97回目の死亡遊戯   作:覚絵テネ

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-3→-2→−1で過去編です


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妙な話、無くした右腕がやけに重かった。

不思議な話だ。右腕の肘から少し先までの骨と肉が失われている。重量にすると5キロくらいはあるんじゃなかろうか?浄火の44キロしかない体の1/10以上が失われた計算になる。これは果たして、どれくらいの傷なのか。

 

人は何をすれば死ぬとか、いっぱい勉強したのになあ。思い出せないや。

 

意識がチカチカして、何のために歩いているのか時々わからなくなる。

時々すれ違う娘さんがいて、顔がよくわからないので焦って走る彼女らの頭に刃を突き立てて脳漿ぶちまけてもらう。ユウキではなかったが、その鮮血は何か、輝かしいものを思い出した。

 

その幸せな夢の中では、白士(ハクシ)浄火(ジョーカー)の方だけを見て笑っている。

 

(-2/27)

 

『ブレイド・ラビット』。意訳すると『首切りうさぎ』と言ったところ。浄火が2回目に参加したゲームだった。これをクリアすれば司法の目は真愛、いや浄火を見逃すとエージェントのお姉さんに言われていた。

のちに伝説となるキャンドル・ウッズのデモ版とでも言うべきゲームで、アイたち〈ウサギ陣営〉は〈冒険者陣営〉を3人以上殺す必要があった。

浄火は手際よく三人殺したが、その時点で精神は限界を迎えていた。だってそうだろう。

 

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未来の浄火が聞けば驚くくらい当たり前。当たり前すぎる倫理だ。

 

クラスメイトをやっちゃったのは相応の恨みがあったからだ。正当なる復讐だと自分に言い張ることができた。後に引けない、という気持ちもあった。それでも涙も止まらなかった。終わった後穴という穴から液体を出した。

そして数時間後に無関係の人間の胸にナイフを突き立てて『いや相手もこちらを殺そうとしてるんだから』なんて割り切っちゃう人間は完全に異常者(ジョーカー)で。

 

浄火はそうではなかった。無くした人を悼む気持ちが、ずっとある。

かといって健常者でもない。

ただの劣等な人間に、何かの間違いで殺人に特化した機構がついていたのだ。

 

かくして浄火は体力の面でも、精神の面でも限界だった。芋っぽいおさげが片方落とされて、乾いた喉に絡みつくモコモコにますます生気を吸われて、亡者より『よっぽど』だった。

 

クリア条件をクリアした後、半狂乱で逃げ続けていた。ステージである洞窟を転び擦りむきながら、どこか、誰もいない遠くに逃げたかった。

 

でも、そんな分かりやすく弱った獲物が見逃されるわけがなかった。

 

斧を持った敵プレイヤーに追い詰められ、成すすべがなかった。間合いの外に立っている彼女の温かい息が顔にかかり、目も光っている気がした。

 

「やめてください!ごめん、ごめんなさい!!!私が悪かったですから!もう殺しませんし、二度とこんなゲームにも参加しませんから!!!嫌だ、死にたくない!死にたくないよぉ!」

 

追い詰められると泣いて顔を振って泣き始める。

たまたま殺人の才能なんてものを間違えて持ち合わせてしまった、それ以外は普通の女の子の姿だった。人よりちょっとできないだけの女の子なら自分の感情を隠し続けて、人よりは劣るけど自分なりの人生ってやつを送れるはずだった。

 

けど、そうはならなかった。

 

学校では目立たない存在で、友達も少なくて、休み時間は一人で本を読んで、誰よりも早く家に帰る。そんなどこにでもいる少女が、こんな場所で血にまみれ怯えていた。

死を実感した瞬間、一番に恋しくなったのは人肌だった。

まあでも目の前の娘さんがハグしてくれるわけもなく。斧が自分の頭に振り落とされる直前。

 

その娘さんは直前でで脳漿ぶちまけた。背後から〈ウサギ陣営〉の仲間が金属バットをフルスイングしたのだ。ただでさえ人に振るのを躊躇われるそれは釘が埋め込まれてあって、持ち主の殺人への忌避感の低さを表している。

振り上げられた斧が足元に落ちるのも構わず、その人は私を見下して声をかけた。

 

「同じチームで良かったな。初心者だっけ?」

 

あまりにもスタイルがいいので、頭まで見上げるのにしばし時間がかかってきた。ハスキーで底冷えのする、けれど嫌な感じはしない不思議な声の人。暗がりの中でも、青ざめた瞳の輝きが目に焼き付いた。

飛び散った脳漿は空気に触れるとモコモコになって落下速度を落とし、まるで天使のようにその人を装飾した。     

 

「あ、ありがとうございます………」

「礼なんていいよ。恩を返したいなら1秒でも生きてくれ。」

 

嘘だ、とそれくらいすぐに気が付く。私のような雑魚がいくら死んだところで、この人に影響を与えられるはずがないのだ。だから、この人が私に力を貸してくれたとしか思えない。これまで誰にも見てもらえなかった、家族にすら見てもらえなかった、弱くて無様な私を。

 

別れ際にもらった、控えめな笑顔をもう一回だけでももらえたらどれだけ幸せだろうかと思った。

 

救世主の名前は白士と言った。その時から、真愛の人生は180度変わった。白士に認められるために、彼女はデスゲームに参加することになる。

 

ただの偶然だった救いが、真愛の中で大きな意味を持った。あの人がいなければ、私は死んでた。あの人が、私の心を救った。あの人に認められれば、それだけで生きる糧になる——その一心で、再びゲームの場に足を踏み入れた。

 

命懸けの体験はさらに白士への思慕を養い、いつしか信仰心のようになった。また、参加に並行して白士のデータを徹底的に集めた。初めて自分から知らない人にも話しかけた。

 

ゲーム界の行ける伝説、知っているなら誰もが認めるスーパースター。生活能力が不足していること、人付き合いが苦手なことなど、共通点もたくさんあった。

 

『キリがいいから99連勝』というあまりにもくだらない目標も知った。これだけは共感できなかった。10進数が廃止されて2進数の世界になったらどうすんだ?1111111、つまり127勝を目指すのか?

 

意味がわからない。言語化して意図を読み取ることができない。かっ飛びすぎている狂人の世界。

 

理解できない、だからこそ白士を求める心は萎えることなく燃え盛った。

 

初めて白士と握手した時、もう死んでもいいと思った。でも、欲望というのは限りがないもので。いつからか、白士と『本当の仲間』になりたいと思った。親友、恋人、何でもいい。白士が死ぬ時私のことを考えてほしい。私が死ぬ時白士のことだけを考えていたい。




あとキャンドルウッズが30回目のゲームだと勘違いしてました
じゃあゴールデンバスは一体何なんだ……?

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