入学初日に告白してきた美少女には、『好き』がないらしい。~欠けた感情を追い求めて~   作:true177

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File43:決戦(後)

 誰しもの視線が、一点に集まっていた。龍太郎も、包囲する女子陣も、戦況を悲観していた草の根っ子も、遅れた主人公の登場に意識を奪われていた。

 

 彼女はかざされたナイフを見るなり、ツバを吐き捨てる。

 

「……そんな危ないもの持って、何をしようって? ……いいから、地面に捨てて投降する! 半殺しくらいで済ませてあげるから」

 

 地を這うドス声が、女子たちの足元をすくった。理性の皮をかぶりながら、ヒモなしバンジーより筋肉が緊張する。

 

 敵方の密度をたどっていく彼女のサーチライトが、教室の隅に届いた。青あざマップを顔に作っているだろう龍太郎と、後ろで運命を任せる美紀である。

 

 力関係を理解していないボンクラが、二刀流の構えを見せた。

 

「早矢の天下は終わったの! この教室を見ればわかるでしょ、あんたなんかに味方するヤツがどこにいるって……」

「ほら、そこにも。教卓の裏にも。あの子たちの目、死んでない」

 

 数人ごとに分割された弱き女子たちは、反抗の意を取り戻している。総大将から精気を受け取り、ただの下敷きで終わらない弾力性が復活している。

 

 無駄な雄たけびをあげ、二本の折りたたみ式ナイフが弧線を描く。ななめから、バッテンを作るように。狙いの中心が、成瀬の生命ポンプである。

 

 勢いの付いた矛先は、互いに肉の表面を削り取っていた。赤い線が走り、血がにじむ。取りあつかい方が素人がゆえの自滅だ。

 

「とめてあげるまでもない。そこ、どきな」

 

 動力源を失った腕から、成瀬は先のとがった金属物を押収した。脂肪と筋肉の混合物を蹴りとばし、人数を一人減らした。

 

 たった一人、されど一人。武器をぶらさげても、使用者がナマクラなら実態は同じ。成瀬の前では、ハッタリを剥がされると判明した瞬間だ。

 

「……前橋美紀はあとでどうにかする。今は、あの暴力化身をやれ!」

 

 指揮者の命令で、二軍女子全員が成瀬に表を向けた。規律が整っているというよりも、己の欲にしぶしぶ従っている。

 

 全兵力が成瀬へと移行し、龍太郎はフリー。一矢報いたい激流が口からあふれそうになったが、美紀を『背負っている』ことも忘れてはならない。

 

 なにより、龍太郎の肉体は重力に逆らっていられなかった。

 

「……龍太郎くん! ……はやく、どうにか……」

「美紀ちゃん、その子は任せて、こっちに!」

 

 膝から崩れた守護者に足をばたつかせる少女は、スポ根系の女子生徒に引っぱられていった。彼女たちの束縛も解かれていたのだ。

 

「……龍太郎さん、立てますか? 身体がいうことを聞かないのであれば、無理にとは言いませんが」

「……肩を貸してもらっても、いいかな……」

 

 さんざんお世話になっている嬢気質の女子に支えられ、龍太郎も危険地帯から退いた。

 

 中央のバトルフィールドは、女王一人とその他大勢で膠着状態。平行線が続くかと思われた。

 

 成瀬の戦闘力を過小評価しているのか、龍太郎を殴打していたお団子が素手でつかみかかった。時間切れ負けは二軍女子側であり、焦りもあったのだろう。

 

 武器を持たない相手には、同じ土俵に立って技を返す。成瀬は凶器を後ろに流し、その女子の腰を固めた。もがく上靴が舞いあがり、重心が絶対王者の頭をこえる。

 

「……成瀬ちゃん、横!」

「……成瀬、危ない!」

 

 いち早く察知した女子たちが、警告を飛ばす。ワンテンポ遅れて、龍太郎も持てる力を声に乗せる。

 

 成瀬の脇腹に、漆黒の恨みの込められた針が差し迫っていた。威嚇突進にあらずして、敵の喉を掻っ切る弾道であった。

 

 持ち上げられた女子が落とされるのと時を同じくして、ナイフが高々と宙に上がった。成瀬のかかとがはねている。

 

「……ったく……。……パックに詰めて出荷するしかない……か……」

 

 感情に任せて怒鳴らない。太陽にまで熱せられた怒気が、気道を塞ぐ邪気として女子たちに襲いかかっていた。ねばつき、水ですすいでも解消されない息苦しさに、軽く参加したうつけどもは喉元をおさえている。

 真正面からの攻勢も、おとり作戦も、成瀬のてのひら。二軍たちには、ナイフ付き、ストップボタンのない無限殺戮機に見えている。

 

 窓が全開にされ、夏を告げる陽がゴミ捨て場の空気を追い出していく。薄暗さとくぐもった空気で誇大にされていた彼女たちの謀反は、その修飾をむしり取られつつあった。

 

「……言い出しっぺが、ここで負けて……たまるかよ! ……おまえに腕が六本ないことは知ってるからな」

 

 机に陣取っていたメンバーをはじめ、頭脳を担っていた数人が成瀬を囲む。なけなしの知能でも、包囲殲滅は知っているらしい。

 

「……あっそ。……合ってるっちゃ、合ってるかもね……」

 

 余命僅かなネズミを、爪をとぐ猫が見下していた。美紀や他の女子と会話している感心の目は引き下がり、モノをあざ笑う冷えた鉄球に様変わりしていた。

 彼女を前にしては、初心者の考える戦法などはかない星も同然なのである。

 

 真横に鎮座していた机の脚を取るなり、一回転。長針が元の位置へと戻り、黒い霧をまとう声は絶たれていた。

 

 交戦した者は、一小節も持たずに倒された。住む世界を分からされた中間層のゴミ溜めたちは、次から次へとお飾りを地面に置いていく。

 

「まだ立ち向かってくるなら、相手する。……だれもいないなら、例の改革は全会一致」

 

 成瀬の宣言は、暴力の連鎖を止める楔が打ちこまれた一瞬であった。

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