ぶかも全部わかってるんだろうなぁ。
そんなことを考えているうちに、最後のメッセージが到着する。
「ということで……お待ちかねの結果発表~!!」
私は勢いよくペンを持ち直し、ボードに名前を書き込んでいく。
まず――さっき消した舞先輩の名前を、改めて「総合」の枠に書き直す。そして、その横に「決定!」の文字をつけて、さらについでに『こんどこそ!!』と、より大きなギザギザで囲って強調!!
そして――
・課題
佐々木由香
和泉佳奈
・衣装
藤原千夏
高岸静音
・即興
赤城かがり
砂橋美結
「ぬわー!? 生徒会長とかぶっとりますやん!?」
かがりちゃんは、思わず机をバンッと叩きながらのけぞる。目をまん丸にして、まるで漫才のツッコミみたいな勢いだ。うん、やっぱり関西人のリアクションは派手だねぇ。
「相手との対話であれば、まだ私にも勝機があるかと判断しまして」
会長さんはニコニコした表情で静かに答える。『即興』というのは、ふたりの選手が向き合って、その場で流れてくる音楽に即興で合わせる競技。会長さんの説明はとても理論的なんだけど……かがりちゃんは別の理由だったみたい。
「んー、ウチは出たとこ勝負が好きなだけなんやけど……」
案の定、ちょっと悩ましそうに唸るかがりちゃん。でも、実際問題、即興はどちらの要素もあるし、これはもう直接踊って決めるしかないね。
他の出場メンバーについては、予想通りというか、特に意外性もなかったので、みんなわりと穏やか。なんとなく緊張感も薄れたところで、今回の会議はここまで。
「んじゃ、えーと……続きは来週の第二回選抜会議の決選投票だね。と、いうことで……早速練習する?」
そんな何気ない私の提案に、千夏はニヤリとした笑みで返す。
「今日から一週間はお互いライバルってことで……秘密特訓させてもらおっかな」
うわぁ、絶対なんか企んでる顔!!
「ま、そーいうのもたまには面白いかもね」
由香も腕を組みながら、どこか楽しそうな表情で頷く。ストリップって何だかんだで個人技だから、こういうライバル的な展開って案外向いてるのかも……?
みんなが静かに闘争心を燃やし始めたところで、会長さんの言葉が空気を引き締める。別の意味で。
「そういえば、近頃複数の通報をいただいているのですが――」
低く落とされたトーンの声が、笑いごとではないことを告げている。
「学校近辺に不審者が出るようですので、皆様ご注意を」
「ぴゃっ!?」
真っ先に反応したのは静音ちゃん。驚きすぎて目がまん丸になってるよ。
「そんなにビビらなくても」
千夏が肩をすくめる。
「結局、明るいうちに帰っておくのが一番じゃない?」
由香が落ち着いた様子で言う。まあ、そういうことなんだろうなぁ……
ってことは。
「え? みんなホントに帰っちゃうの?」
そうは言っても……なんて流れを密かに期待していた私は思わずきょとん。サクサクと鞄のチャックを閉める音や、椅子を引く音が響く。ニヤニヤしている千夏以外も、みんな楽しい隠し事をしてるような雰囲気だ。私なんだか、置いてかれてる感がすごいんですけど……
「じゃ、また明日ー!」
なんて手を振りながら、みんなゾロゾロと昇降口の方へと向かっていく。
そして……気づけば、部室には私ひとり。まぁ、補欠だから仕方ないか……
私は窓の外を眺めながら、少しだけため息をつく。みんな、全国大会に向けて本格的に動き始めてるんだなぁ。私も補欠としてサポートに回るって決めたけど――
「……踊るか」
ぽつりと呟いた言葉が、静かな部室に吸い込まれていく。ストリップは、技術だけじゃない。現状や未熟さ、迷いも、不安も――すべてと向き合うことが必要だ。だから、私はひとり、舞う。静かに、でも、確かに。これは――私なりの、全国大会への向き合い方だから――
さて。
二十一世紀は激動の時代だった……らしい。いや、実際に生きてたわけじゃないから、教科書に書いてあることしか知らないけれど――あの百年間はすごく混沌としていたらしい。
新世紀の幕開け早々、情報化社会の波に飲まれて、何が良いのか悪いのかを議論する間もなく、規制ばかりが増えていった。アレもダメ、コレもダメ、そんな感じで、気づいたら『管理社会』と呼ばれる時代に突入。子供は大人がしっかり管理しなきゃダメ! ルールで縛らなきゃダメ! そんな時代が二〇六〇年代まで続いたんだって。
でもね、そんなことが長続きするわけないんだよ。抑えつけられれば、反動は必ず来る。結局、二〇七〇年頃に新しい流れが生まれた。『義務教育を卒業したら成人と見做す』――つまり、『自己責任社会』の始まりである。いいか悪いかは別として、何をするにも自分の責任。自由もあるけど、そのぶん覚悟が必要。
そして、そこから三〇年、いまの時代がある。私たちは自己責任社会の申し子。だからこその新しい表現がある。その答えのひとつが『競技ストリップ』なのだっ!!
私は、踊る。制服のジャケットを肩から滑らせながら、自分の身体と向き合う。
自分の外見だけじゃない。内面までも――
今日の私は、どんな自分だろう? 昨日とは違う? 明日はどうなる? 自分の身体なのに、思い通りにならないところが面白い。ストリップとは、自分自身との対話。動きの一つひとつに、いまの自分が映し出される。昨日よりも力強いのか、それとも迷いがあるのか――それを確かめるように、くるりと回り、ラストのポーズで止まった。ふぅ……と息を吐きながら、私は自分を見つめる。
だけど、その静寂は突然破られた。コンコン――というノックの音によって。
「わわっ!?」
私は慌てて制服を掻き集める! ちょっ、待って待って待って! ただいま取り込み中だから! ストリップ部としてはいつものことでも、部外者に見られたら恥ずかしい!
けど――
「
扉の向こうから聞こえる声に、私はホッと息をつく。
「あ、紗季……」
よかったぁぁぁ! 知らない人じゃなかった! 紗季――
一応、部屋の様子を察してくれたのか、控えめに扉を開けて入ってきた。
「あら、意外。ずいぶん早かったのね」
紗季は空になった部室のなかを見回して小さく微笑む。
「うん、実は……」
私はモゴモゴと制服を着ながらみんなの秘密特訓のことを話していた。全員で希望種目を出し合って、それぞれがライバルと認めて戦うために――秘密特訓を始めたことを。
「それが普通、だと思うわ」
紗季は落ち着いた口調で言う。
「結局は個人競技だし、それに――」
「『ストリップは究極の自己愛』……」
私は呟く。自分のすべてをさらけ出して、それを魅せる。ただの踊りじゃない。自分を知って、自分を受け入れて、そして――自分を愛すること。それが、ストリップ。
私は、自分の手のひらを見つめる。指先を軽く動かしながら――これまで積み重ねてきたことを思い返していた。いまの私には、どれだけそれができているんだろう? そして、全国大会では――どこまで、自分と向き合えるんだろう?
まだ、私の中に自己愛と呼べるほどのものはないけれど。
「貴女にもその資質はあるわ。それは、幼馴染の私が保証する」
紗季の言葉は、まるで私を見透かしているみたい。
「そ、そんなかなぁ……?」
私は半笑いしながら肩をすくめる。うーん、たしかに私はストリップ部を立ち上げたし、全国大会に向けて頑張ってるけど、自己肯定感がめちゃくちゃ高いわけじゃないと思うんだけど……?
「そのくらい思ってなきゃ、私が誘った合唱部を一年でほっぽりだしたりしないわ」
……ぐっ。相変わらず、痛いところを突いてくる。私はこの高校に入学したとき、紗季に誘われて合唱部に入った。でも、二年に進級したとき、辞めちゃったんだよね。なんというか……二年目も一年目と同じことの繰り返しかと思うと、続ける気力が湧いてこなかったというか……。でも、それを言い訳にするのはダサい気がするから、口をつぐむしかない。
けど、人の身体は毎日変わっていく。
昨日の自分と今日の自分は違う。
今日の自分と明日の自分も違う。
じゃあ、そんな『いまこの瞬間の自分』を、どうすれば最も綺麗に、最も魅力的に魅せられるのか――?
それを追求するのが、ストリップという競技なのである。
で、私がこうしてストリップ部を立ち上げようとしたとき、千夏や由香だけでなく、当然紗季も誘ったんだけど――どうやら、こういうのは本当に嫌いらしくて。断固として入部してくれなかったんだけど……それでも、いつも部の外から私たちを支えてくれている。
「ともあれ、今日は貴女とふたりで良かったわ」
そう言うと、紗季は鞄の中から何かを取り出す。
「んんん~……? それ、誰の?」
紗季の手には、見慣れないジャージが二着。
「『
「どこのメーカー?」
「天峰堂体育大付属女子高。知らないの?」
「体育大……って、えぇっ!?」
思い出して、私は思いっきりジャージに釘付け。だって、天峰堂付属女子って、あの、全国でもトップクラスのスポーツ強豪校じゃん! サッカーとかマラソンとか……こないだなんてボクシング部まで話題になってたし。
「……貴女たち、部外の雑務を私に頼りすぎよ。ちゃんと最初から説明しておいた方がいいわね」
紗季がため息混じりに言う。そ、そんなつもりはなかったんだけど、気づいたら頼っちゃってたかなぁ……
私は混乱しながらも、全国大会についての情報を思い出す。
『第一回全国女子高等学校競技ストリップ大会』――そのまんまな名前だけど、実はネーミングライツは募集してるらしいので、お金さえあれば、大会名は自由に変えられるのだとか。それと、大会は女子だけで、別途男子大会が行われるとか、そういうこともないらしい。ストリップってだけでも十分すぎるほど尖ってるってこともあり、男子の部はさすがに大会を開催できるほどの規模には至らなかったんだろうなぁ。公式ページの『今後は男子の大会も検討している』って一文は、そんな意味が込められているのだと思ってる。だからこそ、この女子による第一回大会がどんな結果を残すかが、今後を決める重要なポイントになりそう。
ここで、女子の部・男子の部、ではなく、女子大会・男子大会ってのが重要で――このふたつは完全に別大会として切り分けられている。それは、女子選手による……というだけではなく、審査員もスタッフも、そして観客に至るまで、全員女子。女のコの、女のコによる、女のコのためのストリップ。それが、『競技ストリップ』なのだ!
けど、いきなり女子高生たちがあちこちで『競技ストリップやります!』なんて言い出したら、世間は大騒ぎになってもおかしくない。めちゃくちゃ突拍子もない大会だけど、実は突然思いつきのように生まれたわけではなく、裏ではずーっと準備が進められてきたらしい。そういえば、ストリップ部を立ち上げようってときに、『密かにストリップブームを作ろうとしてた』……みたいな話があったような気がする。著名なアイドルにストリップ応援コメントを出してもらったり、初心者のための体験教室を開いてみたり――ちなみに、体験会については今度の週末、都内でも開催されるようなので、私と一部のメンバーは参加してみるつもりだったりする。ストリップを始めたばっかりってことには違いないし、一度はちゃんと基礎を教わっておこうって意味で。
ともあれ、今度の大会は、その動いてきた人たちにとっての集大成ってことなのだろう。『ストリップ=芸術』を前面に押し出して、まずは美術や芸術の界隈から攻めていき、『表現の自由!』って感じでアートとして認識させていったのだとか。さらに、地域復興とか文化活動とか、そういう大義名分も利用して、全国の女子高へじわじわと広げていったってわけ。
でも……実は、そっち方面とは関係なく、女子高には女子高ならではの問題がある。というのも――悩みのタネは『管理社会』の頃に植えられたもの。『男女共学は不健全である!』って理念が広がって、女子高が爆発的に増えた時代。……でも、男子校はそこまで増えなかったっていうあたり、なんかあの時代の偏りが見える気がする……
で、時代は流れて『自己責任社会』に突入。その結果――女子高の数は急激に減少。次々と共学化が進んでいて、すっかり元に戻ろうって流れになってる。
そんなだから、各女子高は生き残りを懸けて超必死! 有名大学への進学率だの、有名企業への就職率だの、強い部活があればそれを推し、なかには過去の有名人までダシに使う始末。それらさえも何にもない学校は、とにかく何らかの特異性が欲しい――つまり、『競技ストリップ』は、そんな女子高たちの起死回生の策でもあるのだ。何しろ、法改正によって、高校生は学生であっても成人と見做されている。『成人なんだからストリップもOK!』ってなったわけ。
……とはいえ、法律が認めても、世間の価値観がすぐに変わるわけじゃない。いくら『ストリップは競技です! 芸術です!』って言い張っても、偏見はまだまだあるし、反感も少なくない。だから、大会運営側は『参加校を公表しない』という方針を取ってる。つまり、『出場してることを言いたくないなら、こっそり参加してくださーい!』ってこと。
でも――うちの学校は堂々と公表してるけどね。何しろ、生徒会がゴリッゴリに関わってるから! もう、隠すどころか全プッシュだよね!?
「……ということで、私が調べた限り、参加を表明している学校は二〇校ってところね」
紗季が、スマホを片手に淡々と言う。
「二〇校かぁ……!」
初開催の大会にしては多いのかな? でも、他の競技と比べたら、やっぱり少ない……? もちろん、これは氷山の一角だと思うけど。
競技ストリップは、ダンスの技術よりも魅せる美術的なセンスも重要。それに、第一回の大会だから、ルールもまだ完全に固まってない。だからこそ――『ワンチャン優勝あるかも!?』って思ってる学校も、きっと少なくないはず。
「中でも、注目すべきは……」
紗季が続けると、私はすぐにピンときた。
「