境界線の先に何を見る   作:ただの紅茶好き

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第七話 処刑人と焚べる者

「焚べる者とは一体なんなんだ」

 

 頭の中に響く声にそう問うた、しかしその問いへ返答をしたのは頭の中に響く声ではなく目の前にいるカロナであった。

 

「焚べる者、それは並行世界を含めても世界に1人しか存在しておらず先代の焚べる者が死ぬまで新たな焚べる者は生まれない、言わばイレギュラー、世界の外れ値だ。そして焚べる者の役割は煉獄側から干渉出来ない者達を煉獄に送る、それが焚べる者の役割だ」

 

「まさか今代はこの世界に現れるとは…渡し守を長年やってきたが久しぶりの経験だ」

 

 煉獄から干渉出来ない者達を煉獄に送る、それを聞いた時アインはとある想像をしてしまった。

 

 ――もしかして俺はとんでもない事に足を踏み入れてしまったのか?

 

 それは心の内でのみ呟いた言わば愚痴の様なものであったのだ。

 しかしアインは気づいていなかった、この場にはその愚痴に気づける者しかいないのだと。

 

「そうだな」 ――そうであるな

 

 目の前と頭の中、双方から自身の愚痴への肯定されてしまい思わずアインは飛び上がって驚いてしまった。

 カロナと頭の中の声はそんなアインを気にも留めずどうするかを考えていた。

 

 ――小僧、少し目と口を借りるぞ。

 

「え?一体何言って…『よし、口の調子はいいな』は?」

 

 自分の口から自分の声に何かが被った様な声が聞こえて思わず戸惑った。

 そんな事実を受け止めようとしてる時突如、右の視界が突然炎の広がる丘に変わった。その事実に脳の処理が追いつかず、ついに思考が停止してしまった。

 そんなアインのことはお構いなしに頭の中に響いていた声はカロナと会話をしていた。

 

「やはりお前だったか、煉獄の支配者アザトよ」

 

『それはこちらの台詞だ、まだお前が渡し守をしているのか?カロナよ』

 

 二人はまるでずっと昔からの知り合いの様であると、その光景を左の視界で見ているアインは思っていた。

 

「まぁ色々あるのだよコチラにも、それよりコイツをどうするかはこっちに一任して貰えるか?アザトよ」

 

 そう言いながらアインを、正確にはその光景を右の眼で見ているアザトと名乗る物に向かって威圧をしていた。

 しかし流石は煉獄の支配者、伊達や酔狂で支配者をやっている訳は無いのだ。カロナの提案をはいそうですか納得します、簡単にそう言うわけは無く。

 

『クハハハハ!!何を言うかと思えば何をバカな事を、煉獄についてはコチラの方が詳しいのだ、ならば俺が一任するに決まっているだろう?』

 

 ――なんでこの人?達はこんな事で言い争っているのだろう…

 

 アインはそう思った、しかしこれは愚策であった。

 アインはこの二人の口喧嘩に当てられて忘れてしまっていたがこの二人はアインの考えていることが分かっているのだ。故に次の標的は…

 

「『こんな事だと貴様!!ぶち殺すぞテメェ!!』」

 

 そう、アインである。不幸中の幸いというべきか煉獄にいるアザトはすぐにこちらに手は出せない。

 だかあくまで不幸中の幸いなのである。そう、目の前に不幸の象徴と言うべき相手が今殺気を出しながらパドルを振りかぶっているのだ。

 

「あ、あのカロナさん?」

 

『小僧、もしかしたら死ぬぞ』

 

 アインの言葉を無視してカロナは全力でパドル振りかぶる。そのパドルが鳩尾に直撃しアインは後方に派手に吹き飛んだ。

 その直後空中でアインの意識は吹き飛んだ。

 

――――――――――

 

「ハッ!?」

 

 しばらくして意識が回復して目が覚めた。

 一体どの程度眠っていたのか不明であるが目の前にはコチラを覗き込んでいるカロナの顔が見えるのみである。

 

「さっき身体の制限を解除する薬を飲ませたはずなんだが…思ったより起きるまで長かったな」

 

 先ほど飲まされた薬はどうやら身体の制限を無くす薬だったらしいがアインはそんな物を飲ませないで欲しいと思ったが口に出さなかった。

 まぁおそらく見透かされているのだろうがあえて気にすることもなく無視して気絶している間に話がまとまったらしく結論を伝えられた。

 

「とりあえず結論としてはお前の訓練やらなんやらは私が一任する事になった。だがアイツもただでは引かなくてな、泣く泣くお前にアイツの右腕を突っ込む事にした」

 

 ――今サラッとすごいこと言わなかったかこの人!?

 

『安心しろ小僧、お前が気絶している間に施術は済んでいる』

 

 安心できるわけがない。しかしどれだけ嘆こうとこの人達には届かないことが分かっているアインは大人しく現状を受け入れる事にした。

 

「とりあえず今からお前に訓練をする。あと100時間程度残っているから今日は対人、明日は対魔物に特化させて訓練をする」

 

 そう言うとカロナは水面に手を突っ込み何かを引き上げる。

 カロナが引き上げたものは一般的な冒険者の平均くらいの大きさの人形であった。

 

「これを、こう!!」

 

 カロナがいつのまにか持っていた棒状の何かを人形の胸あたりに突き刺した。

 すると突然棒状の物から鎖の様な物が人形に巻きつきいくつかの鎖が水面に突き刺さり何かを吸い上げている。

 

「な、何が起きているんですか?」

 

「黙って見ていろ」

 

 カロナがそう言った途端、水面に刺さった鎖が身体に巻きついた。数秒後、身体に巻き付いていた鎖が棒状の物に吸い込まれ、その棒状の物も人形の胸に吸い込まれて消えていった。

 直後、人形が黒い煙に吸い込まれその煙から2つの閃光が除いていた。

 煙が晴れた瞬間そこにいたのは顔以外が鎧に包まれ、肩からは赤いボロ衣のマントを携え処刑人が使う剣、エクセキューショナーズソードを持った自分であった。

 唯一違いがあるとすれば全身がわずかに黒いモヤがかかっていて眼から僅かな光が漏れている事である。

 

「これって…俺ですか?」

 

 アインは目の前に広がる光景を受け入れることが出来ない、無理もないだろう何せ目の前に自分がいるのだから。

 

「じゃあ訓練を始めるぞ、じゃあスタート」

 

「ちょ、ちょっと待ってくださ…」

 

 アインは抗議するが目の前にいる自分は待ってくれない。

 

 フルプレートを物ともしないと言う様な速度で得物の間合いに入り武器を振るう。

 狙いは首である。それに気づいたアインは咄嗟に頭の位置を下げることで剣の軌道から外れる事に成功した。

 すぐさま腰から剣を抜き相手の懐に入り武器を振るう。

 対応が一瞬遅れた相手は右腕側の鎧と鎧の間にある僅かな隙間を切られたことで右腕と武器が吹き飛んだ。

 

「ヨシ!」

 

 喜ぶのも束の間、相手が左手を握り込みコチラを殴ろうとしたのを察知し大きく後ろに下がる。その際に飛んでいた武器を左手で回収する事にも成功した。

 右腕に持っていた剣を鞘に刺して左手に持っていた剣を右手に持ち替えた。

 

 ――相手は武器と右腕を失った、しかし油断はしない。一撃で終わらせる。

 

 そう意気込み即座に相手の懐に潜り込んだ。相手は咄嗟に半歩下がろうとしたがアインの方が早かった。

 狙いは首、その一点を狙い剣を横一閃に薙ぐ。半歩下がるために動かした身体は首が切られた事に気づかず動く、しかし首から上は支えである身体を失ったことで地面に落ちた。

 その後黒い自分は完全に動きを停止した。

 

「勝った…よっしゃぁぁぁぁぁぁぁ!勝ったぞ!!」

 

 アインは勝利に酔いカロナに声をかける。しかしカロナから絶望とも言える言葉が告げられた。

 

「5分か…よし、あと100体出す、残り時間は生き残るか全滅させろ。死んだ時点で今日の訓練は終了だ」

 

「は?」

 

 残り99時間55分 残存数100体

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