97回目の死亡遊戯   作:覚絵テネ

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はらぺこあおむし、なんとなく16世紀くらいの作品だと思ってたんですけど著作権バリ残ってて顔無くなりました
もう引っ込みがつかねえ!


(10/27) 、(11/27)

(10/27)

 

ゲーム開始した直後。

 

プレイヤーの行動は大きく3種類に分けられた。

 

一つは『対応者』。この割合のほとんどが初心者で、ザワザワしながらも具体的な行動をしているものは僅かだった。

一つは『収穫者』。フィールドに散らばる粉末を必死に集める者たち。食べ物とされるそれが勝利のカギだと信じ、動き回っている。『対応者』たちは徐々にこちらに鞍替えしつつあった。

一つは『隠密者』。遮蔽物の多いこのゲームで、目立つことを極端に嫌うもの。なぜか熟練プレイヤーの多くはこれを選択していた。

 

〈白士〉(ハクシ)は3種類目だった。

当初はこの三つのどれでもない『支配者』として君臨し、ゲームの流れをコントロールする予定だった。特に、『収穫者』が増加する流れは止めたかった。フィールドに落ちている粉末は有限だ。そうなれば、次は「奪って収穫しよう」という流れになるのは必然だ。

しかし白士は目立つことを極端なまでに避けていた。〈キャンドルウッズ〉……参加者300人中死者297人という最悪のゲームがやけに頭をチラついたのが理由の一つだ。あの戦いでミンチにされた白士は蓄積していたダメージもあり、引退を余儀なくされた。

 

〈利他〉を基本スタイルとする白士は通常、口数が多くなる。利害さえ一致させられそうなら周囲に話しかけて的確なアドバイスを与えると共に仲間を増やす。というか、撃ち殺そうとしている敵にさえ無意識にアドバイスをしたことがある。……その敵が今や弟子になっているのだから数奇なものだ。

 

閑話休題。

 

今回のゲームではその弟子……〈幽鬼〉(ユウキ)が同じゲームに参加している可能性があり、それも問題だった。彼女は白士が死んだと思って激情し、殺人鬼に戦いを挑んだことがある。その誤解はもう解けたはずだが、完全にゲームを引退したと思っているはずだ。それを無視して『いやーちょっとコレコレアレアレって理由で参加してるんDA☆』ってケロッとして話しかけるのは、ちょっと白士の気性に合わない。

いないでほしいなー、と目の前に飾られている西洋人形に語りかけた。造りが古く、おばあちゃんの家の倉庫とかにありそうな雰囲気だ。

あのバカ弟子が99回クリアという自分の目標を継いでくれたのは嬉しい、積極的に参加してほしい。それだけに、今会ったら気まずい。

 

「何より、殺したくないもんなぁ。」

 

幽霊を殺せる人間はいない、といつか言った。でも、白士は少なくとも例外だ。いつか弟子の脳天に銃を突きつけた日を思い出す。

 

「師匠のくせに弟子を殺す師匠なんて、なんたる師匠だよ。なあきみぃ、隣人と助け合えって聖書にも書いてるだろう?」

 

話しかけながら人形を引き裂く。その腹の中からいくつかの粉末袋が現れる。

嘆く言葉とは裏腹に、その目には好奇の光が見えた。幽鬼には期待している、それだけに全く知らないところでよく分からんやつに殺されたらガックリするだろう。そうなってしまう前に。

幽霊殺し、そう言うのも面白いかもしれない。

 

11

 

両手、ついでに背中に花だった。〈浄火〉(ジョーカー)は三方から自分より可愛い娘さんたちにくっつかれていた。脱出型の協力可能ゲームじゃないんだから、と内心で突っ込む。この子達は次のゲームで知らない悪い人にくっついちゃうんじゃないか?いやそれは今更か。

 

「ちょっと。いざというとき動けない。」

 

「だって怖いんだもん。ねぇ?」

 

「ねー!」「ねー……。」

 

絵麻が甘えた声を出し、樹果が調子良く、陽龍が遠慮がちに続く。性格はこのやりとりでも表れているようにそれぞれ違うし、体型もそれぞれ大・中・小。ギャルゲーみたいに個性豊かだ。

 

まあいいけど悪い気分じゃないしそれに私は君たちのママじゃねぇし、と心の中で返事。まあ、伊達にこれが30回目のゲームではない。初心者3人ごときエスコートするくらいの甲斐性はあると思う。

それよりも一人一人体を密着させられて、その個性を堪能していた。小さな花大きな花一つとして同じ花はないからナンバーワンにならなくてもいい元々特別なオンリーワンって感じだ。特に絵麻は大人しそうな外見に合わず全身が暴力的に膨張していて、近頃の娘の発育はムフフけしからん、と思う。本当に同じ国で育ったのか?

浄火は自分が〈利己〉のスタイルを取っていると自認している。他人に手助けなんてしないし、理由がなくてもたまに殺す。そのことで決して良心は痛めない。それゆえに他人とコミュニケーションを取る機会にかけていた。

しかしこれからはこういう〈利他〉的なスタイルを取ってみるのもいいかもしれない。そういうプレイヤーならこういうムフフな思いをできるかもしれないのだ。

 

妄想に浸るのも束の間、不意に不協和音が響いた。ゲーム開始から8分後のことだった。四人は顔を顰める。

目立たないところにいくつかスピーカーが仕掛けてあって、そこからだった。

 

『あおむしたち、そろそろご飯を食べましょうね。』

 

1文字ごとに『〜』が入るくらい間延びした、その上防災サイレンのような、わかっていても不安になってしまう音程と音量だった。ウォッチを見ると、表示されているあおむしが

 

><

 

こんな顔になっている。

 

アイはこういう不安げにさせる仕掛けには脳内でフィルタを作って意図的に無視できる。でも、他の三人はこれパニックになるだろうな、と思った。絶対だ。

 

「伏せろ」

 

浄火が咄嗟に出した声は響くのを恐れた、小さな声だった。伝わるのか不安だったが、樹果と絵麻は従順に背を低くする。素直な小娘を見てなんだか快感だったが、陽龍は硬直したままだった。まずい、と思う。このゲームで一番死ぬパターンはパニックでマトモな判断能力を失っている間に生存権を手放すことだ。

 

〈陽龍〉(サンドラ)の頬をつねる。

 

「伏せろ」

 

陽龍は電撃が走ったようにその場に崩れ落ちた。

 

その直後、どこからかペストマスクを被った大柄なシルエットが現れた。1秒遅かったら4人のうち1人は死んだだろう。黒い装束に身を包み、手には鉤爪を付けている。ルール説明にあった〈とりさん〉だろう。おそらく運営が手配した、一定の条件に従ってプレイヤーを殺害していく存在だ。雰囲気的にプレイヤーの反抗を想定していない虐殺者だろう。

 

幸いにして、ペストマスクは浄火たちに気づかず去っていった。

 

まずは、よし。

 

四人で近場の物陰に移動して、浄火が最小限顔を出して様子を伺う。

 

「私たちはどうすれば…」陽龍が震えを押さえた声で尋ねる。

 

「黙ってて」

 

「う、うん。」

 

異変はペストマスクだけではなかった。遠方で取っ組みあっている女の子たちが見える。多分2VS1。数の利を取られた女の子は一人に両手を拘束され、もう一人にザクザクやられている。陸に挙げられたマグロみたいに激しく抵抗していたが、次第に動かなくなる。あんな死に方は勘弁だなぁ。

 

飛び散る血液が空気に混ざり、白いモコモコに変わる。

 

「あれは死んだな……。」

「ねね、何してるの?」

「何って、殺してんでしょ。〈たべもの〉を確保するために。バカだなー。」

 

二人組のほうが去ると、後にはモコモコの塊だけが残された。上半身をひらきのようにされていて、周囲の髪や服の破片がなければ死体だと断じれないだろう。

 

一応死体を漁っていると、現実に理解が追いついたのか。絵麻がヒッと声をあげて体をゆする。暴力的な乳房が、ハイレグの先の太腿が揺れる。眼福だけど痛くないのかな、などと考えていた。彼女が怯える一方で、陽龍は打って変わって冷静そうだった。いや、唇を噛み締めて冷静であろうと努めている。素質があるなあ、と思う。死亡遊戯ではなく、もっと光がある場所で輝く類の才能だが。

 

「落ち着きなよ。殺し殺され、騙し騙され。覚悟の上で樹果もこのゲームに参加したんでしょ。」

 

「お、お姉ちゃん……。」

 

元々お嬢様っぽい顔立ちの陽龍が厳格な様子を見せると、ホントに名家のお嬢様みたいだ。尊敬する『あの人』みたいに私も弟子を取るべきだろうか。

 

「浄火、私たちはどうするべき?」

 

「別に、特段することはないよ。一人一つ『たべもの』を口にすればいいんじゃない?私、赤ね。」

 

言い終わる前にプラの包みを開ける。ゲーム開始時に置いていたキセル。おそらくコレに入れるのだろう。キセルの頭部に粉を入れると発熱し始め、甘い蒸気が漂い始める。タバコではなく、僅かではあるが覚醒剤が入っているようだった。

 

スゥーーーーッと吸うと脳にダイレクトな快感が通じる。

 

「フルーティー。味わうほどのイチゴの風味と酸味が鼻の中に入ってくる。下手なイチゴより香り強いかも。」

 

致死毒が入ってるかも、とは思った。このゲームは不条理に人の命が失われていくが、理不尽に奪うようなことはしない。この〈たべもの〉を食べないという判断ができうるか?否だ。なら、これで死ぬことはない。

みんなが見ている前で、口を開けてキセルの甘い煙を吐き出す。

すると、ウォッチに表示されるあおむしは笑顔に戻った。はらべこあおむしへの冒涜がすぎるだろ馬鹿野郎。

 

「早く食べなよ。指示したほうがいい?陽龍は青、樹果は白、絵麻はイエローね。」

 

いち早く指示に従ったのは陽龍だった。その様子を見て、二人もおそるおそる、蛇みたいに舌を伸ばして感触を確かめてから、ぼこぼこと発熱したキセルを咥える。

 

「何あじ?」

「……すもも。」

 

陽龍はクラクラしたのか頭を押さえながらはにかんだ。

 

こんな可愛くて適応力がある子と協力できたら絶対楽しいだろうな、と思う。毎回ゲームの終わり際に示し合わせて参加日を被らせて、二人で協力して様々な試練を乗り越えていく。そうすればワンピースみたいな『本当の仲間』というものができるかも!

 

「わ、私はチーズかな?これ………」

「私はミルクはっふぁ。」

 

絵麻と樹果は煙を飲み込むのをためらっていた。

二人をよそに陽龍が背丈の割に幼い顔を近づけてくる。いちいち思うけど顔がいいなあ。

 

「浄火、次はどうするべき?私たちもキャンディーを奪わなきゃいけないんじゃない?」

 

そう言いながらナイフを抜く。積極的だなぁ。強気な態度は妹をリードするかのようだ。

 

「いや、必要ないと思うけど。みんなもう5、6個以上拾ったでしょ?」

「でも、もっと必要かも。」

「ゲージと時間を見なよ。」

 

三人はウォッチに手を落とす。 

 

するとスラスラと考察を落としてくれた。

 

「なるほど、ゲージがこれで1/5埋まった。そして残り時間は32ふん。ここから考えると、8分に一度キャンディーを舐めることを要求されそう。だから私たちはもう必要数を満たしてる。だから殺し合う必要が……いや、むしろそれが狙い?それに、五個しか食べなくてもいいなら、5色のうち一色に毒が入っていても当たる確率は1/5で済む。これなら生存率70%を割ることはない。むしろ仲間がいればもっと確率は減る。」

 

「おお、百点。」

 

パチパチと陽龍を褒める。控えめに叩いてそこらの壁に設置してある葉っぱ型ナイフを見る。

 

「こんな露骨に戦略もへったくれもない殺し合いを助長するステージだからね。私が思うにこのゲームは100人いれば100人生き残れるようになってるんじゃないかな?ところが『もっとべものを集めなきゃ』みたいな勘違いさんがいるとそこからパニックになって余計な殺し合いで数を減らされる。」

「でも、私たちはもう大丈夫……。もう1/5のロシアンルーレットをクリアしたから。」

「そう、緑が毒入りとすれば、それ以外の色を避ければいいだけ。うん、16個以上あるからこれで命はつなげるね。だから私達はもう逃げてるだけでほぼ勝確なんだ。」

 

タイミングよく、口から何かを吐き出したままくたばっている女の子を見つけた。1/5を引いたのかかわいそうに。

講釈を垂れていると、樹果が泣きながら抱きついてきた。少し痩せた体の感触が服越しに伝わってくる。

 

「ごめん!」

「え、ええと…なんで?」

「私、浄火のこと少し疑ってた。それで判断が遅れた。ホントにごめん。」

「いやいや、そんなの気にしないよ…。」

 

樹果は涙目でこちらを見上げて、

 

「ホントに…..?」

 

と言った。

 

「え、ホントホント!」

 

「絶対見捨てない?」

 

「見捨てない!」

 

「絶対?」

 

「ぜぇぇったい!」

 

やだもう可愛い。絶対にこの子達は生きて帰そう。

 

「でももう安心だね。」

 

「いや。」

 

「いや?」

 

確信をもって呟く。

 

「荒れるよ、このゲーム。」

 

その証左のように、血走った目を物陰から出てきた娘さんたちから向けられる。 

 

その三人はもっとも手近だった樹果を羽交い締めにして、その細い首にナイフを突き立てる。妙に手慣れてる。もうすでに何回かゲームを勝ち残っているのだろうか。

 

「キセルを渡しなさい。そうすれば命は……」

 

言い終わるより先に、戦闘の娘の喉にナイフが生えた。否、誰にもそれが飛んでいる姿は見えなかったのだ。手首のスナップのみで投げる、最小の動きから放たれる浄火の〈投擲術〉。

 

娘さんたちは一瞬で戦意を失い、踵を返す。その背中に投げナイフを叩き込むと呻いて倒れる。しかし痛覚って不自由なものだ。痛みを忘れて走れば一人くらいは逃げられた。生存のためにあるソレのせいでこの娘さんたちは命を落とすのだから。

一応、首を締め上げられた樹果の安否を確認する。

 

「来世に向けてアドバイスだ。交渉って強いものの特権なんだよ?」

 

そこから起こったことは虐殺。そう形容するのが一番いいだろう。不死身じみた体の手合いもいるので、首と体はしっかりお別れしてもらう。その上で、努めて事務的に肉体の方もかっ捌いた。

 

「浄火.....」

「いらない」

 

陽龍が胸元にナイフを持って駆け寄り、解体に手を貸そうとしたが、鋭く制した。その華奢な手は震えていた。助力はこの場を納める上で不要だし、何より殺人者になってほしくなかった。彼女らにはこのゲームに極力参加せずに勝ち残ってもらい、そしてその後2度と関わらない。ソレが多分唯一の救いある未来だった。

3人を離れたところにとどめおかせ、解体を終えた浄火はじっと立ち尽くしていた。樹果の震える手が彼女の腕に触れ、絵麻とサントラがそっと寄り添う。浄火は目を閉じ、その温もりに一瞬だけ、ほんの一瞬だけ身を委ねる。

 

あぁ、暖かい。

 

(ああ、いやだほんといやだ……ここで騙し討ちでもしてくれるなら、死なずに済むんだけどなあ。)

 

深い、深いため息が漏れた。

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