サンドラとジェシカとエマの視点です
小説にチー牛みたいなネットスラング持ち込むのは嫌いなんですがあえて入れてみました
どうっすかね.....
13.5
エマにとってはむしろ都合がよかった。こんな殺人鬼と必要以上に関わり合いになるなんてごめんだ。だって自分に殺意が向かなかろうが、常識的にいやだろう。人殺しと関わるなんて。この
だから露骨に話をそらせようとする浄火に乗って、どうでもいいアニメの話をしていた。
「今季のアニメはまじ豊作。」
「ヒソメルえろすぎなー。」
「え、浄火ヒソメル推し?」
「うん、1話からもうガチで泣いちゃった。」
エマは積極的に相槌を打ちつつも『お前の趣味なんんてどうでも良いからそれより周囲の警戒忘れてないよね』と内心で毒付いていた。
意識して距離感の近い、気兼ねないことばが漏れる。
「浄火、すごくギャップ萌えだわー。かわいい」
「……」
返事はなく、足を止めた。この時点でエージェントならあぁまずい、と察するだろう。
「ギャップって、それ、私が最初は弱そうに見えたってこと?」
悪寒のする声だった。
_____キレられた?どれだけ繊細なんだよ、と内心驚く。
「い、いやいや。アイはヒュタルク好きそうだなって…….」
弁解を囁くような憎悪の声が遮る。
「いや、絶対バカにした。ああいやね、わかってるよ。私ってチー牛だよね。チー牛だからヒュタルク推しだと思ったんだよね。わかるよ。それで前匿名掲示板の人にバカにされたから。ダイエットとか頑張ってるけど、なんか自分でもどっか垢抜けないよなあって思ってるんだ。ほ、ほら、前髪、ダサい。ひっ、ひっ、ひっひっひっひっひっ……」
さらに、前髪を摘み、泣き始めた。
「ま、まあまあ。エマはそんなつもりじゃなかったよ思うよ……。」
ジェシカが仲裁に入ったが、怒りは収まらない。
勘違いしないでほしいのだが、浄火は最初から彼女らにムカついていた。特に非礼をされたわけではなくても、なんでもない行動を拡大解釈して憎悪を自家生産、それを元に暴れるような人間だった。その感情と理由を今結びつけているだけ。
「まあいいけど。どうせ私が誰かと組むなんて無理なんだ……お前らもいい加減私に引っ付いてんじゃねぇよ。私はお前らのお母さんじゃねぇんだから。あーもう無理無理。もうついてくんな。殺すぞ。」
怒り、というよりは最後通牒のつもりだった。悲しいかな、それは伝わらなかったらしく、ジェシカが手を広げてさらなる仲裁にはいった。
「ホントにゴメンって!私からも謝るから……」
彼女は他の三人から距離を置いているつもりだった。この状況に対してはもちろん、人生の他の部分においてもずっと自分は部外者のような気がしていた。厄介なしきたりを押し付けてくる家の連中も、ソレに対して牙を剥いて自分ごと家を出た姉も、なんか他人のように感じた。怠いから勝手にやってくれというか。自分の人生の一部という感じがしなかった。
なんとなく、で彼女は流されるまま特に強い感慨もなく、自分の人生をつまらない映画のように感じて生きてきた。
「だから、許してあげて…….ね……?」
最後の言葉が疑問系になったのも、現実に理解が追いついていなかったからだ。
瞳と瞳を繋げるように
「違う。お前らも同じだ、あいつらと同じだ……」
「ま、待って、ホントそんなつもりじゃ……。」
ヒッと声をあげてエマは背後に走り出すが、その肩に過たず刃が突き刺さる。絹を裂くような悲鳴が響き渡る。
よろけながら走り去るエマに罵声が響く。
「逃げるんならちゃんと逃げろよ。じゃないとワタが飛び散ってみんなの迷惑だろうが。わかるか?あなたは確かに可哀想だけど悪い部分もあると思うよ?そう、いじめが発生する時は被害者にも非があるんだよ?!」
浄火の目は焦点があっておらず、陽龍たちではないどこか遠くを見つめているようだった。
「……浄火?冗談だよね?」
疑問や怒りというよりは懇願だった。いきなり尊敬していた人が自分の妹を殺して、それで怒れるほど修羅場の経験がなかった。でも、彼女が足を踏み入れようとしていたのはそういうところだった。
切なる声にナイフが答える。陽龍の亜麻色の髪をナイフが切り裂いた。ナイフは飛んでいった先で、運悪く通りがかった少女の指を落とした。
陽龍は床に落ちたナイフと指を見て、ソレから幽霊でも見てしまったかのような目で師匠と慕いたかった少女を見つめる。少女は口と両腕を大きく広げて笑っていた。メドゥーサのような悍ましい紅い瞳に、血で固まった髪は蛇のようだった。
少女は、1分前の頼りになる王子様とは別人だった。
「じゃあ師匠として教えてやるよ。レッスン1だ。陽龍、私を殺せ。できなければお前を殺す。」
14
浄火がナイフを持って大足に詰め寄ってくる。ぎらぎらとした銀色の刀身が、やけに目立つ。
刃物を相手にするなんて現代では考えられなかった出来事が目の前にある。
いやだ。浄火に刃を向けられるのも向けるのも、いつの間にか胸が張り裂けそうなくらい苦しみを伴うものになっていた。
サンドラを突き動かしたのは『まだここで終われない』という執念だった。
サンドラは右手を突き出し、左手をグッと握りしめる。彼女には空手教室に通った経験があった。単純な徒手空拳ならプレイヤーの中でも上から数えた方が早い。ナイフを持った相手を取り押さえる訓練もしてある。そもそも逃げるのが最適解だが、投げナイフがある以上通用しない。じゃあ正面から叩き潰すしかない。
投げたら片腕で頭を守って、もう片腕をレバーに打ち込む。
ナイフを持ったまま切り付けられれば、持ち手を捻って奪い取る。
そこまで瞬時に組み立てると、なんだかイケる気がしてきた。
(武器相手に、それも浄火相手にやれるのか、私!?)
相手の動きを読めばいいのに、刃を刺されたら痛いなだろうとか余計なことばかり考えてしまう。余計な思考を振り切って、目の前の相手に全集中する。
さあどっちだ!
投げるか、斬るか!
目を皿のように見開いて仕掛けてくる時を待つ。しかし、
『ポイっと』みたいな擬音がつきそうな何気なさで浄火は最大のアドバンテージであるはずのナイフを自らを手放した。ジェシカにしたような投げナイフではなく、ただ『渡すため』の投擲。完全にないはずの虚をつかれた。思わず両手を差し出して、ナイフを受け取ろうとしてしまう。
浄火は突進しつつで大きく身を沈め、サンドラの軸足を絡め取る。
サンドラは浮遊感がして、地面に強かに頭を打った。意識の暗転と共に悟る。
「才能なかったよ、お前?」
(______ああ、ここで死ぬんだ。)
人って思ったよりあっさり死ぬらしい。こんな初見殺しのワンミスで終わっちゃうんだから。
そして目を開けると、マウントを取った殺人鬼がナイフを両手で振り上げていた。かっこいいなあ、なんで場違いなことを思う。自分が気に入らなければ殺す。それはサンドラが求めている我の強さの一つの頂点、絶対王者の振る舞いと言える。
でも、乱れた髪に隠れた顔は、あまりにも、何か悔しそうな、今でも泣き出しそうだった。なんでそんなに悲しい瞳をしているのだろう。強者は強者らしく笑うべきなのに。
ああ______そうか。死の間際になって、彼女の人間性が垣間見えた気がして。
最後にこぼれた罵倒でもなく、どこか親しみのこもった言葉だった。
「_____私も、友達いなかったなぁ。」
躊躇なく、脳天にナイフが突き立てられる。ソレも笑って受け入れられた。初めて心が通じそうなヒトと出会えたんだから。
1分前まで美しい少女だったものが、刃を抜かれる頃にはもの言わぬ肉塊に変わっていた。
「……クソゲー。」
命を止めてもなお、浄火はナイフを畑でも耕すように突き立てる。
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