【書籍版1巻2/20発売】貞操逆転ハードモード異世界を鋼メンタル冒険者が生き抜く   作:風見ひなた(TS団大首領)

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第109話「行方不明のユージィの謎を解明すべく、我々はゴブリンの巣の奥地へ向かった――」

「絶対に先生を助けて来いよ! 絶対だぞ! 待ってるからな!」

 

「うん、お姉ちゃんたちに任せておいて! ドラコは良い子で隠れてるんだよ」

 

 心配そうに何度も念を押してくるドラコに笑顔で約束し、アイリーンはどんっと自分の胸を叩いた。

その間にウルスナは手早く周囲の様子を確認して、万が一にも伏兵などが隠れていないか見て回った。もし巣穴に入ったところを前後から挟み撃ちにされたら絶対に助からない。

 

 結果としてはウルスナの心配は杞憂に終わった。

 どうやらこの裂け目は随分昔から放棄されているもののようだ。周囲の森の下草は伸び放題のうえに、冷たい霜が降りて半ば凍り付いていた。しばらく誰も足を踏み入れていないことがわかる。

 その理由としては、おそらくこの裂け目の周囲には食用になるような植物や、狩り甲斐のある獲物が生息していないのだろうと考えられた。

 アイリーンの言う通り、ゴブリンたちもこの裂け目の存在を忘れているのかもしれない。

 

「よし……行くか」

 

 

 こうして巣穴に潜入した即席パーティだが、その道中は驚くほどにスムーズだった。

 何しろ分岐路に差し掛かるたびにアイリーンが次のルートを指定してくれるのだ。

 

「えーと、次の三叉路は……坂を上っていくのが正しい道だったかな」

 

「……マジか」

 

 ここまで来て疑うわけでもなかったが、あまりにも常識外れすぎてウルスナは思わず舌を巻く。

 警備のゴブリンはまるで見当たらず、すいすいと進んでいけるのだ。

 

 それはアイリーンがあらかじめ監視の緩いルートをリサーチしていたせいもあるが……。

 

 ずぅん、と山全体を揺るがすような震動に、ぱらぱらと時折頭上から小石が落ちて来る。

 

「始まった……!」

 

「ひぃぃぃ!」

 

 ドラゴンたちの陽動作戦が始まったのだ。

 ゴブリンはその迎撃に狩り出され、巣穴の警備も最小限にせざるを得ないのだろう。普段の出入り口に使われている穴はもちろん厳重に監視されているはずだが、巣穴の中の警備は間違いなく緩くなっているはずだ。

 

 それにしても陽動とはいえ、山自体にブレスを吐いたり精霊魔法をぶつけたりしているようで、かなりの衝撃が巣穴の中を走り抜けていく。

 

「ひいいい! 死ぬうう! 私たちはここで生き埋めにされて死ぬんだあああああ!!」

 

「落ち着け、デアボリカ。いかに力に(たの)むところが大きいドラゴンとはいえ、私たちが潜入していることを忘れて巣穴を崩落させるほど愚かでは……」

 

 泣き叫ぶデアボリカを落ち着かせようとしたアミィは、一瞬言葉に詰まった。

 いや、愚かかもしれん……。ドラゴンのバカさって相当だし……。そもそもドラゴンがもっと賢ければユウジが振り落とされることなんてなかったわけで。

 

「ああああああああ!! アミィ姉様も断言できないんじゃないか! もう終わりだあああああああああ!!」

 

「いや、そんなことはないぞ、うん。黒王閣下も参戦しているんだから、彼の目の前で調子に乗りすぎることはないだろう」

 

「こいつマジうるせえな! 折角潜入してるのにお前のせいで見つかったらどうすんだよ! 死にたくなかったら黙れ! ゴブリンに八つ裂きにされてえのか!」

 

「ひうっ」

 

 ウルスナに脅されたデアボリカは、慌てて小声の詠唱を始めた。

 

「……“消音結界”」

 

「その魔術は?」

 

 アイリーンに尋ねられ、デアボリカはぐしゅぐしゅと鼻を鳴らしながら応える。

 

「私たちの周囲に音の結界を張った。私たちの立てる物音や話し声は、結界の外には出て行かない。……これで音が原因でゴブリンに感知されることはないはずだ。かつてフォレストゴブリンの女王を倒したとき、これで気配を断った」

 

「へえー、便利!」

 

「そんな魔術知ってるなら最初から使えよ!」

 

「う、うるさいな! 私も現場に出なくなって長いから勘が鈍ってるんだよ! 私のように高貴で高邁な知性を持つ者はこんな泥仕事よりも人材の管理をすべきだからな!」

 

「今のお前はただの無職だろ……」

 

 ツッコミを入れながらも、ウルスナは密かに感心した。そういえばギルドの草創期には、デアボリカも現場で陣頭に立って冒険者を率いたという。現在の醜態には見る影もないが。

 先ほども会議室の隣の部屋で盗み聞きをしていたし、デアボリカは音を操る魔術に適性が高いのかもしれない。魔術師は誰しも得意とする属性がある。たとえばウルスナが『太陽』と関わりがあれば、本来のキャパシティを越えた大魔術を使いこなせるように。

 

「フ……懐かしいな。まだ冒険者ギルドが設立間もない頃、冒険者ギルドと衛兵隊の合同でフォレストゴブリンの女王を倒した。あのときの討伐隊に私とデアボリカがいたのだ」

 

「え、女王を倒したことがあるんだ! さっすがアミィさん、頼もしい!」

 

「私は!? さっき私が女王を倒したって言ったときスルーしたよなお前!? 私の消音魔術のおかげで警備を潜り抜けたんだが!?」

 

「あたしはデアボリカの言うこと、一切信じないことにしてるから」

 

「貧乏人が調子に乗りやがってよおおおおおお!! お前なんかユウジがいなければただの平民Aなんだからな! 身の程を弁えろよ!」

 

 まあ実際にはユウジがいるおかげでアミィの義妹という立場になってるし、何ならアミィはデアボリカよりもアイリーンの方を可愛いと思ってる疑惑すらあるが、こいつそこらへん理解してんのかねとウルスナは呆れた視線を向けた。

 

「アミィさんがいれば、もし女王に出くわしても勝ったも同然だね! なにしろアミィさんはドラゴンですら殴り倒しちゃったすっごい戦士だもん!」

 

 はしゃいだ声を上げるアイリーンの言葉に、アミィとデアボリカは浮かない顔をする。その顔色の変化に、アイリーンはあれ……と小首を傾げた。

 

「もしかしてそんなこともないの? 女王ってそんなに強い?」

 

「強い。あのときは本当にギリギリの勝利だった。一緒に行った討伐隊のメンバーは、皆死んだよ。かろうじて私とデアボリカだけが生還できたんだ」

 

「そんなに……? でも、ゴブリンでしょ? ギルドでもちょくちょく討伐隊の募集してるし、そこまでの熟練パーティじゃなくても勝ってるみたいだけど……」

 

「それは平地で戦う若い個体だから相手になるんだ。巣穴の深層にいる女王やシャーマンは比較にならないほど魔力が高いし、狭く暗い巣穴は奴らの領域だ。大規模な魔術を使われたら人間側は逃げ場がない。そもそもゴブリンを十把一絡(じゅっぱひとから)げに弱い種族と表現するのは間違っている。奴らにだって個体差があるんだよ」

 

 アミィの言葉に、アイリーンは不思議そうな顔をする。

 そんな妹分に、ウルスナが補足した。

 

「人間をドラゴンには絶対に勝てない弱い種族と言うようなもんだぜ」

 

「ああ……そっかあ」

 

 アイリーンは深く納得した。

 実際にはドラゴンを素手で殴り倒す衛兵もいれば、ドラゴンをひと睨みで無力化する聖者もいる。人間にそんな外れ値の個体がいるのなら、ゴブリンだってそうだろう。

 

「あのときは本当に薄氷の勝利だった。フォレストゴブリンの女王が巣穴の中で発動した炎の魔術は誰も回避できず、あまりの高温に皆が一瞬で骨も残さず灰になった。私とデアボリカだけは咄嗟に結界魔術で防御できたが、空気が焼かれて息ができなくなってな。私は意識を失う直前に無我夢中で女王の喉元に刃を突き出し、命を奪った。デアボリカが魔術で壁を破って他の部屋から新鮮な空気を運ばなければ、私も死んでいただろう。あの死闘はもう二度と経験したくない」

 

「ドラゴンを倒したアミィさんでも、そこまで苦戦する相手なの……?」

 

「ああ。はっきり言うが、ゴブリンの女王は人間体のドラゴンよりも遥かに手ごわい。ドラゴンに匹敵するほどの魔力を秘め、狡猾で、高度な魔術を使いこなす。精霊石の供給が十分でないフォレストゴブリンでそれだったんだ。氷の精霊石をふんだんに持っているこの山のスノウゴブリンなら、どれだけ恐ろしい相手か見当もつかない」

 

 ゴクリと喉を鳴らすアイリーンに、アミィは真顔で続けた。

 

「だから、女王やシャーマンといった上位個体に出会ったら絶対に戦闘は避けるべきだ。一目散に逃げた方がいい。正直こうして巣穴に潜入するなど自殺行為だと思っている。お前が道を知っているのでなければ、私は反対していただろう」

 

「ええと……」

 

 実のところ、アイリーンにそこまでの覚悟はなかった。

 ゴブリンのことをごく普通の冒険者でも倒せる程度のモンスターだと思っていたのである。まさかドラゴンと戦えるほどの強者ですら二の足を踏む相手だとは。

 

 よくよく考えてみれば、ドラゴンと縄張り争いをしている時点でゴブリンはドラゴンに匹敵する実力を秘めていることはわかっていたはずなのに、たびたびギルドで討伐隊が募集されているという事実や、見るからにアホそうでちびっこい容姿が目を曇らせていた。

 

 たびたびギルドで討伐隊が募集されているのなら、それは何度討伐隊を出しても人間はゴブリンを倒しきれていないということなのだ。

 

「ううっ……! どうして私がこんな遠回しな自殺みたいな真似をしなきゃいけないんだ。帰りたい……帰りたいよぉ……!」

 

「え、じゃあどうしてデアボリカはそのとき自分で討伐隊に参加したの?」

 

「私より強い魔術師がいなかったからだよ! それに貴族の身で自らゴブリンの女王を倒した魔術師がギルマスやってるって評判が広まれば、いい人材が集まってくるだろうが! だから本当に嫌だったけど我慢してアミィ姉様に付き合ったんだよ! ちくしょう、もうあんな怖い思い二度とするもんかと思ってたのに……!」

 

「ああ……そう」

 

 言ってることは至極まっとうだし、ノブリスオブリージュもこなしているのに、どうしてデアボリカが言うと薄汚い私欲に塗れているように聞こえるんだろう。

 

「お前がそういうこと言い出すたびにいつも思うが、たかがジェントリごときが貴族ぶるのは身内として心底恥ずかしいから、勘弁してほしいものだがな……」

 

「貴族は貴族でしょう!? アミィ姉様のように平民に馴れ馴れしくするからこのガキやユウジが調子づくのですよ!」

 

 姉妹の口げんかを背中に聞きながら、ウルスナは歩みを進める。

 やがて少し開けた場所にたどり着き、宙に浮かべた光の球体が壁面を照らすと、彼女はぽかんと口を開いた。

 

「……なんだこれ?」

 

 そこには未だかつて見たこともない抽象画が、壁一面に広がっていた。

 人間が何かリュートのようなものを握りながら片目を瞑っているように見えなくもないが、しかしその細かいパーツは現実の人間とは似ても似つかない。

 貴族として様々な絵画に触れてきたウルスナをもってしても、見たことがないタッチだ。

 

 人間と呼ぶにはあまりにも瞳は巨大だし、顎は鋭利に尖っているし、手足は胴体に比べてひょろ長すぎる。あまりにも不気味だった。一体どういう意図でこんな気味の悪い絵を描いたのだろうか。これがゴブリンの瞳を通して見た人間だと言うのなら、その美的センスは人間とは隔絶している。やはり人間とゴブリンは分かり合えない存在だとウルスナは改めて確信した。

 

 

≪説明しよう!

 ロックスターの似顔絵(少女漫画ver.)である!

 美的センスというのは時代や文化によって変わるものなので、少女漫画を見たこともない人間にとっては非常に気持ち悪いものに映る!

 現代の地球人が古代メソポタミア文明の彫刻を見て「目ェデカすぎ! キモッ!」と思うのと同じである!

 

 まあ現代日本の男オタも少女漫画の王子様見て「手足ひょろ長すぎだろ!」って思うし、女オタは男向け漫画見て「脚ぶっと! そんなほっそい腰とデカ奇乳を両立できてたまるか! ムチッ♥って擬音を人体から出せるもんなら出してみろや!」と感じているので、古今東西どこの界隈でも同じ現象といえよう!

 

 なお、少女漫画はゴブリンにお絵かきの題材をねだられた雄士が【最高のプレゼン体験】で脳内に漫●村した! それの使用は控えるんじゃなかったのか! 著作権がない世界だからってロリに甘すぎだろお前! あーあ、また海賊版広まったよ!≫

 

 

「ユージィだ!」

 

「は?」

 

「これ、ユージィの似顔絵だよ! やっぱりここにいるんだ!」

 

「……ユージーンの顔? どのへんが……?」

 

 その奇怪な壁画を眺め、ウルスナは心底首を傾げた。

 どこをどう見ても愛する夫の顔には見えないのだが、アイリーンはその壁画から夫の面影を感じ取ったらしい。

 

「ユージィ、今行くから!」

 

「ちょ、一人で突っ走るな! 見つかったらどうする!」

 

 暴走気味に駆け出すアイリーンの背中を追って、慌てて足を速めるウルスナたち。

 やがて彼女たちがたどり着いた中枢で見たもの、それは……。

 

 口からはだらしなく涎を、股間からは断続的にピュッピュと潮を吹き出しながら痙攣する褐色ロリたちと、床に転がる彼女たちを見下ろしている雄士の姿だった。




あけましておめでとうございます。
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