97回目の死亡遊戯   作:覚絵テネ

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生活リズム以外の全てが幽鬼と違いすぎて絶望したので3話目です


(4/27)、(5/27)

4/27

 

白士(ハクシ)はいつものマジックバーでグラスを傾けていた。

 

今日は酒の進みが早く、高めの酒をジュースのように飲み干していく。このマジックバーは高級店という訳ではないが、値段を考えずに飲み食いしていればまあ、相応の金額になる。伝票がいくら積み上がってもペースを落とさない美女は絵にはなるが、バイトと思しき娘さんは不安そうにチラチラと様子を伺っていた。

 

白士はそれを気にしている余裕はない。理由は二つ。

 

一つ目は彼女が思い出すのは過去に参加したゲームで唯一ノックアウトされた経験だ。それが今日はやけに脳裏をチラつく。

確か90回目のゲーム。浄火(ジョーカー)とかいう少女に一泡吹かされた。強敵といより、不意に降ってきた落石のような少女だった。そのプレイスタイルは〈排他〉〈利己〉……いや、〈災害〉というべきだろう。白士のような生存第一のプレイヤーとは対極にある存在。一人でに消え去る定めにある反面、避ける以外に対抗手段がなかった。そうと知らず関わってしまった自分が呪わしい。

 

いくら飲んでも気分は晴れず、グラスを叩きつけるように置いた。

 

「お勘定で」

 

娘さんがホッとした顔で、ちょっとびっくりする額の会計をする。何度も伝票を見返しながら会計をしていた。

 

二つ目は現状の危機。このマジックバーの裏口を何者かが張っていた。多分命とかを狙われている。

96回も殺し殺されのゲームに参加した白士は星のような数の人間から恨まれている。いつもならさっさと気づいて返り討ちにして終いなのだが、今日は体調が悪すぎた。傷つき続けた白士の体は外見上健康でも、中身は末期の老人、いやそれ以下の死に損ない。敵意を纏った視線にすら気づかないほどに。

活路を求めてかつて専属だったエージェントに連絡を取ってみたが。

 

『というわけだ、助けてくれないか?』

『うーん、我々運営は引退プレイヤーの皆様には一切関知できないので。意地悪とかじゃないんですよ。』

『96回分のスターだぞ』

『ハロウィン・ナイトって知ってます?あのゲームの前に元スターが殺されちゃったんですよ。悲しいですねえ』

 

白士はスマホを握り潰す勢いでスリープモードに落とし、はぁーっっとデカ目のため息。

カンカンカン、とマジックバーのあるビルの階段を下っていく。残り五段。

次の瞬間背中に迫るものを感じ、飛び降りると駆け出した。

 

飛び道具を避けるための不規則なジグザグ走り。にもかかわらず、直後響いた銃声とともに二発が左胸を貫いた。

躊躇いがない、と口の中で称賛する。痛みもなく、白士はわずかに減速しただけで走り続ける。複数の襲撃者たちの足音が迫っていた。この辺は白士のホームグラウンドだ。調子の上がらない体を引きずりながらも、射線の通らないルートを選んで走り続ける。

 

曲がりくねった路地に入っていくと、赤ら顔で嘔吐しているサラリーマンが居た。

「あれ、どしたのお姉さん?」

内心すまぬ、と言いながらその横を走り抜ける。

 

 

悲鳴を聞きながら路地を抜けたところで、足元の中華屋の看板に弾丸が当たる。ああまずい、相手も狙いを切り替えたようだ。白士の体は諸事情でゾンビのような並大抵では攻略できない不死生を獲得した。だから頭や胸を撃ち抜かれる分には問題がない。

 

最悪のケースは足を打ち抜かれさらわれ、その後じっくりと『解体』されることだった。

 

次なる弾を避けるため、室外機の裏に隠れる。大した時間稼ぎにならないことは明らかだった。そこでスマホがピコンと鳴った。

 

『また参加するって言ったら助けてあげられますけど?』

 

返信する直前で、次なる弾丸が白士の右手ごとスマホを貫いた。

 

白士は歯噛みする。エージェントの意地の悪さにではなく、鈍さに。

 

(ここまでコケにされて参加しないわけがないだろうが…….あんなルーキーども、ゲーム内なら赤子のように捻ってやる。)

 

その思いが通じたのか。白士居る路地裏に黒塗りの高級車が現れた。そしてその車は、まるで速度を落とすそぶりを見せない。

 

襲撃者たちはまさか、と思う。路地裏のサイズは車がとても通れないサイズ…いや、室外機やダクトを無視すればギリギリ入るかもしれない。常識的に考えればあの車がこの路地に入ってくるわけはない。

彼女たちは気が付かない、とっくに常識なんて超越した世界にいることを。

 

そのまさかだった。

 

ゴガガガギュインブチブチギャアアッ!!!!

形容し難い轟音。

複数の衝突音の重なった異音が響き、車が路地裏に突入する。

 

5

 

視界いっぱいに車の黒が広がり、どかんという音と共に白士に正面からモロに衝突する。容赦ねえな、と笑みが溢れた。

 

人一人引いても速度を落とさず、白士を襲った襲撃者たちの体をピンポン球のように弾き飛ばす。襲撃者たちは皆年頃のから妙齢の、遠目に見ても魅力的な娘さんだった。おそらくライバルを減らす目的で、現役プレイヤーとも多く繋がりがある白士を狙ったのだろう。

白士の元々ボロかった体が四散する。人体模型のごとく臓器がバラバラに飛び散る、しかしダメージはない。すぐに四散した体がより集まり、元の細身の美女を形作る。

救われた、というには早計だ。運営の方針としては現役プレイヤー第一。彼女らを殺してまで引退済みの白士を助ける理由はない。娘さんたちは見た目のダメージとは裏腹に、すぐに起き上がりつつあった。

 

リーダー格と思しき少女が眼光鋭く白士を睨みつける。

唇、舌、鼻、耳。少なくとも4箇所にリングピアスを付けた角刈りの少女。体格がよく、今の白士が正面から戦える相手には見えなかった。

その様子を見て、方向転換を済ませた元担当エージェントがイタズラっぽく笑う。

 

「どうします?このままツタンカーメンみたく遺体を聖遺物にされたいなら帰りますけど。」

 

わかってるくせに、と白士は目を細める。しかし改めて宣言し、後部座席のドアを掴む。体に染みついた動きだった。

 

「やってやるよ、乗せろ。」

 

と勇ましく言ってみても現役の頃のガツガツさはない。それが無理だから白士は引退を決意したのだ。

身辺整理というやつだ。死ぬ前に余計な負債を整理してやろう____という暗い覚悟のため、白士は再びデスゲームに降り立った。

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