97回目の死亡遊戯   作:覚絵テネ

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なんか悪寒と発熱が止まらないので第二話投稿です。


(2/27)、 (3/27)

91回目のゲーム終了後、浄火(ジョーカー)は一足先に会場を出た。

 

ゲームの熱狂なんてものはとうに過ぎ去っていて、残っているのは冷たい死骸だけだ。小さい背中を震わせる彼女の元にのもとに黒塗りの車がやってくる。中からシワシワのスーツを着た見目麗しいお姉さんが顔を出す。娘さんとはちょっと言えないお年頃に見えた。 

 

「お嬢さん、乗ってく?」

 

口調は軽いが、どこか命令染みている。このお姉さんは浄火担当のエージェントだ。デスゲームなんて世紀末のビジネスにしては参加者への支援が手厚く、こんなふうに運転手や生活の便宜も測ってくれる。

 

「それ選択肢ないでしょ………………。」

 

クスリ、と浄火は笑いながらドアに手をかける。しかし、ドアには鍵が掛かっていて開かず、きまずい一瞬の沈黙が流れる。

 

「あっちょっと待って今開け」

 

手遅れだった。

 

「あーーーーーーっ!クソ!クソ!クソ!クソ!なんで開かねえんだよ!死ね!死ね!」

 

浄火のヒステリックな叫びが響き、小さい足が激しく車のドアを叩く。外見の稚拙さとは裏腹に、少女のものとは思えない芯の入った蹴りで、ドアの凹みが深くなっていく。

浄火___本名夢乃真愛(ユメノマアイ)_____は感情の制御が苦手だった。デスゲームの参加前後は特に高まっていて駄目なのだ。

 

2.5/27

 

車内では助手席に座った真愛が、ウィッグを無造作に引き剥がしながらエージェントをチクチクと刺す言葉を連発していた。

 

「ちょっと、車右に寄りすぎじゃないですか?」

「車間距離詰めすぎですよ。ちゃんと睡眠取ってるんでしょうね。」

「まだ着かないんですか?両親が起きる前に帰れないと困るんですけど。」

 

悪気はない。ただそれが彼女の性分だ。それでもエージェントが仕事モードでなければ鉄拳の一つ二つは叩き込まれていただろうが。

包帯を外し、カラコンを眼鏡に変えるとクラスで3番目くらいの地味美少女になった。私服や手入れの行き届いた髪からは育ちの良さが垣間見え、デスゲームの参加者としては珍しい手合いだった。

諸々の感情を込め、エージェントはため息を吐く。

 

「ったく、修理は自分持ちなんですよ?勘弁してくださいよマジで。紫苑(シオン)といい、自分の担当はなんでこんなクソガキばっかりなんですかね。」

「………。」

 

クソガキこと真愛はムスッとしたが、反論はしなかった。苛立しいがどこか安心感がある。少なくともこいつは本音を隠さない。

 

「そういえばさ」と、エージェントが話題を振った。「あの場面で白士を仕留めてれば、お前、伝説になれたのにな。私もボーナスが入ってピースピース。」

 

「なんでそんなことする必要あるの?」真愛の声は少し低く、どこか拗ねた響きを帯びていた。

 

「テメェ日々言ってるじゃないですか。爪痕を残してやりたいって。」

 

「……どうせ殺せませんよ。白士さんは私の神なんです。あの人が死ぬ時は私が死ぬ時です。」誰にでもなく、足元に溢れた言葉は憧れと諦念に満ちていた。

 

エージェントは深掘りしない。ガキの子守は先住さん(シオン)で十分だったからだ。

 

「そういえば、行きでカチューシャ車の中に忘れて行ったよな。」

 

エージェントがふと思い出したように言うと、真愛が急に顔を明るくした。

 

「あ、それエージェントさんにプレゼントしようと思って……」

「……はぁ?おいおいマジかよ。」

 

にへら、不器用に笑う真愛にエージェントは呆れを隠さない。コイツはこれで真剣に仲良くなろうとしているらしいのだから救えない。それで下手に突き放すと殺しにかかってくる。

 

「……ありがとう。」

「うへへ……。」

「気持ちだけ受け取って……ってのも嫌だな。帰ったらすぐに捨てよ。」

「………お前ホント嫌い。」

 

真愛が睨むが、その目にはどこか楽しげな光が宿っていた。

 

3

 

夢乃真愛(ユメノマアイ)は自分の人生を呪っている。

 

進学校・私立天使学校大阪に通う高校一年生だ。

 

他のデスゲーム参加者と違って家庭環境に悲しき過去があるとかそういうわけではない。『全日本恵まれた家庭ランキング』みたいなのがあるならむしろ上位に入ると思う。

 

父親は中小企業の副社長。母親は公務員で課長。ともに年収千万円。姉は二人いて二人とも部活などで優秀な成績を残して有名国立大学に進学。もちろん彼氏がいて友達も多い。幼稚園では茶道、小中学では弓道を習わせてもらい、放課後は年間百万円の学習塾でマンツーマン指導。買いたいと思ったものは(真愛がそこまで積極的に主張しないこともあるが)全て買ってもらえる。

 

それでも真愛は自分の人生を呪っていた。世の人が『人は生きているだけで偉いんだよ』的なありがたい言葉をかけてくれようとも呪いが解けるはずもなかった。

 

イマイチ容姿が垢抜けない、心を開ける友達はいない、彼氏なんて当然できたこともない、模試の成績は常にE判定。毎日SNSで露悪的な話題に首を突っ込んでいる。いつもこんな事で頭がいっぱいだ。

ある日それが爆発した。

俗にいういじめがあった。先進国で最も実践的なその闘争に真愛は一定の勝利を収めた。

その首謀者たちを殺したのだ。我慢できなくなって、突発的にやってしまった。屋上から突き落とし、便器に顔を突っ込んで顔を溺れさせ、包丁で刺し、午後4時から午後6時の間に7人を殺した。思いついたら即やってしまえるだけの殺人の才能があった。

多分、相手が悪いと思う。真愛が気を引こうとして空気を悪くすることもあった。けど、いじめはいつも加害者が悪い。だから真愛は正しい殺人をしたと思う。まあ正しい正しくないはともかく、真愛はそれで殺人犯になってしまった。考える限りの証拠隠滅を施した後、真愛は路地裏をうろついていた。それが起死回生の、或いは致命的な破滅の始まりだった。

 

「やあお嬢さん、やらかしたねえ。現代警察は優秀だ。他殺は明らか、突発的なものとは思えない手際の良さ。まあ極刑かな?今は逮捕時未成年でも油断できないからねえ。」

 

黒塗りの車から、顔の良いスーツの女、後の真愛のエージェントが覗いていた。

 

「でも対応が良かった。そこに免じてご褒美をあげたいんだ……あるゲームに参加すれば、殺人罪を帳消しにしてあげられる、って言ったらどうする?」

 

こうして真愛はデスゲームの世界に足を踏み入れた。

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