入学初日に告白してきた美少女には、『好き』がないらしい。~欠けた感情を追い求めて~   作:true177

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File16:行方不明の

 亜希にやけくそウルトラCを授けられてから、丸一日。人間、意識をしていないと時間が過ぎるのは早いものである。

 龍太郎は、授業の内容を一日中防水シートで撥ねつけていた。おかげで、美紀を救うのに余計な情報は一切摂取せずに済んだ。

 

「龍太郎クン、休んだら? 男が出来ること、意外と多くない」

 

 人の話が、思い悩んだ空気を避けて通っていく。

 

 学校の校門前で集合した龍太郎と美紀ウィズ成瀬は、美紀宅へと向かっていた。唯一の船頭である少女が、先陣を切って導いてくれている。

 

 美紀に連れられるがまま、狭い路地を抜けていく。

 

 手入れがされていない空き地が、散見されるようになってきた。やや田舎になると、中心部から一歩外に出ると限界住宅が広がっているものだ。

 むき出しの肌に刃を突き立てる、四月らしくない冷風。不気味に龍太郎の背中を押す。

 

「……美紀、こっちで合ってる? 何も無かった気がするけど」

 

 民家の数がすっかり少なくなった景色に、成瀬の疑問が飛んだ。家路を間違える人間は流石にいないだろう。

 

 美紀に龍太郎が引っ張られ、後を成瀬が付いてくる。この構図が、かれこれ十分も続いていた。

 

「……ところで、亜希はいつ来るって……?」

「高校のアレコレが終わり次第。真面目だなぁ……」

「……早く、対戦でケリを付けないと……。最強決定戦、どっちが……」

 

 約一名、気がはやって全面戦争を起こしそうな危険人物がいる。目的を履き違えていないか不安になってきた。

 

 プライベートで砕けた格好をしていても、情緒を揺り動かされていても、亜希はみんなのリーダー。汗を額に浮かべて、今も歯車大回転をしているのだろう。集合予定の四人の中で大黒柱だ。

 

 底辺高校での生徒会と言えば、形式的な活動しかしていない集団である。教師の伝達を垂れ流し、自立には程遠い。偏差値の底辺には、非道に走るやる気も失った海の藻屑が溜まっているのだ。

 

 舗装されていない砂利道を進むこと、更に十分。

 

「……ここだよ。……登川くんのとか、成瀬ちゃんのには全然及ばないけど……」

 

 美紀が腕を投げた所には、一昔前の映画で出てきそうな木造家屋があった。使えそうにない半壊した煙突、はめ込まれて動かない摺りガラス、辛うじて読み取れる木の名札……。タイムスリップしてしまったのだろうか。

 目から視界を消し、また光を取り入れた。やはり、映画の中から抜け出せていなかった。

 

(……普段の生活、どうなってるんだ……)

 

 いわゆる『文化的な生活』が満たされているかも怪しい。

 

 テレビのアンテナはあらぬ方向にねじ曲がり、元『庭』は昆虫たちの隠れ家に代わっている。家の外に手が回っていない。彼女が毎日ここから登下校しているのが奇跡なほどである。

 

 成瀬に目をやると、予想外の展開にエラーを吐いていた。煙が頭から立ち上っており、胸の上下だけが彼女を人間と証明する材料になっていた。

 

「……とても、もてなせないけど……」

「……ごめん、美紀……。……ちょっとでも疑った成瀬が、信じられない……」

 

 学校のキャラらしくない。頼りがいのある姉でなく、感傷に浸りやすい友達になっている。

 成瀬の素が、本当に分からなくなった。高圧的な女王様か、積極的に人を顧みる女の子なのか……。どちらかが作り物のハリボテだと、龍太郎には思えない。

 

 威勢をかなぐり捨てた成瀬が、美紀に抱きついた。成瀬の方が小ぶりなのもあり、何故か慰める方が体に顔をうずめている格好になっていた。

 

「……成瀬ちゃん!? ……どうしたら……?」

「……美紀、あったかいね……」

 

 頭が混乱してきた。キャラクター像の崩壊が著しい。これでは、何も信じられない。ルーレットで日替わり人格ごっこでもしているのだろうか。

 

 幸いにも、過疎な地域故に高校生はおろか通行人も居ない。(取り巻き達にとっての)醜態を晒す危険はなさそうだ。それが理由で、感情を発散させているのかもしれない。

 

(……事が収まったら、聞いてみるか……)

 

 何でも出てくるブラックボックス化した成瀬。龍太郎の交友範囲には、飛び抜けた力の持ち主しかいない。

 

 上の立場にいたはずの成瀬に飛び込まれ、固く腕を閉ざしつつも目が泳いでいる貧困少女。龍太郎の方を、じっと見つめてきた。

 

 女子二人の出来事に、あまり介入したくはない。成瀬も計画を持って突入しているのであって、よそ者が阻害するのは空気を読んでいない感じがする。

 それでも、求められればやるしかあるまい。

 

「……成瀬、亜希が来た」

「さあ拝見しちゃおうかな完璧人間っていう人の顔を……」

 

 餌に釣られて、成瀬が美紀の胸中から飛び起きた。ぬるま湯で溶け切っていたはずの顔が、猛々しい戦士に変身していた。亜希が万能超人なら、成瀬は無限仮面人間だ。

 犬猫すら歩いていない荒れ地を二度三度見渡し、成瀬はガニ股のまま半回転ジャンプした。言い出しっぺの龍太郎が照準に据えられていた。少女の身代わりになった模様である。

 

 影を踏ませまいと退くが、情緒豊かで獰猛な女王様との距離が詰まる。夜に突発的な雨が降ったからなのか、地面が底なし沼で靴が中々抜けない。

 

 成瀬は、トッピングもされていない真顔。瞼の上に引かれている濃いアイラインは、化粧のミスなのだろう。

 

 生命の危機を、臓器中が訴えていた。心臓がけいれんし、足が本体を置き去りにして逃走しようとしている。

 

 だが、龍太郎には亜希からもらったエクスカリバーがあった。

 

 美紀の心情を正確に予測出来たからこそ、真相の解明に漕ぎつけられた。対象が、成瀬に代わっただけ。

 透視鏡を目に合わせ、今にも飛びかからんと膝を折り曲げて準備する成瀬に中心の十字をマークさせた。

 

 真っ暗闇だった。

 

(……何も、見えない……)

 

 そういえば、成瀬はスポットライトを奪って生活してきたような人種だった。亜希とは真っ向から対立しているが、『陽の者』の一点では共通していた。

 

 違う次元の世界に生きる成瀬に、透視眼が通用する訳が無い。

 

「りゅうたろうくん、うそおつくのわ、よくないよ!」

 

 感情の起伏を一切捨て去った、一直線に着弾してくるミサイル。シェルターに入り損ねた龍太郎に、立ち向かう手段は残されていなかった。




丁度キリが悪いので、次話は早めに投稿したいと思います……。
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