97回目の死亡遊戯   作:覚絵テネ

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パッと明るい声で場を盛り上げる。

 

「そうだ、師匠トークしようよ師匠トーク!仲良くなるには絶対これだよー!はい、いえー!!!」

「はぁ?私たち殺し合うんじゃなかったっけ?」

 

やや困惑した感じでユウキは答えてくれた。

内心、浄化はバクバクだった。

 

(今、バカにされた?)

 

クラスの陽キャによく仕草や口癖をマネられたのを思い出す。

この人も……なんだかローテンションだし、私と遊ぶ気はないのか?いや違う、このユウキさんはきっと少し人付き合いが不器用なだけだ。私も同じきらいはあるし多めに見よう。

落ち着け落ち着け。せっかく友達ができそうなんだ。落ち着け。

 

「お互い白士さんが師匠でしょ?白士さんの好きなところをあげていけば絶対もりあがーる森ガール!」

「森ガール?」

 

はぁ?というため息が思わずこぼれた。わざとじゃないならこの子は盛り下げる天才だな。

 

「あのさぁ……その冗談は突っ込まなくていい冗談でしょ。

 

(理不尽だ)とユウキは空いた口が塞がらなかった。

 

浄火はその様子を見てあれ、やっぱりバカにされているのだろうかと思う。

お前みたいな見ればわかるインキャと友達になるかよって?このゲームが終わったら白士さんたちと私の醜態について話し合うんだろうか。

 

「先にユウキさんから教えてよ。」

「ええと…顔?」

「……はは、それには同意。白士さんは顔もほんといい......」

 

ナイフを力強く掴む。

ぶちん、と脳の血管が切れた音がした。私の顔をバカにしているのか。白士さんの手前、人が空気よくやろうとしていたのに、完全にバカにされている。

惚けた顔をしてるユウキにぬるりと距離をつめる。

ナイフを無造作に突き出す。まるで肩を叩くような何気ない、虚をつく動作。一瞬ユウキの反応が遅れたが素早いバクステで距離をとられた。殺意が漏れてしまったようだ。

ユウキは非難するようにこちらを見つめる。

 

「何なのかと思ってたけど結局やるのか。」

「…は?」

 

その惚けた言葉にさらに怒りが増す。私の顔を馬鹿にしといて、しらばっくれやがる。ユウキの顔が私をいじめた連中と被って見える。

 

「は?私は悪くないですよって悪いのはお前ですよって?あのさあ、それいじめっ子の理屈だよ。いじめっ子擁護者ってホント頭おかしいけど、キミも同類なわけか。共感性が低いんだろうね。それか幼少期にまともな教育を受けられなかったの?あのさぁ、きみみたいな加害者意識の塊は白士さんの弟子にはふさわしくないよ。ったく、あの時殺しときゃ良かったなホント。何やってんだか失態失態。」

 

とめどなく溢れる言葉はユウキがこれまで対面したことのないタイプの悪意だった。

息を継がずに浄火は続ける。

 

「大体さあ、永世とかコヨミとかリンネとかキミとか、なんなの。君たちばかり白士さんに認められて、周囲からも弟子だと認められて。あ、リンネって知ってる?君の姉弟子に当たると思うんだけど。『私も弟子なんだ』って話しかけたけど、イライラする反応だったから殺しちゃったよ。」

「……ごめんあんまり話が飲み込めてないかも。何が言いたい?」

 

ユウキは悪びれもせず、ナイフを構えてジリジリと距離を詰めてくる。

 

「何が言いたいって、そりゃ全部に決まってる。お前の思想信条が気に入らないし態度が気に食わないし白士さんに目をかけられてるってのも気に食わない。」

 

ユウキはジリジリと距離を取る。何度も見た。冷静な被害者ぶった声に、さらに腹が立つ。私をバカにしてるくせに、平然とそんな態度取れるなんて信じられない。こいつらはいつもそうだ。大人の前では利口振りやがって。

こんな奴らがいるから僕は肝心な人からの愛をもらえないんだ。

 

「白士さんも他の弟子も_____私が___僕が殺してやる!僕様をバカにした奴は全員死ぬんだ!」

 

浄火は背を低くしたタックルと同時に持っていたナイフを、『渡す』。不意を突かれたユウキが手を差し出すのを見て、浄火は獲った、とほくそ笑んだ。

ここからは勝ちパターンだ。陽龍にしたように投げでユウキを昏倒させ、そのままぶっ殺せる予感がした。その感触を想像して口角が引き裂けんばかりに上がって____

次の瞬間、ユウキのローキックが顔面にめり込んだ。

 

必要以上に大きくもない湿った音が響く。鼻を潰され視界が白く染まる。

 

(あ、ありえな…..)

 

不意を着いていて、その上基礎スペックでユウキに優っている。だからカウンターが間に合うはずなんてなかったのだ。目を回している間に、ユウキが最小の動きでナイフを掲げるのが見えた。刀身が銀色の三日月を描く。

 

脊髄反射的に、指先と言った脳から遠い部分から順に後ろに飛んだ。直感に従えば無様なバクステになり、そのまま転倒して追い討ちで死んでいただろう。

 

あえて前へ飛び、タイミングをずらしたことでウィッグを犠牲に斬撃を潜り抜けた。その勢いで3度前転して一旦距離を取った。骨折した鼻を引っ張り、コキッという音と共に気道を広げる。

 

「な、なんで反応が間に合った…?完璧な不意打ちだったのに……ずるいだろ、卑怯だろ!」

 

「殺し合いの最中に答えてやる間抜けがいるか。」

 

ユウキはバッサリと切り捨てると共に、立ち上がる前にナイフをこちらに投擲する。横に転がって回避、それでも耳朶の先を抉り落とされた。耳が切られた際に、鼓膜も引っ張られてキーンとする。

 

投げた直後、さらに距離を詰めようとする。こんな、こんな水に墜ちた犬を棒で叩くようなやつに負けてたまるか。この遊戯で、私は最強じゃなきゃならないんだ!

 

「僕を見下すな!ナイフってのはなぁ、こう投げるんだよ!」

 

僕は壁から複数のナイフをもぎ取り、上半身のみで投げた。頭からは外れたが、白魚のように人脂でてらてらした髪を巻き込んでユウキの突進を止める。

 

「まだまだ!」

 

活路が見えた気がした。

ノールックで壁からナイフをさらにもぎ取り、硬く閉じた指の間に3本のナイフを挟む。

野球選手のような力強い体の捻りと共に、六本のナイフが放たれる。そのままでも当たるように3発、左右に飛ぶ避け方を予測してその先に3発。

軌道は完璧なはずだったが、ユウキの回避ステップの距離が予想外に大きかったので当たらなかった。

 

「_____っ」

 

外した瞬間、頭の中が白くなった。これを外したことなど一回もなかった。歯噛みして、再び壁からナイフをもぎ取る。2秒に一回、正確な狙いの投げナイフが空を切る。しかし、弾かれたり避けられたりして一発も当たらない。

 

「な、何故当たらねぇ!」

 

焦り、いくら叫んでも狙いがぶれていくだけだった。

 

地面を蹴って横に飛びながら、さらに3本のナイフを投げるなんて道化師じみたことをしてみるが、ユウキがそれを片手で払い落とすのを見て、歯を食いしばる。焦ったくなってナイフを右手で持って、左手の投擲に合わせて地面を蹴る。自分でもびっくりするくらい速度の出たナイフの振り下ろしはしかし、間合いに届かず服を切っただけ。

カーブをかけてみたり、あらゆる工夫をしても当たらない。

 

「クソゲーじゃねえか!当たり判定仕事しろよぉ….」

 

今度こそ比喩抜きに血管がブチギレそうだった。

 

投げナイフ一本で大抵の相手は仕留められるはずだった。浄火の投擲スキルは廃工場で朝3時から起きて練習したものだ。冬の朝でも片道20分を凍えながら自転車を漕ぎ、手の皮が擦り切れるまでひたすらに石を投げ、次に投擲用のナイフを投げ、今では刃物なら何でも10m先のランダムに動くレーザーポイントに当てることができる。

 

人間に掠らない、などと言うことがあるはずもなかったし、実際これまでナイフ一本で気に食わない連中はゲームのモブみたく沈黙してくれた。焦りは高まり続け、最後の投擲は浄火自身当たるとは思っていなかった。

 

「なんでよけるんだよ!ば、馬鹿にしやがって…..!」

 

浄火は右の奥歯を強く噛み締めた。

 

当たらない理由は、言うなれば格とか才能とか、そういうものの違いだった。浄火の攻撃が相手の動きを碌に考えていないオナニーじみたものだったとか不要な力が入っていてタイミングが読みやすかったとか、そういう細かな違いもある。でも一番はやはり格の違いという他なかった。ユウキにとって専門外の殺し合いだろうと、浄火程度ならなんとなくでいなせてしまう、そういうスペック以前の絶対的な隔たりがあった。

 

ユウキがナイフを浄火の胸にむけて突き入れる。明らかに反応が遅れてしまった。こちらもナイフをナイフで迎撃するが、受け方が悪かったのか私のナイフはパキンと折れ、パックリとした切り傷が刻まれる。悲鳴を上げる暇もなく、続け様に放たれた芯の入った蹴りが、レバーを捉えた。

 

「がぁああ!?」

 

蹴られる直前にその方向に転んだことでダメージは軽減した。がそれでも腹を引き裂かれたような痛みが走り、横に2、3回転してのたうつ。

 

こんなにコケにされたのは初めてだった。痛い、目が眩むほど痛い。泣きたくなるくらい。でもだめだ。負けたら終わり、負けたら僕はもう、この世界に、白士さんの夢見たのと同じ世界にいられない。

 

「それは、私にとって……!」

 

容赦無く薄い胸に向かって追撃が襲いかかる。倒れた浄火は完全に無抵抗で今押せば倒せてしまいそうだった。仮にここにいるのが戦闘のプロだったら、躊躇なく襲いかかって首を掻き切っていただろう。

 

(屈辱なんだ……!)

 

心中の叫びに呼応するように。

ぼっ、と迎え打つように浄火の口腔で何かが光った。

 

ドラゴンブレス。

 

ユウキが連想したのはそれだった。浄火の口から白く眩しい炎が流れ出た。炎の当たった鉄の壁は一瞬で表面が溶解し、空気が焼けただれる。口内に仕込んでいた火炎放射器が吹き荒れる。

 

「へへっ、これでぇ……」

 

このゲームでは体の改造は許されている。スイッチは歯を擦れ合わせることで出る火花。そうすると肺に溜まっていたガスに着火する。

浄火の持病で生産されるガスだ。闇医者に体を切り刻ませてまで仕込んだ持病の。

 

爆発する直前に、肺の空気を可能な限り絞り出し、また、周囲の気流をコントロールする必要がある。幽鬼と戦闘し、空気を切り裂きながらこれは仕込んでいた。

あとは、剣状突起を3回叩き、振動で肺の中をガスとそのほかの大気を分断する。

ガスが一直線に流れ出す経路を整えてやる。

 

そして、あとはこうだ。

火炎放射器の持ち込めないゲームの中では、まさしく超人の力だろう。

 

ユウキは灰になったに違いない。

 

浄火は永久歯になった部分は3000度を超える融点を持つ白銀のレニウム、舌や唇なども強化プラスチックで置き換え、肺はオイルが混じって漆黒になっていた。この改造をしてから食事の味なんて感じられなくなった。いつかするかもしれないキスに憧れを抱かなくなった。

 

拒絶反応も酷い。成長期が来ればさらに激しくなり、絶えず整形をしなければバケモノのような面になってしまうだろう。

 

(それでも前の顔よりはマシ。...ってまあ、今まで見逃されてきたけど)

 

両手を大きく広げ、浄火は一瞬勝利を噛み締めた。何か口の中から垂れてくるものがあって、吐き出すとそれは溶けた乳歯だった。これが最後の一本だった。下の歯だったので、背がよく伸びるように天井に投げておく。

 

(ヤッベ、色々溶けちゃってる。治してもらわないとなぁ……)

 

でも、でも、足音が聞こえた。背筋が凍る。

 

輝く煙の向こうから無傷のユウキが現れた。なんとなく、で彼女は追撃をせずに引いていた。

 

「...ほあ?」

 

ドラゴンブレス直前の独特の匂い、空気の流れ、そういうのを察知された__わけではない。

凡人の覚悟は天才の直感一つで回避された。

 

簡単に殺せるはずの幽鬼が、いつの間にか白い髪をオーラのように広げた魑魅魍魎に見えた。

 

「ご、ごめんなさい……ごめん、ごめんね?ごめんごめんごめんごめんごめんなさい!ほんとに反省してるんです!申し訳ないと思ってます!ユウキさんにも、これまで殺してきた人たちにも!」

 

浄火は、一転して体を縮こませて子犬のように怯え始める。それをユウキは追撃しなかった。こんな人間びっくり箱にもう関わっていられない、と判断したのか。

 

「ま、待てぇ!今僕謝っただろ!なんで謝ったのに許してくれないの?『私こそごめんなさい』って言えよ!教頭先生が言ってただろうが!喧嘩は買った方が悪いんだよ!!!!!!」

 

投げナイフを投げるが、それは避けるまでもなく見当違いの方向へとぶ。

 

追いかけようとするが、そこで5回目のアナウンスが鳴った。

 

『あおむしちゃんたち、ご飯の時間だよ!これでみんな満腹になったかな?いつつめのキャンディーを食べたら、さなぎさんに入ってね!鳥さんには襲われないようにね!』

 

チッと舌打ちをして、『青』の粉末をキセルに入れる。

 

これで摂取したのは赤、白、黄、青、青。どれも毒ではなかったようだ。あおむしの機嫌をとると、用済みになったキセルを手近なスピーカーに投げる。尖った吸い口がスピーカーに突き刺さる。

 

ユウキの追跡を再開しようとしたが、やるべきことを思い当たり、その場に崩れおちた。

 

腰蓑にしていた衣服を腕に巻き、左腕と口を使って毒に侵された右腕を締め上げて前もって止血。散々使ってきて毒が薄れてきたナイフを右腕に添える。これからやることを思うと頭がチカチカする。

 

辞めようか、と思う。これまでにやってきたこと全部。全部やめようか。

 

このゲームをなんとか生き残って、死亡遊戯なんかから足を洗って、会社とかいう社会の歯車として金持ちをさらに儲けさせるために人生を全て捧げようか。……いやだ、そんなのだけは。

 

魔法の言葉をつぶやく。

 

「殺す。」

 

そう言うとまだ体に活力が残ってくる。

 

何が悲しくて自分で手足なんて切り落とさなきゃいけないのだ。そういう泣き言を黒い殺意でベタ塗りにする。生き残ろうなんて都合の良いことを考えていたのが間違いだった。

 

ユウキの〈生存〉の才能は疑うべくもない。ならそこの土俵から下さなければ。私も死ぬ。そういう覚悟を決めなければ。折れてしまったらそこで終わりだ。また元のバカにされるだけの人生がふたたび始まる。

 

「違う、違う…!殺す、殺してやる……。死んでも殺してやる……。」

 

覚悟を決めたはずなのに、どうしてか言葉が震える。

ぞぶり、と骨の近くまで刃が侵入した。

ガリッ、と。

意外に軽い破砕音がして、右腕が墜ちた。

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