【書籍版1巻2/20発売】貞操逆転ハードモード異世界を鋼メンタル冒険者が生き抜く   作:風見ひなた(TS団大首領)

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最初に投稿したときからラストちょっと変更しました。


第101話「鋼メンタルでエロ漫画CAR生活に耐えきれない」

「先生、俺のはムチムチのボディにがっしりしたフレーム、重厚さを持ちながらも上品な気品を兼ね備えた大人の色気ムンムンなお姉さんでお願いします!」

 

「ああ、はい。クラシックカーね」

 

「せんせせんせ、僕のは可愛いコがいい! 僕の掌に収まるくらいこじんまりとしてて、丸っこいボディラインの愛らしいロリ系のコを描いて!」

 

「ええと……コンパクトカーのこと?」

 

「先生、ここだけの話なのですが……。その、がっしりした大きなボディでお願いできますか。ギラギラにメイクを施したケバい感じでいかにも陽キャとつるんでそうで、でも私のような陰キャにも優しい感じでお願いします」

 

「じゃあデコトラで……。え、デコトラってオタクに優しいギャル枠なの!?」

 

「先生!」「先生!」「エロマンCar先生!!」

 

 氷の精霊石が届くまでということでドラゴンの里に留め置かれた僕は、毎日のように訪れるオスドラゴンたちのために車のスケッチを描く日々を過ごしていた。

 

 ……いや、正直に言って気が狂いそう。

 部屋に引きこもってスケッチ描きまくるだけでもめちゃめちゃ集中力を使わされるうえに、依頼に来るオスが期待で鼻を膨らませて性欲丸出しのオーダーをしてくるのだ。それを車に置き換える作業で精神力がすり減っていく。

 なんなんだよ陰キャに優しい車って。陽キャが乗ろうが陰キャが乗ろうが同じだよ。

 

 くっ、まさかこんなにオーダーされるとは思わなかった。

 僕ね、この話を持ち掛けたときは1か月に3枚も送ればいいかなって思ってたんだよ。

 里のオスで適当に回し読みでもしてくれれば十分だろうって。

 甘かった。1人1枚欲しがってくる。

 

 考えてみればそりゃそうだよね。

 人間でも性癖がみんな同じなんてことはありえないわけで、最高に興奮できるお宝って個人によって異なるわけだ。まあみんな車なんだけど、その中でもお色気満点のお姉様とか、ロリ系とか、オタクに優しいギャルとか細かいジャンルがあるわけだね。

 

 それにエロ本を他の男と共有したくないでしょ。

 いや、高校生とかならエロ本を友達と回し読みとかするし、あれはあれで楽しいけど、それは本来学校に持ち込んじゃいけない大人の扉を友達と一緒に垣間見るのが楽しいわけで。

 金がある大人はむしろ自分がどんなエロメディアで抜いてるのか知られたくないよね。

 

 僕のおじいちゃんも言ってたよ。

 

「いいかい、雄坊。おじいちゃんはちょっとやそっとじゃ怒らないことを心掛けているんだ。だがね、勝手に人のxVide〇のアカウントでログインして、あまつさえマイリスに勝手にエロ動画を追加するのは度がすぎていると思わないか? さすがのおじいちゃんもブチギレですよ。で、どの動画が一番使えた? 参考にするからちょっと教えろ」

 

 直後、おじいちゃんは天井に潜んでいたおばあちゃんに捕獲され、強制的にネズミーランドへデートに連れ回されたうえに「#熟年デートダーリンと♥」とハッシュタグをつけられた写真数十枚をインスタにアップされていたね。あのときのネズミーのヘアバンドをつけた死んだ目がウケて、散々ネットのおもちゃにされたっけ。僕もいいねしておいたよ。

 

 まあ僕のおじいちゃんのことはどうでもいい。

 とにかく性癖というのは極力他人に知られたくないもので、1人1枚欲しがるのは当然のことなのだ。

 男としてその気持ちは痛いほど理解できるから、できるだけ要望には応えてあげたい。

 ……あげたいけども、さすがに僕の手も限界があるよ。

 この里には数百人ものオスがいるはずで、さすがに僕だけでそんなエロ需要を賄えるわけがない。

 

「というか、これドラコがメスドラゴンに囲われて相手をさせられる代わりに、僕がオスドラゴンに囲われてエロメディア供給してるだけじゃない!?」

 

「今更気付いたのか……」

 

 横でじっと作業風景を見ていたウルスナに呆れた目を向けられ、僕はうぬうと唸り声をあげた。

 ひたすら車のスケッチを描き続けて3日目になるが、僕は既に飽きてきている。どうやら僕にじっと引きこもって絵を描き続けるライフスタイルは不可能のようだ。週刊漫画家は務まりそうもない。

 

 こりゃやっぱり回し読みで我慢してもらうしかないかな。

 ゆくゆくはドラゴン自身の間でもエロ絵として自動車を描けるようになれば自給自足ができるんだろうけど、今のところ僕の頭の中にしかないのが困る。どうにかできないかな……。

 

「というか、ユージーンって他人の頭に直接イメージを送り込めるんだろ? じゃあお前が知ってる限りの自動車を絵描きの頭ん中に送り込んで描いてもらえばよくないか?」

 

「天才か!」

 

 さすがはウルスナだ。

 そう思ってドラゴンの絵描きを紹介してもらおうとドラパパのところに談判にいったのだが、返事は芳しくなかった。

 

「申し訳ないが、無理だろう。ドラゴンって本当に不器用なうえに、これまで芸術への理解がなくてな……。ぶっちゃけて言うと蛮族なのだ。今回の件で絵画に興味を持ったドラゴンも出てきたのだが、そうした技術は一朝一夕に身につくものでもないだろうし」

 

 そうかぁ……。

 うーむ、どうしたもんかなあ。芽が出ず燻っている人間の絵描きでもスカウトして、自動車専用絵師として連れて来るとか?

 ただなあ、サウザンドリーブズみたいな田舎だとなかなかそういう人材もいそうにないし。王都とかに求人を出そうにも、僕だとツテがないからなあ。

 

 ドラゴンたちが自給自足してくれるのが一番いいのだが、そうもいかないようだし困ったもんだ。絵画教室でも開こうか?

 

 まあもうすぐ秋も終わりだし、長い冬ごもりをするならこの里でしても構わないかなとも思うんだけども。

 ブリシャブ島の冬は寒く長い。

 おそらく緯度は北海道より北、面積は日本の本州に匹敵するこの巨大な島国の冬は恐ろしく寒く、そして暗いらしい。日照時間が短いうえに曇り空が続き、光があんまり差さないそうだ。考えるだけで気が滅入りそうだね。

 

 冬の期間は人々は家の中に籠り、内職をして暮らすそうだ。

 冒険者もよほどのことがない限りモンスター狩りは休業に入り、副業をするらしい。なんせモンスターの大半は変異した獣だし、冬眠して姿を見せなくなるんだって。

 あれ? もしかして僕、あのまま日暮らし底辺労働で冬になったら飢えるところだった?

 

 まあ僕がもっぱら狩ってた大角ウサギは元になったウサギ同様冬眠はしないらしいので、狩りの獲物に困ることはなかったのかもしれないが。

 

 他にも冬眠しないモンスターはいるし、冬になって天敵がいなくなったことで活発化する奴もいるそうなので冒険者の仕事がなくなることはないものの、基本的には冒険者は冬になったら休業するのが常識のようだね。

 

 だからアイリーンとウルスナは僕と一緒にドラゴンの里で冬を過ごしても大丈夫なんだろうけども、問題はアミィさんだ。

 衛兵の仕事にそうそう長期間の穴をあけるわけにはいかない。今は休暇を取って僕についてきてくれているけど、さすがにそろそろ帰らないとまずいだろうし。

 アミィさんだけ帰せばっていう手もあるけど、それは僕が嫌だ。新婚夫婦なんだから絶対に離れたくないよ。

 アミィさんみたいな美人若妻、周囲の男性がほっとくわけないしね。僕が目を離した隙に間男が寄ってくるんだろ、知ってるんだぞ。僕は詳しいんだ。僕の目が届かないところに一日だって置いておくもんか。

 

 

≪説明しよう!

 25年間も喪女生活を続けてきた女にちょっと目を離したくらいで男が寄ってくるわけねーだろ! 同僚の衛兵も女しかいないのにどこから男が湧いてくるというのか! そもそもこの世界にはそんな肉食系の男がいない!

 むしろ伴侶の貞操を心配しているのはアミィの方であった。チャラ男(ウルスナ)とショタ(アイリーン)に囲まれた聖女を一季節まるごと放置したら、冬の終わりにはアヘ顔Wピースビデオレターでも送られてきそうで気が気ではない! 別にエッチするのは構わないけど、自分だけ蚊帳の外なのは脳味噌に大変悪かった!≫

 

 

「私のことは気にしないでくれ、ユウジ。君のしたいことを優先してほしい」

 

 ……なんてアミィさんは殊勝なことを言ってくれるけども。

 目はあからさまにどこにも行かないでくれ、って言ってるんだよね。

 共感性を捨ててしまった僕だけど、この言葉の裏を読めないほど鈍くはないよ。ここで僕がアミィさんと別々に過ごすことを選ぶかどうかで、愛情を試されてるんだよね? 数々のギャルゲーで鍛えられた僕にはわかる。別々に過ごすのは地雷選択肢だ!

 

 とはいえ、オスドラゴンからの期待を裏切るのも気が引けはするんだよね。

 何やら相当な好感度を稼いでしまったようで、毎日のようにオスドラゴンたちが代わる代わる顔を出してはチーズやらソーセージやら、自分の家で作った食品を差し入れてくる。それも自分の依頼を優先してほしいとかじゃなくて、おいしくできたからぜひ僕にも食べてほしいという言葉と共に。

 

 正直最初はなんでこんな親切にされるのかわからなくて不気味だった。あの気位が高いドラゴンたちが無償で何かしてくるなんて、何を企んでんだろうって疑ったよ。

 しばらく考えて、その正体に思い至った。

 これ推し活だわ。

 まさか異世界で同性にファン活動されるとは思わなかったよね。

 

 知らないファンからもらったものなんて何が入ってるかわからないから食うな、なんて配信者界隈ではよく言われるそうだけど、これは同性からの贈り物だしね。ありがたく食べたよ。

 そもそもこの世界の文明水準だと、手作りじゃない飯なんて存在しないからね。むしろ人間の街の露店の飯の方が、何を混ぜ物にしてるかわからなくて危険だ。僕に親愛の情を持ってくれてる人が手作りしたメシの方が安心して口に入れられるのがこの世界だ。

 

 そしてそんな推し活の窓口にはドラコが立ってくれていた。

 オスドラゴンたちにとってはたとえアイリーンのような愛らしく無邪気な子が相手でも、人間に無償のプレゼントを手渡すことには抵抗があるらしく、ドラコが仲介することは好意的に受け入れられているようだ。

 というかエロ絵師にプレゼントを渡すんだから、間に立つ担当編集は同性の方が気が楽だよね。

 次期族長として顔を売ることにも繋がっているだろうし、ドラコにとってもいいことだと思うよ。

 

 ただ、その。プレゼントを受け取るたびに「見なよ、ボクの先生を」と言わんばかりのドヤ顔しながら親指で僕を指してくるのは何……?

 

 

 そんなこんなで街に帰らないといけないアミィさんと、僕に期待の眼差しを向けるオスドラゴンの板挟みになりながら絵を描き続けること4日目。

 

「やだやだやだ! 飽きた! 他のことしたい!」

 

 あっさりと限界がきた。

 うん、あれから1日しかもちませんでした。

 

 ウサギ狩りとドブさらいの繰り返しなら半年もったんだけどなあ。

 あれよりずっといいもの食ってるし、周囲からちやほやもされてるのに、底辺労働よりずっと早く飽きが来るってのも我ながらおかしな話だと思うけど。

 やっぱりあっちは体を動かしてて気がまぎれるし、何よりいつか努力が評価されて新しいチートがもらえるかもという目的意識があったから続いたんだろうね。

 

 やっぱり僕はこの異世界で冒険者をやりたいわけで、エロ絵師をやりたいわけではないんだよ。(カーデザイナーが聞いたら助走つけて全力パンチされる発言)

 せっかく異世界に来たんだからもっと冒険がしたい。

 もちろん他人に期待されてそれに応えることへの充実感も抱いているし、それは僕が日本では求めても得られなかったものではあるんだけど、それでも冒険したいという気持ちは抑えられないのだ。

 

 そんなわけでどこか気晴らしにプチ冒険に行けるところはないかとドラパパに訊きに行ったところ、彼の執務室前の廊下でたむろするメスドラゴンの一団に出くわした。

 顔に見覚えがある。確か、クーデター騒ぎのときに早々にこちら側についた人たちだ。

 

「あ、ども」

 

 僕が軽く頭を下げると、一団のリーダーらしきメスドラゴンが敬礼を返してくる。

 

「これはエロ絵の先生ではないか。ご機嫌よう」

 

「誰がエロ絵の先生じゃい!」

 

「え……でもみんなそう呼んでるし」

 

 まあ確かに僕って変な立ち位置にいるから、そうとしか言いようがないのかもしれないけど。せめて若様の先生とか呼び方はなかったのか。

 

「ドラパパに用事ですか?」

 

 立て込んでるなら後にするか……なんて考えながら声を掛けると。

 

「ああ、氷の精霊石掘りへの増援を申し付けられてな」

 

「へえー」

 

 氷の精霊石ってまだ届いてなかったのか。結構掘るのに時間がかかるものなのかな。

 しかしそれはまいったぞ、この分だと届くのがいつになるのかわからん。

 

「確か、近くにある氷山の山頂に吹雪が来ると発生すると聞いていますけど」

 

「うむ……吹雪は来たのだが、同じく精霊石を狙う現地勢力と小競り合いになっていてな。少々てこずっているので我々に支援要請が来たのだ。ふふ、早速名を売るチャンスが巡ってくるとは私もツイている」

 

「現地勢力?」

 

 氷山なんて住みづらそうな場所でも、住んでる人がいるのか。

 精霊石も結構レアなものみたいだし、それを売って暮らしてる人たちなのかな。

 そう思いながら訊くと、ドラゴンのリーダーはひとつ頷きを返した。

 

「ああ、スノーゴブリンの部族だ。地虫のように洞窟内に巣食う連中だよ。まあ我々ドライグの前では大した力も持たない雑魚だが。精霊石ができる洞窟内に穴を掘って棲みついているから、なかなか排除が難しい……などと、現地に行った部隊が泣き言を言ったというわけさ。まったく、ゴブリンごとき雑魚に情けない奴だ」

 

「なるほど」

 

 ゴブリンかぁ。

 ファンタジーものでは腰ミノだけ身に着けた醜悪な小鬼としておなじみの低級モンスターだね。

 実は僕も以前フォレストゴブリンっていう森にすむゴブリンに追いかけ回されたことがある。もうじき出るっていう噂の僕の冒険を描いた本にそのときのことが書かれているそうなのでここでは詳細には触れないけど、正直言って生きた心地もしなかったよ。

 僕は直接その姿を見てないから、どんな姿だったのか知らずじまいだけども。

 

 冒険者ギルドでもよく討伐隊が組まれているから危険度も結構高いんじゃないかな。

 ただ、さすがにドラゴンと比べると足元にも及ばないだろう。何せ人間の冒険者でも倒せる相手なんだ、ドラゴンの前では鎧袖一触だろうね。

 それでもてこずっているのは洞窟の横穴に逃げ込むからだろう。なんか家具の合間に隠れるゴキブリみたいだね。

 

 まあ彼らのことはドラゴンがいれば気にする必要はないとして……。

 

「精霊石堀りってどんな光景なんですか? 結構見ごたえあったり?」

 

「それはあるな。巨大な精霊石の結晶が大空洞を満たす様は壮麗だぞ。あれは一度でいいから見ておくべきだ。我々ドライグが絵画などという低俗な文化に心を揺さぶられないのは、ああいう本当の美を知っているからだ。自然の生み出す雄大な絶景、あれこそ真の美だよ」

 

「僕も見たいです!」

 

「え……」

 

 

 そして数時間後、僕はメスドラゴンが下げた荷台に乗り込み、氷山へと向かったのだった。

 

「ひゃっほー! 冒険だー!」

 

 

 でもって。

 

「我が同胞たちよ、聞け! 我々の部族の元に天よりオトコが舞い降りた! これは我々への天からの授かりものである! これよりこのオトコの子種を皆で公平に分け合うものとする!」

 

「オサ! オサ! オサ!」

 

 狼の毛皮を被った褐色肌の幼女たちが熱狂のあまり足を踏み鳴らして歓呼するのを、僕は呆然と見ていた。

 

 どうしてこうなった。

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