97回目の死亡遊戯   作:覚絵テネ

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この世界にはデスゲームがある。あるんだからしょうがない。

さまざまな理由で現実世界からドロップアウトした少女が集まり、ちょっとエッチな服装を着せられて、命と比べれば安すぎるくらいの金を巡って殺し合う。

 

そしてデスゲームなんだから当然人は死ぬ。

フィクションのデスゲームみたいに一人を残して全員死ぬ、ということは流石にないが、おおよそ3割死ぬ。3割と書くと『割と行けそうやん』と思うかもしれない。まあ実際、一回プレイするだけなら生きて帰ってくる確率の方が高い。ゲーム中に腕などを失っても、運営が可能な限りで修復などしてくれるので後遺症のリスクも低い。けど、2回ゲームに挑めば半分以上の確率で死ぬ。10回もゲームを挑めば生存率はたった2%だ。まず死ぬ。

 

そんな確率論を踏まえると、デスゲームを79回目もプレイして生還している〈白士(ハクシ)〉こと白津川真実は例外中の例外、伝説中の伝説だった。

 

写真越しにではなく、生でその人を見れば一目で『そう』だとわかるだろう。豊満な肉体、キレる頭脳、専科百般のスキル.......などなどの特徴を隠したとしても、漏れ出る『オーラ』みたいなものがあった。芸能人などの一握りの人物と同じ類のものだ。

 

そんな彼女だから、80回目の大台となるデスゲーム……『パラサイト・ジャングラー』も特に危ういことはなかった。

参加者30人中、28人死亡の魔境においても、彼女の衣装である学園服に汗ひとつかくことはなかった。すでにクリアに必要な工程は全てクリアしている。あとは時間が経てば運営のものが迎えにくる、という状況でもう一人の生存者が話しかけてきた。

 

「すいません、白士さんですか?知り合いからお話を聞いたんですけど.......」

「ああ、そうだけど?」

 

話しかけてきたのはちょっとびっくりするファッションの少女だった。

あどけない顔立ち、中学生?もしかすると小学生だろうか。両手にだるだるに緩んだ包帯を巻きつけている。腰まで伸ばした髪は紫を基調に、青やピンクのグラデーションを薄くかけ、前髪の分け目から腰ほどまである長いメッシュをつけている。生まれつきの癖っ毛の白髪を伸びっぱなしにしている白士にはちょっと真似しようと思えなかった。

 

「じ、自分〈浄火(ジョーカー)〉って言います!ええと、その大ファンで……あっあっ、握手してもらってもいいですか?あと弟子にしてもらって良いですか?」

「握手……か。」

 

キラキラと目を光らせる少女に、白士は暫し迷った。彼女のゲームスタイルは〈利他〉。デスゲームという魔境の中にあっても、好意で近づいてきたものを荒々しい言葉で排除することは滅多にない。ゲーム開始直後にひよっこが話しかけてきたら応対するくらいの余裕はある。見込みがあると判断したら、弟子にして色々教えてやることもある。

 

けれど状況が状況だった。

このゲームの死者28人、そのうちのいずれにも白士は手を下していない。ほとんど、もしかすると全部、この浄火(ジョーカー)が殺したものだと白士は判断している。証拠の一つに、浄火の学園服は無数の微細な繊維が絡みついて、真っ白に染まり上がっている。

 

殺した結果なら赤い血ではなのか?と思われるかもしれない。

このゲームの参加者は〈防腐処理〉と呼ばれる人体改造を施され、血液や糞便などは空気中に触れると白い綿に変換される。観客の苦情を受け止めた結果なんだとか。

『自分グロは好きですけど、生々しすぎるのはちょっと』

『人間が死ぬのは良いけど動物はちょっと』

みたいな層がこんな狂ったゲームの観客にもいるらしい。

 

閑話休題、二人の少女の会話に視点を戻そう。

 

「あ、この制服ですか?僕、実はゲーム開始直後から白士さんをお見受けしまして、そこで白士さんカラーに染めてみました!ってちょっとやり過ぎましたかねってへへ......」

 

白士は怯えているわけでも、ましてや義憤を抱えているわけでもない。このゲームに参加している時点で、カルマはミニマムで殺人犯だ。単純に利害を考えた結果近づかれたくないだけ。しかし対応は難しい。仮にこの少女がうちに敵意を秘めた状態で近寄ってきたら、とっくに肉塊に変えている。その方が白士の得意な展開ではあった。そうなっていないのは、一切そういうものが見受けられないからだった。

 

むしろ隙だらけで、勝手に隣に座り、こちらに膝小僧を寄せてくる。

 

少女の首を、()()()4()8()0()()()()()()()()()。ごきゅ、という意外と小さい音が音が響く。少女の体は糸の切れたマリオネットのようにフラフラと歩き、無力に倒れる。そのまま動かなくなった。

 

(まいったな、簡単に殺せすぎる。)

 

今の殺人劇は白士のイメージだ。80回も殺し合いをしてきたのだ、戦う前から結果はもちろん、どういう過程を踏むかまでだいたいわかる。少女が反撃でもしてくれるなら手にかけても良かったのだが.......未抵抗の未成人を理由もなく殺せるほど、白士は殺人癖でもなかった。

 

「しょうがないな、ゲーム中に…」

「ありがとうございます!うひゃーーーーーーーっ!!!!!もう手洗わないぞ!!!!!」

 

握手に応えてやる。

殺人者であろうとも、喜ぶ子供は可愛いものだ。飛び跳ねる姿を見ると、白士も口がほころんだ。

 

「ところで君、これ何回目だ?」

「あ、3回目です。」

 

4回目はないだろうな、と内心でつぶやいた。

 

その後の弟子入りはなんやかんやで断った。浄火(ジョーカー)のセンスは〈殺人者〉のソレであって、死亡遊戯に最も必要な〈生存術〉ではなかったからだ。こういう手合いはどれだけ強かろうが長生きできない。あと単純に、もしLINEとか渡したら深夜に鬼電してきそうだった。

ゲームが終わり、浄火と別れるときは保健所に連れて行かれる犬を見るような気持ちだった。

 

 

 

白士の予想は外れ、浄火(ジョーカー)は白士が参加したその後10回全て白士に絡みにきた。皆勤賞である。例え敵対する立場であっても、殺す必要性がなくなると自ら腹を見せる猫のように無防備に甘えてくるので殺すに殺せない。

 

90回目のゲームでも浄火は相変わらず握手を求めてきた。

距離感が近く、許可したわけでもないのに勝手に膝を枕にされている。悪意を持った輩はともかく、こういう無礼すぎる輩へはあまり対処法を知らなかった。それに、そのうち死ぬだろう思えば縁を切るのも憚られた。

 

「ストーキングでもしてるんじゃなかろうな」と浄火に尋ねた。「同じプレイヤーとこの頻度でマッチングするなどありえない」

「や、エージェントが持ってくるオファーに全部参加してるだけですよ?」

「......お前、今何回のゲームだ?」

「え?29回目くらい?覚えてませーん。良い加減弟子にしてくださいよ。」

 

絶句。白士、人生で初めての絶句だった。

生存率70%のゲームを29回生き残る確率は0.003%。これはまぐれや幸運では説明がつかない数字だった。浄火がある種の天才であるのは明らかと言えた。だが、弟子にする気はなかった。

 

「……若さを感じるな。」

「……」

 

何気ない一言だった。

不意に、浄火が黙り込んだ。

 

「どうし_______っ」

 

顎が揺れて、天地がひっくり返る。浄火が地面につけた両腕をバネに蹴り上げたのだ。白士の体が宙に浮く。脳が揺れ、意識が暗転する。

 

白士の名誉のために言っておくと、ただの負けではない。これまでの9回浄火と同席した際、毎回その気になれば彼女の命を奪うことができた。毎回そんなゲームを繰り返したせいで、浄火に対する警戒心が薄れても不思議なことはなかった。

だからただの1敗ではなく、9勝1敗である。

 

「いや、今なら殺せるなーって。」

 

シャラン。

意識を失う直前に聞いた抜刀の音が、何故か鈴の根のように綺麗だった。

 

90回のゲームで、唯一白士は土をつけられた。

症状は頭蓋骨骨折、胸部への刺し傷、肋骨骨折に伴う内臓損傷及び低酸素症、大動脈の4箇所切断、左腕の開放骨折、臓器不全、頚椎損傷、多発外傷。元々ダメージの蓄積していた白士にとって、これらは致命傷になった。

その後白士は6回デスゲームに参加するが、浄火に出会うことはないまま、一人の弟子に全てを託して引退する。




3時まで起きている狂った生活習慣を直すべきか
投稿するべきか
迷ったので第一話です

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