97回目の死亡遊戯   作:覚絵テネ

8 / 23
ex.

浄火(ジョーカー)陽龍(サンドラ)絵麻(エマ)樹果(ジェシカ)の4人は陣形を組んで会場を練り歩いていた。浄火がまず先行して、不審な罠や敵がないか調べる。陽龍が背後を警戒。絵麻、樹果は会場にセットされている一見無意味に見えるオブジェクト____たとえば分厚い推理小説や調度品など____を比較的安全な真ん中で検証してもらう。1箇所に留まり続けると他のプレイヤーから強襲なりの標的にされるので危険だ、と浄火が発言し、また対応するためのフォーメーションも浄火が提案したものだった。

 

陽龍は浄火の後ろ姿を熱っぽく見つめていた。

先ほど、浄火という少女は『殺人』をしたばかりだ。陽龍の妹であるジェシカを守るための行いだった。それでも、良識というものがある人間なら、浄火の行為を一通り責めるべきなのだろう。『もっといい方法はなかったのか』『殺人なんて最低だ』みたいな歯の浮くような言葉を並べて。

でも、陽龍はむしろ心臓が高鳴るのを感じていた。ナイフを握る手が、拭いても拭いても汗ばんでくる。後ろについてくる者がいないか常に気を配らなければいけないのに、気がついたら浄火の一つ一つの仕草を観察している。太ももまで剥き出しになった生足に目を吸われていると、浄火が振り返って。

 

「陽龍、疲れたの?」

「う、ううん!大丈夫!」

「そっか。授業よりよっぽど短い時間だから頑張って。」

 

話終わると、大きくため息がもれる。まるで、憧れの先輩と初めて話せました、というような。ぷっくりした頬は赤く染まって、いつまで経っても治らない。恋をした乙女のような挙動だった。

 

⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

 

サンドラ・イルミナティという少女はその子宮のみを望まれて生まれてきた。

 

彼女の生家であるイルミナティ家は所謂闇社会の重鎮だ。治安維持と経済活動に強力なコネクションを持っており、日本でおける行方不明者の8割、国家予算の5%に何らかの形で関わっている。この殺人遊戯にも一枚噛んでいるとされる。

たとえ殺人事件だろうが白を黒に、黒を白にできる、まさしく支配層。

 

そんな一般人とはかけ離れた家に生まれたが、サンドラの人生はけして安泰とは言えなかった。

闇社会というものは一件無秩序で何者にも束縛されないと言うイメージがある。しかし、実際は表世界よりも厳格な上下関係があらゆる所に張り巡らされている。イルミナティ家内部も例外ではなく、この家における女性とは、男性の装飾品の一つでしか無かった。

自らの見た目に毛ほどの気も使わず醜く肥え太った夫の自尊心を傷つけないため、頭も知識も精神も弱く愛でる時にだけ価値がある、それこそ花のようなはらみ袋として育てられる。だからイルミナティ家の女はたいてい精神薄弱で、旦那が死ねと言えばそのまま食を絶って死んでしまうようなものが大半だった。

 

この政略結婚の許嫁は生まれる前から決まっているのが通例で、サンドラの相手はインテリで、付き合う相手に自分に劣らぬ知性を求めていた。そのためサンドラは他の同家の女と違い、哲学から芸術史まで、一通りの教養を身につけられて育てられた。しかしそれは結果として、彼女が自分の現状に疑問を抱くきっかけとなった。

『自分だって人間だ、自分のために生きる権利がある』みたいな。ともかく、彼女は抑圧されるだけの人生を良しとしなかった。

 

彼女は最低限の現金だけを持ち、妹のジェシカを連れて家を出た。

イルミナティ家からの追っ手はこなかった。振り切ることに成功したのか、はたまた二人は両家にとって無価値とみなされたのか。

ともかく、そこから二人にとって自分たちのためだけの新しい人生が始まるはずだった。

 

しかし、現代の日本社会が身元も明らかにできない14歳の少女二人が幸せに生きていけるほど健全ではない。サンドラは人並み以上の知識があったが、どうやって雑談をするのか、とか、電車にはどうやって乗るのか、みたいな最も基礎的な能力が欠落していた。加えて、サンドラは.....どうしようもなく弱かった。

二人は帰るところのない子供達に教えている非営利団体の学校に通い、そこではいじめられている子がいた。このいじめを解決することが、自分の強さを世界に証明するための第一歩だと思い、その子を庇い続けた。結果として、いじめの標的がサンドラとその子の二人に増えただけだった。

しばらくしてその子とサンドラはいじめられなくなったが、それはカースト上位の男子に運よく気に入られたからだった。

サンドラの必死の闘争より、より上位の男と多少仲良くしたほうがよっぽどその子のためにはなったのだ。

 

何も報われないまま生活は困窮し、二人は半グレグループの下っ端として働くことになった。そこに待っていたのは、自分自身が生まれた意義や夢を追求する日々などではない。危険なだけで実りのない犯罪行為の使い捨ての駒として使い捨てられるだけの日々。ロクな生活費も得られないのはもちろん、『仕事』以外のシーンでも、精神的にも肉体的にも搾取されるだけの日々。

サンドラもジェシカも日に日に弱ってゆき、このままでは悲劇的な末路を迎えるのは明らかだった。

 

サンドラは変わるきっかけを欲した。

誰かに搾取され続けるだけの自分じゃ嫌だ。自分の我を貫き通し、愛すべき妹くらいは守るための、強さが欲しい。

 

その時に耳に入ったのが『死亡遊戯』の話だった。

いたいけな少女たちが殺し合い、代償に大金を得られる狂った遊戯。大抵の参加者は大金に魅力を感じるようだったが、サンドラが欲しがったのは『殺人経験』だった。金を手に入れたいだけなら、その、『もの好き』に近づけばいいのだ。尊厳を失うことになっても、いくらか安全に金が手に入る。

だがこの遊戯に参加して『殺人』経験を積めば、この残酷な世界に自我を貫き通すための強さが手に入るのではないかと思ったのだ。

 

この遊戯に参加して、初めて目にした女の子____『浄火』は不思議な印象を持つ女の子だった。

彼女は目が覚めたサンドラを至近距離から覗き込んでいた。まるで白雪姫に口付けして起こした王子様のように。

ちょっとビックリする髪色とボリュームのウィッグ。紅いカラコン。だるだるに巻きつけた包帯。サンドラと年が変わらなさそうに見えるあどけない顔、そしてそれに似合わない冷静な状況判断能力、そして何より殺人というこの世最大の暴力を平然と震える、残酷さ。

 

残酷さとは、強さだ。

 

浄火はサンドラの運命を変えるために現れた、魔女か、王子様に思えた。

 

この話は面白かったですか?

  • 面白い
  • まあまあ
  • 面白くない
  • まだわからない
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。