最近仕事以外でもミスが多すぎてほんと死にそうです
(15/27)
一定のタイミングで丹田を刺激すると、すぐに期待通りの吐き気を催す。
「......うっ、ウェ.....っ」
白くねばつく液体と共に、胃から逆流した粉末袋を取り出す。幸にして消化などはされていないようだった。
指先が微かに震えていたが、それは疲労ではなく、予感によるものだ。
(ガラにもない……)
しばらくの引退はやはりセンスを磨耗させてしまっているようだ。
コキリ、と首を鳴らしてデスゲーム用の
あの女___浄火の何が危険って、その精神性にある。ニトロのように、些細な刺激で自分すら騙してしまう、その高すぎる衝動性。あの女の行動を予測するのは心理学ではなく、量子学の世界だ。白士は人間が理性に基づいて行動すると考えている。それは性善説とかそういう話ではなく、あらゆる行動には理由と目的があるというだけの話だ。
浄火の行動はひたすらに予測できない。多分、あの女自身よくわかっていないのだろう。
最初からああだった訳ではない、と思う。
鈴々の紹介で、初めてオフの浄火に会った時は殺人壁こそあれど____いやそれが致命的なのだが_____それ以外は普通の少女だった。それが今や避けるしかないバケモン。何が彼女の身に起きたのだろう。
そんな思案を吹き飛ばすような光景に出会った。
「ん……この死体は…?」
白。白、白、白、ところどころサーモンピンク。
見覚えがあった。節減のような見渡す限りの白。流れた血が変化したものだ。幻想的ですらあったが、散乱した骨や内臓のグロテスクさは拭いきれない。
とびっきりの惨劇だった。
複数人の死体が転がっている。顔面に毒ナイフを突き立てられただけの
他にも十数人の死体が転がっている。衣服が荒らされていないところ見ると、何か目的があってのことではなく、衝動的な殺害だろう。
一目でわかる。80回からのゲームで毎回同席した……
誰かが止めてくれないだろうか、と思ったが、その期待はしないことにした。
あれは〈殺人鬼〉だ。白士を50分割し、引退を決意させた
「チッ。死体から戻って正解だった。これからはもっと慎重に動かないとな。」
あいつなら死体に化けていた白士もあっさり見抜き、行動可能になる前に潰していただろう。どうか出会いませんように、と祈ったところで____人の気配がした。ギラギラしたオーラ。かなり、殺しなれている。噂をすれば浄火だろうか?
白士ほどになると、その第六感は視覚よりよっぽど当てになる。というより、視覚も聴覚ももうあまり使い物にならないのだが____それはさておき。
咄嗟にその場に隠れて、限られたスタミナでどれだけ走れるかの計算をしながら様子を伺った。
「______っ」
そこにいたのは_____プレイヤーネーム・
しかし、まずい、と白士は思う。
幽鬼は人間に殺すことはできないといつか言った。幽霊を殺すことのできる人間はいないのと同じだ。
幽鬼が幽霊なら浄火はモンスターだった。加えてあの女は白士に狂的な執着をしているようだ。その弟子とくれば、幽鬼に矛先をむける理由には十分だろう。
勘違いすべきでないのは、白士は幽鬼の師匠であっても保護者ではない。もしこの先も他の〈殺人鬼〉に遭遇したとしても積極的に守る気もないし、幽鬼もそれを望まないだろう。保護というのは優しいように思えて、相手を軽んずる暴力性も抱え込むのだ。
だが今回は違う。浄火は白士が潰し損ねた産物だ。自分が引きずっている遺恨に巻き込むのは本意ではない。
弟子を想う気持ちなんかではない。彼女自身のプライドのために決意した。
夢乃真愛____浄火を殺そう、と。
せっかくの決意を無粋にする、揉み合いの気配がした。斜め右の方角からだ。
白士は思わずため息が出た。殺し合う必要なんてどこにもないというのに。
もう見慣れた殺し合いだった。白士の到着と同時に決着は着いたようで、歯医者は心臓をバックスタブで貫かれていた。〈防腐処理〉は出血を抑制してくれるが、もう片方は白士を見つけると矯正中の歯を剥いて獰猛に笑った。その肌はペイントのように濃く赤く染まっている。
「おばさん、運がないねえ。俺様のこと覚えてるか?」
「はぁ?モブの名前なんて一々覚えると思うか?」
目の前の少女のことはバッチリ覚えていた。
このゲーム開始前に白士を襲った襲撃者のリーダーだ。どうやらあのあと、彼女もゲームに参加したらしい。
体格が良い。白士より高い___185cm以上ある。膨らんだ筋肉のせいで女性らしいくびれがほとんど殺されている。角刈りにしているので男と一瞬見紛える。唇、鼻、耳、顎、舌。ファッションというより、顔のバランスを意図的に崩すような付け方のリングピアス。これでも一応死亡遊戯に参加できているのだから、美少女の範疇らしい。
「あーーーー聞いてた以上にムカつくババアだわ。がーちあそこで殺しとくべきだったなぁ、失敗失敗。まあでも、この
「やるか?」
聞いていられない。白士はナイフを構えた。
「おいおい待てよ、この数、分かるか?」
角刈りの少女はゴツゴツした豆まみれの手のひらで3本指を立てる。何か武道の経験がありそうだ。
「なんだ?3?」
「ブッブー。7人。このゲームで、俺がソロで殺した人数ね。いやーいいゲームだわぁ。俺様、とにかく人殺したくてこのゲームに参加したからさぁ!可愛い女殺し放題とか金腹痛いくらいだわぁ!ま、このゲームとは関係なしにもう10人殺してんだけどね!で、次が11人目ってワケ。」
げっげっげっ、という天威が良く鍛えられた体をくねらせ、哄笑を響かせる。常人ならそれだけで精神を削られてしまうだろう。
白士は退屈そうにあくびをついて。
「なるほどなあ、これは飛んだ殺人鬼だ。じゃあ一つアドバイスをあげよう。どこの世界にも通じることだけど。中身のないやつが数を誇る。」
言い終わるより、天威が突っ込む方が早かった。
ナイフを構え突っ込んでくる、シンプルな突進。しかし天威の体格があればそれは戦車の如くアンストッパブルで壊滅的だ。
スピードもパワーも今の白士はもちろん、プロの格闘技者よりも上だろう。返り血を纏っている。すでに何人か殺しているようだった。
ズグ!!!!と白士の脳天のナイフが突き立てられる。
神経締めされる魚のように白士の長身が震えた。
(胴体をいくら刺しても死なないんだっけ?でもこれで流石に死んだだろ……..)
天威が勝利を確信した直後。白士の腕が素早く天威に絡みつき、そのまま突進の速度を活かして地面に叩きつける。
ズン!!!!!!!という屋上から落ちたような轟音と共に天威は意識を失う。役者が違った。まさしく鎧袖一触。スピードとパワーがいくら優れていても『格』が違うのだ。
彼女が次のアナウンスまでに目を覚ますか、までは白士の知るところではない。
脳みそを元の位置に戻し。服を探って5色のキャンディを全ていただく。明らかに緑の粉末だけが多く残されていた。やはり緑が毒なのだろうか?
この程度の敵は障害でも何でもない。
「グッドゲーム」
それだけ言うと彼女は歩き出す。その目的が生き残ることではなく、敵を排除するためなのは初めての経験だった。
「揉んでやるよ、ルーキー。30の壁は厳しいぞ?」
この話は面白かったですか?
-
面白い
-
まあまあ
-
面白くない
-
まだわからない