【書籍版1巻2/20発売】貞操逆転ハードモード異世界を鋼メンタル冒険者が生き抜く   作:風見ひなた(TS団大首領)

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第105話「鋼メンタルでハカを伝導し抜くのに失敗した結果……」

 あっという間に時間は過ぎて、約束の時間がやって来た。

 集会場に姿を現した僕を、ゴブリンたちが総出でぐるりと取り囲んでいるね。

 

「いいぞー! 人間ー!」

 

「ウヘヘ、アタシらに何を教えてくれるんだぁ? ストリップショーでもやってくれた方が嬉しいけどなぁ!」

 

「下手な芸をしたら即マワしてやるからな! キャハハ!」

 

 ゴブリンたちがニヤニヤと笑いながらヤジを飛ばしてくる。

 字面にすると汚いオッサンどもにしか見えないけど、あどけないロリっ子が舌ったらずな声で言ってくるので違和感が半端ないな。

 どうもこの世界の男は女性に囲まれて下卑たヤジを飛ばされたら怖くて身が竦んでしまうらしいけど、僕は一向に平気だ。

 【精神耐性】で他社からの恐怖をシャットアウトしてるうえに、そもそも見た目がローティーンの女の子だからね。メスガキに野次られてもなんも怖くない。

 ケロリとした顔で芸を披露できるってもんだ。

 

 それにしても客席からの野次がよく通るね。この集会場、音響設備としてはかなりいい感じだ。ゴブリンクィーンの声を全員に届けるために工夫したんだろうけど、ちょっとしたコンサートホールくらいに音が響くぞ。

 

「今日は僕のために集まってくれてありがとう! じゃあ早速だけど、教えたアレをやってくれるかな! 知らない子は周囲の人を真似してくれ!」

 

 僕がそう言うと、先ほど仕込みをしておいたゴブリンたちが三拍子でビートを刻み始めた。

 ズンズンパン、ズンズンパンと2回の足踏みと拍手を組み合わせた簡単なリズムだ。音楽という文化を持たないゴブリンたちでも覚えられる、極めて単純な三拍子。

 きたなカワイイ野次を入れていたゴブリンたちも、仲間が変わったことをし始めたのを見て興味津々に瞳を輝かせ、真似をし始める。

 

 さて。

 ゴブリンたちにハカを教えてやると言ったな、あれは嘘だ!

 

 いや、ハカを教えてやるつもりではいたんだよ。

 だけどよくよく考えたら僕、ハカをまるで知らなかったんだよね。サッカーの試合前とかで踊ってるのをちらっと見たことはあるんだけど、歌詞も細かい振り付けもまるで知らない。

 どういうわけか日本で見たものをそっくりそのまま思い出せる特殊技能を身に着けている僕だけど、そもそもマトモに見たことがないものは思い出せないみたいだ。

 

 【最高のプレゼン体験】があるからハカの概念そのものを伝えることはできるとは思うんだけど、歌詞も踊りも知らないんじゃ実演してもらうことはできない。

 なので代替案として、足踏みを伴う曲を披露してこれに似た感じで!と伝えることにした。

 

 話は変わるけど、『ボヘミアン・ラプソディ』って映画を見たことはある?

 誰もが知ってるカリスマロックバンドQueenのボーカル、フレディ・マーキュリーの半生を描いた伝記映画だ。

 その中で僕が一番好きなシーンが、とある名曲の裏話だ。あえて自分たちで曲を演奏せず、観客にズンズンパンの三拍子を鳴らしてもらって、それをBGMにフレディが新曲を披露するという観客との一体感を感じられる名シーンだよ。まだ見たことがないって人は、ぜひもう見れない僕の代わりに見てほしい。

 

 あの曲なら一切の楽器がないこの環境でも歌える。歌い終わった後で、こんな感じで敵を威圧するようなおっかなくて勇壮な歌詞を歌って、味方を鼓舞するんだよと伝えてやればいい。

 幸いゴブリンたちはキャッキャと楽しそうにズンズンパンの三拍子を繰り返してノリにノッている。なんだかお遊戯会みたいな空気感になってるけど、シラケていないなら大丈夫。

 

「では……歌います!」

 

 

 

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 その瞬間、ゴブリンたちを襲った衝撃は筆舌に尽くしがたい。

 誰もが瞳を見開き、得体のしれない東洋人の捕虜が喉を震わせる叫びを聞いた。

 それは未だかつて聞いたこともない音楽。これまで吟遊詩人の男を捕らえ、子作りさせる間の無聊の慰みとして歌わせたことはあったが、こんな旋律を聞いたことは一度もない。

 

 そして何より、それは『叫び』だった。

 報われぬ者、社会から見捨てられた弱者を立ち上がらせ、魂を震わせようというメッセージの塊だった。

 あらゆる他種族から迫害され、見下されていたゴブリンたちは、まさに魂を震わされたのだ。

 

 ゴブリンたちの瞳から我知らずボロボロと零れ出す涙。

 それは斬新な旋律に衝撃を受けたからでも、雄士の美声に感銘を受けたからでもない。

 世界から迫害された弱者である自分たちへ「共感」し、「激励」の叫びを歌い上げてくれる男性が現れたことへの感激と安堵によるものだった。

 

 

 

 ……何が起こったのかもう少し突っ込んで説明しよう。

 雄士の話す言葉は【異世界語会話】の恩恵で自動的に聞き手にとって最も親しみのある言語へと翻訳される。

 これは何も日本語から異世界語になるだけではない。英語の歌であろうと、ゴブリンたちにとってはゴブリン語に翻訳されて聞こえるのだ。

 

 そしてロックソング、とりわけ70年代のコテコテのロックは反戦運動やら人種差別と結びついた「極めて反体制的」で「弱者に手を差し伸べる」ような歌詞なのである。

 これがゴブリン語で歌われたら、ゴブリンたちはどう思うか。

 

「この歌詞……私のことだ!!」

 

 挫けるな、立ち上がれと私たちの言葉で励ましてくれてる! こんな男性見たことない!

 この場にいた全ゴブリンがそう思った。

 

 もちろん雄士はそんなことまったく考えていない!!

 ただ単に足踏みでお手軽に演奏できるからハカに似てるねという安直な発想しかしてないし、歌詞の意味もまったく理解していない! ただ単に覚えてる音を口から垂れ流してるだけなのだ! オウムかオメーは!

 

 しかしゴブリンたちは例外なくこの歌詞に魂を撃ち抜かれていた!

 凶悪な盗賊であるゴブリンが弱者かどうかは諸説あるが、彼女たちが世界中から敵視され、迫害を受けているのは確かだし、それによる孤立感は非常に深いものだった。 

 有体に言えば、彼女たちにとんでもなく「刺さる」歌詞なのである。

 

 しかもその苦しみを男性がわかってくれる、応援してくれるという事実。

 これまで(自業自得だが)男性から恐れられ続けてきた彼女たちにとって、彼の歌は魂を癒してくれるかのようだった。

 

「星じゃ……」

 

 ゴブリンクィーンは魂が抜けたように呟いた。

 

「陽の光も月の光も差さぬこの岩窟に、何よりも輝く星が舞い降りおった……」

 

「岩窟の……星……?」

 

 その言葉は、みるみるうちにゴブリンの間を走り抜け、伝わっていく。

 

「私たちのお星様?」

 

「じゃあ岩窟の星(ロックスター)って呼ぼう!」

 

「ロックスターだ!! ロックスター!!」

 

 ゴブリンたちは自分たちを励ましてくれる素敵な男性を、そう表すことにした。

 それはまさにゴブリンたちを取り巻く世界が転換を迎えた瞬間だった。

 

 

 

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 ふぃー、歌い切ったぞ。

 2分くらいしかない短い曲なんだけど、さすがに緊張してたのか長く感じたなあ。

 なんか歌ってる途中でゴブリンたちがきゃいきゃいと騒いでたみたいだけど、途中で飽きちゃったのかな? カラオケで他の人がデンモクいじったりしてて露骨に聞いてない反応してるとちょっと傷つくよね。

 

 さて、反応はどうだろう。ウケてないとこれから輪姦祭りだぞ。

 ドキドキしながらチラッと視線を送ってみたところ……。

 

「ロックスター!」

 

「ロックスターしゅごい!」

 

「かっこいいーーーー!!」

 

 ロ、ロックスター!? いや僕ごときがそんな大層な呼ばれ方するのはさすがにおこがましいよ! 町内素人喉自慢でも上位に入れるか怪しいくらいだぞ!

 

 しかしゴブリンたちはみなキラッキラに瞳を輝かせて、僕に憧れの視線を送っている。

 中にはぽろぽろと泣いてる子もいるくらいだ。

 

 これは……そうか、曲に感動したんだな! わかるわかる、Queenの曲って名曲揃いだもんね。おじいちゃんが好きだったから僕も子供の頃からよく聞いて覚えてるんだ。

 なるほど、音楽にロクにふれたこともないゴブリンたちにとっては、洗練されたロックソングは衝撃的だったというわけか。そりゃ音楽業界にセンセーションを巻き起こした名曲だもん、さもありなんだよね。

 

 ……いや、ちょっと待ってよ。

 僕は別にロックソングを布教したいわけじゃないんだけども。

 

「えーみんな、聞いてくれ。ハカというのはこういう感じで足踏みと威圧的な歌詞を組み合わせて敵に威嚇を……」

 

「今のもっと聞きたい!」

 

「おかわりー!」

 

「ねーねー、もっと歌ってよロックスター!」

 

「おーかわり! おーかわり!」

 

 僕が発する言葉は、ゴブリンたちのおかわりコールでかき消されてしまった。

 いくら壇上からの声が響くとはいえ、200人からのゴブリンの歓声の前ではあまりにもボリュームが違いすぎる。

 

 これどうしたもんかなあ。

 ハカを教えるって約束で歌ったものなんだけど。ハカを教えられないのなら約束は無効ってことにされちゃうんじゃ……。

 

 そう思って客席を見渡すと、クィーンがノリノリで拳を振り上げていた。

 

「おーかわり! おーかわり!」

 

 ……まあクィーンがそう要望してるのなら、ハカのことはいいか。

 僕としてもロックソングを歌うくらいで済むのならそっちの方が楽だし。

 素人丸出しのへたっぴでも、こうまで熱望してくれるなら悪い気はしない。ロックスター呼ばわりはさすがに面映ゆいけどね。どっから覚えたんだろそんな単語。

 

「お前ら、歌をもう1曲演ってほしいときはおかわりじゃないぞ! アンコールって言うんだ!」

 

「アンコール! アンコール! アンコール!!」

 

「よしきた! ご声援にお応えしてもう1曲いってみよう!」

 

「やったぁーーーーーーーーー♥♥♥」

 

 ゴブリンたちは飛び上がって喜んでいるが、なかでもひと際でかい声を上げたのは……クィーンだ。

 瞳はキラキラ、頬は真っ赤で興奮のあまり手にした杖をぶんぶか振り回している。

 あれ、なんかあの顔だちやっぱりポピーちゃんに似てるような……気のせいかな。

 

 氷の精霊石でできた杖は洞窟の闇の中でも光り輝き、青白い軌跡を描いている。

 周囲のゴブリンたちはそれを見て目を輝かせると、我先にと携帯していた精霊石の欠片を振り上げて左右に揺らし始めた。

 その波は瞬く間に広がり、夜の海のように青白い波を作り出す。

 サイリウムで応援してくれるとは気が利いているじゃないか。

 こんな熱心に応援してもらえたら歌い手冥利に尽きるじゃんね。

 

「よーし、今日はオールナイトで喉が張り裂けるまで歌ってやるぞ! 次もフレディ・マーキュリーで! 男島雄士、歌います!」

 

「きゃああああああああーーーーーーーーーー♥♥♥♥♥」

 

 BGM? ここまでオーディエンスがノッてくれてるんならアカペラでいいだろ!

 

 

 そしてオーディエンス総立ちの伝説のワン・ナイト・ライブが幕を開けた!!

 

 

 

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 ……というのが昨夜の出来事なんだけども。

 

 それから一夜が経過した今、この集落は……。

 

 

「ねーねー、ウチとバンド組まない?」

 

「やっぱ5弦だよ5弦。4弦じゃ音の広がりが出ないって」

 

「このピックかわいー! 誰に作ってもらったの? え、自作? あたしのも作ってー!」

 

「フン……若いの、随分と楽器を苛めているようじゃな。弦がそう言っておるわい」

 

「あ、あなたは伝説のギター職人様……!?」

 

 

 僕の目の前を、大切そうにギターを抱えたままきゃいきゃいとバンド仲間と談笑する女の子が通り過ぎていく。その話題ももちろん次に演奏する新曲や注目のバンドのことばかり。

 右も左も、見渡す限りみーんなバンド活動に夢中だ。

 

 そう、スノーゴブリンの集落はたった一夜にしてイカすガールズバンド天国と化していた!!




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