25
『毒』と『解毒剤』を両方摂取した幽鬼に対し、ペストマスクたちは一瞥するだけでそれ以上反応しなかった。レバーを引くとタタタ、と飛行機は振動し、このゲームのゴールへ向けて発進した。
このゲームの勝利条件は2つ。
緑の毒を解毒剤の白と共に飲むこと。もしくはペストマスクの追撃を最低限回避すること。
その上で余計なことをせずに飛行機で脱出すること。
ろくなヒントもなしにコロシアイが始まる他のゲームに比べれば、あまりにも優しい。
理論上は全員生存でクリア可能な『最も優しいゲーム』はしかし、大量の犠牲者とともに幕を下ろした。現在150名中死者146人。死者のほぼ全てはプレイヤー同士の無益な殺し合いによるものだった。
そして、最後の犠牲者と共に幕は降ろされる。
26
でもまあ、そんな実感の湧かないことはどうでもよくて。
「
黒爪が風ごと肉を切り裂く中で、消え入るような声が漏れる。しかし飛行機に向かって這いずる白士にはしっかり届いたようだ。
「狂人のふりは楽しかったか?真面目ちゃん。」低く嘯く。
「何事も、やっているうちは。」
例え的外れで非効率的で害悪で、希望に似た絶望にすぎないとしても、その道は幸福だった。
多くの障害があった。サンドラとも友達になりたかったな、と思う。でも彼女らとの時間は心地よすぎた。狂人のフリなんて、やめてしまいそうなほどに。
サンドラだけじゃない。この狂った世界にも真っ直ぐな娘が何人もいて、その数だけ変わるきっかけがあった。普通に友だちができて、こんなゲームに参加しなくても生きる理由ができる。そんな誰もが笑って望めるハッピーエンドが。
でも、浄火はチャンスの数だけそれを選ばなかった。
その結果として、体の大部分を失い、片足にナイフ、片足で移動という道化師じみた戦い方で最後を迎える。
あと3手。
「向いてなかったよ。」
「ですね。でも、私に向いてるものなんかあったんでしょうか。結局ここですらあなたにすら認められず、爪弾きだ。」
「ちょっと待てよ。認めてないって?私の弟子にはいらないが。」
ペストマスクを道連れにしようとしていた浄火の足が止まる。生まれた隙は見逃されず、ついに膝小僧から先が引き裂かれた。文字通り引き裂かれる苦痛。
あと2手。
「誰が認めてない、なんて言った?」
「________」
視界いっぱいに広がるペストマスクの鉤爪、なんてどうでもよくて。
あと一手……
「お前は99連勝できなくて、ここで死ぬとしても。少なくとも私が生み出した中じゃ最悪の敵だったよ。」
「_________っ」
そんな優しい言葉、かけてもらったことなかったから。僕なんてどうでもいいなら放っておいて、さっさと行けば良い。憎たらしいなら一通り侮蔑の言葉を吐けばいい。結局誰から愛されることもない僕なんだから。そんな理屈に気づかず、あなたの中に私を残せたって思わせてしまうなんて。それはなんてお間抜けさん。
喉に爪が突き立てられ、ついに首から下と泣き別れすることになってもこれだけは言いたかった。
(______ありがとう、世界一理解から遠くて、だから大好きだった人)
体が黒爪で引き裂かれて、肉体は無様に悲鳴を上げていたけど。心で最後に感謝することができた。
精一杯紡いだのはこれまでに殺した人への謝罪とかを含められれば、より綺麗な辞世の言葉になったかもしれないけど、
僕にしちゃ良くやったほうかな。
僕は負けて死ぬ。なのに心地よかった。
26.5
白士は目の前で、自分を歪に慕っていた少女の頭が四散するのを見届けた。静かに飛行機を出す。残り{0:02}だったタイマーが停止する。
彼女には共感できないが、理解はできる。同じような少女は何人も見てきたのだから。
誰かの不幸は誰かの幸せ、という言葉がある。
96回もゲームをしていると、膨大な数の人間を殺し、また救ってしまったことになるのだろう。その因果について考えるのは、少なくとも今ではない。
試合会場から遠ざかる白士は、一瞥して。
「グッドゲーム」
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