【書籍版1巻2/20発売】貞操逆転ハードモード異世界を鋼メンタル冒険者が生き抜く   作:風見ひなた(TS団大首領)

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第112話「ゴブリンたちは猛毒を飲んだ」

 その夜、空は無数の竜で埋め尽くされた。

 

 突如としてゴブリンたちの山に襲来したドラゴンの軍勢は、炎や霧氷、雷などあらゆる属性のブレスを山に浴びせかけたのだ。

 炎が山の数少ない木々を焼き払って岩肌を抉り、氷のつぶては鋭い槍となって降り注ぎ、住処を失った動物たちが高圧電流の嵐で瞬時にローストされる。その一撃一撃すべてが、まともに浴びれば間違いなく致命傷となる殺意の結晶である。

 

 ドラゴンのブレスの正体は精霊魔法だ。

 精霊魔法とは自然現象を呼び起こし、己の意のままに従わせる魔法全般を指す。

 体内に圧倒的な規模の魔術炉を宿す彼女たちは、その身に宿す暴力的なまでの魔力量によって天を変じ、地に異をもたらす。

 

 ドラゴンの巨体は、大出力の魔力炉を体内に構築するための進化の帰結だ。

 人間の魔術師が大掛かりな魔法陣を描いてようやく行使できる大魔術と同じ結果を、ドラゴンは大出力の魔力によってほんの一瞬でやってのける。

 

 魔族と呼ばれた人々が模索した、ただひたすらに魔力量を求めた巨大な魔術炉としての進化。その結実たるドラゴンが、今殺意を帯びた軍勢となってゴブリンの暮らす山を焼き払おうと押し寄せていた。

 

 そんな月明りをも覆い隠すほどの竜の大群の中に、ひと際闇を融かしたように真っ黒な憎悪の塊があった。周囲に漆黒の竜気をまとわせた黒竜は、身の毛もよだつほどのおぞましい咆哮を上げる。

 

『小鬼ども! 命惜しくば先生を返せ! 我らの希望を今すぐに差し出せ!!』

 

 怒りと悲しみに満ちた叫びは、ドラゴンの言葉がわからなかったとしても確実に彼の意思を聴く者へと届ける。

 

 しかし、ゴブリンたちとて精霊魔法に特化した種族である。

 魔術炉の最大化を目指したのがドラゴンなら、最小化に価値を見出したのがゴブリンだ。

 

 他種族からの略奪でしか糧を得られなかった彼女たちの祖先は、限られた資源を効率的に使うため、成長することをやめた。体が大きくなればそれだけ体内の魔力炉も大きくなるが、多くの食料が必要となる。

 自分たちの体内で魔力を生成することを切り捨てた代わりに、ゴブリンは精霊石から一瞬で膨大な力を取り出せるように進化した。

 自分で魔力を生み出さなくても、外部から魔力を取り出せば、同じ結果に到達できるのだから。

 

 精霊石さえふんだんに供給されているなら、ゴブリンの戦闘力はドラゴンにも匹敵する。

 結果としてゴブリンは精霊石の産地から離れて生きられない種族になってしまったが、しかし精霊石を惜しみなく使える状態のゴブリンはとてつもなく強力な存在である。

 

 精霊石の加護によってドラゴンの咆哮に耐えたゴブリンたちは、暗がりから天を蒼い瞳で見つめ返す。その瞳は憎悪を宿し、燦燦と輝いていた。

 

「まだ奪おうというのか」

 

 彼女たちの祖先は温かな住処を奪われ、僻地へと追いやられた。

 旺盛な食欲を満たすだけの動物の群れも、安心して子供を育てられる快適な寝床も持つことを許されなかった。

 ただゴブリンだからという理由で、殺戮の対象とされた。

 食料も、誇りも、文化も、その一切を奪われ、迫害されてきた。

 

 そんな彼女たちが、ようやく見つけ出した心の拠り所。

 光の差さぬ岩窟に舞い降りた、煌めく星の光。

 それすらも奪いつくそうというのなら。

 

「殺すしかない! たとえドラゴンが相手でも!」

 

「戦え! 死ぬことを恐れるな!」

 

「この命に代えてでも、一匹でも多く叩き落してやる!」

 

「あたしたちのロックスターを、絶対に渡すもんか!」

 

 ゴブリンたちは死兵と化した。

 

 噴き付けられるドラゴンのブレスを精霊魔法によって手なづけ、巣穴に入り込むのを阻止し、精霊石を湯水のように溶かして空へと氷の槍を雨あられと発射する。

 ドラゴンによって埋め尽くされた空は完全に闇に覆われ、狙いなどつけようがなかったが、それで構わない。空が覆いつくされるほどに密集しているのなら、適当に撃っても当たるということなのだから。

 

「殺せ! 殺せェーーーーーーっ!!」

 

 獲物の搬入口にゴブリンたちが並び、山と積まれた精霊石を氷の槍へ変えて打ち放つ。

 幼い子供が貯蔵庫と搬入口をひっきりなしに往復して、精霊石の詰められた籠を運ぶ。

 

「フンガーーーーー!!!」

 

 対空砲座では立派な体格を持つホブゴブリンが、柱のまま切り出された精霊石の塊を巨大な槍へと変えて次々に投げつける。

 幼体成熟する個体ばかりのゴブリンにあって、力仕事をこなすために例外的に成長を許されたホブゴブリンは、隆々とした筋力を今こそ遺憾なく発揮する。

 彼女が投擲する巨大な槍は、たとえドラゴンであっても直撃すれば即死を免れない魔力を秘めていた。

 

「さっすが、頼れるぅ! さあ、どんどん投げちゃって……」

 

 数人がかりでえっほえっほと柱を運んできたゴブリンの一人が、空の彼方からみるみる迫りくる真っ赤な火球を見て言葉を詰まらせる。

 みるみる大きくなる炎のブレスは、的確にこの対空砲座を狙ってきていた。

 

 

「たいちょー! またひとつ対空砲座が潰されたよ!」

 

「くそっ、またか! どうして奴らはこっちの砲座の位置がわかる!?」

 

 作戦本部に詰めているゴブリンの部隊長は部下の報告に歯噛みした。

 この闇夜はドラゴンにも不利を与えているはず。山のどこから攻撃が飛んできたかなど、この闇の中ではわかるはずもないのだ。

 それなのに、ドラゴンたちはまるで事前に知っていたように対空砲座の射程ギリギリを飛び回り、的確にブレスを放って砲座を潰してくる。

 

 もちろん、ゴブリンにドラゴンに内通する裏切り者などいようはずもない。一族は強固な結束で結ばれているし、プライドの凝り固まったドラゴンがゴブリンの言葉に耳を貸すわけがない。

 なのに、こちらの手の内がドラゴンに筒抜けになっているとしか思えないほど、こちらの裏をかいた行動ばかりされるのだ。

 

「クィーンやシャーマンはまだか!? あの方たちの魔術ならドラゴンにだって……!」

 

「まだ来ないよー! 呼びに行ってる子たちも帰ってこないし!」

 

「くそっ、どうなってるんだ!?」

 

 一番頼りになる戦力であるはずの首脳陣も駆けつけてこない。

 おかげで普段は現場で狩りの指揮を執っている彼女が、臨時で作戦の指揮を執っている有様だ。

 

 女王が氷の嵐を呼びさえすれば、この劣勢だって覆せるはず。

 広範囲を極低音の吹雪で包み込む氷の嵐はスノーゴブリンにとっての奥の手であり、あれさえ発動すればどれだけドラゴンがいようと一網打尽で全滅に追いやれる。たとえドラゴンであっても、空気中の水分ですら凍てつくマイナス200度の環境下で生存することは不可能だ。

 一発逆転を狙うならこれに賭けるしかなかったが、しかしそれを唯一行使できるはずの女王はこの緊急事態にあって不在。

 伝令に出したゴブリンに何かあったとしか思えないが、しかしこの巣穴の中で不備が起こるとは考えづらい。

 

 まさかわんこ仙人のお告げで巣穴の構造がすべてバレており、女王も侵入者によって捕虜にとられているとは、指揮官は夢にも思っていない。

 

「たいちょー、貯蔵庫の子から精霊石のストックがなくなりそうって連絡が……」

 

「山頂から急いで切り出させろ! 雑な切り出し方でいい、多少ロスが出ても構わん! 支出を惜しむな、この際精霊石を掘り尽くしてもいい! とにかく一匹でも多くドラゴンを撃ち落とすんだ!」

 

「わかった、そう伝えるねー」

 

 それは一介の臨時指揮官に過ぎない彼女の分際を越えた指示かもしれなかったが、たとえ女王やシャーマンたち首脳陣がこの場にいても同じことを言っただろうと指揮官は考える。

 ドラゴンの威圧に屈してロックスターを引き渡す、そんな要求を受け入れられるわけがないのだ。

 

 万民に対して無窮の愛を注ぐという唯一絶対の神ですら、ゴブリンを見放した。

 教会を含むすべての者が、ゴブリンをこの世から殺し尽くせと異口同音に叫んだ。

 ゴブリンには神などいない。

 

 だがロックスターだけは、ゴブリンが生きることを許した。

 迫害される彼女たちに寄り添い、その苦境に共感し、歌詞に乗せて励ましてくれた。

 だからロックスターはゴブリンたちの新しい神だ。彼女たちの唯一の拠り所だ。

 

 それを奪おうというのなら、抵抗するしかない。

 たとえこの夜を最後に彼女たち全員が命を落とすとしても、最後の最後まで、最後の一人の命を引き換えにしてでも、一匹でも多くのドラゴンを殺す。

 

 我知らず、指揮官の口から旋律が漏れ出た。

 それはロックスターが教えてくれた数多の曲の中のひとつ。

 抗う者を勇気づけ、強者に吠え面をかかせてやれと叫ぶロックソング。

 

 作戦本部にいたゴブリンたちが、一人、また一人とそれに合わせて唱和する。

 

 ロックスターが、強者に抗う意志を与えてくれた。

 それを噛み締めながら、ゴブリンたちは歌声の元に闘志を高めていく。

 

 最早彼女たちの心に死への迷いはない。

 この歌声が絶えるそのときまで、ゴブリンたちは命を懸けてドラゴンと戦い続けるだろう。

 

 ゴブリンたちの背中を押し、死地へと追いやる最後の引き金。

 それを弾いたのは、ロックスターの教えた歌だった。

 

 

 

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 巣穴からの脱出は非常にスムーズに進んだ。

 ゴブリンたちはドラゴンの迎撃に手いっぱいのようで、見張りの子と出くわすこともなく、僕たちはそのまま出口まで駆け抜けることができた。

 

 ダンジョンっていうから野良モンスターとかが巣食ってるのかなと思ったけど、でかい野ネズミが目の前を走り抜けていったくらいで静かなもんだったよ。まあゴブリンたちの生活圏だし、そりゃそうか。

 

 アイリーンたちが入って来たという崖下の裂け目から外に出ると、外は真っ暗だった。自分の指の先も見えないくらいだ。

 今晩は闇夜なのかなと思って空を見上げると、まあすごいことになってる。ドラゴンが空を覆いつくさんばかりにひしめきあって、月明かりが見えなくなってたよ。

 アミィさんの肩に担がれたポピーちゃんも、これには絶句しているようだ。

 

 さっきまで「扱いがぞんざいじゃ!」とか「なんでこんなところに穴が……警備はどうなっとるんじゃ」とか文句言ってたポピーちゃんだけど、いくらなんでもこんな数のドラゴンが襲撃してきているとは思っていなかったらしい。

 僕から見ても世界最後の日か?ってくらい絶望的な光景だからね。

 どうも僕を助けるために陽動をしてくれているらしいんだけど、さすがに過剰戦力すぎない? なんだかすごく気合入ってるなあ。

 

 そしてドラゴンで埋め尽くされた空に向かって、地表から時折青い光が断続的に放たれている。驚くべきことにゴブリンたちは抵抗を諦めていないらしい。

 そりゃ座していても死ぬのを待つだけなら、せめてもの抵抗をするのは当たり前ではあるんだけど、絵面のスケールとしてはB-29を竹槍で撃ち落とそうとするようなものだ。

 だけどたまに運の悪いドラゴンが光に当たってよろめくように墜落していくのを見るに、ああ見えてかなりの破壊力がある魔法なのだろう。

 ……あのドラゴン、大丈夫かな。死んでないよね?

 

 無論ドラゴンたちも黙ってはおらず、火球やら氷柱やら電撃やら、さまざまなブレスを放って地表にぶつけている。洞窟を揺るがした地響きの正体はあれか。

 このままドラゴンの攻撃が続けば、本当に巣穴が潰れてみんな死んでしまいかねない。早いところドラパパに僕の無事を伝えて、攻撃をやめてもらわなくちゃ。

 

「先生ーーっ!」

 

 切羽詰まった声に視線を向けると、木陰からドラコが息せき切って走ってくるところだった。やあ2日ぶりだね、元気だったかい?

 

 僕はそんな感じでよっと右手を上げるが、ドラコは勢いよく僕にぶつかってきた。思いがけない衝撃に体が揺らぐが、踏ん張ってそのドラコを受け止める。弟子にぶつかって転んじゃ師匠としてカッコつかないもんね。

 

「先生! 先生! 本当に生きててくれたんだ! 先生……っ!!」

 

 ドラコは僕のお腹に顔を埋め、ひっくひっくと肩を震わせている。

 シャツが温かい液体で濡れていくのを感じながら、僕はおいおいと苦笑いを浮かべた。男の子がそんな簡単に泣くもんじゃないぜ。

 

 おーいみんな、ちょっと見てないで引き剥がすの手伝ってくれない? ……なんでみんな遠巻きにこっち見てるの? アミィさんなんか腕組みしてうんうん頷いているし。

 男が抱き合うのなんか見てたって仕方ないでしょ。

 

 

≪説明しよう!

 この世界では男の子は簡単に涙を流すし、なんなら女性にとってはクリティカルな最強武器である! かわいい男の子の涙に勝てる女性などいないのだ!

 なお、女性陣の目にはこの光景が「慕っている聖女の無事を知り、抱き着いて涙を流すお姫様」として映っており、尊いなあ……と思わず感無量にひたっているのである!≫

 

 

 誰も手伝ってくれないので、仕方なく僕はドラコが落ち着くまでよしよしと頭を撫でた。気を落ち着かせないと話を聞いてくれそうにないからね。

 ひとしきり泣いてようやく気が済んだらしいドラコは、アミィさんの肩に担がれているポピーちゃんを見て、眉間に皺を寄せながら殺意に紅い瞳を輝かせた。

 

「ゴブリンクィーン! 捕まえてきたんだね!」

 

「せ、赤竜……!? ドラゴンの王子が何故こんなところに……!」

 

「よくも先生を……。ボクがこの手で引導を渡してやる!」

 

「おい、ちょっと待った」

 

 腕だけ竜に変化させ、鋭い爪を振り上げるドラコの腕を掴み、僕は制止した。

 どいつもこいつも血の気が多すぎるだろ。

 

「どうして止めるの先生!?」

 

「僕はこの子を殺すために連れて来たんじゃないんだよ」

 

「だってこいつらのせいで先生は死ぬ可能性だってあったんだよ! そんなこいつらを許すっていうの!?」

 

 まあ可能性があったというか、ぶっちゃけ1回は本当に死んだんだけどね。

 それを口にすると火に油を注ぐのは僕にもわかるので、言わないでおく。

 

「うん、許すよ。この子たちもそんなに悪い子たち……ではあるかもしれないけど、僕を殺そうと思って攻撃したわけじゃない。それにこの子たちには音楽やお絵かきを教えたからね。教え子を殺すなんて、僕にはできないよ」

 

「教え子……?」

 

「ふふっ、そういう意味ではドラコと同門だな」

 

 冗談めかした笑みで張り詰めた空気をほぐそうと、僕はにこっと微笑みかける。

 

「……先生の教え子はボクだけのものなのに……!」

 

 あれーーっ!? どうして余計に殺意が溢れて来てるのかなーーーっ!?

 まるで意味が分からないぞ! ギラギラとした視線をポピーちゃんに向けないであげて!

 アイリーンはなんでうんうんと頷いているの? 何に同意を示しているの!?

 

 とりあえずドラコの頭を何度も撫でたら、とりあえず気が収まったのか落ち着いてくれた。

 

「約束したから、ポピーちゃんはここで解放するよ。アミィさん、その子を下ろしてあげて」

 

「ああ、わかった」

 

 アミィさんに米俵のように運ばれていたポピーちゃんだが、出口まで戻る間に薬も抜けてきたようだ。多少ふらつきながらも両の脚で立ち、僕を見上げている。

 アイリーンとウルスナは僕の両隣りに並び、油断なくポピーちゃんを睨みつけていた。

 

 そんな2人が視界に入っていないかのように、ポピーちゃんは静かに僕に視線を向ける。

 

「……本当に行ってしまうのですか、ロックスター」

 

「うん。僕は人間の世界に帰らないといけない。君たちと過ごした時間は楽しかったけど、本来は交わらない世界に生きているんだ。それぞれがいるべき場所に帰ろう」

 

「私は……わらわは、貴方のことが……」

 

「ごめん。だけど僕は――」

 

 ドオォォォォォォォン!

 

「ひいいいい! 今地面揺れたあああっ! おい、敵と馴れ合ってないで早く帰るぞ! こここ、こんなところに長居してドラゴンの流れ弾でも落ちてきたらどうする!? 嫌だっ、死にたくないいいっ!!」

 

「デボ子ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 お前……ほんっとお前さあ。

 僕は横から首を突っ込んできたデアボリカの顔にアイアンクローをキめてギリギリと締め上げた。いまメロドラマティックな雰囲気だっただろ! マジで空気読めや!

 

「ひぎいいいいい! やめろっ! 眼鏡が割れるううううう! 貴様の命なんかより高いんだぞこれは!」

 

「こいつぅ~!」

 

 そうやってデアボリカの悲鳴を聞いていた矢先、今度はより近いところに着弾したらしく、先ほどより大きく地面が揺れる。いや、確かにデアボリカの言う通り、流れ弾が降ってきかねないなこれ。

 

「わかった。ドラコ、帰ろう!」

 

「うん、わかった!」

 

 僕が言うが早いか、ドラコは一瞬で竜モードに変化した。もしかして待たせてしまってたかな……。

 裂け目のそばに置かれていたゴンドラを素早くひっつかんだドラコは、「乗って!」と僕たちを促してくる。

 

「待て! その前に黒王閣下にユウジの無事を伝えて、こっちに流れ弾が飛んでこないようにしろ! ……えへへ、坊ちゃまは精神感応で離れたドラゴンとお話しできるんですよね、いやぁすごいなあ。下等な人間ごときには到底真似のできない高度な魔術、憧れちゃいますなあ~!」

 

「あ、うん……」

 

 両手を組んでクネクネと腰をくねらせながら媚びへつらうデアボリカに、ドラコはドン引きした顔で頷いた。

 言ってることは至極まともなのに、どうしてデボ子は余計な媚びを売ってしまうんだ。

 

 ドラコはしばらく瞳を閉じて集中していたが、やがて薄目を開けてこちらに視線を向けてきた。

 

「パパが、先生の無事を直接知りたいって。思念波を中継するけどいい?」

 

「そんなことできるの? すごいね、じゃあお願い」

 

 へえー。ドラゴンってつくづく便利な生態をしてるんだな。

 頭の中に無線機が入ってるってことでしょ? グラハム・ベルが電話を発明するまで待つまでもないじゃん。

 そんなことを思いながら様子を見ていると、突然頭の中に大音声が響き渡った。

 

『先生! 先生、本当に無事なのか!? 返事をしてくれ、先生!』

 

 うおっ、キーンときたっ。

 マジで頭の中に直接声が入ってくるじゃん。この声、間違いなくドラパパのものだ。

 でも、これどうやって返事すればいいのかな。とりあえず口に出してみるか。

 

「うん、無事だよ。五体満足だし貞操も守れてる」

 

『そ、そうか……! よかった……本当によかった……!』

 

 ずびっ、と鼻を鳴らす音まで伝わってきた。

 思念波すごいな、感度めっちゃいいじゃん。

 

「ドラパパも僕を助けるためにこんなにたくさんのドラゴンを動員してくれたんだね。ありがとう」

 

『なんの、当然のことだ。先生は我らの希望、死んでもらっては困るからな! 先生を助けるために、オスのドラゴンたちも駆けつけている!』

 

 へえ……そうなのか。

 僕は頭上を飛び交うドラゴンたちに視線を向ける。

 あの中に、僕の作品を心待ちにしてくれている男性読者が混じっているのか……。

 なんだか心があったかくなるじゃんね。

 

 しかしもう十分だ。これ以上陽動で攻撃してもらう必要もない。

 

「ドラパパ、もうこれで十ぶ……」

 

『さあ先生、すぐにこちらに戻ってきてくれ! 先生の無事も確認できた以上、手加減する必要もない。これより我々はブレスの一斉射撃により、ゴブリンを山ごと根絶やしにする!』




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