【書籍版1巻2/20発売】貞操逆転ハードモード異世界を鋼メンタル冒険者が生き抜く   作:風見ひなた(TS団大首領)

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第110話「鋼メンタルでゴブリンの秘薬に耐え抜く」

 どうも、ロックスターユージィです。

 なんか僕ドラコの先生だったり、エロマンCar先生だったり、ロックスターだったり、お絵かきの先生だったり、短期間で肩書き増えすぎじゃない? なんでこんなことになってるんだ。

 

 未だにゴブリンの捕虜である事実は変わらないんだけど、歌や絵を教えてからというもの扱いはだいぶ変わった。

 僕を見ると可愛いロリ顔でぐへへとスケベな視線を向けてきたゴブリンだけど、なんかものすごく丁寧な扱いをされるようになったね。

 もちろん時折エロい目で見られていることは感じるんだけど、視線を返すと慌てて目を逸らしたり、頬を赤らめながら嬉しそうにぴょんぴょん跳ねたり。

 好意を向けられていると思うんだけど、そばにポピーちゃんがいなくても距離を取ってくるのが謎だ。何があったんだよこの子たちに。

 

 

≪説明しよう!

 カリスマ的アイドルを遠巻きに見て喜ぶファン心理である! 普通のアイドルファンは推しがエロいなあ可愛いなあと思っても、飛びかかって押し倒したりはしないのだ! 

 たとえ性欲猿のゴブリンであっても、その一線は厳重に守られていた! なおオカズにはする! めっちゃシコれる!≫

 

 

 まあ、約束通り僕の貞操は保証してくれて一安心だよ。後はどうにかして帰る算段を見つけたいところだ。

 

 ちなみに今の僕の服装はパンツ一丁の上に魔狼の毛皮を羽織っている。

 さすがに雪山は寒いなーと震えてたら、ゴブリンたちがプレゼントしてくれたんだよ。これはとてもいいもので、冷気遮断の魔術がエンチャントされている。おかげでいつもぽかぽかだ。

 

 ただ、気になるのはゴブリンの子供に毛皮がいきわたってないみたいなんだよね。

 たまにゴブリンの中でもひと際小さい子が、ほぼ裸でくしゅんってくしゃみしてる。どうもゴブリンの世界も弱肉強食気味で、力が強い子から優先的に毛皮をもらえるらしい。

 

 まあ当たり前っちゃ当たり前だけどね。だって強い子が魔物を狩って毛皮や肉を持ち帰ってくるんだから、社会としてその子たちが優先されるのは当然だ。

 子供を大事にしましょうってのは近代のある程度社会に余裕ができてからの常識であって、生きるのにリソースがカツカツの中世では子供ってたくさん作って生き延びた子だけ育てればいいやって扱いなんだよ。

 

 あまりにも可哀想なので、僕なんかに毛皮をくれるより子供たちにあげてくれって言ったんだけど、なんか僕こそが一番いい毛皮をもらうべきだって頑として受け入れてもらえなかった。なんで? 僕、ただの捕虜なんだけどなあ。

 

 仕方ないのでせめて人肌で暖めてあげようと、毛皮をはだけて手招きしたらその子だけじゃなくてその場のゴブリンたちが一斉に集まって来て、おしくらまんじゅう大会になってしまった。

 まあ子供は温まったからいいか……。

 

 それにしてもゴブリンは可愛い。

 見た目が毛皮を被った褐色ロリだからというのもあるけど、素直だし教えたものをすぐに吸収するから教えがいがある。

 僕、だいぶこの子たちのこと好きになってきてるよ。本来は僕、捕虜の身なのにちょっとチヤホヤされたくらいで心許しちゃってるのは我ながらチョロいけど。

 これ以上この子たちに情が湧く前に、なんとかして帰らないとなあ。

 

「毛皮をはだけて子供を誘ったそうですね?」

 

 そんなことを考えていると、ジト目のポピーちゃんがやってきた。

 なんか偉そうなゴブリンを伴っている。偉そうなっていうのは付けひげをつけてるって意味だよ。ゴブリンってみんな歳をとっても見た目がロリのまま変わらないので、この部族では偉くなったら付けひげをつけるという文化があるみたいだ。異文化すぎる……。

 

「いや、寒そうだったから暖めてあげようと思っただけだよ」

 

「子供とはいえゴブリンですよ。小さくともエロいことばかり考えているのがゴブリンという生き物です。ぷにまんで貴方の精子ごくごく飲み干して孕むことを想像していたに違いありません。以後気を付けてください」

 

「えぇ……」

 

 いやそんなわけないやろ。

 と言いたいところだけど、他ならぬゴブリンのポピーちゃんが言うことだしなあ。

 

「どうも貴方は自分がどれだけ魅力的なオスかという自覚が薄いようですね」

 

「そうでもないと思うけどなあ。僕だってそれなりにモテてる自覚はあるよ。こう見えても僕はお嫁さんが3人いるんだ。やっぱり筋肉を鍛えてたのがよかったかな」

 

「ふぅーん……へえー……」

 

 僕がぐっと力こぶを作って見せると、ポピーちゃんは食い入るように視線を向けてきた。なんか爛々と瞳が輝いているように見える。ついでに隣の偉そうなゴブリンもハァハァと短い息を吐きながら腰を浮かせているね。ガン見じゃん、そんなに興味があるの?

 やはり筋肉は種族を越えた共通言語だな……!

 

 

≪説明しよう!

 素肌に毛皮のコート羽織っただけの巨乳美人が、突然オッパイ見せつけてセクシーポーズ取り始めたようなものである! 地球ではオッパイは種族を越えた共通言語だからな!≫

 

 

「そうですか、貴方って既婚者なんですか……」

 

「うん。そのうち2人は妊娠中だよ」

 

「ふうん……その人たちのところに帰りたいですか?」

 

「帰してくれるの!?」

 

 思わず弾んだ声をあげる僕に、ポピーちゃんはにっこりと微笑みを返してきた。

 

「ここに留まる気はありませんか? ここもいいところですよ。ゴブリンはみんな貴方のことが大好きですし、可愛い子がよりどりみどりです。誰を何人孕ませてもみんな嬉々として受け入れます。望まれるのならば女王の配偶者として女王に次ぐ地位も差し上げますよ」

 

「それは無理かな」

 

 うーん、正直言って魅力的な提案ではあるんだけどね。

 ハーレム肯定派のおじいちゃんなら一も二もなく受け入れそうだ。

 ただ、僕には既に愛する人たちがいる。お嫁さんだけじゃなく、ドラコやウェズ君も僕の帰りを待っているはずだ。

 

 最初に異世界転移した場所がここならその提案も受け入れたけど、今の僕には不可能だ。

 

「ごめんね、僕は待っている人のところに帰らなきゃいけないんだ」

 

「そうですか……」

 

 ポピーちゃんは溜息を吐くと、隣の偉ゴブちゃんから瓶を受け取った。

 透明な瓶の中に、ドロリとした緑色の液体が入っているようだ。

 

「では、せめてここでの生活を楽しんでいってください。どうぞ一献召し上がれ」

 

「それは何?」

 

「とても楽しい気分になれる飲み物です」

 

「つまりお酒ってこと?」

 

「そのようなものです」

 

 ニッコリと満面の笑みを浮かべるポピーちゃんは、鉢に緑色の液体を注ぐとずずいと僕に差し出してきた。

 

「さあ、どうぞどうぞ」

 

 僕は鉢を受け取ると、左右に傾けてみた。見るからに粘り気の強そうな濃厚な緑色の液体が、どろーっとスライムのように鉢の中を流れていく。

 

 うーむ、薬草酒ってやつかな? はっきり言って見るからにまずそうだが。

 それでもせっかく人に勧められたものだし、飲まなきゃ失礼かな。

 それにゴブリンのお酒ってのもどんなものなのか気になる。僕、お酒好きだからね。機会があれば異世界の酒という酒を味わってみたいと思っている。

 

「どうされました? さあ飲んで飲んで」

 

 ポピーちゃんは僕にじっと視線を注ぎながら急かしてくる。

 あ、チロリと唇を舐めた。可愛いな。

 

 ……ええい、ままよ!

 

 僕はぐっと鉢を傾け、中身をぐいっと飲み下した。

 

 と、そのとき。

 凄まじい衝撃と共に大きく洞窟が揺れた。

 

 なんだなんだ、地震か?

 

「た、大変だよー! ドラゴンが……あーっ!!」

 

「ポピーちゃんがロックスターにアレを飲ませてる!」

 

「ずるーい! 抜け駆けだー!」

 

 慌てた様子のゴブリンたちがぞろぞろと部屋に入って来くるが、僕が緑色の液体を飲んでるのを見るとぴょんぴょんと跳ねて囃し立て始めた。

 

「う、うるさいうるさい! わらわが最初じゃぞ!」

 

「えー。じゃああたし2番目!」

 

「ウチその次!」

 

「待て! シャーマンであるワシが2番目に決まっておろうが!」

 

 ゴブリンたちがワイワイともめているのが遠くに聞こえる。

 意識が朦朧として、今にも手放してしまいそう……

 

 ……なほどに、この酒はまずい!!

 まずもってエグみがすさまじい。ついで襲い掛かってくる猛烈な生臭さ。青臭いだけじゃなくて何か動物の臓物みたいな臭いがする。胆汁を口にしたときみたいなすさまじい苦みと渋みもあるよ。

 そもそもこれアルコール入ってるの? まったくそんな気がしないんだけど。

 

「うっぷ! ごめん、もういらない……」

 

 さすがにこれを「まずい!もう一杯」という勇気はない。

 そもそも半分飲むくらいで精いっぱいだったよ。

 人様の食文化にどうこういうつもりはないけど、いくらなんでもまずすぎる。こんなものを好んで飲む文化があるということが信じられない。

 

 ポピーちゃんをはじめとするゴブリンたちは、じっと僕に視線を注いでいる。

 う、さすがに失礼だったか……?

 

「……ロックスター、なんともないのですか?」

 

「あるよ、口の中がすっごい苦い。悪いけど誰か水持ってきてくれない?」

 

 そんな僕の反応に、ゴブリンたちはどよどよとざわめいている。

 なんだなんだ。

 

 ポピーちゃんは偉ゴブちゃんの肩をひっつかむと、ゴブリンたちの人垣の向こうに連れて行っている。なんかごにょごにょと囁き合ってるみたいだね。

 

『おいシャーマン。貴様、薬を間違えたか?』

 

『ま、まさか。調合したばかりですぞ。これは間違いなく一族に伝わる秘薬。たとえ童貞でも狂ったように女を欲しがり、子宮に生出しをキメるまで勃起が収まらなくなる最強媚薬“カンドサンゼンバイン”のはずです!』

 

『本当じゃろうな……? じゃあどうしてロックスターは平然としとるのじゃ!』

 

『わ、わかりませぇん……』

 

 

≪説明しよう!

 凌辱系ファンタジー作品でゴブリンやオークが多用する、女性をめちゃめちゃ発情させるうえに後遺症もない都合の良すぎる媚薬である!

 

 貞操を保証すると言っておいてこんなものを盛ろうとするなんて裏切ったな!というところだが、ちょっと待ってほしい。

 確かに貞操は保証すると言ったが、それはゴブリン側から無理矢理性交渉を求めないということであり、雄士の方からゴブリンを襲ってくれるのなら約束は破っていないというのがゴブリン側の理屈なのである!

 

 そもそもゴブリンにはもう永久に雄士を人間の世界に帰すつもりなんてないし、この集落に骨を埋めてもらうからにはいずれは婚姻もするはず。ならそれが10年後だろうが今すぐだろうが同じことだし、早ければ早い方が子供たくさん産めていいよねということなのだ!

 

 なお、これでもゴブリンにとっては最大限の譲歩である!

 ゴブリンは女王を含めてみんな雄士にメロメロであり、生まれて初めての恋をしているのだ!

 しかしゴブリンはすべからく男性をレイプして殖えるものなので、恋愛という概念が存在しない! 未知の感情に混乱したゴブリンたちは、湧き上がる慕情と自分たちの文化との折衷を試みた結果、ひとつの帰結を迎えた!

 

 つまり「和姦なら純愛」ということだ!

 たとえ薬を盛った結果であろうが、雄士側から手を出してくれれば和姦だし純愛なのである! そんな理屈が通るかこのプリティ蛮族どもが!

 男性との接し方がレイプかイチャラブの二択しかない哀れな種族であった!

 

 なお、せっかく調合した『カンドサンゼンバイン』だが、雄士は【薬毒耐性】ですべての薬の効果を無効化するため、まるで効いていない!≫

 

 

 なんか今最強媚薬とか言わなかった?

 僕が様子を見ていると、ポピーちゃんと偉ゴブちゃんが連れだって戻って来た。

 

「ええい、もういい! わらわが直接確かめてやる!」

 

 そう言ってポピーちゃんは僕が床に置いた鉢に人差し指をつけると、ぺろりと口に含んだ。それおいしくないよ?

 

「な、なんで効果が出ない……? どうなってるの……?」

 

 その横から訝しげな顔の偉ゴブちゃんも人差し指をつけてぺろり。

 

 すると人が何かやってるのを見ると真似したくなる習性がうずいたのか、他のゴブリンたちもわらわらと押し寄せてきた。

 

「なんか楽しそうなことしてるー。あたしもぺろり」

 

「えー、あたしもやるー。ぺろり」

 

「ウチもウチも! ぺろり」

 

「あれ、もう空っぽだよ! あたしの分は?」

 

「ここに瓶あるじゃん。おかわり注ぐよー」

 

「やったーいっぱいある! ぺろり」

 

「うわ、まずーい! でももう1回ぺろり」

 

「ってお前ら何をやっておるのじゃー! こんなもん真似る奴がおるか! んっ」

 

 ツッコミを入れたポピーちゃんの鼻からだらりと鼻血が溢れてきた。

 

「や、やっぱり効くじゃないかぁーーーーーっ!!」

 

 プシーーーーーッ!

 ポピーちゃんの股間から盛大に透明な液体が噴き出て、その場に倒れ伏す。ガクガク♥とひっきりなしに空腰を使って、白目を剥いていた。

 

「お゛っ♥ これやっべ♥ イクッ♥ 風が吹いただけでイクッ♥ おちんぽ♥ おちんぽくだしゃい♥ 死ぬっ、死にましゅ♥ おちんぽ恵んでもらえないと死にましゅ♥♥♥」

 

「や、やっぱり私の調合に間違いはなかった♥♥♥ お゛お゛~! お゛お゛~ん♥♥♥」

 

「おちんぽ♥ おちんぽほしいでしゅうううう♥♥♥ ロックスターおちんぽくだしゃい~♥ 頭バカになりましゅううう♥♥♥」

 

 僕が唖然と見守る中、鉢の中身を口にしてしまったゴブリンたちは一斉に発情してハートマークだらけの苦悶の声を上げている。

 体が動けば僕に飛びかかって無理矢理押し倒してくるところだろうが、完全に腰が抜けてしまって立ち上がることができないようだ。

 その代わりに僕に爛々と蒼い瞳を向けて、乳首と股間をひたすらに弄りまくっている。プシャプシャプシャと断続的に水音が聞こえてきた。もうそこら中潮だらけや。

 

 うん、まあ正直褐色ロリたちの集団オナニーはエロかったけども。

 マイサンも痛いくらい勃起してるけど、さすがに手を出す気にはなれないかな……。

 

 そもそもこの子たち、僕に一服盛ってるからね。

 僕が【薬毒耐性】持ってなかったら今頃僕がこの子たちみたいになってたわけで、それを考えると感情的にちょっと無理だな。そもそも僕はお嫁さんたちに操を立ててるしね。

 

 ずしん、ずしん……。

 それより、さっきからのこの地響きはなんだろう?

 地震にしてはあまりにもひっきりなしに長く続いてるし。

 さっき入ってきたゴブリンがドラゴンとか言ってたけど、まさかこの巣にドラゴンが襲来しているのか?

 

 とりあえずこのままだと可哀想だし、ゴブリンたちには【インフルエンサー】で【薬毒耐性】を分けてやるか。

 ……と手を伸ばしかけたところで、ちょっと待てよと思いとどまる。

 

 ゴブリン首脳陣がオナニー狂いになっており、ドラゴンが襲撃している今こそ逃げる絶好のチャンスなのでは?

 なんとか地上までたどり着いて、ドラゴンに僕の存在を認識させることができれば、そのまま連れ出してもらえるかもしれない。

 

 ただ、道中でゴブリンに見つからないかと、ドラゴンに気付かれずそのまま攻撃に巻き込まれないかというのが懸念事項だ。特に後者が問題だな。ドラゴンって滅茶苦茶アホだもん……。

 

 狂ったように乳首と股間をこねこね♥しているゴブリンたちを見下ろしながら、さてどうしたもんかと考えていたそのとき……。

 

「ユージィ!!」

 

 その懐かしい声に振り返ると、そこにはアイリーンの姿があった。

 まさか、僕を助けに来てくれたのか!

 

 その後ろにはウルスナとアミィさんも……。さすが僕のお嫁さんたちだ。こんな危険なところまで来てくれるなんて……! あとデアボリカ。え、こいつなんで来たの? まさか僕を大切に思って? そんなわけあるか、今度は何企んでんだ。

 

 たたたたたっと軽い足音を鳴らしながらアイリーンが駆け寄ってきたので、僕は大きく両腕を広げた。予想通り、アイリーンは僕の腕の中に飛び込んできて……。

 

 すんすんすんすん! とすごい勢いで僕の首筋や耳の後ろや胸板に鼻を押し付けてきた。

 え、何? この子何してんの?

 僕が困惑していると、アイリーンはくわっとその瞳をかっぴろげる。

 

「ゴブリンたちの匂いがする……あたしの匂いをつけたはずなのに、ユージィの体中からゴブリンの匂いがするよおっ!!」

 

「そりゃするでしょ、ゴブリンと暮らしてたんだし……」

 

 特に今はゴブリンのオナニーショーの真っ最中だしね。

 そこかしこに転がるゴブリンたちはアイリーンたちを見て呻き声を上げるが、オナニーをやめられなくて妨害できないようだ。性欲が猿すぎる。

 

「でも誓ってゴブリンとセックスはしてないよ。僕の体はお嫁さんだけのものだからね」

 

「それは信じてるけどぉ。でもでもユージィから他の女に匂いがしちゃやだぁ! ユージィはあたしたちだけのものだもんっ! 匂いを、匂いをつけなおさなきゃ……!」

 

 アイリーンは僕の体にスリスリと頬を擦りつけて、全身くまなく匂いづけしてくる。この子、前々から思ってたけどさらに犬っぽくなってない? 何かあったのかな……。

 

「よう、ユージーン」

 

 横から口を挟んできたウルスナに、僕はほっと安堵の息を吐いた。

 

「ウルスナ、アイリーンをどうにかしてくれない? これじゃ身動きが取れないよ」

 

「その前にひとついいか? なんで生きてるんだお前」

 

 そこ気になる? まあそりゃそうか。

 僕は無表情にこちらを見てくるウルスナに、にこっと笑みを作って見せた。

 

「あ、それは1回だけ死んでも生き返れるチートを持ってるからなんだ。おかげでアイリーンを助けることができたよ。でも自力で帰ることができなくてさ、迎えに来てくれて本当に助かっ……」

 

「そうか、わかった。歯を食いしばれ」

 

 え、今なんて……?

 思わずぽかんとした次の瞬間、助走をつけたウルスナの鉄拳が僕の頬に突き刺さっていた。

 

「この馬鹿野郎がッッッッッ!!!」

 

「ぐへえええええええええええっっ!?」

 

 僕はアイリーンを抱えたまま吹っ飛ばされ、床に倒れ込んだ。

 え、僕何された? ウルスナが殴った、僕を? え?

 

 何をしても絶対にウルスナが僕に手を上げることはないと心のどこかで僕は信じ込んでいたのかもしれない。その前提が覆され、僕は呆然とすることしかできなかった。

 

 眼を白黒させる僕の胸倉をつかみ、ウルスナはジロリと顔を覗き込んでくる。

 

「何やってんだお前! 死んでも生き返れる? だからアイリーンの身代わりに死んでもいい? そんなわけがあるか、ふざけんじゃねえぞ!」

 

「で、でも。それでアイリーンは助かったんだよ。じゃあウルスナはあのままアイリーンが死んでも良かったって言うの!?」

 

「そういうことじゃねえんだよ! アイリーンはアイリーン! お前はお前だろうが! 代わりになんてきくかよ! いいか、二度と誰かの身代わりになろうなんて考えるな! その能力のことは金輪際忘れろ! 人間の命はひとつしかない、それが当たり前なんだよ! だから」

 

 ウルスナはぎゅっと唇を噛み締めると、僕を見据える。

 その目尻には涙が浮かんでいた。

 

「だから、今後お前が誰かを見捨てても、それは俺のせいだ。傲慢で身勝手な妻が、誰の身代わりにもなるなって命令したせいだ。お前が誰を見捨てても、その罪は俺が背負っていく。頼むからお前は誰の身代わりにもならないでくれ。軽々しく命を捨てないでくれ。

 

 そんなの繰り返してたら、いつかお前は人間じゃなくなる。自分が死ねば誰かを助けられると思うような、自分が死ななかったばかりに誰かを助けられなかったと罪の意識を感じるような、聖者(バケモノ)になっちまう。

 

 わたくしが貴方に望むのは、ただずっと隣にいてくれることだけ。ずっと一緒に隣を歩いて笑っていてくれることだけが、わたくしの望みです。わたくしにとって、貴方より大切な人はこの世にいません。お願い、します……」

 

 ……いくら僕が共感性を失っていても、わかるよ。

 ウルスナは本当に僕を大事に思っていてくれたということ。僕はそれを裏切ったということ。

 それでもウルスナは僕のために、こんな危険なところまで助けに来てくれた。

 

「心配をかけたね。ごめんなさい」

 

「はい……」

 

 濡れた花のように微笑んでこちらを見てくるウルスナの頬に、僕はそっと口づけた。

 

「ただいま」




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