境界線の先に何を見る   作:ただの紅茶好き

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第六話 死んでも離さない

「ん?なんですか、私の顔を見るなり嫌そうな顔しちゃってぇ…あ!まさか私嫌われてます!?そんなぁ…私なんかしましたかねぇ?」

 

 これだ、コイツは常にのらりくらり、まるで風に乗ってなびく服のようで一切隙が見当たらない。この態度が俺は苦手だ。

 

「い、いえなんでも無いです。てかそんな顔に出てました?」

 

 そしてコイツはまるでこちらの考えることが手に取るように分かっている。プライベートなんてあったもんじゃない。

 

「いえいえ〜昔から人の顔色うかがって生きて来たんで人の考えることはなーんとなく分からんですよ〜。今なら特別にコレのやり方お教えしてもいいんですよ〜。あ、もちろん貰うもんは貰いますけどね」

 

 そう言ってその男は取ってつけた様な笑顔に指で円を作ってアインに近づいてくる。

 

「大丈夫です。間に合ってます」

 

 アインはすぐに否定したが内心ちょっと悪くないと思った、しかし

 

 ――でもコイツ胡散臭すぎるしやっぱいいか。

 

 結局店員の胡散臭さが上回ったので特に後悔はしていない。

 

 しかしその男はそんな考えすら見透かしているのかその態度を崩さず声をかけてくる。

 

「あ!今コイツ胡散臭いしやっぱ断っとこって思ったでしょ!ひどいなぁ〜私そんな胡散臭いですかねぇ?アインさん、どうしたら胡散臭く思われませんかねぇ?」

 

「それは俺にはちょっと…ちょっと待ってください、なんで俺の名前知ってるんですか?」

 

 なぜ名前を知っている。

    

        コイツと会ったのはたった2回だ。

  

   いつバレた?

 

   最初にあった時には名前に関する事は喋っていないはずだ。

 

 アインは心の中でこの男を怪しい奴から危険な奴に格上げを行い、警戒体制に入った。

 

 そんなアインを嗜める様にその男は両掌を前に向けてアインの気を宥める。

 

「なんか私悪い事しましたかねぇ!?そんな殺意向けられるほど恨まれる事言った覚えないですよ!?あ、もしかして名前伝えて無いのに私が知ってるのがそんなに怪しかったですかねぇ!?だとしたら謝りますよ!すんません!たまたまカウンターで話してる時に聞いちゃったんすよ!」

 

 やかましい、コイツの態度も苦手だが俺がコイツの一番苦手なところはこのやかましい喋り方だ。

 

 急に何かを閃いたのか手を合わせて提案をしてくる店員。

 

「あ!なら私の名前教えますよ!普段ならいい値段するんですけど今回は特別にタダでお教えします!だからその殺気おさめてください!!」

 

 名前を教える。コイツは今そう言った。店員の個人情報を押さえられるならまぁいいだろう。

 

 アインはそう思い店員の提案を飲むことにした。

 

 そうして先ほどまで出していた殺気をおさめ、店員と話をする。

 

「分かりました。それで今回は納得しますよ」

 

 内心なんだかモヤモヤするがそれでもなんとか納得することにしたアイン。

 

 その答えを聞いた途端、店員はうるさい喋り方をやめていつもの胡散臭い喋り方に戻った。

 

「それじゃあ改めて自己紹介させてもらいます〜私の名前はサナト、サナン・アリギエスです〜以後お見知りおきを」

 

 サナン・アリギエス、そう名乗る店員は腰を直角に曲げ挨拶をする。

 

 相変わらずどこか胡散臭さが残るが少なくともこれでコイツと対等になった。少なくともアインはそう思うことにした。

 

「さてと、改めてお聞きしますが今日はどんなご用件で?」

 

 流石売店で働くだけのことはある。こんな状況でも商魂たくましく物を売ろうとしてくる。

 

 しかしアインは

 

「流石に疲れたんで今日はもういいです」

 

 そう言って売店から立ち去った。

 

「あらぁ残念ですわぁ…まぁ今後ともご贔屓に〜」

 

 サナンは実に名残惜しそうにアインを見ながら立ち去る彼を送り出す。

 

 立ち去るアインを見ながらサナンは独りごちる。

 

「なーんかアインさん雰囲気変わったなぁ…あの人に投資するんも面白そうやねぇ…」

 

 サナンは怪しい笑みを貼り付けその背が見えなくなるまでアインから決して目を離さなかった。

 

――――――――――

 

 アインは家に帰り風呂で体の汚れを落とし、寝室に向かう。

 

 アインはカロナが言っていた準備とは一体何か、それが楽しみで仕方なかった。

 

 そしてすぐにベットに入り目を閉じて意識を闇に落としていく。

 

 次に目が覚めたのはカロナとあったあの全てに繋がる湖であった。

 

 そして準備が終わって暇だったのか胡座をかき、不機嫌な面持ちで待っていたカロナが声をかけて来た。

 

「やっと来たかバカ弟子、早速始めるぞ」

 

 そう言うカロナの背後には巨大な門があった。

 

 まるであの横穴で見た門そっくりだとアインは思った。

 

「今からこの門を開ける、この門を開けたら鎖が飛び出してお前を貫く。その鎖から煉獄の力が流れ込む、耐えられたらクリアだ。制限時間は2時間、それまでに力をものに出来なければ強制終了だ」

 

 制限時間2時間、それを聞いてアインは疑問に思ったことをカロナに質問する。

 

「あの、俺睡眠時間って6時間くらいなんですけど、耐えられた場合大体4時間でやれることってそんなになく無いですか?」

 

 そう、ここにいるのはおそらく睡眠している間だけだろう。アインはそう判断してカロナに質問した。

 

 4時間、この時間で出来ることは非常に少ない。実践訓練をするにしても相手はカロナしかいない。

 

 そしてカロナは自分とあまりにも強さがかけ離れている。おそらく訓練にすらならないだろう。

 

 少なくともアインはそう結論づけたのだ。

 

 しかしその質問を聞いてカロナは思わず待ってましたと言わんばかりに口元を歪ませて回答した。

 

「安心しろ、ここと現実の時間の流れは違う。ざっと100倍ほどこっちの方が早く進む。あーつまり現在の1時間がこっちの100時間だ」

 

 アインはその回答を聞いてある結論に行き着いた。

 

「もしかして、力をものにしたら最低でも598時間練習するんですか?」

 

 カロナがその言葉を聞いた瞬間、口元をニィっと歪ませた。

 

「そうだ!やはりお前は私が見込んだだけはあるなぁ!!」

 

 アインは心なしかカロナのテンションがいつもより高い様に感じる。

 

「まぁグダグダ言ってても仕方ない、始めるぞ」

 

 カロナがそう言った途端、背後の門が開き1本の鎖が現れ、アインの心臓を貫いた。

 

 その鎖が心臓に到達した瞬間、アインは心臓が消滅し、倒れ込んで死んでいった。

 即死であった。しかし煉獄はただで死ぬことを許さない。

 捕えた魂を決して離さず、殺さない。故に死者を如何なる手段を用いてでも蘇らせる。

 

 煉獄は意志を持ってアインの心臓を煉獄の炎に置き換えアインの肉体を煉獄の依代にした。

 

 そしてアインは目を覚ました。数瞬前までとは全く別の生き物として。

 

「な、何がおきた?」

 

 アインがカロナに問う。しかしその言葉への返事が返ってくることはなく、カロナはただコチラを見続けるだけであった。

 

「ぐあぁぁぁぁぁ!!」

 

 突如自身の心臓に繋がる鎖から煉獄の力が流れ込む。

 それは魂さえ燃やし尽くす灼熱のごとく、それはこの世全ての苦痛を凝縮したがごとく

 言葉で表すことすらままならぬ苦痛が常に身体を襲い続ける。

 

 ――熱い、熱い、熱い、身体が燃え尽きそうだ。

 

 アインの体は先ほど依代に最適な状態に改造されたためかろうじて耐えられているがそれも今のままでは時間の問題である。

 

 ならばどうするか、答えは単純、流れてくる力を自分に望む形に作り変えればいい。

 鳥が空を飛ぶ為に翼を得たように、竜が外敵から身を守る為に鱗を作った様に、煉獄をアインが望むように変質させるのだ。

 

 ――落ち着け、イメージしろ、自分の望む形を

 

 しかし時間は待ってくれない。こうしているうちに制限時間は減っていっているのだ。

 

 苦痛に耐えるアインの様子を気にも留めずカロナは絶望とも言える事実を告げて来た。

 

「20分経ったか…今から鎖を一本増やす。これから20分ごとに鎖を一本ずつ増やしていく。最大5まで増えるからな。頑張って早くものにしろよ」

 

 鎖の数を増やす、たった一本でこれほどの苦痛であったのだ。数が増えた時のことなど想像に難くない。

 しかしどれだけ嘆こうと現実は変わらない。新たな鎖がアインの右腕を貫いた。

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 二人だけの空間に悲鳴が響き渡る。悲鳴は絶えず続く、2本目の鎖が右腕を貫いて5分が経っていることにすら気づくこともできぬまま。

 痛みによって先程までイメージしていた形が失われた。全てが振り出しに戻ったのだ。

 もはや先程までイメージ出来ていた形を思い出すことも出来ない。

 

 ――…か?…は…か?

 

 突如、頭の中に聞いたことのない声がノイズ混じりに響き渡ってきた。

 これが苦痛から意識を逸らす為に出来た幻聴か、本当に聞こえた声なのかアインには判断することが出来ない。意識を手放さないように、力に飲まれない為に

 簡単な二つの事しかすることの出来ない今のアインにはその声を聞くことすらままならないのだから。

 

 だが全く活路が見出せないわけではない。身体が徐々に苦痛に慣れてきた。その一点を頼りに今はただ耐えることを諦めることは出来ないのだから。

 

 2本目の鎖に刺されて15分が経ったであろうころに身体が苦痛に大分慣れきった。残り5分、この5分でどれだけイメージを持っていられるか、ここが正念場である。

 

 ――イメージしろ、自分が望む形を

 

 イメージをし始めたと同時に身体の中の力がアインの意思に沿う様に形を取り始めた。

 形がぼんやりと形成した頃カロナがまた絶望を告げてきた。

 

「時間だ、じゃあ3本目いくぞ」

 

 カロナがそう言った途端、鎖はアインの左腕を貫いた。

 そしてその言葉を発したカロナの顔は僅かながら落胆の表情を浮かべていた。

 

「がぁぁぁぁ!!」

 

 あいも変わらず苦痛が身体に響く。しかし何故だか1本目と2本目を刺された時よりも苦痛に耐えやすい。

 事実今回は10分が経った頃には苦痛に慣れていた。

 

 ――…えは…か?…えは…者か?

 

 また声が頭の中に響いて来た。今回は前回に比べて鮮明に聞こえるがそれでもやはり声が途切れ途切れでノイズが混じって聞こえた。

 今回は意識がはっきりしている。だからこそ分かる、これは幻聴などではなく本当に聞こえてきている声であると。故にアインは叫ぶ。

 

「お前は誰だ!一体何が目的なんだ!!」

 

 アインのその叫びをカロナが聞いた瞬間、目を丸くして驚いた。そして口元を歪めてとある事を伝えてきた。

 

「バカ弟子、いやアインよ事情が変わった。今からお前に残りの鎖を全部刺す」

 

「は?いや事情って…」

 

 カロナの言う事情とやらを聞く前にカロナは残り2本の鎖を右脚と左脚に突き刺した。

 当然2本同時に刺された時の苦痛は1本の時の比ではない。身体が今にでも砕けそうである。魂が今にでも燃え尽きそうである。

 しかしカロナがそれを許さない。カロナはどこからともなく瓶に入った液体を取り出しアインに飲ませた。

 

「一体なんなんですか!?」

 

 アインは思わず叫んだ。しかしカロナからの返答は返って来なかった。

 しかし代わりに脳内に響く声が何かを伝えてきた。

 

 ――お前は焚べる者か?

 

 そんな意味の分からない単語を

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