97回目の死亡遊戯   作:覚絵テネ

6 / 23
下痢と悪寒が止まりません
というかこれでもう下書きの1/3使っちゃった


(8/27) 、(9/27)

8

 

目が覚めると知らない天井だった。

 

無論異世界転生ではなく、死亡遊戯(デスゲーム)の始まりだ。眉を顰めながら、硬い床に寝かされた体を起こす。浄火(ジョーカー)は他のプレイヤーよりも一足早く目を覚ましたようだった。元から不眠症のケがあり、毎回睡眠薬の効きも悪いのだ。周囲では数人のプレイヤーがまだぐっすりと寝息を立てていた。

 

「殺そうか?」

 

無防備な姿を見てまずその選択肢が頭を過ったが、一旦止めておく。〈協力型〉、つまり手分けして証拠とかを探す系のゲームなら今やってしまうのはまずい。それに、浄火は理由もなく人を殺すほどヤバ人ではないと自認していた。

頭を振って落ち着く。「えっちだな」と無意識に溢れた。その娘さんの服装の話だ。脱法紳士服、とでも言うべき奇抜ないでたち。上半身は英国紳士服とでも言うべきパリっとした橙のスーツ。また頭には探偵風のハンチング。しかし腰から下はいきなり紳士服が切り取られ、下に着せられているハイレグのようなものが顕になっていた。

これはこの娘さんが新手の露出狂だと言うことを意味しない。

死亡遊戯はエンタメだ。観客の皆さんの歓心のため、プレイヤーは皆寝ている間に運営が指定した衣装を勝手に着せられる。……ということは。

 

「うっへ〜……」

 

浄火の下半身も当然、鼠蹊部の皺がよく見えるハイレグだった。道理で寒気がするわけだ。何かはみ出してないか確認した後、手近な娘さんから服を剥ぎ取らせていただく。全く、浄火みたいなのが見た目基準をクリアしていることも含め、観客たちはいい趣味をしている。

男ターザンの腰蓑のように巻きつけると、少し落ち着くことができた。

落ち着いて周囲を確認する。一言で言うと巨大迷路。曲がりくねった通路で構成された空間のようで、青空のような白と青の壁に、緑色の樹上のオブジェが無数にはやされて複雑な通路が構成されている。

 

ここまでなら幻想的な光景でギリ済ませなくもないのだが、樹状のオブジェについているものが問題だった。葉っぱのように大量に付けられているのは、その形をしたナイフに見えた。その辺にいた女の子を弾除けにしつつ、慎重にそれをもぎ取る。

やはり、だった。緑色の鞘からは銀色の等身が除く。正真正銘の刃物だ。加えて刃には溝があり、緑色の液体が塗り込められている。9割9部毒だ。

〈対戦型〉か?『制限時間までにn人殺せばクリア』と言うようなゲームの総称だ。いやまだ判断には早い。〈対戦型〉なら接敵には時間が掛かるようにセッティングされているはず。

 

腕に目をやると、やや場違いなスマートウォッチがつけられていた。画面上部には{40:00}という表示がある。おそらく制限時間だが、浄火が運営の想定より早く起きてしまったせいかまだカウントは始まっていない。中央にはおそらく笑顔の青虫のドット絵。青虫の下にはゲージがあり、現状空っぽのようだ。

樹状オブジェに据え付けられているのはナイフばかりではなく、本棚があった。大半は教養が高まりそうな分厚い本だったが、異彩を放っているものがあった。絵本だ。タイトルは文字化けして判読不可だが、中では『おかあさん』と称されたキャラクターが『あおむしちゃん』…….おそらく私たちプレイヤーに向けて日本語でルールを説明している。

 

- フィールドに散らばる5種類の食べ物を集めてね

- 食べないと飢え死にしちゃうよ。

- でも毒入りの食べ物があるから気をつけてね

- 『とりさん』は美味しそうなあおむしちゃんを見つけると襲いかかるよ!逃げてね!

 

「毒入りの食べ物……?」

 

読み終わると絵本にナイフを突き立て、ビリビリに引き裂いた。アドバンテージは自分が独占するに越したことはない。もっとも、絵本は大量にあるようでそれは徒労に終わるのだが。

 

歩き始めるとすぐにあちこちに散らばったものに気がついた。小さいプラ袋に入った粉末。ヘロイン?毒物?首尾よく五つ集める。赤、白、青、黄、緑。裾ごしにつかみ、匂いを嗅いでみると甘そうな匂いがする。これがルールで書かれていた〈食べ物〉だろう。これを集めろということだろうか。浄火の推測が正しければこれらはリンゴ、ケーキ、スモモ、チーズ、ピクルスのメタファー。

 

ゲームにはよく『元ネタ』がある。今回のゲームは『はらぺこあおむし』だろう。食べ物のメタファーをヘロインじみた粉末に設定するのは流石に冒涜だが。

 

「しかし、いくつか違和感があるな。この子で試してみようか?」

 

ぽつりと漏らし、手近な少女の顔を覗き込む。何処か見覚えがあったが、イマイチ思い出せない。

背丈からすると中学生くらい。英米人のハーフだろうか?顔立ちにはまだ幼さが残っているが目鼻立ちははっきりしていて、彫りの深い美人さんになりそうだった。頭に被せられたハンチングもこの子が被ると絵になった。

 

飲ませてみようかな、とぷっくり膨らんだ頬を撫でた直後。

 

ピピッ!!!と腕のウォッチが音を立てた。見ると、[40:00]だったタイマーが動き出している。浄火の肩が跳ねるも共に、少女が目を覚ました。

ふっくらした唇が奏でる言葉は。

 

「おうじさま……?」

 

予想外の声に、浄火は目を丸くした。

 

9

 

浄火は頭の中の違和感を掴みきれずにいた。推論を進めたいのに、どこか引っかかるものがあって思考が停滞している。そんな時、顔のすぐ近くから声が飛んできた。

 

「ねーねー浄火ちゃん、違和感ってなんなの?」

「し、知らないよ。」

 

先ほどの少女が肩に頭を乗せて話しかけてくる。というか初めてなのに呼び捨てなんだ。陽のものって皆こうなの?ガチ恋の距離感なんですが。

 

「教えてくださいよぉ…絵麻(エマ)、このゲームが初めてなんですぅ…。殺されちゃうかもぉ……。」

そう言うこと(初心者CO)あまり言わない方がいいよ……?狙われても知らないからね。」

「やーん怖いぃ!」

 

やたら女がまとわりついてくる。女たちは絵麻、樹果(ジェシカ)陽龍(サンドラ)と言うらしい。

先ほど「おうじさま...?」と言ったのは陽龍だ。瞳が綺麗で、明るい茶髪と合わさってほんとの太陽のように輝いて見えた。

3人揃って初心者らしいので、組むメリットはあまり見当たらない。ゲームプレイヤーの例に漏れず顔が良いし乳が大きいのでそれ自体には不満はないのだが。情報はアドバンテージなのだ、ただで渡したくない。

 

だが浄火は顔の良い女と言う生物が大好きだった。上目遣いに質問されると、つい答えてしまう。

 

「えっとな、『食べ物は聖域』なんだ。基本的に食べ物に毒を入れられることはなかった。」

 

「ふんふん。ダメなの?」

 

一呼吸置いて、

 

「うん。絶対の領域。それに、わざわざそのことを警告されるのも気に掛かる。即死の落とし穴とかも平気で仕掛けるからね、この運営。『食べ物は聖域』。それはプレイヤーと運営の間で暗黙の了解とされているルールなんだ。このルールによって、プレイヤーは毒物を警戒せず、それ以外の罠に意気揚々と挑むことができる。運営も無用な心配はかけない方が、いい絵が撮れる。win-winの関係だった。今回それを破ったことをわざわざ公言してきたのだ。これからは既存の常識に囚われない運営を行います、というメッセージなんだろうか。それも違うと思うんだよね。食べ物に毒を入れても、それを公言したらわざわざ引っかかるやつはいない。それに、このゲームは敗者に過失を要求する。ほら、漫画のデスゲームだと司会者に逆らった奴が理不尽にも見せしめに殺されるとかあるじゃん?『神様の言うとおり』とか。ああいうのは基本起きないわけ。だから毒を識別するためのヒントがどこか、ある程度わかりやすいところにあるべきだと思う。」

 

そこまで一息に早口に話して、周りからの視線に気がついた。

 

三人娘がキラキラした目線でこちらを見つめている。浄火の早口が出ただけなのだが、それが逆にニュービーどもからは充実した考察ができる玄人のように映ったらしい。人狼に初めて参加するとやたら喋ってるやつが頼もしく見えるのと同じだ。

 

慣れない、憧れの目線だった。顔が熱って、襟足を掻く。心臓が跳ねる。胸がザワザワする。

 

絵麻が先に口を開いた。

 

「ねえ、浄火ってすごいね! さっきの説明とか、頭良すぎてびっくりしたよ。私なんてルール読んでも頭ぐちゃぐちゃでさ!元々バカなのにこんなゲーム参加しちゃって…….浄火が一緒にいてくれて助かったよ。」

 

「そ、そうでもないよ……ていうか勝手に決めないでよ」

 

浄火は絵麻の勢いにたじろぎ、頬を軽く掻いて目を逸らす。褒められるのに慣れていない彼女は、照れ隠しにナイフを手に持って観察するふりをして目を逸らした。

樹果目を輝かせて浄火の腕に抱きつく。豊満な胸の感触で心臓がドックンと跳ねる。

 

「いやいや、絶対すごいって! 私、こんな迷路初めてだし、何が何だか分からないもん。浄火がいなかったら、もう泣いてたかも。ね、私たちと一緒にいてよ!お願い!」

「おひょ、おへへふふぅ。もちろんだよぉ」

 

リアルな少女からの賞賛は非常に心地よい。学校、塾、家を往復する生活では考えられなかったことだ。

 

(あー絶対今きもい笑い方してる)

 

そこからは道なりに歩きつつ、雑談にもさらに花がさく。大した時間一緒にいたわけでもないのに、またそういう段階でもないのに、『うちら仲良し!』みたいな雰囲気が出来上がっていた。顔の良い娘さんたちに囲まれて、思わず浄火の口元が綻ぶ。人と話すのは苦手だけど、それだけに好きなのだ。

 

〈三十の壁〉という言葉がある。30回目のゲームでデスゲーム参加者の生存率は急激に落ち、達人とまぐれで生き残ってきた素人を区別するための一つの指標である。

 

浄火はこれが30回目だが、今のところ最高の滑り出しと言えた。

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