境界線の先に何を見る   作:ただの紅茶好き

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第八話 日常ある違和感

 あれから一体どれほどの時間が経ったのだろうか。もはやアインには過ぎた時間を数える暇などない。

 そんなことを考えていても敵の攻撃の手が休まることはないのだから。

 

「43」

 

 背後から飛んでくる矢を先ほど息の根を止めた敵の亡骸を盾にして防ぐ。

 次の標的を捕捉したアインは獲物の元に走る。しかし弓兵もアインを狙い撃ってくる。

 飛んでくる矢を最短かつ最適な回避を行い避ける。しかし頬に掠って血がでてしまった。

 そんなことを気にも留めず弓兵の元に到達した瞬間亡骸に刺さっていた矢を頸動脈に突き刺し抉る。弓兵が倒れたことを確認してアインは呟く。

 

「44」

 

 倒した敵の数を数えるのはアインの精神的な支えを作るためである。

 約100時間という長時間動き続ける事に追加して自分を殺す苦痛に耐えるために100人を殺すという明確に見えているゴールまでの精神的な支えとして数えているのである。

 

 精神的に疲れていて一瞬動きを止めてしまった。その行動が命取りであった。

 背後からの攻撃に対応することが出来ず背中を大きく切られてしまった。

 

「ぐあぁぁ!!」

 

 背中の肉が切り裂け脊髄が僅かに露出しておりそこから絶え間なく血が流れ続けている。

 そこでアインの意識は闇に沈んで行った。

 

――――――――――

 

「ハッ!?」

 

 気づくとアインはベットの上で寝転がっていた。ベットを見ると大量の汗が染みていた。

 アインはふと切られた背中を触ってみるが脊髄が露出しているどころか血の一滴も流れていなかった。

 

「あれは…夢なのか…」

 

 そう呟いたが魂がそれを否定している。あの時に切り裂かれた背中の痛みが、何百時間も苦しみ続けた苦痛の経験が、自分を殺したあの言葉にし難い恐怖が、あの場所が夢であるという願いを否定している。

 

「とりあえず着替えよう」

 

 まずは汗が染み込んでいる服を脱ぎ、風呂に入り汗を流す。

 そしてシャワーで汗を流したアインは今湯船に浸かりながら今日1日の計画を立てていた。

 

「今日はどうするかなぁ…朝飯食ってからでいいか」

 

 この計画性の無さはアインの悪い点であるがそれよりアインは僅かな違和感に襲われていた。

 

「ん?なんだかいつもよりお湯がぬるい?装置の故障か?」

 

 本来ならこの温度で十分なはずなのだが何故だかいつもより湯船が緩く感じるのである。

 決してお湯が冷めていると言うことはない。何せ今入れたばかりなのであるから。故にアインは装置の故障を疑っていた。

 

「とりあえず汗は流せたし風呂出て修理業者のとこに持ってくか」

 

 そう言って湯船から出て身体を拭き、脱衣所で服を着替えて朝食の準備をしていた。

 今日の朝食はスクランブルエッグとベーコン、それとトーストである。

 

「いただきます」

 

 そう言ってアインは出来上がった朝食を口に運びながらあらためて今日の計画を立てていた。

 

「今日はダンジョンに潜るのやめとくかたまにはそういう日があってもいいよな」

 

 計画を立て終わったアインはすぐさま残りの朝食を口に運んで完食しきった。

 

「ご馳走様でした」

 

 その後皿洗いなどをして完全に朝食の時間を終えるアイン。

 家の外に出て貯水タンクの横に取り付けてある装置を取り外し肩に担いで修理業者の元に持っていく。

 その道中でアインは

 

 ――あれ?この装置ってこんなに軽かったか?

 

 と多少気になることがあったがすぐにそんな考えは頭の中から消え去った。

 

――――――――――

 

「おっちゃーん、いるか〜?」

 

 店の扉を開けて人っこ一人いない店内に響き渡る声を出すアイン。

 そんなアインの声を聞いて奥から一人の男が出てきた。

 

「そんな大声で叫ばんくても聞こえるわい。それで今日はなんの用じゃ」

 

 奥から出てきたのは140cmほどの小柄な身長に不釣り合いというほどの長い顎髭を携えたいわゆるドワーフと言われる種族の人物であった。

 彼の名前はドローンス・カイデン、白い髪に街一番とも言える長い顎髭が特徴のドワーフであり、同時に知る人ぞ知る修理業者なのである。

 

「すみません急に、なんかこの装置の調子が悪くて」

 

 アインはそういうと肩に担いでいた装置を床に置きドローンスに渡した。

 

「ちょっと待ってろ、少し見てみる。しばらく時間がかかるからそれまで好きにしてな」

 

 そういうと装置を床から持ち上げ奥の部屋に持って行った。

 時間が出来たアインは店から出て近くの武具屋に立ち寄った。

 その武具屋は街一番の大きさと品揃えを誇る武具屋でさまざまな冒険者が愛用している店でもあるのだ。

 

 アインは迷わず直剣が多く売ってあるエリアにいき武器の物色をしていた。

 すると一本の剣が目に止まった。なんて事のない普通の剣。特別な装飾やエンチャントがされているわけでもなく、奇抜な形をしているでもなく、本当になんの変哲もない普通の剣であった。

 なのに何故かその剣から目が離せない。

 

「すみません、これって触ってもいいんですか?」

 

 近くにいた店員に声をかけて触ってもいいか確認を取ってみる。

 すると店員はマニュアルにあるのか笑顔のまま対応をする。

 

「はい、ショーケースに入っていないものであれば全て触っていただいて構いません」

 

「分かりました、ありがとうございます」

 

 アインがそう言うと店員はすぐにアインの元から離れ他の客に声をかけていた。

 アインはそれを特に気にすることもなく置いてあった武器を手に取って見る。

 

「綺麗だ」

 

 アインがまず抱いた感想はそれであった。

 刀身の輝きはもちろんのこと刃の薄さ、シンプルながら洗練されたデザイン、まるで黄金比とも言える美しさをその武器は出していたのだ。

 アインがその武器で次に気になったのはその軽さであった。

 武器は金属を使う以上どれだけ努力しても一定の重さはあるものである。

 しかしこの剣は極限まで軽くなるように作られている、それなのに見ただけで分かるほどの圧倒的な強度をしている。この剣を作った者は間違いなく天才である。そう確信出来るほどにこの武器は洗練されていた。

 

 アインが剣に見惚れていると後ろから気配を感じ振り返って見るとそこには170cmはあろうかと言う白髪の巨体の女性がいた。

 

「お前さん、見る目があるな」

 

 突然そんなことを言われアインの頭の中は?でいっぱいである。

 しかし女性はそんなアインのことなどお構いなしだと言わんばかりに捲し立ててくる。

 

「この剣をなかなかの出来であろう?何せ私が打ったんだからその出来は相当な者であるに決まっておろう。

 まずこの剣は材料に特殊な鉄を使っておってな…」

 

 いきなり訳のわからないことを聞かされアインはフリーズしていたがすぐに元に戻りその女性に質問を投げかける。

 

「あの…一体、誰なんですか?」

 

 恐る恐るアインはその女性に話しかけることにした。

 しかし女性はそんなアインの発言を聞いて訳が分からないと言う様な顔をしていたが直後に手をポンと叩き納得した様に喋りだした。

 

「私の自己紹介がまだだったな、私の名前はレアル・ビンセント、その剣を打った天才鍛冶師じゃ。もしかしたらお前さんとは長い付き合いになるかもしれんな。その時は是非ともご贔屓にして行ってくださいな」




この世界の風呂やらキッチン周りについて
この世界では魔力をこめるだけで決められた魔法が使えるアーティファクトと言うものが存在します。
このアーティファクトを用いてキッチンで加熱調理をしたり、貯水タンクの水をお湯にしたりなど現代の機械の様な役割をしています。
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