【書籍版1巻2/20発売】貞操逆転ハードモード異世界を鋼メンタル冒険者が生き抜く   作:風見ひなた(TS団大首領)

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第114話「鋼メンタルでヒエッヒエの空気に耐え抜く」

 【精神耐性】があってよかった。

 いろいろとこいつのせいで苦しめられもしたけど、今だけは手放しでそう言える。

 

 ステージは高度数百メートルの上空、強風吹きすさぶゴンドラの上で命綱なし。

 観客は戦争真っ最中で殺意剥き出しのドラゴンとゴブリン数百名。

 攻撃の直前に真正面に飛び込んでいってゲリラライブ開催だ。

 日本にいた頃の僕では絶対に脚が竦んで何もできなくなっていただろう。

 

 ま、今の僕はスキルで頭がパーになってるので、ノリノリでぶん回せるけどね!

 

「そんなわけで1曲目はお馴染み、フレディ・マーキュリーだ! みんなしっかりついてこいよーっ!」

 

 僕は力いっぱいに想いを込めて、ロックソングを歌い上げる!

 この歌声はデアボリカの魔術とドラコの精神感応によって、戦場の隅々にまで響き渡るのだ。

 

 ここでイカれたメンバーを紹介するぜ!

 まずはステージスタッフ、照明担当は僕のお嫁さんズ!

 ポピーちゃんから教わった精霊魔術で無害な光線をびかびか出して、注目を集める!

 

 ステージとなるゴンドラを支えてくれてるのは僕の愛弟子、ドラコだ!

 さらに精神感応でこの一帯の生物の脳に直接このライブの映像を送りつけてくれてるから、空を飛んでようが巣穴に籠ってようが、僕のライブを間近で鑑賞できるぞ!

 

 ギター担当はポピーちゃんだ!

 僕の計画を聞いて「ロックスターだけを死地には送らぬ!」と飛び入り参戦!

 いつのまにやら習得していたギターテクで感涙の生演奏を披露!

 

 音響担当はデアボリカだ!

 実は音に関する魔術が得意ということがお嫁さんズの証言で発覚したので、人間アンプとして僕の歌声とポピーちゃんのギターを周辺一帯にガンガンに拡声!

 

 「いやあああああ! こんなキチガイじみた計画にタダで命賭けたくないいいいい!!」と泣き叫んで協力を拒否していたけど、ゴンドラに積まれていた毛皮とワインのコンテナ全部僕が買い取るという約束で引き受けたよ!

 こいつ狸の皮算用でだいぶ仕入れてたらしく、ドラゴンに商品が売れなくて内心負債に怯えてたようだ。こいつは札束で頬を叩くのが一番効くね。

 

 以上のメンバーでお送りしております!

 こんな計画に乗るなんて、我が身内ながら本当にイカれてるわ。

 

 ……ちなみに「僕の歌を聴け!」とは言ったけど、さすがにそのフレーズが出て来るロボットアニメみたいに歌で戦争が止められるなんて考えてるわけじゃない。

 僕の歌声のすばらしさにドラゴンが感激して「ヤック・デカルチャー! 私たちが間違っていた! 戦争はやめよう!」なんて言い出すと思う? そんなのありえないでしょ。

 

 歌を通じて愛と平和のすばらしさに気付く。それは美しい物語だけど、そんなのが通用するのは件のアニメの世界だけだ。残念ながらこの世界は残酷で無慈悲(ハードモード)なので、歌では世界を救えない。

 

 じゃあなんでゲリラライブなんてやるかといえば、それが一番注目を引ける登場の仕方だったからだ。

 攻撃を中止させるにはとにかく僕たちが射線上にいるということを知らしめる必要があり、それには大きな音とビカビカ光るライトで注目を引けるゲリラライブが一番だと僕は考えた。

 言い方はアレだけど要はちんどん屋だね。注目さえ集められれば内容はなんだってよかったのだ。

 

 さて……ちゃんと注意は引けてるだろうか?

 僕は歌いながら、ちらっと周囲の様子をうかがう。

 

 命を賭けて切り込んだ甲斐あって、ドラゴンたちはぽかんとこちらを見つめているね。僕たちがいったい何をやりだしたのか、様子をみるつもりのようだ。

 

 眼下からはゴブリンたちが「きゃーーーーっ! ロックスター!」と歓声を上げているのが微かに聞こえる。あっちは攻撃するつもりはなくなっているようだね。

 巣穴から出てきたゴブリンたちは、僕の熱唱に合わせて青いサイリウムを振り始めた。この距離からだとゴブリンたちは豆粒のようだけど、サイリウムの青い光が山肌で波打つように揺れているね。ううむ、絶景!

 

 しかし問題はここから。どうやって両陣営を話し合いのテーブルにつかせるかだ。

 ゴブリンはともかく、ドラゴンの戦意をどうやって鎮めればいいんだ?

 歌で平和を訴えかけることは夢物語としても、せめて興味を引いて時間を稼げれば、彼らもいったん落ち着いてくれるかもしれない。そもそもが戦っても何も得られる利益がない戦争なのだ、話し合いになれば落としどころもあるはず。それに賭けるしかない。

 

 だから頼む、このライブに興味を持ってくれー!!

 そう願いながら必死で僕が歌い続けていると……。

 

「ええい、くだらん余興で我らの邪魔をするな! 何がライブだ、騒音にしか聞こえぬわ!」

 

「!」

 

 ドラゴンのうちの一匹が、おもむろに口を大きく開いた。

 キィィィィィン……という高音とともに、みるみる口の中に赤い光が集まっていく。

 まずい、レーザーブレスを吐かれる……!

 

「やめろ、たわけが! 我が息子と先生を焼き殺す気か!」

 

「ぎゃぶっ!?」

 

 ブレスが発射されようとしたそのとき、巨大な黒いドラゴンの腕が振り下ろされ、モブドラゴンの顎が強制的に閉じられる。行き場を失ったブレスが口の中で爆発したらしく、モブドラゴンはぶすぶすと煙を吐きながら空中で痛みに悶えた。

 サンキュー、ドラパパ!

 

「しかし黒王様! たとえ若様や先生だろうと、ゴブリンをかばい立てするなど!」

 

「今すぐ捕まえてどかせるべきです!」

 

「……正直、吾輩にも彼らが何を考えているのかはわからん。この歌も何がよいのかさっぱりだ。だが、しばし様子を見よ。彼らが何をやろうとしているのかをな……」

 

 そう言って腕組みしながらこちらを見据えるドラパパに、ドラゴンたちはしぶしぶ従った。どうやらドラパパとしても、ああやって部下を抑えることが精いっぱいの協力のようだ。

 そりゃそうか、ドラパパはあくまでドラママの威を借りているだけで、血気盛んなドラゴンを完全に従わせるだけの力を持っているわけではないんだ。

 

「……まずい、ドラゴンは僕の歌に全然興味を持ってくれてない!」

 

 一曲歌い終わった僕は、だらだらと汗をかきながらドラゴンを見やった。

 「先生がゴブリンをかばっている」「じゃあ敵なのか……?」とヒソヒソ囁き合っているようだ。客席は完全にヒエッヒエの針の筵。次の瞬間ブレスで撃墜されてもおかしくない雰囲気が漂っている。

 

 くそっ、ゴブリンたちが喜んでくれたから勘違いしてたけど、そもそもロックって中世じゃ新しすぎるのか? オーケストラが音楽の王様って呼ばれてる時代だもんな。ただの騒音としか認識されなくても仕方ないかもしれない。

 

 『バック・トゥ・ザ・フューチャー』っていう僕が大好きな映画に、親世代の時代にタイムスリップした主人公がロックを披露するけど、全然受けなくてしらーっとした空気が流れる描写があった。今まさにそのいたたまれない気分を味わっている……!

 

「ロックスターよ。そもそもロックは、弱者の曲なのじゃ。理不尽に迫害された者たちを励ます歌だからこそ、わらわたちの心に響いた」

 

 ポピーちゃんは僕を見上げ、真剣な顔で口を開く。

 

「じゃが、ドラゴンは強者じゃ。強さこそ至上という価値観を持ち、他種族に対しては絶対的な強者として振る舞っておる。そんな奴らに、弱者を励ます曲が響くと思うか?」

 

「……そ、そうか……!」

 

 僕は愕然と空を仰いだ。とんでもない勘違いだ。そもそもニーズがまったく噛み合っていない。

 ドラゴンの注意を引くなら、もっと別の曲を用意しなくてはならなかったのだ。

 

 だが、この状況で一体どんな曲を?

 ドラゴンが喜ぶ曲とはいったいどんな曲なんだ?

 わからない……! 強者が喜ぶ曲ってなんだ!?

 

「ユージィ……!」

 

「ユージーン、もうお前だけが頼りなんだ! 頑張ってくれ!」

 

「ユウジ、焦るな。ゆっくり考えるんだ」

 

「い、いやだーーーっ! バカの計画に乗ったばかりにこんなところで死にたくないー!」

 

 頭を抱えて苦悩する僕を、仲間たちが心配そうに見つめて来る。

 デボ子はちょっと正座しろ。

 

「せ、先生……」

 

 ドラコはハラハラとした瞳で、僕を見下ろしてくる。

 その瞳を見つめ返したとき、僕の中で閃光のように何かが弾けた。

 

 そ、そうか……! わかったぞ……! 答えはこんなところに……!

 僕はゴンドラに山と積まれている荷物に飛び付くと、その中身を漁る。

 果たして、目当てのものはそこにあった。

 そう……ドラコの着替えが入った包みだ。初日にドラコが大臣派に離宮へと連れていかれてしまったので、ゴンドラに積まれたままになっていた。

 

 包みを広げた僕は、真剣な顔つきでドラコに告げる。

 

「ドラコ……(うた)ってくれないか?」

 

「は?」

 

 あれ? 通じなかった? じゃあもう一度言うね。

 

「この服を着て、ドライグのお姉さんたちの前でお歌を披露してくれないか?」

 

「……はああああああああああ?」

 

 ドラコは今度こそこいつ本当に狂ったのかとでも言いたげな顔で、僕に何とも言えない視線を向けてきた。

 

「い、いやだよっ! なんでこの状況でそんな無意味なことしないといけないの!? しかもドライグのメスみたいな性欲で爛れた獣の前で!」

 

 いや、性欲で爛れた獣って、同族でしょ……。

 

「大丈夫だ、歌詞なら今から僕が脳内に直接プレゼンする! 恥ずかしいなら僕も一緒に歌うから安心しろ! あ、ライブ映像は引き続き流し続けてね。僕たちを見てるアイリーンやウルスナやアミィさんの視界を精神感応に乗せて流せる?」

 

 人間の目を使った3カメ編成だ。これで視点を変えながら立体的にライブ映像を流せるぞ!

 

「できるけど……先生本当に頭どうかしてるの!? こんなもんで戦争が止まるわけないでしょ!?」

 

「先生じゃない。今の僕は……ユウジPと呼ぶんだ!」

 

 どうやらこの局面、僕の力ではどうにもならないようだ。

 僕の時代は終わった。でも、それならそれでいいさ。

 ビッグになったら後進を育ててあげるのが、いいアーティストの引き際ってもんだよ。




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