【書籍版1巻2/20発売】貞操逆転ハードモード異世界を鋼メンタル冒険者が生き抜く   作:風見ひなた(TS団大首領)

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第106話「鋼メンタルでゴブリンにロックを布教し抜く」

 たった一夜にして凶悪盗賊団からガールズバンド天国になってしまったスノーゴブリン族。 どうしてこんなことになってしまったのか、正直僕も納得できていないんだけども。

 

 ざっくりと説明すると、まず昨日のライブでゴブリンたちはロックソングをとても気に入ったらしい。

 熱烈なアンコールに応えて、僕も調子に乗ってガンガンアカペラで歌い続けていたところ、とあるゴブリンがこんなことを言い出した。

 

「楽しそう! あたしも歌ってみたい!」

 

 空気を読まない発言に、しばし周囲のゴブリンたちは無言でじっとその子を見ていたが、やがて……。

 

「ウチも歌いたーい!」

 

「あたしもー!」

 

「ねーねー歌教えてー!」

 

 褐色ロリたちは一斉にぴょこぴょこと飛び跳ねながら僕におねだりしてきた。

 

 なんかこの子たちってよほど娯楽に飢えてるのか、他の人が楽しそうにしてたら寄って来て真似をしようとする習性があるみたいだね。

 そんな無邪気な習性があるのにどうして凶悪な山賊なんかやってるのか正直理解に苦しむが。周囲のゴブリンが楽しそうに略奪してるからつられて悪事をしているのかもしれないね。

 

 もちろん、惜しみなく教えてあげたよ。

 僕もロック好きだからね。同じものを楽しんでくれる人は多ければ多いほどいい。

 

 教える手段は簡単、【最高のプレゼン体験】で直接歌を頭に流し込んであげるだけ。

 そしたらあら不思議、ゴブリンたちは一瞬で楽曲をマスターしてしまいましたとさ。

 

 僕は正直あんまり歌はうまくないけど、記憶の中には原曲がそのまま残ってるからね。mp3データを直接ゴブリンの脳内ストレージにコピーしてやりましたとも。JASR●Cに知られたらブチギレ不可避だけど、さすがに異世界までは徴収に来れないだろうし。

 

 それにしてもこの子たち、歌がうまい。

 子供のうちから音楽を聴いて暮らさないと絶対音感は育たないと聞いたことあるんだけど、大体の子がめちゃめちゃ流暢に歌いこなしている。中には音痴の子もいるけど、本人はすごく楽しそうだし、楽しいならアリだろう。音楽っていうのは文字通り音を楽しむものだからね。

 

 まあもちろん楽曲をそのまま教えたわけだけど、そうするともちろんこんな疑問が浮かんでくる。

 

「ねえねえ、お歌と一緒に流れてる音ってどうやって鳴らすの?」

 

「あのきれいな音と一緒に歌いたーい! ロックスター、鳴らし方教えてよー!」

 

 まあそうなるわな。楽器があってこその楽曲だものね。

 

 というわけで、僕は楽器についての知識も【最高のプレゼン体験】してあげた。

 

 この時代だとエレキギターとかアンプとかキーボードとかの電子機器は当然発明されていないけど、ギターとかドラムならこの時代にもあるんじゃないかと思って概念を教えた。

 そうしたらこの子たち、すぐさまギターを再現しまったのだ。

 

 どうも僕の前に捕まっていた吟遊詩人がリュートを持ち歩いていたらしい。

 当時のゴブリンたちは山賊行為でその詩人を捕まえたのだが、音楽にまったく興味がなかったのでリュートを洞窟内のガラクタ置き場に放置していたのだ。

 リュートとギターじゃだいぶ構造も違うし、そもそも長年放置されてたんじゃ弦も緩んでいたと思うのだが、ゴブリンたちはなんとこのリュートを改造してギターを作り上げてしまった。

 

 他の子から伝説のギター職人とか呼ばれて偉そうにしてる、口ひげつけてる子の仕業だ。ちなみに狼の毛皮で作った付けひげで、本当はまだ全然若い。

 

 で、驚くべきことに最初の1本ができたらゴブリンたちはそれを真似して即座に量産を開始した。しかも複数人が同時に作り上げたのだ。

 

「? だって完成品は目の前にも頭の中にもあるしー、後は同じ形のを作ればいいだけでしょー?」

 

「簡単だよねー」

 

「ねー」

 

 絶句する僕にゴブリンたちが言い放ったのがこのセリフだ。

 いやおかしいだろ。

 

 原料の木材を用意するのだってそんな短時間でできるはずがない。ほどよく乾燥した状態でニスを塗って水分を抜けなくした繊細な加減が必要で、それには長い工程が必要なはず。

 なのにこの子たちときたら、精霊石を使って木材の水分を飛ばしたり、表面を融けない氷でコーティングしたりして、あっさりとコピーしてしまった。弦はモンスターの筋繊維と皮、ピックは骨を使ったらしい。

 

 こうして一夜にして量産されたギターはゴブリンたちの合間にいきわたった。僕が演奏法のついでに教えた有名ロックバンドのギターテクなんかも積極的に真似して、何人かはその再現にも成功してしまっている。

 

 あまりにも器用すぎるだろ。

 こと何かをコピーすることにかけて、この子たちは天性の才能を秘めていた。

 この子たちの本質は山賊じゃなかった。海賊版だったわ。

 

 ……というか、もしかして【最高のプレゼン体験】ってかなりヤバいスキルなのでは?

 僕はこれまで【インフルエンサー】こそが最弱にして最強と思ってきたけど、これって再現できる現地人さえいれば現代科学の結晶をこの世界でも作れてしまうということだよ。

 

 その過程を知らなくても、賢い人なら完成品の知識さえあれば逆算して過程を割り出せてしまうし、ましてやこの世界には魔法という未知の技術がある。ゴブリンたちが精霊石を使って木材加工をやってのけたように、現代日本人では想像もつかない過程を通して完成品に行きついてしまう可能性も考えられるのだ。

 

 これからは【最高のプレゼン体験】も使い方に気を付けた方がいいかもしれない。

 

 僕は集会場の演台で『マク■スセブン』や『けいお■!』や『ぼっち・ざ・■っく!』の曲を熱唱するゴブリンたちのライブを眺めながらそう思った。

 

 うん、まあ僕もなんだかんだオタクだからね。

 乞われるままに知ってる限りのロックソングを吐き出したらアニソンが多めに出てきたというか。

 ファイ●ーボンバーと放課後ティー●イムと結束バ●ドの楽曲がまったく同時代の曲として扱われているのは、令和のオタクとしてはとてもシュールな光景だ。

 

 でもゴブリンたちにはそんなことどうでもいいからね。とにかく歌って演奏して楽しければそれでいいのだ。

 ギターのほかに再現できた楽器はドラムだけだが、ボーカルとギターとドラムだけでも本人たちはすごく嬉しそうに演ってるし、聴衆もノリノリで精霊石のサイリウムを振り回して応援している。

 

 いやあ、それにしても。

 この子たち、本当に楽しそうというかきら●らしてるなあ。

 めっちゃ女の子だけでキャッキャウフフしてる青春空間だわ。男とかいう汚い存在なんかいらんかったんや。

 

 あ、そうそう。

 この子たちに音楽を布教してよかったと明確に言える事実がひとつある。

 なんか昨日のライブ以降、誰一人として僕を襲ってこようとしなくなった。

 とはいえ、興味を失ったというわけでもないようなのだが。

 

「あっ、ロックスターだ!」

 

「ねーねー、こっち向いてー!」

 

 ギターを抱えて歩く通りすがりのゴブリンに声を掛けられたので、笑顔を作りながら手を振り返してやる。

 

『キャーーーーーーーーーッ♥♥♥』

 

 

 ゴブリンたちは悲鳴を上げながら顔を真っ赤にして、頬に手を当てて走り去っていく。

 うーん、なんなんだろう?

 興味自体はめっちゃありそう……というか、何なら僕の周囲におそろいの毛皮服を着たゴブリンたちが輪を作るようにびっしりと取り囲んでいるし、さっきの子たちにめちゃめちゃ鋭い視線を送ったりしてたようなのだが。かといってこの子たちが僕に話しかけてくることもない。謎だ。

 とりあえず抱き着いて腰を振りたくるような過激なアピールはしてこなくなったのはありがたい限りなんだけどね。

 

 

≪説明しよう!

 アイドル親衛隊である! 80年代のアイドル黄金期(ある意味黎明期)の日本ではおそろいのハッピを着た熱狂的な男性ファンが統制されたコールを送り、無作法なファンを遠ざけるボディガードまでこなしていた!

 殺戮に満ちた不毛なゴブリンたちの世界に時空を超えて現れた雄士はまさに超時空アイドルであり、生まれて初めて目にするアイドルにゴブリンたちは「あたしが守護(まも)らねばならぬ……!」と考えた! かつての日本と同じ流れが起きているあたり、アイドル文化の収斂(しゅうれん)進化といえよう!≫

 

 

 また一組の演奏を終えたゴブリンたちに、僕は惜しみない拍手を送る。

 いや、マジですごいわ。よくもまあこんな短時間で本家そっくりに再現できるな……。

 ゴブリンたちは満足げな笑顔でぴょんぴょんと飛び跳ねながら壇上から降りていく。

 

 うーむ、この空間に僕って必要かなあ。

 すっごい楽しそうに演奏してるし、オーディエンスもノリノリでサイリウム振ってるし。

 こんなきらら空間に男っていらないよね。百合に挟まる男なんて邪魔なんだよ(過激派)

 このままひっそりといなくなって、ゴブリンだけで楽しいガールズライブパーティーを過ごしてもらうわけにはいかないだろうか?

 

 

≪説明しよう!

 そうはいかない!

 ゴブリンたちが楽しそうに演奏しているのは、この遊びを教えてくれたロックスターに「あたしたちこんなに本物そっくりに演奏できるよ! ね、すごい? ほめてほめて!」とアピールしているのが動機の半分を占めている! 演奏を終えるたびにじーっと雄士の方を見てくる意味を、こいつはまったく理解していなかった!

 お前がいなくなったらまた殺伐盗賊ライフに逆戻りするだけやぞ!≫

 

 

 僕のお嫁さんたちも寂しがってるだろうし、ドラゴンにも無事を伝えたいし。

 ゴブリンたちの興味がロックという新しい遊びに向いてるうちに、なんとか脱出できないかなあ。そもそもドラゴンの里から結構離れてそうだから難しいか。

 ドラパパは「近くの山」と言ってたけど、それは時速200キロ以上で飛べるドラゴンにとっての近所であって、地上を歩くしかないノロマな人間の足だとかなり遠そうだ。しかも土地勘もない雪山でロクな装備もなく雪中行軍。さすがに自殺行為がすぎるか……。

 

 そんなことを考えていると、ポピーちゃんがのんびりと近づいてきた。

 周囲のゴブリンたちが一瞬ギロッと視線を送ろうとしたけど、ポピーちゃんだと知って躊躇してるね。やっぱり相当立場が上なのか?

 

「ロックスター、大人気ですね! 部族の子はみんな貴方に夢中ですよ! このこのー♪」

 

 僕に肩から体当たりして、ウリウリと肘で突っついてくるポピーちゃん。

 うーむ、そうなのかねえ。遠巻きに見られているんだけどなあ。

 

 

≪説明しよう!

 レイプしようと考えなくなっただけで、むしろ昨夜は全員見えないところでシコりにシコっている! 雄士のオナペット経験値は一晩で爆増した! 1000……1500……馬鹿な、現在も上がり続けている!? 2000回だと!? うわっ!!(計測器が爆発する音)≫

 

 

「まあ、みんなが喜んでくれてるならよかったけど。どう? 女王様は満足そう?」

 

「はへ?」

 

 僕がそう言うと、ポピーちゃんはぴしりと硬直した。

 

「いや、役に立つ知識を教えたら僕の貞操は保証するって女王様と約束したでしょ。女王様はこれで満足してくれたのかなって」

 

「あ……あーあーあー! そ、そうでしたねっ! そりゃもちろん満足……されたのではないでしょうか、されたかと思います! ええ、多分!」

 

 ポピーちゃんは胸を撫で下ろすような仕草をしながら、ぶわっと汗をかきかきそんなことを口にする。

 

「いや、どっちなんだ。僕にとっては大事なことなんだよ。最初の約束は戦の役に立つ技術を教えるという話だったから、その点で難癖をつけられる可能性もあるし」

 

「え、えーと……。そ、そういえばそうでしたね……」

 

 まあさすがにこんだけ部族内で大流行してるんだし、さすがにこの功績は認めざるを得ないとは思うけども。

 僕が気を揉んでいると、ポピーちゃんがすいっと手のひらを差し出してきた。

 その上に乗せられているのは……三角形の真っ白なピック。まさに動物の骨から削りだしたばかりの、プレーンな状態だ。

 

「あの……これはクィーンからお預かりしたものなのですが。これをもっとクィーンにふさわしいものにせよというお下知をいただいています。それができたら、貞操は保証しましょう」

 

「なんだ、ちゃんと話がついてるんじゃないか」

 

 なんかこの場で突然とってつけたような違和感があるけど、まあいいや。

 

「しかし女王様にふさわしいピックか……。どういう風にしてほしいかは聞いてる?」

 

「ええと……とにかくカッコよくて可愛い、他のゴブリンが持ってないような特別なものがいいです! あ、その、クィーンはそういうものを喜ばれるかと思います! きっと!」

 

 ふーむ。他の子が持ってない感じか。

 

 ピックの形を大きく変えてしまうと使い勝手が変わってしまうので、形はこのままにしたい。ということは図柄を弄るしかないな。

 他の子たちはこれに染料で色を付けてるみたいだった。ただそれも結構原始的で、単色の染料をぶっかけただけとか、複色でも縞々模様とかのシンプルな感じで仕上がりも雑。

 はっきり言ってしまうと幼稚園児が授業で色を塗りました、みたいな。

 

 ということなら、話は簡単じゃないか?

 もうちょっと上手な絵柄を染料で描いてあげれば、そのまま他の子が持っていない特別な代物になるはず。

 そうだな……この子たちの部族はみんな魔狼の毛皮を被っているし、氷の精霊石も暮らしに根差した特別な代物のようだから、モチーフはそれでいこう。真っ青に染めたピックに、白い狼を象った絵を入れれば、部族のシンボルって感じで女王様の持ち物にぴったりだろう。

 

「じゃあちょっと染料を持ってきてくれる? それと筆が欲しいな。え、筆を知らない? わかった、それじゃ木の柄と狼の毛皮を用意して、今から教える品物を作ってくれ」

 

 そして2時間後。

 僕がピックに絵を入れるのを取り囲んで見ていたゴブリンたちは、瞳をキラッキラさせながら異口同音におねだりした。

 

「これ楽しそう! ウチもやりたい!」

 

「あたしも同じのほしい! 自分の作る!」

 

『教えて! 教えて!!』

 

 ……ああ……。

 【最高のプレゼン体験】は濫用しないと決めたばかりなのに、またやってしまった……。

 あまりにもお手軽すぎるんだよ、これ。ちょっと詳しく概念を伝えようと頑張ったらつい発動してしまう。

 

「き、貴様らー! みんな真似したら全然特別じゃなくなっちゃうじゃろ! これはわらわの! わらわだけのじゃぞー!?」

 

 あれ、今のクィーンの声?

 お絵かき教えてー!と群がるゴブリンたちに遮られて全然見えないけど、近くにいるのかな。ポピーちゃんもどこにいったのかわからないや。

 

 まあ、こうなった以上はしょうがないか。

 

「わかったわかった、じゃあ教えるよ。まず印象主義と写実主義というのがあって……」

 

 

 

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 なんということでしょう。

 あんなに殺風景だったゴブリンの洞窟が、その日の夜には色とりどりの景観に大変身。

 

 岩肌がそのままだった無骨極まりない物件が、今やいたるところぎっしりとカラフルな染料で写実的な風景や誰かの似顔絵を描いた壁画で埋め尽くされています。

 絵の例としてうっかりイメージを伝えてしまったアニメキャラまで描かれていて、とんでもないカオスになってしまいました。

 

 いや、マジでどうすんのこれ……。

 

「あー! あたしの寝床の前にこんな絵描かないでよ! この涎垂らしてるのあたしの顔でしょ!」

 

「えへへ、この子イビキうるさいから注意だよーって意味だよ」

 

「むきー! どうせ描くならもっと可愛く描いてよ! こんなデフォルメじゃなくて、写実主義であたしの美貌をリアルに表現して!」

 

「ウチ印象派なんで……」

 

「画壇に物申すー!」

 

 好きな画風を巡って、取っ組み合いのケンカを繰り広げるゴブリンがごろごろと洞窟の中を転がっていく。まるでもふもふの小動物がじゃれ合っているような心温まる光景だ。

 

 まあ、描かれているのが無駄に遠近法をばっちり取り入れた令和のアニメテイストなゴブリンのイラストじゃなかったら心安らかにしていられたんだけどね……。

 

 ……ま、いいか。こんな洞窟の中で何描いたところで、世の中には何の影響もない。

 何より彼女たちが楽しそうにこぞってお絵かきしてたしね。

 

 それにしても、なんて器用な種族なんだ……。教えたものをすぐにコピーしてしまう。

 略奪なんかより芸術で飯食っていけば平和に暮らせたのに。いや、そもそも他種族から迫害されてるって話だし、略奪で生きていくほかなかったのか。

 まあやってることは文化泥棒だからある意味根っからの盗賊だな、ワハハ!

 

 しかし、本当にいたるところ壁画だらけになったなあ。今じゃお絵かきするスペースを争って喧嘩してるくらいだ。

 まあ同族内で殺し合いまではしないのか、最終的にはスペースを譲り合ったり合作したりしているので、そこらへんもきらら空間だね。

 

 今の巣穴の雰囲気を一言で言うと……。

 女子校の文化祭かな!

 僕は実際に行ったことないけど、女の子たちが楽しそうに飾り付けたりバンドの練習してる感じがすっごいそんな感じ。

 

 いやー、尊いね。見てると思わず笑顔になっちゃう。

 いずれドラゴンの里に戻るまで、僕は空気のように透明な存在として、彼女たちの生活を見守っていけたらいいな。

 

「ロックスター、お時間です!」

 

「あ、はいはい」

 

 スタッフさんに呼ばれた僕は、香盤表に従って壇上へ向かう。

 途中入れ替わりで前のバンドの子とすれ違ったので、軽く手を上げて挨拶したら「きゃーーっ♥」と悲鳴を上げられた。

 「今、あたしによかったよって合図送ってくれた♥」「は? ウチにだけど?」「んなわけないじゃん殺すぞ!?」「解散だ! 音楽性の違いで解散だよぉ!」とじゃれ合うのを背中で聞きながら、ゆっくりと登壇する。

 

「きゃーーーーーーーーーーーーーっ♥♥♥ ロックスター♥♥♥」

 

「抱かせてーーーーーーっ!!」

 

「Y! U! G! Y! ユージィ最高ーーーーっ!!」

 

 途端にワッと降りかかってくる、ゴブリンたちの大声援。

 200人もの褐色ロリたちが、サイリウムを振りたくり跳ね回り、僕を熱狂的に出迎えてくれている。

 

 

 うーん、お世辞でもここまで期待されると嬉しいね。

 そりゃお世辞でしょ、どう考えても。僕の歌なんて他のバンドの子たちの足元にも及ばないもの。

 コピーの天才であるゴブリンの歌い手たちは、僕の記憶にあるオリジナルの歌声を完璧に再現している。そりゃもう音程もリズムもばっちりだよ。

 それに比べたら僕の歌なんて素人そのもの。前のバンドの歌も聞いてたけど、本当に良かった。僕が彼女たちよりも評価されるなんてありえないよ。

 それでもこんなに僕の歌を期待してくれるのなら、歌いましょう!

 

 僕はまとっていた毛皮のマントをバッと脱ぎ捨てると、故フレディ・マーキュリーのように肉体美を聴衆の前に曝け出すパフォーマンスを披露する。

 

「きゃあああああああああああああああああああーーーーーーっ♥♥♥」

 

「セクシーすぎるうううううううううう♥♥♥」

 

 バタンバタンと何人かのゴブリンが悲鳴を上げながら卒倒した。慌てた救護班が駆け寄っていくのを黙って見守る。救護する前に歌うと彼女たちが危ないからね。

 まあ、こんだけ期待してくれてるんならちょっとくらいサービスしますよ。

 

 ドンドンドン!とでかい音がするから何かと思ったら、ホブゴブリンの子が

 

「おかしくなっちゃいそう! 心臓が破裂しそう!」

 

 とドラミングしてラブコールを送っていた。あ、ロリ顔長身の褐色美少女です。

 さて、救護も終わったみたいだしそろそろいってみようか。

 

「では男島雄士、歌わせてもらいます! 今宵も1曲目は偉大なるフレディ・マーキュリーに捧ぐ!」

 

「Y! U! G! Y! Y! U! G! Y!」

 

 

≪説明しよう!

 雄士は他のガールズバンドの方が歌がうまいから自分は歌わなくてもいいんじゃないかななんて思っているが、まったくそんなことはない!

 何しろ雄士はゴブリン界ただ一人の男性ボーカルであり、多少音程やリズムが狂っていようが異性の歌い手というだけで唯一無二の存在なのである! 我々の世界の芸能界に女性アイドルが1人しかいない状況なら、引退など絶対にありえない!

 

 加えてこの文化を初めて伝えた彼は伝道師であり、替えのきかない存在なのだ! ロックとは一種の「宗教」であり、ロックスターは「教祖」なのである!

 

 そう、雄士はスノーゴブリンにとっての神となったのだ!≫

 

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