【書籍版1巻2/20発売】貞操逆転ハードモード異世界を鋼メンタル冒険者が生き抜く   作:風見ひなた(TS団大首領)

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第115話「鋼メンタルで引退ライブをやり抜く」

 ドラゴンたちの不満は決壊寸前だった。

 黒王に様子を見ろと命令されたから攻撃の手を休止したものの、ゴンドラを持った若様は何故か地上に降下して、それっきり10分も動きがない。

 ゴブリンへの攻撃を遮るものはなく、今こそ攻撃の絶好のチャンスだというのに……。

 

 メスドラゴンたちを制止している黒王も、どっしりと腕組みなどして構えているが、内心では冷や汗だらだらだった。

 

(先生……! 何をするつもりなのかわからんが、早くしてくれ……! もうこいつらの手綱を引くにも限界が近いぞ……!)

 

 妻である族長のハクアはここにいない。大臣派のクーデターを鎮圧してから数日しか経っていないので、その抑えとなる最大戦力を里から動かすわけにはいかないからだ。

 だから族長代行として黒王が血の気の多いドラゴンたちを率いているわけだが、所詮オスの身の黒王はどうにもメスドラゴンから舐められがちだ。

 

 ゴブリンを殲滅するというのも、黒王自身の意思ではない。自分たちに歯向かったゴブリンを族滅すべしというのは血気に逸るドラゴンの総意であり、それを力づくで抑えることが黒王にはできないからなのだ。

 

 それでも友と我が息子が何かをしたいというのなら、自分は全力でそれを応援したい。

 だからせめてもの遅延工作はした、後は彼らに任せるほかない……!

 黒王は祈るような気持ちで、状況が動くのを待ち続けた。

 

 そのとき……!

 

『お待たせしました! 2曲目はこの僕ユージィと、ドラゴンの王子様による電撃結成デュオでお送りします! さあ、王子様のとびっきりの衣装をとくと見やがれ!』

 

 その声と共にメスドラゴンたちの視界に送り付けられた映像は、彼女たちにとって衝撃的な服を着せられたドラコの姿だった。

 白いブラウスの上から女の子のような青いケープを被り、ボトムは同色の青の半ズボンに白い二ーソックス。足元は革靴で上品にまとめている。少年用の服をベースに少女服のエッセンスを混ぜ込むことで、少年の可憐さがすさまじく強調されていた。

 雄士の従姉の腐女子ねーちゃんがエグいほどの性癖(こだわり)を詰め込んだ、中性的ショタファッションである!

 

「きゃ……」

 

 そして駄目押しに、恥ずかしさにプルプル震え、半ズボンの裾を掴みながらドラコが涙目でカメラ(アイリーン)の方を見つめていた!

 

「きゃわあああああああああああああああああああああああ♥」

 

 メスドラゴンたちの歓声で、文字通り山が揺れた。

 

 あまりにも可愛いがすぎる……! こんなものを見せられて正気が保てるわけがない!

 ゴブリンを殲滅しようなどという思考は一瞬で消し飛び、ドラゴンたちの意識は脳内に送り付けられるプレミア映像に釘付けになった。

 

 そして展開されるのは、いまだかつてドラゴンたちが見たこともない可愛いダンス。

 ドラコと雄士は軽快な音楽に乗せて歌いながらステップを踏み、ときどき視線を交わし合っては微笑み合い、背中合わせになってポーズを決める。

 

 それは雄士が子供の頃に、とある児童向け料理番組のオープニングで流れていたダンスだった。当時売り出し中だった小学生アイドルと歌のお姉さんが、踊りながら「今日は何を作ろうかな~?」と歌い上げるのだ。

 あまりにも人気が出て、大きなお友達にもDVDがバカ売れしたこのダンス。これがドラゴンのお姉さんたちの目にはどう映ったかというと……。

 

「ああああああああああああ!! 可愛い! 可愛い! 可愛い!!(←語彙消失)」

 

「若様! 若様! わか! ほあーーーーーーーーっ!!(←語彙消失)」

 

「しゅごいよぉ……。半ズボンから覗く膝小僧がプリティ……エロい……っ」

 

「筋肉質な先生との対比がエグくて、若様の可愛らしさが引き立つぅ~!」

 

「照れながら先生と視線交わして微笑む若様ぁ~! この視線に込められた感情の考察だけでレポート100枚書ける自信あるわ私……!!」

 

「大の男が楽しそうに可愛いダンス踊ってるの見て湧き上がるこの感情は何……!? こんな文化、私は知らない……! か、かるちゃー……!!」

 

 そう、強者であるドラゴンたちのツボとは『可愛い』。

 ただでさえ伝統的にショタを強要されてきたところに、可愛く楽しい児童向けダンスを添えてショタと青年の濃厚なカップリングをブチこまれたメスドラゴンたちの脳は、あっさりと許容限界を超えて破壊された!

 

 もちろん雄士は別にそこまで狙っておらず、「子供の可愛いダンスでも見せたら和んで戦う気なくなるんじゃね?」くらいにしか考えてなかったのは言うまでもない。

 

 可愛さ爆弾で完全に脳をやられたメスドラゴンたちは、ひとり、またひとりとフラフラと地上へと降下していく。

 もちろん映像は直接に脳に送り付けられているし、音だってデボ子がひいひい言いながら人間アンプで響かせているのだが、そういう問題ではない。

 

 できれば直接肉眼で見たい! あの2人が楽しそうに踊っている空気を感じたい!

 ライブ映像が中継されていても、生ライブの方がいい。その感覚は異世界であっても同じなのである。

 

 吸い寄せられるように地上に降り立ったメスドラゴンたちは、スペースをとる竜の姿から人型へと変じ、ゴンドラへと近づいていく。

 

 はたしてそこには、既に先客たちの姿があった。

 児童番組特有のひたすらに楽しい楽曲は、ゴブリンの精神年齢にぴったりだったのだ。ある者はキャッキャと笑いながらダンスに釘付けになり、ある者は後ろの方でドラコを真似て踊っている。それはそれは楽しそうな空間だった。

 

 ふと、まだ幼いゴブリンの視線がドラゴンたちに向けられた。立ち竦むドラゴンをじっと見つめた彼女は、無言で懐から精霊石を取り出す。

 まずい、攻撃される……! 人型を晒している今、自分たちは人間並みの戦闘力しか発揮できない……!

 総毛立って身構えるドラゴンたちに、幼いゴブリンは邪気のない表情でとてとてと近づいてくる。そしてゴブリンは先頭にいたドラゴンの手に精霊石を押し付けると、くるりとゴンドラの方を振り返って手元の精霊石を振り始めた。リズムに乗って青い光がゆらゆらと揺れて、夜明け前の最も暗い暗闇の中で軌跡を描く。

 

「…………」

 

 ドラゴンがおずおずと精霊石を横に振ると、ゴブリンの少女は彼女を見上げて嬉しそうな笑顔を浮かべる。

 2人が精霊石を振るリズムはいつしか同期し、蒼い軌跡は一体となってステージに向けてエールを送っていた。

 

 

 

 

 ふうー、いい汗かいたぁ!

 

「は、恥だ……。ドライグの次期族長として消せない恥を晒した……」

 

 なんかドラコがうずくまってブツブツ言ってるけど、楽しくなかったのかな?

 僕は結構楽しかったけどなー。ハタチ越えた大人の男が童心に返って踊る機会なんてそうそうあるもんじゃないよ。次はプリ●ュアダンスとかどう?

 

 あれ、ダンスに夢中で気付かなかったけど、後ろの方でゴブリンとドラゴンがサイリウム握ってるじゃん。うーんいいね、ドラゴンも今のは楽しんでくれたみたいだ。

 

 よーし、ここはもっと盛り上げるぞ!

 

「ウルスナ、コンテナに入ってるワインをみんなに振る舞ってくれ! 金なんてとるなよ、全部タダでいい! 出し惜しみはナシだ!」

 

「よしきた!」

 

 ウルスナが意気揚々とコンテナを開ける一方で、デアボリカが目を剥いて悲鳴を上げる。

 

「も、もったいねええええ!? お、お前! あれはサウザンドリーブズでも最高品質のとびっきりのワインだぞ! ゴブリンみたいな賤しい生き物が飲んでいいものじゃ……」

 

「僕が買い上げたものを誰に飲ませようが僕の勝手だろ。ケチつけるなら金払わないぞ」

 

「ぐ……ぐぎぃ……っ!」

 

「ほら、わかったならお前も手伝えよ。金欲しいんだろ?」

 

 デアボリカは心底悔しそうにギリギリと奥歯を噛み合わせながら、コンテナへ向かう。

 

『おいてめえら! ユージーンのおごりだ、ワインを浴びるほど飲みやがれ!」』

 

「わあーーーーーーーーっ♪」

 

 ウルスナの言葉は通じてないはずだけど、酒瓶を手に呼びかけたらおいしいものくれる!とわかったみたいだ。

 ゴブリンたちは一声に喝采を叫び、嬉しさのあまりぴょんこぴょんこ飛び跳ねる。

 

『欲しいなら器を持って順番に並べ! ほらっ、横入りするんじゃねえ! 他の奴から奪うのもなしだ! ちゃんと行儀よく並ばねえとやらねえぞ!』

 

「ケンカせずに並べって言ってるのかな。いいこにするからちょーだい!」

 

「あたしワインなんて飲むの初めて!」

 

「あまーい! すっぱーい! ちょっとしぶい。でもおいしー!」

 

「頭がふわふわしてきた! あはは! なにこれ、楽しーーー!」

 

「これ精霊魔法であっためたら体がぽかぽかしてもっとおいしいよ!」

 

「天才! 私もやろーっと」

 

 ワインを口にした褐色ロリたちは、普段にも増して上機嫌でけらけらと笑う。

 ドラゴンには度数が弱すぎてまるで売れなかったワインだけど、ゴブリンにはちょうどいい感じの強さみたいだね。

 うんうん、お酒は楽しくみんなで飲むのが一番おいしいよ。

 

『ドラゴンのお姉ちゃんの分ももらってきた! 一緒にのも!』

 

『む、ドライグにはワインは甘すぎて口に合わ……いや、いただこう』

 

『どう? どう?』

 

『……ああ、やはり甘いな。とても甘い……。これまでで一番うまい酒だよ』

 

『えへへ! うん、おいしいね!』

 

 なんだかゴブリンと仲良くなってるドラゴンもちらほらいるね。

 言語が違うから意思疎通は難しいはずなんだけど……それでもジェスチャーと笑顔で通じ合うことはできるみたいだ。

 

『眼鏡のおねーちゃん、こっちも早く注いでー!』

 

『あっためて飲むんだー! はやくー!』

 

「くそぉ……くそぉ……。これ1本で金貨5枚もするんだぞ……。とびっきりの高級酒をゴブリンに……。しかもホットワインみたいな香りが飛ぶ雑な飲み方でぇぇ……」

 

 デアボリカはゴブリンたちにねだられ、悔しさ全開で器にワインを注いでいる。

 ワインみたいな色の涙流してんなお前。ちょっとはドラゴンを見習ったら?

 こんな可愛いちびたちに囲まれて、普通なら喜ぶところだぞ。

 

「……あ、そうだ! まだドラコの着替えはあるし、次はポピーちゃんに着せて踊ってみようか!」

 

「は!? わ、わらわに男の格好をしろと!?」

 

「何で!? 先生、それボクの服だよ! ボクが! 先生に作ってもらった! 特別な服だよ!!」

 

 ポピーちゃんはともかく、ドラコはなんで牙を剥き出しにして怒ってるの……?

 

「別にいいじゃん、減るもんじゃなし。帰ったら新しい服作ってあげるからさ」

 

「むう……」

 

「ドラコが好きなご馳走も作ってあげる。何が食べたい?」

 

「……からあげ。あと、もっとボクと遊べよな。チェスでもトランプでもなんでもいいから」

 

 そっぽを向いて拗ねながら、ドラコがしゅるっと脚に尻尾を巻き付けてくる。そんな彼の頭を撫でてやると、子供扱いするなとばかりに鼻を鳴らしてきた。

 

「わかったわかった。これから冬になるし、外は寒いからいっぱいゲームしような」

 

「ん」

 

 ふう……。どうにか服を借りることに合意してくれたぞ。

 まったく、どうしてあんなに嫌がってたんだろう? ゴブリンを劣等種族だと見下してるとか? そういうのよくないと思うな。交渉のテーブルに着くんなら対等の相手として臨まないと。

 

 あ、ドラコを説得してる間にポピーちゃんの着替えも終わったみたいだね。

 

「よーし、期待の新人アイドルのお目見えだぞ! みんな注目!!」

 

 ステージに上がってスポットライトを浴びせられた、ショタファッションのポピーちゃんは恥ずかしそうにもじもじと身を縮こまらせている。

 

 それを見たメスドラゴンの一人が、ワインの入った器を取り落とした。

 

「か、可愛い……!? 馬鹿な、ゴブリンにオスは生まれないはず……。誰なんだ、あれは!?」

 

『ご存じ、ないのですか? あれは私たちの女王……ポピーちゃんです!』

 

「え……エロい! 全然イケる! 女の子が男の子の格好してるだけで、なんだこのこみ上げる気持ちは……!?」

 

 

≪説明しよう!

 我々の世界でいう男の娘である!

 小さくて可愛いものに性差はないということを、この日ドラゴンたちは知った!

 むしろ本来性愛の対象ではない存在がグッとくる容姿をしているからこそ、背徳感があって一層エロいのだ! 

 

 男の子の格好をしたゴブリンは、メスドラゴンにとってめっちゃエロく感じるという新発見の瞬間である! ドラコがユニセックスな服装を先に披露していたため、ドラゴンたちの心理的ハードルが下がっていて、この発見はあっさりと受け入れられた!

 これは数百年後の未来において、男形(おやま)として伝わる伝統文化が産声を上げた瞬間でもあった!≫

 

 

『それでは歌っていただきましょう! ゴブリンクィーン、鮮烈の歌手デビューです! 曲は彼女も大好きなフレディ・マーキュリーから!』

 

「こ……こうなりゃヤケじゃーーー!! 歌いまーす!!」

 

「きゃーーーっ! ポピーちゃんのロック魂を聴かせてー!!」

 

「おおおおーーーっ! エロかわいいっ! 推せるっ! 推せるぞおおおお! 男装ゴブリン最高ーーーーッッ!」

 

 

 そして、これが僕のロックスターとしての引退ライブとなった。

 ゴブリンにだけウケていた僕は一線を退き……。

 ゴブリンにもドラゴンにも支持されるパフォーマンスを披露したポピーちゃんが、2つの種族の新たなカリスマとして君臨した。

 そう、彼女はゴブリンQueen.となったのだ……!

 

 ドラゴンは男装したゴブリンが意外にもめちゃめちゃイケることを発見し、ゴブリンたちは自分たちが戴く族長の歌唱がドラゴンたちを喜ばせたことを誇りに思った。

 長年いがみ合い続けた種族は、互いに肩を組み、ワインを酌み交わし、笑い合い、今日の3人のアーティストのエロさを巡って激論を交わした。

 やがて空が白み、朝の光が彼女たちの顔を照らしても、ずっと。

 

 それは新しい時代の幕開けを感じさせる光景だった……。

 なんかちょこちょこ想定と違ったけど、終わりよければすべてよしだな、うん!

 

 

≪説明しよう!

 この世界は歌では救えない! そこに込められた主義主張は受け取る側によって色合いを変え、言語すら違う種族が分かり合うためのツールとしてはあまりにもハードルが高いからだ。

 だが、性癖は全人類の共通言語だ! それは人間の根源から来る欲望であり、誰だって見りゃわかるし、言語が違えど性癖を同じくする者同士で肩を組める!

 

 そう、この悲劇の連鎖に満ちた貞操逆転ハードモード異世界は、エロで救える!≫




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