境界線の先に何を見る   作:ただの紅茶好き

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第四話 あり得た可能性

 リーパー、それはアンデット系の魔物の中でも最高位の魔物。リーパーは現状第20階層の中でも特殊な条件下にのみ出現する魔物だ。

 

 それが今、第5階層にいるのだ。明らかに異質、そういう他無いであろう。

 

 そしてアインも流石に状況を理解したのかリーパーを発見した直後全速力で墓地から走り去った。自分がポーションとスクロールを落としていることにも気づかずに。

 

 ――――まずい、まずい、まずい、なんでリーパーが第5階層にいるんだ!?

 

 アインは最短ルートで横穴から出て森を抜けていく。そのまま一直線に森を抜けようと走る。

 

 しかし運が悪かった。森を抜ける直前に黒蛇に左足の腱に噛みつかれてしまった。

 

 即座に黒蛇に噛みついた黒蛇を斬り殺すことで最悪な状況を避けることが出来た。

 

 しかし条件が好転した訳では無い、むしろ悪化している。左足の健が切れてしまったのだ。よってこれ以降左足を使うことが出来ない。

 

「クソ、ポーションは…嘘だろ、落とした?」

 

 アインは自分が今抜けかけた森を見返し引き返してポーションを取りに行く危険性と自身の左足の傷を放置しておく危険性を天秤にかけた。

 

「このまま進むしか無いか…」

 

 アインが出した結論はポーションを無視して帰還を優先することであった。

 

 アインにとってはこれが最善の選択であると信じている。

 

 それでも左足を失った影響は大きい。まずは機動力を大きく失ったことである。

 

 アインは自分が冒険者の中ではそこまで足が速い方では無いというのは理解している。それでも一般人には絶対負けない程度の速度を出せるのだ。その機動力を大きく失った影響は計り知れない。

 

 しかしそれでも走らなければならない。走って帰らなければならない。ギルスと約束したのだから。

 

―――――――――――――――

 

 あれからどれだけ走ったのだろうか、最早自分が今どこにいるのか、本当に帰れているのかすら分からない。

 

 途中魔物との接敵があり左腕を負傷してしまった。

 

 他にもあれからずっと左足を引っ張って走った影響でもはや左足は使いものにならないほどぐちゃぐちゃになっていた。

 

 右足は左足ほどでは無いが道中の尖った石で靴が裂けてしまった後素足で走り続けた影響か足裏の皮がめくれ、肉が裂けておりその部分が膿み、爛れてしまっている。

 

 だがまだ右腕は生きている。ならば走ることをやめる理由にはならない。

 

 例え這ってでも帰るのだ。

 

 しかし現実は非常であった、身体から力が抜けていく。立って歩くどころか這うことすら出来ぬほどに力を入れることが出来ない。

 

「まだ…だ、まだ、進める…」

 

 諦めの悪さは人一倍ある自分だ、どんな状況であろうとも決して諦めない。しかし現実はそれを許さない。

 

 力を込めようとしてもその場所からすぐに力が抜けていってしまいその場から動くことすらままならない。

 

 ならば周囲の冒険者に助けを求めようとなんとか周囲を見回す。しかし誰もいない。

 

 この状況をなんというか、そう詰みである。

 

 十分よくやったではないか、こんな自分の最期としてはあまりにも贅沢なものであった、そう思えるほどに努力したのだから。

 

 だんだんと身体が冷えていくのが分かる。今の自分には自身の身体とダンジョンの地面の境目が分からないほど衰弱しきっている。

 

「ダメだ…コレ…死んだ…な…すまないギルス…約束、守れそうに無いや…」

 

 そう呟き意識を闇に落としていくアイン。しかしアインが最後に聞いた声は自身の弱音のような呟きでは無く。

 

「お前、境界線が見えているな」

 

 水面を踏んだ時の様な水の音と聞き覚えのない女性の声と意味の分からない言葉であった。

 

―――――――――――――――

 

 目が覚めると自分は霧のかかった水面に転がっていた。

 

「どこだ?ここ」

 

 そう呟き周囲を見ますアイン。周囲には一面霧と水平線しか見えなかった。

 

 だが次にアインはとある違和感に襲われた。

 

 足が痛く無い。左腕が問題なく動かせる。そう、アインが先ほどまでおっていた傷が全て完治しているのである。

 

「いったいどういうことだ?」

 

 見たこともない空間に謎の治癒、アインはこの状況をどう解釈するべきか悩んでいた。

 

 そんなアインを横目に背後から一人の女性が声をかけて来た。

 

「目覚めたか、半分賭けだったが成功したなら何よりだ」

 

 そう先ほど意識を失う直前に声をかけて来たあの女性である。

 

「いやはや、お前みたいに境界線が見える奴を見殺しにするのは困るからな」

 

 わけが分からないことを言っている女性に対してアインは思わず心に閉じ込めていた言葉を口にしてしまった。

 

「誰ですか貴方?」

 

 アインはしまったと言った様な顔をしており目の前の女性はその質問にわけが分からないと言った様な顔をしていたがすぐに納得した様な顔に変わった。

 

「あ、自己紹介をしていなかったな私の名前はカロナ、初代渡し守カロナだ」

 

 アインは心の中でまた知らない単語が出て来たと思ったがあえて口には出さなかった。しかしカロナと名乗る彼女はアインの心を見透かしたかの様に次の言葉を発した。

 

「まぁいきなりこんな所に連れてこられた挙句訳のわからないことを言われて混乱しているよな。いくつか質問を許そう」

 

 どこか傲慢さを感じる態度だが気にせずアインは気になったことを口にしていく。

 

「あーカロナ…さん?まずここは何処なんですか?なんで俺の傷が治ってるんですか?あと境界線と渡し守ってなんですか?」

 

 アインはここぞとばかりに気になっていたことを洪水の様な勢いで伝えて行く。流石にこの勢いを処理し切れないためカロナは思わず。

 

「落ち着け!一つ一つゆっくり伝えてくれ」

 

 驚いた様な表情を見せながらアインを嗜めていった。

 

「あーまずここが何処かと言う質問の答えは全てに繋がる湖だ」

 

「全てに繋がる湖?」

 

「そう、簡単に言えばある一箇所を除いて全てに繋がっている場所だ」

 

「全て…ん?ってことは…」

 

 全てに繋がると聞いてアインは気になったことを質問した。

 

「あの、全てってもしかして自分が別の選択をした場合にも繋がっているんですか?」

 

「ん?並行世界のことか?それなら繋がるぞ?」

 

 並行世界、アインはまた知らない単語が出て来たと思ったがカロナの態度から察するに自分が別の選択をした世界の事なのだろうと解釈することにした。

 

「例えばさっきお前がポーションを取りに引き帰った場合も見れるが見てみるか?」

 

「え!?いいんですか?」

 

 自分の違う未来が見える。それを聞いたアインは思わず歓喜してしまった。

 

「と言ってもつまらんぞ?ただお前が後ろか来た黒蛇に噛みつかれまくってそのまま死ぬだけだ」

 

 カロナが冷静にそう伝えるとアインはその世界への興味が途端に消え失せてしまった。

 

「もういいか?次の何故傷が治っているのかだかこれは私が他の世界のお前から拝借してお前が失った部分に付け足したからだ」

 

 他の世界から拝借して付け足した。アインはそのことを聞いて思わず自分の傷があった部分を見てその後カロナに質問した。

 

「それって大丈夫なんですか?」

 

 それに対するカロナの答えは単純なもので

 

「当面は大丈夫だろうな」

 

「当面はってそれ以降はどうなんですか!」

 

 アインの怒りも無理はない、何せどんなことが起きるか分かっていない魔法をいきなりかけられた様なものなのだから。

 

「知らんし、知る気もない。じゃあ最後の境界線と渡し守についてだな」

 

 自分の話をぶつ切りされ若干のモヤモヤするも気にしていては大事な情報を聞き流すかもと思いカロナの話しに集中する。

 

「まず境界線について、これはその名の通りあらゆる境界に出現する線だ。例えばダンジョンの最短ルートとそれ以外の境界線なんかだな。お前のその魔物の弱点の近くが見えるってのもの境界線が写し出されているんだ」

 

 今までの自分が見て来たものが境界線だと言う事に驚きを隠せ無いアインだったがカロナはそんなアインを無視して次の説明を始める。

 

「次に渡し守についてだがこっちは簡単に言うと死者をこの世からあの世に連れて行く役割の総称だ。その仕事の内容を渡しと言う。だが教会の連中と一緒にすんなよ。あいつらがやってるのお祓いだ」

 

「祓いと渡しって具体的にどう違うんですか?」

 

 カロナはまるで教会の人たちと一緒にされたく無い様子だったので具体的にどう違うのか聞いてみた。

 

「いいか、お簡単に言えばお祓いは死者をこの世から消す事。一方渡しは死者をあの世に連れて行く事」

 

 全く違いが分からん。それがアインの抱いた第一の感想である。しかしカロナは続けてこう説明する。

 

「お祓いは死者をこの世から消す、つまり死者を殺す行為だ。しかし渡しは死者をあの世に連れて行く事で別の魂として生まれ変わらせる…すなわち魂を循環行為なんだ」

 

 アインはその説明を聞いてやっと理解することが出来た。

 

「さてと、ここまで説明したんだそろそろ本題に入るぞ?」

 

 そうカロナが言った途端周囲の空気が重苦しいものに変化した。

 

「なぁに、とって食おうって訳じゃないさ。お前強くなりたいんだろ?」

 

 今回自分がダンジョンに来た理由を見透かされて驚くアイン。しかしそれを気にせず会話を続けるカロナ。

 

「お前、私の弟子にならないか?」

 

 弟子にならないか、それはアインにとって衝撃とも言える言葉だった。

 

 強くなれるチャンス、是非ともと言いたい所だがカロナの強さを知らない故にアインが出した回答は

 

「カロナさん、俺はまだ貴方の強さを知りません。ですから俺と一度勝負してください」

 

 それは相手に礼儀を欠いているとも思われかねない行動であった。しかしカロナはそんな事まるで気にしないかの様に不敵に笑っていた。

 

「いいだろう、相手してやるよ」

 

 そう言ってカロナが取り出した獲物は船を漕ぐパドルであった。

 

 予想外の武器に流石に困惑するアイン。そんなアインを無視してカロナはルールの説明に入る。

 

「ルールは2つだ!1つ、制限時間は3分。2つ、先に相手を気絶させた方の勝ち。ちなみにもし3分たってどちらかが気絶していない場合は引き分けとする。今回勝った方は負けた方になんでも言うことを聞かせられる。スタートは私が3カウントして0と言ったらスタートだ。ルールは以上だ」

 

 空気がより一層重くなる。それはまるであの世そのものに対峙しているかの様に暗く、冷たく、どうしようもない絶望感を感じさせる。

 

 しかしそんな気持ちを振り払い腰の剣を抜くアイン。

 

「3!2!1!」

 

 カロナがカウンターをはじめ次の瞬間には始まると言うところまで来た。

 

 極限の集中、アインは生まれて初めてとも言えるレベルの集中をしている。

 

 例えどんな試合でも最善を尽くすために、死力を賭けて挑む。

 

「0!!」

 

 そのカウントは予想よりもずっと早く終わった。

 

 さぁ渡し守(絶望)に挑もう。

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