97回目の死亡遊戯   作:覚絵テネ

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6

 

縁鳥家は毎晩、家族全員で食卓を囲み、母と長姉の作った手作りの温かみ溢れる料理を囲む。たいていは長姉と次姉が立て続けに話題を出し、それに父母がリアクションするという形で会話が続いていた。真愛が話すことは殆どない。別に話したいことがない、というのもそうだが、特に自分の家族に苦手意識を持っていた。

 

この苦手意識の始まりはハッキリしていない。気がついたら、家族の中で疎外感を感じていた。特に堪えるのが父母は子供を紹介する時だ。『この元気なのが長姉の心火、生意気なのが次姉の浄子。大人しいのが末っ子の真愛。』というふうに紹介する。この『おとなしい』という言葉がまるで、真愛には褒め言葉以上に、枷のように聞こえるのだった。

心火や浄子が活発に周囲と絡み、可愛がられていく横で、真愛は目立たない死角でじっとしていることを強制されている気がした。父も母も暗くていつも部屋に閉じこもっている末っ子より、活発で甘え上手な二人を相手にするほうが楽しかったようだ。

 

姉二人も二人だけで毎夜のように遊びに行ったり通話したりする横で、真愛には必要以上の会話をしなかった。

 

食卓で真愛の話題が出る時は、いつも少し空気が重苦しくなる。

 

 

真愛(マアイ)、ところでテストの結果はどうだったんだ?」

 

父親の縁鳥真也が冗談かして尋ねる。そういうと、それまで明るかった食卓の空気が一気に冷え込む。

きた、と真愛は内心で呟く。

 

「はい。今度のテスト。」

 

その声は少しだけ跳ねていた。

彼女は前回よりも数学が良くなったことに気がついて欲しかった。何時間も勉強して苦手な公式と解放を覚えたのだ。テストの時はうまくいったか半信半疑で、答案返しの時は震えた。

返ってきた言葉は期待と180度違うものだった。

 

「……お前、これだけ勉強してこの成績はどうなんだ。いや違うんだ、お前が()()()()()とかじゃなくてな。勉強の方法が悪いんじゃないかと思ってね…」

 

父親はそのまま重苦しい口調であれこれ言ってくる。考えるのに夢中で娘の目頭に熱いものがこみ上げているのには気がつかないようだった。

 

それが溢れてしまう前に彼女は椅子をガタンと倒し、周囲が何かを言う前に家を飛び出す。冷たい夜風が頬を叩き、裸足の足が痛んだ。

路地裏で泣いていると、猫がやってきた。その夜に溶けてしまいそうな黒には見覚えがあった。真愛が小学生の頃からたまに遊んでいた野良猫だ。

たまにエサを食べてくれるのが可愛い。

 

「ほら、どうだ?」

 

たまたま手元にあった肉片を投げてやるが、猫は驚いたように飛び上がって逃げ出した。まあいきなり何かを投げられたらこういう反応になるのも無理はない。

はあ、と息を吐く。頭上にはエージェントが立っていた。見るまでもなく要件がわかる。

いつも通り慇懃無礼に用件を伝える。

 

「『バンド・オブ・キャタピラー』への招待に参りました。参加されますか?」

 

真愛が答える前に体が動いた。

乱暴に扉を開いて乗り込む。幸いにも今回は鍵はかかっていなかった。エージェントの財布は守られたと言うわけだ。

エージェントの車に置いてきていたウィッグを被り、深紅のカラコンを付け、右腕に包帯を巻く。

真愛____否、浄火(ジョーカー)の目はすぐ未来にある何かをじっと見据えていた。獲物を見据えた肉食獣のように瞳孔を大きく開いて。

 

デスゲーム史上、殺人数三桁に乗ったのは3人だけ。

 

彗星のごとく現れては死んでいった天性の殺人鬼・伽羅(キャラ)

自分もろとも全てを焼き焦がす憤怒の殺人鬼・紫苑(シオン)

そして正当なつ殺人と疑わない偏執の殺人鬼・浄火。

 

「荒れるな、こりゃ」

 

エージェントは淡々とつぶやきながら、規則に従って浄火に睡眠薬を手渡した。死亡遊戯は当然違法なので、会場などの情報は機密だった。

その瞳には上司からの叱責への恐怖と____隠しきれない好奇の光が宿っていた。

 

7

 

地獄へ向かう車を、街頭が白々しくも明るく照らし出す。

 

「それでね、テストに気づいてくれなかったんです。」

「……そう。」

 

内心では「早よ寝ろよ」と毒づいていたが、口には出さない。めんどくさかったからだ。浄火の感情の波は今に始まったことじゃない。

 

「ところでプレゼント。似合うと思うんですけど。」

 

浄火が取り出したのは、姉が持っていた髪飾り。百均のぷくぷくしたシールで不器用なアレンジがしてあった。

 

「……ありがとう。可燃で合ってるか?」

 

冗談とも本気とも取れる平坦な口調に、浄火がムッと眉を寄せる。が、答える前に瞼が重くなったようで、口答えの前に寝息を立て始めた。

これが…『最も優しいデスゲーム』〈バンド・オブ・キャタピラー〉の始まりだった。

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