【書籍版1巻2/20発売】貞操逆転ハードモード異世界を鋼メンタル冒険者が生き抜く   作:風見ひなた(TS団大首領)

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第103話「鋼メンタルでゴブリンに捕まり抜く」

 高所から地面に叩きつけられて血の花を咲かせた雄士。

 さらに折り悪く巨大な精霊石の柱が降り注いでくる。

 石柱は落下の衝撃で砕け、雄士の遺体はその破片に埋もれて見えなくなった。

 

「ユージィが!」

 

 アイリーンの悲鳴を聞きながら、ウルスナは呆然とその光景を見つめていた。

 あまりにも……あまりにもあっけなさすぎる。

 ほんの数瞬前まで彼女のすぐそばにいたのに。いつものように無邪気に、珍しい光景にはしゃいだ声を上げていたのに。

 彼女たちの夫は、もう二度と戻っては来ない。

 

 そう思い至った瞬間、ウルスナは何もかも放り出してゴンドラから飛び降りようとした。

 ユージーンが。自分の夫があの破片の下で助けを求めている。

 今すぐ駆け付けなくては。もしかしたら……もしかしたらまだ助かるかもしれない。

 もう事切れていても、愛する夫をこんな冷たい破片の下で眠らせるわけにはいかない。なんとしてでも掘り出して遺体を回収しなくては。

 発作的に行動しようとしたウルスナの耳に、アミィの鋭い声が届く。

 

「待てアイリーン、どうするつもりだ!」

 

「離して!」

 

 アミィの腕の中から脱してゴンドラのへりに脚をかけるアイリーン。

 今にもゴンドラから身を躍らせようとするアイリーンの腕をつかみ、アミィは必死に押しとどめる。

 

「こんな高さから落ちたらお前もタダじゃすまない! 仮に降りられたとしても下にはゴブリンがいるんだ、見つかったら殺されるぞ!」

 

「死なせてよぉ!!!」

 

 アイリーンの喉が張り裂けんばかりの悲鳴に、アミィは言葉を失う。

 まだ顔立ちに幼さを残した少女が、ぼろぼろと涙を零す。ゴンドラのヘリを掴む指は真っ白に鬱血していた。

 

「ユージィはあたしのすべてなの! ただのスラムの孤児だったあたしの人生に、意味をくれたのはユージィなの! ご飯も! 寝床も! 家族も! 赤ちゃんも! ユージィが与えてくれたものなの! ユージィがいないなら、あたしの人生に何の意味もないんだよ! だから死なせて! せめて最後はユージィの隣で終わらせてよぉ!!」

 

「……っ」

 

 その言葉で、ウルスナの中のスイッチが切り替わった。発作的に飛び降りようとしていた頭が冷え、すっと明晰な思考力が戻ってくる。

 仲間が狂乱したときは自分が冷静に物事を判断せよという、修行時代に培われた騎士の習性の賜物だった。

 

「……撤退だ。ユージーンは間違いなく死んでる。今は遺体の回収は不可能だ。ここは退いて、後日取りに戻るぞ」

 

「どうして!? どうしてウルスナはそんな冷たいこと言えるの!?」

 

 涙ながらに叫ぶアイリーンの言葉に、ウルスナは努めて表情を殺した。

 本当なら、今すぐ自分も飛び降りたい。だが、

 

「ガキがいるだろうが。腹の中の忘れ形見まで一緒に死なせる気か?」

 

「……」

 

 はっとした顔で自分の腹部に手をやるアイリーン。

 そんな彼女を見ながら、ウルスナは唇を噛んだ。

 自分の腹にも雄士の子がいる。その子の存在が、無謀な行動を押し留めている。

 もしウルスナが自分一人の体であれば、今頃こんな問答もなく雄士の死に殉じたかもしれない。

 

「あ、あの……私は決してこんなつもりでは……」

 

「どけ!」

 

 ドラコはゴンドラから飛び出して竜体に変じると、へどもどと何か口にしようとするメスドラゴンからゴンドラを奪い取った。

 もうこんな奴にほんの一瞬でも先生の家族の身を預けたくない。

 

 遠い地表では瓦礫のそばにゴブリンたちが集まり、自分たちを指さすのが見える。

 ゴブリンたちの追撃が行われるまでもう時間の猶予がない。

 

「先生……」

 

 墓標というにはあまりにも粗野で大きすぎる瓦礫を見ながら、ドラコは呟いた。

 

「先生の子供は、ボクが必ず守る。そこで眠っていて」

 

 そしてドラコは翼を広げ、勢いよく天井の穴から飛び出していく。

 

「待って! 離して! 離してよぉ! あたし、お別れしてない! まだユージィとちゃんとお別れができてないのにっ……!」

 

 身も世もなく暴れ、ウルスナとアミィに羽交い絞めにされるアイリーンの悲鳴が、耳に痛かった。

 

「ユーーーージィィィィィィィ!!!」

 

 

 

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「おっ! 目を開けたぞ!」

 

「薬師! 薬師! こいつ生きてた!」

 

 目を覚ましたら、5名ほどの幼女が僕の顔を覗き込んでいた。

 どの子も物珍しそうに至近距離から僕を見ているが、どの顔にもまるで面識がない。

 えーと、これどういう状況?

 

「確か地面に転落して……」

 

 ああ、そうだ。

 アイリーンを庇ってゴンドラから落ちて死んだんだっけ。

 思い出してきたぞ。

 

 確か地面に叩きつけられて、意識を失うくらいの激痛で動けなくなったところに巨大な柱が降って来て下敷きになったんだ。そこで完全に意識が途切れたから、それが直接の死因になったんだろう。

 【エクステンドライフ】で生き返った直後にとどめを刺される形になるかと焦ったけど、転落してもまだかろうじて息があったという判定なのかな。これはラッキーだね。

 

 しかし蘇生するにしても冷たい床の上か、精霊石の破片の下敷きになってるはずなんだけど、なんか予想と違うな。

 何やら白くてフサフサした毛皮の上に寝かされているし、瓦礫に埋もれる代わりに幼女の集団に群がられている。

 この子たちが助けてくれたんだろうか?

 

「ええと……君たちは?」

 

 僕が声を掛けると、彼女たちは目を大きく見開いて固まった。

 

「ウチらの言葉わかるのか人間!?」

 

「え? あ、あー……はい」

 

 思わず生返事を返してしまう。

 これもしかして人間の言葉が通じない種族だったっぽい?

 

 そう言われると人間とは違った感じの特徴がある。耳がいわゆるエルフ耳なんだよね。人間とさほど変わらない短さだけど、先が尖っている。

 肌の色は全員赤黒い褐色肌だ。タトゥーを入れている子もいるね。

 全員獣の毛皮をまとっていて、割と暖かそうな格好をしている。中には全身モコモコの寒がりそうな子もいたり、狼の頭がついた毛皮を被っている子もいるな。ぶかぶかで可愛い。

 

 そう、可愛いんだ。

 みんな8歳から12歳くらいのちびっこい女の子ばかりだ。

 この世界の人類は何故か顔面偏差値がやたら高いんだけど、この子たちもみんなかなりの美少女揃いだね。

 ポニテだったりツインテだったりメカクレだったり、髪型も千差万別だ。イヤリングをしたり、タトゥーを入れてる子もいる。まだ小さいのに結構オシャレ感度が高いのかな。

 

 さて、この状況。

 どこかの洞窟の中なのか、岩肌に囲まれた部屋だけど天井には魔術で照明が灯されているし、暖房が効いているようにあったかいね。そんな部屋に敷かれた毛皮の上に僕は寝かされていて、幼女たちが興味津々に僕を覗き込んでいる。

 

 どうやら地元に住んでる人が、蘇生したてで気を失ってる僕を拾ってくれたようだ。

 暇な子供たちが僕の看病を任されていたってところかな?

 

「ええと……大人の人を呼んできてくれる?」

 

「ウチは大人だぞ!」

 

「子作りの相手探しか!? あたしも大人だぞ!」

 

「わたしもー! わたしもするー!」

 

 つるぺたな胸を嬉しそうに反らしたちびっこたちが、押し合いへしあいしながら我先に自分は大人だとアピールしてくる。

 子作りて。さすがに早いでしょ。

 どういう性教育をしてるんだこの集落は。田舎だと娯楽が少ないからセックスしか楽しみがないみたいな話はよく聞くけど、いくらなんでも早熟すぎる。

 悪いけど僕はロリには興味がないのでね。アイリーンは別だよ。

 

 そうだ、僕の家族はどこにいるんだろう?

 死んだと思って帰っちゃったのかなあ。まあ【エクステンドライフ】のことも伝えてないから仕方ないんだけど。

 ただまあ、まだ連鎖して崩落するかもしれなかったし、ゴブリンもまだ周囲に潜んでいただろうし、二重遭難になるよりはずっといいか。

 

 問題はここがどこで、どうやったら帰れるかなんだけど。

 とりあえず情報を聞き出そうとしてるんだけど、この子たち思った以上に人の話を聞かない。

 

「子作りしよ子作り! あたし孕み頃!」

 

「ウチも! ウチも!」

 

「うるさい! いいからセックスだ!」

 

 我先に僕にしがみついて、しきりに子作りをせがんでくる。

 まだ子供だし、言葉の意味もわからず大人の真似をしてるんだろうなあ。

 いやどんな大人だよ、教育に悪すぎるだろ。

 ともあれ埒が開かないので、僕は子供たちにしがみつかれたままふんぬっと立ち上がる。

 体鍛えててよかったね。

 

 すると子供たちはおおーと歓声を上げた後、トロンと瞳を潤ませる。

 

「力持ち……! たくましいオトコ……!」

 

「かっこいい! 抱いて!」

 

「むしろ抱かせろ!」

 

 僕の左右にしがみついていた子供たちは、鼻息を荒げるとスリスリと僕の腹筋に頬ずりしてきた。

 何やらカクカクと脚を震わせている。何の遊びだこれ?

 なんか夢中で頬ずりしてるけど、お父さんに甘えたりない年齢なのかなあ。

 まあ、可愛い幼女に甘えられるのは正直悪い気がしないけどね。ふふ。

 

 

≪説明しよう!

 も〇あきゴブリンである! 顔がひしゃげるくらい夢中で頬ずりしながら巨乳激エロ聖女にしがみついて腰カクする子ザルみてーな性欲の塊と、困ったような笑顔を浮かべる聖女という構図であった!

 しかしこの貞操逆転世界ではゴブリンが美少女であるため、雄士から見れば可愛い子供たちが甘えているように見えているのだ!≫

 

 

 うおっ……さすがに5人がかりでしがみつかれると歩くのも大変だぞ……。

 どうしたもんかなあ、こんだけ懐いてくれてるものを無理矢理引き剥がすのも可哀想だし。

 

「お前たち! わらわの沙汰が出る前に手を付けるとは何事か!」

 

 僕が悩んでいると、鋭い声が部屋の入り口から飛んできた。

 しがみついていた幼女たちは雷に打たれたように硬直すると、慌てて僕から離れて直立不動になった。なんかぷるぷる震えてる子もいる。可愛い。

 

 声の主は青白い肌をした少女だった。髪の色はエメラルドグリーンで、腰までもあるロングヘアは綺麗に整えられている。

 ドラコと変わらないほどの年頃だが、見るからに風格がある佇まい。よくよく見ればかなりあどけない顔立ちをしているが、眼光が鋭く油断ならない顔立ちをしていた。

 手には長い錫杖を持ち、ぶかぶかの毛皮には色鮮やかな鳥の羽飾りがついていて、見るからに高い地位にあることがわかる。ただお姫様っていうよりは、女王様って感じなんだけど……。

 

「ク、クィーン……!」

 

「ちゃんと全員に分けてやるから逸るでない。して……」

 

 クィーンと呼ばれた少女は、僕を頭の先から靴の先までジロジロと眺めながら、フフンと鼻を鳴らした。

 

「これが捕まえたオトコか。黒い髪とは珍しいが、なかなか筋肉がついた体をしているな。これなら長持ちしそうだ」

 

「ありがとう。自慢の筋肉なんだ」

 

 そう言いながらフンッと両手を腰の前で折り曲げて腕の筋肉を見せびらかすと、少女はぎょっとした顔を見せた。

 

「お、お前! ゴブリンの言葉を知っておるのか!?」

 

「あ、はい」

 

 このやりとり二度目だな。

 【異世界語会話】が勝手に翻訳してくれてるんだろうけど、そんな周囲の集落とコミュニケーションできないほど方言がきついの? 東北かよ。

 

「え、待って。今ゴブリンって言った?」

 

「左様。よくものこのこと我らスノーゴブリンの巣穴への迷い込んだな、人間よ! わらわらに捕らえられた以上はもはや外には出られぬと思え。貴様は肉奴隷として、生涯ここでわらわたちに種をつけるのだ! 干からびるまで使ってやるから覚悟するのだな!」

 

 腰に手を置いてドヤ顔で宣言する少女に、僕は言葉を失った。

 

 ……はい?

 え? え?

 

 ちょっと待って、この世界のゴブリンってこんななの?

 腰みのだけつけて鼻が尖った不潔な小鬼じゃないの?

 僕の知ってるゴブリンは決してこんなモコモコ毛皮を被った可愛い女の子じゃないんだけど。尖ってるのは鼻じゃなくて耳だし、耳を隠せば普通に日焼けしたローティーンの女児じゃん。

 まあ二言目には子作り!オトコ!って口にする性欲旺盛なところは確かにゴブリンらしいけども。

 

 思わず絶句していると、クィーンは僕の反応を怯えていると受け取ったのか、得意げに鼻を鳴らして顎をしゃくった。

 

「おい、一族にこいつを披露するぞ! 皆を集めるのだ!」

 

「はーい!」

 

 というわけで連れていかれたのはやたらでかい部屋。おそらく集会場なのだろう。

 ゴブリンは天然の洞窟に棲みついているんだろうけど、あちこち手を入れて住みやすく改造されているみたいだ。

 この集会場はとても音が響きやすくできていた。マイクとか拡声器もないだろうし、音の反響を利用して声が伝わりやすいように工夫されているのかな。精霊魔法で空調を入れているのか、気温もごく過ごしやすい。

 ……蛮族には違いないんだろうけど、モンスターとは思えないほど文化的な生活をしているようだった。

 

 そんな集会場にひしめくのは、大量のゴブリンたち。

 どう少なく見積もっても100体以上はいる。

 きゃっきゃっとおしゃべりしたり、今あたしの足踏んだ!踏んでない!と喧嘩したり、非常にかしましい光景だった。

 みんな女児と言っていいほどちびっこいのだが、中に数名やたらデカいのがいる。女子プロレスラーかと見まがうほどに体格がいい。

 なんだよ大人もいるんじゃん……と思ったけど、キャッキャッと幼い表情で隣のちびっこいゴブリンとおしゃべりしている。あれ絶対大人じゃねえわ。もしかしてあれホブゴブリンってやつ?

 

 目ざとい何人かは壇上に僕を見つけて、オトコだ!と目を輝かせている。

 それがあっという間に波及して、オトコ!オトコ!とゴブリンたちはぴょんぴょん飛び跳ねて興奮を形にする。しかしそれも長くは続かない。

 

「我が同胞たちよ、聞け!」

 

 壇上に立ったクィーンが声を張り上げると、水を打ったようにゴブリンたちは静まり返った。おお、威厳があるなこの子……。

 

 無言ながら「その男は誰? くれるの?」と興味津々に視線で訴えかけてくるゴブリンたちに、クィーンは重々しく頷いた。

 

「我々の部族の元に天よりオトコが舞い降りた! これは我々への天からの授かりものである! これよりこのオトコの子種を皆で公平に分け合うものとする!」

 

 一瞬の静寂ののち、爆発するように歓声が上がった。

 うるせえ!

 

「オサ! オサ! オサ!」

 

 ゴブリンたちの興奮ぶりたるやすさまじく、興奮のあまり足を踏み鳴らし、クィーンを讃えるらしき歓呼の声を上げている。

 それが洞窟中に響き渡って鼓膜が破れるんじゃないかと思えるほどの騒音となった。

 中には「もう犯していい!? 犯していいんだよね!?」と腰を高速でカクつかせて前後ぉぉぉぉぉぉん!している子や、壇上に這い上がろうとしている者もいる。

 

 おお……さすがにこれは身の危険を感じる。

 冒険者の酒場でウェイターやってた頃も、むくつけき女冒険者の野獣の眼光には何度も晒されてきたけど、ここまで欲望をダイレクトに叩きつけられたことはないよ。

 このままだと百名以上のゴブリンたちによってたかって貪られる輪姦ショーの始まりだ!

 

「いや、断るよ」

 

 僕の拒否の言葉は、残響を伴いながら予想外にはっきりと洞窟に響いた。

 

「あ゛?」

 

 出鼻を挫かれたゴブリンたちが、一瞬で殺気を向けてくるのがわかる。

 中には「拒絶されるほど燃える!」「嫌がるオトコを言いなりにするのがタノシイ!」「もう我慢できない! そのオトコの筋肉を見せて頂戴!」と余計に興奮しているのもいるけど、見なかったことにする。

 

「悪いけど、僕には愛する妻がいるんだ。もう子供もいる。君たちに体を好きにさせてやるわけにはいかない」

 

 異世界転生して最初に来たのがここなら喜んで彼女らの欲望を受け止めたんだけどね。まあロリにはあんま興味がないんだけど、ここまで求められているのなら応えないと種付けお兄さんの名がすたる。

 

 でも、僕にはもうアイリーン、ウルスナ、アミィさんという伴侶がいる。

 彼女たちはレズキスも拒否するくらい僕を一途に愛してくれているんだ。

 その気持ちに僕も応えなくてはいけない。じゃないとフェアじゃないよ。妻に貞潔を求めるのなら、男の側だって妻以外の女性に目移りしてはいけない。

 僕はおばあちゃんからそのように教わった。

 

「ふざけるな! お前は捕虜だぞ! お前に発言する権利などあるものか、無理矢理搾り取ってくれる!」

 

 クィーンはカンカンで僕を睨みつけてくる。愛らしい顔に何本も青筋が走っているね。この子実際は何歳くらいなんだろう……。

 

「残念だが、僕のチンポが勃つか勃たないかは僕の胸先三寸だ。男はヤリたくない女には勃たせないことができるからね。僕に生殖行為を強要することは不可能だ」

 

 嘘を吐きました。

 

「えっ……そ、そうなのか?」

 

 しかし意外や意外。僕の言葉に、クィーンは戸惑いをあらわにした。

 マジかよ、通ったわ。

 

 普段嘘を吐かないようことを心掛けている僕だけど、さすがに状況が状況だ。

 まさか通るとは思わなかったが。

 

 チンポが勃つのは生理現象だからね。まあ勃起を抑える手段はなくはないが。主にカーチャンの顔を想像するとかの手段で。

 しかしこれは好都合だ。このまま押し切ろう。

 

「もちろんタダとは言わない! 僕を見逃してくれるなら、君たちの役に立つ知識を教えようじゃないか! こう見えても僕はいろいろな技術を知ってんだぞ!」

 

「技術だと……? それはどういった類のものだ?」

 

「ええと……」

 

 具体的に何と言われても困るな。

 日本人の最大の強みは現代知識チートだし、ちょっとした生活の知恵を見せるだけで現地人はおおっと驚いてくれるけども。

 ただそれはあまりにも転生者本人にとっては当たり前のものばかりすぎて、具体的にこういうものを知ってます!とは挙げづらいよね。これを教えれば便利そう!というのは結構逆転の発想めいたところがある。

 

 あ、まずい。クィーンの視線が冷たくなりつつある。

 その場しのぎを口にしていると思われてしまうぞ。まあ実際その場しのぎなのだが。

 

「……逆に訊くけど、どんな知識がほしい? この集落がほしいものを教えてよ」

 

「それはもちろん……戦だ!」

 

 クィーンはニイッと残忍そうに唇を吊り上げると、ククッと喉を震わせた。

 

「あの空飛ぶ憎きトカゲども! お高くとまったドラゴンどもの鼻をあかし、地面へと叩きつけてやること! それがわらわの望みよ! そうだろう、同胞たちよ!」

 

「そうだー!」

 

「精霊石泥棒を許すな!」

 

「ドラゴン絶対殺す!」

 

 おっとお……?

 この子たち、ドラゴンに敵意を持っているのか?

 クィーンの言葉に浮かされたように、ゴブリンたちは続々とドラゴンへの敵意を口にする。。

 考えてみれば、精霊石堀りの最中を狙って組織的に銛を打ち込んでくるくらいだし、相当な敵対心を持っているのだろうが。

 

「うぬもドラゴンにさらわれて餌にされるところだったのだろう? 共にドラゴンに復讐しようではないか!」

 

「あ、はい」

 

 なるほど、そう見えているのか。

 確かにドラゴンの王子様の家庭教師兼エロ絵師としてチヤホヤされている人間がいるなんて想像もつかないよね。僕も人に言われたら何妄言吐いてんだと思うところだし。

 

「で……お前は我らに何を教えてくれるのだ? まさか口からでまかせを抜かしたのではなかろうな。であれば、肉奴隷となってもらうが?」

 

 まずいな。

 ここで銃とかガチで戦争の役に立つような技術を教えてやるわけにはいかないぞ。

 

 まあゴブリンが銃器で武装したところでドラゴンに太刀打ちできるとは思わないけど、僕だってドラコやドラパパに親しみを感じているから、あまりドラゴンに不利になる技術を渡したくない。

 それにゴブリンは多少洞窟を改造するような文化こそあれ、どう見ても技術力は低そうだ。あまり高度なものを教えても実現できない。

 

 好戦的な彼女たちの気質に合い、技術力が必要なく、戦争に役立ち、ドラゴンの不利にはなりすぎないもの……。

 

「わかった。僕に心当たりがある。ただちょっと仕込みが必要だから、時間をくれ」

 

「フン……。適当なことを言いおって。わらわの目にそぐわなければどうなるかわかっているのだろうな!」

 

 さて。

 ……時間は稼いだけど、どうしたもんかなあ。

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