【書籍版1巻2/20発売】貞操逆転ハードモード異世界を鋼メンタル冒険者が生き抜く 作:風見ひなた(TS団大首領)
こうして僕の引退ライブを通じて、ドラゴンとゴブリンは停戦を迎えた。
僕にできるのはここまでだ。
話し合いのテーブルに就かせるまではできるけど、そこから先はドラゴンとゴブリン自身の問題であり、僕が関与する話ではない。ままま、あとは当事者同士で話し合ってもろて。
僕はのんびりと観光の続きでも……とはならなかった。
ドラゴンの宮殿の会議室では、難しい顔をしたドラパパとポピーちゃんが睨み合い続けている。
「だから何度も言うが、わらわたちゴブリンがそちらに求めるものなど何もない。わらわがこんなところまで来たのは、ロックスターにどうしてもと頼まれたからだ」
「それはこちらも同じことだ。我らドライグが求めることは精霊石の採掘を邪魔しないこと、家畜泥棒を辞めてもらうことだが、どうせそれは不可能なのだろう? 何も食うなと言っているに等しいことはわかっている。ならばこちらも何も求めることはない。先生の面目を保たせるためでなければ、ゴブリンと話し合うことなどない」
「ふん、わかっているではないか。我々が互いに求めるものはない。話し合いなど無意味だ」
そう言って、ドラパパとポピーちゃんはこちらにチラッと視線を向けるのだった。
ええ……。どうしてこうなるかなぁ。
戦争なんてするより平和の方がいいに決まってるのに、なんで仲良くしようとしないんだ。
ポピーちゃんはゴブリンの中でもさすが女王というべきか、流暢に共通語を話せるみたいなんだけど、開幕からずっと喧嘩腰でドラゴンに求めるものなんてないと言い張る。
それに対抗するように、ドラパパもゴブリンから得るものなんてないと切って捨てるのだ。
話は平行線で、まったく先に進んでいない。これじゃ話し合いの席を用意した意味がないよ。
そして2人ともちらちらとこっちを見てくるのは何なの?
悪いけど、僕には何もできないよ。本当にただの大学生だもん。この世界に来るまではどこにでもいるモブ学生だったんだよ。まあちょっと変わってるねとはよく言われたけど。
とにかくこのままでは折角僕たちが命を張って和平交渉に持ち込んだのがパーだ。
誰かどうにかしてくれないかなあ……。
そんなことを思っていると、デアボリカにぐいぐいと腕を引っ張られて会議室の端っこに連れていかれた。アミィさんやウルスナもついてきてる。なんなんだよ。
「おいお前、何をぼーっと見ているんだ。とっとと話をリードして和平交渉しないか」
イライラした顔つきのデアボリカにそんなことを言われ、僕は思わず眉をしかめた。
「え……? 何で僕が?」
「お前が仲裁を買って出たんだろうが! ちゃんと責任をとれ!」
「責任って言われても……」
確かにそれはおかしいと指摘できるのは第三者の視点ならではだけど、細かい部分は当人たちの問題でしょ? だって僕、もうここを離れてサウザンドリーブズに帰るんだよ?
僕には彼らの生活の細かい事情なんて知らないし、これからはこうしなさいなんて強制できる立場じゃないんじゃないかなあ。
僕がそんなことを考えていると、アミィさんが真面目な顔で割って入って来た。
「ユウジ、これは君が話をリードしないと終わらないぞ。両陣営とも、いがみ合い続けてきた期間が長すぎて妥協点を見いだせずにいるんだ。なおかつ、話し合いのテーブルに就いたきっかけが君である以上、君の頭を飛び越えて話をするのも憚られている。つまりこの場では君の発言力が一番強いんだ」
「ええ……?」
困惑を隠せない僕に、アミィさんはくすりと笑顔を浮かべた。
「まあ、それだけ君が高く見積もられているということだ。光栄なことじゃないか。
……いいか、ユウジ。ライブに感動して争いを止める、それはとても素晴らしいことだ。だがそれは一時の感情の動きに過ぎない。喉元を過ぎて感動が薄れれば、人はすぐに争い出す。そうさせないために、戦争を起こさせないような約束をはっきりと結ばせないといけないんだよ。それが和平交渉、君にしかできない仕事だ」
「といわれても……。和平交渉なんて、何をどうすればいいのかわからないよ」
「深く考えんなよ、ユージーン。とにかく思い付きで突っ走るのがお前のいいところだろ。まあ俺の経験上言わせてもらえば、2つの集団をケンカさせないコツは、互いに得をさせることだな」
ウルスナの言葉に、僕は耳を傾けた。
「互いに得をさせる……」
「そうだ。あのな、お前がいた“天の国”では2つの集団を争わせないには相互不干渉がよかったのかもしれない。だけど、下界はそうじゃない。ここは何もかもが不足していて、満足できる暮らしをするにはよそから奪わないといけない世界なんだ。ほっときゃ必ず争いが起きる。
そんな
ふうん……それって高位貴族としての言葉? 何やらとても実感が籠っていた。
もしかしたら実家にいた頃、ウルスナも村同士の争いの仲裁とかやったことあるのかもしれないな。
「ま、それはそれでとても難しいけどな。互いにちょうど不足しているものがあることなんて滅多にない。だから次善策で婚姻政策とかするわけだが……。ドラゴンとゴブリンじゃなあ。……俺に言えるのはこれくらいだな。少しは助言になればいいんだが」
「なるほど……ありがとう、ウルスナ」
やっぱり僕のお嫁さんたちは最高だ。
その助言で、どうすればいいのかわかったぞ。
僕は一人だけ何も言うことがなくて寂しそうな顔をしていたアイリーンの頭を撫でると、ちょっと頼みごとをした。
「アイリーン、ひとっ走りゴンドラに行って、取って来てほしいものがあるんだ」
胸を張って話し合いのテーブルに戻って来た僕は、自信満々に見える顔を作って口を開いた。
「みんなで貿易をしましょう!」
「貿易とな……?」
「そう! ドラパパさんが得意な貿易です! お互いの特産品を交換して、みんなで得をしましょう!」
僕の提案に、ドラパパさんは何かを計算するような顔を、ポピーちゃんは胡乱げな目を向けて来る。
「ロックスター、特産品と言われても……。ゴブリンに他の共同体に渡せるようなものなどないぞ。我々は世界で最も貧しい種族だ。そもそも金など手に入れても、評判の悪い我々に何かを売ってくれるような種族などおらぬ」
「まあまあ、それは後で話そう。いいですか、ドラパパさん……ゴブリンにはとびっきりの美点がある。ゴブリンはとっても手先が器用で、学習能力が高い種族なんです。特に得意なのは演奏とお絵かき。つまり……ゴブリンは自動車の絵を大量生産できます。しかも僕と遜色のないクオリティで」
「な、なんだって!? 先生の絵を量産できるというのか!?」
その衝撃に、俄かにドラゴンの間にざわめきが広がる。
「信じられない……! あの絵がオスドラゴン全員に行きわたる!?」
「ゴブリンにそんな能力があるというのか!?」
「エロマンCarの工業化が始まる……!?」
一方で、ゴブリンたちはぽかんとしてるね。まあそりゃそうだが。
「……なあ、ロックスター。こやつら何をざわついておるのじゃ?」
「大したことじゃないよ。ねえ、今から頭の中に送る物体って絵に描けたりする?」
そう言って僕がプレゼン体験で自動車のイメージを送り付けると、ポピーちゃんはうむと頷いた。
「ああ、3時間もあれば描けそうじゃが……それがどうかしたのか?」
「よっしゃ!」
僕はグッと拳を握ってガッツポーズをとった。いける!
「これからは僕の代わりにこの子たちに自動車の絵を描いてもらいます! ドラゴンはゴブリンから絵を買えばいい! これでまずゴブリンからドラゴンへの矢印は解決です」
「な、なるほど……。だが、先生はそれでいいのか?」
ドラパパの質問に、僕は首を傾げた。
「え? 何が?」
「いや……先生の絵は我らにとって宝である。吾輩は、巨万の富で先生に応えるつもりであった。その利権をゴブリンに譲り渡すというのか?」
「ああ、なんだ。そんなことか。もちろんいいに決まっています。2種族の争いを止め、ゴブリンが少しでもいい暮らしをできるというのなら、僕は利権なんていりません」
「ろ……ロックスター!! そんなにわらわたちのことを……!!」
「なんと高潔な……。流石は先生だ」
ウルウルとした瞳でこちらを見て来るポピーちゃんとドラパパ。いや、そんな眼で見られるようなことじゃないよ。
だってこれ、僕にも益のある話だからね。
なにしろ、これでようやくエロマンガCar生活を辞められる! 正直このまま一生ドラゴンの里に閉じ込められて、一日18時間自動車の絵を描き続ける人生になるかと思ってたよ!
お絵かき大好きなゴブリンたちが僕の代わりに楽しく絵を描いてくれて、しかもそれでいい暮らしができるというのなら万々歳だよ。遠慮なく彼女たちに押し付けてしまおう。
僕にとっては自由にできる時間の方が、巨万の富よりずっと価値があるからね。
「も、もったいない……! 折角の金の生る木をゴブリンなんかに……!」
デアボリカはそんなことを言うけど、お前もこのカンヅメ生活をしてみろよ。週刊漫画家でもここまで絵だけ描くような人生してねえわ。【精神耐性】があっても気が狂いそうになるぞ。
「あと、ゴブリンはすごく手先が器用で、特に精霊石の加工は得意です。ドラゴンってみんな不器用なんでしょ? もし必要なら、大工仕事とか細工仕事を頼むのもいいかも。宮殿を飾る絵画とかもいけると思うよ」
「ほう……なるほど」
「えっ!? そんなことでお金もらえるの!?」
ドラパパが顎髭を撫でながら頷く一方で、ポピーちゃんは自分たちにも売れるものがあったと知って愕然としている。
まあ、これまで他の種族と商売もできなかったから、身内の技術で作ったものを外に売るって発想もなかったんだろうね。
これでゴブリンからドラゴンへの矢印は完成だ。
次はドラゴンからゴブリンに渡すものだけど……。
「しかし、わらわたちはドラゴンから何を対価に受け取る? そりゃまあ食い物などはあればあるだけよいが……」
僕が切り出す前に、ポピーちゃんは胡乱げな視線を向けてきた。あまりにも話がうますぎて、騙されてるんじゃないかと警戒してるのかな。
「ふむ……。食料品ならば新大陸なり暗黒大陸なりから安く仕入れてこれるが。あとは……牧場で育てた家畜か?」
「悪いが、ヤギはいらぬ。そりゃまあ狩りがうまくいかず、牧場から失敬することはあったが……。あれの毛皮には魔力が宿っておらず、我々では加工ができぬからな」
どうやらそうらしい。
ゴブリンたちはみんな魔狼や魔猪といったモンスターの毛皮を加工した服を着ているけど、これって防御力があるとかそういう以前に、毛皮に残留してる魔力を弄って服に仕立て上げてるんだって。
だからヤギとかをさらってきても、毛皮は捨てるしかない。
ゴブリンに捕まってるときに、そういう話を聞いていたんだけど……。
「それってさ、モンスターならウサギの毛皮でもいいの?」
「ウサギ? 確か、平原に大量にいるという動物か。このあたりの山にはおらぬので、わらわも見たことはないが……」
平野部では大繁殖してブリシャブ島の植物という植物を食い荒らし、とんでもない環境破壊をもたらしている大角ウサギだけど、このあたりの山岳部には生息していない。
ウサギが生きていくには植物がそもそも少なすぎるし、大角ウサギごときじゃ足元にも及ばないほど強大なモンスターが生息してるからだ。それこそ魔狼とか魔猪とかね。
そこにタイミングよく、アイリーンがでっかいコンテナを手に会議室に戻って来た。
「ユージィ、持ってきたよ!」
「お、ナイスタイミング! ポピーちゃん、これが大角ウサギの毛皮だよ。これはどう?」
「ほう……?」
僕はアイリーンをかいぐりかいぐりして労いながら、コンテナから毛皮を1枚取り出す。
それを受け取ったポピーちゃんは、ちらっとアイリーンに羨ましそうな視線を向けてから、しげしげと毛皮を観察し始めた。
「ふうむ、これはなかなか。大きいし、皮も分厚くてあったかそうじゃな。宿っている魔力は大したことはないが、加工するならこれで十分じゃろう。モンスターの狩りには心細いが、防寒具としての普段使いや、子供らに着せるなら言うことはない。うむ、これはいい素材じゃ」
よしよし、そうかそうか。
なんせ慢性的に毛皮が不足してて、子供が寒さに鼻水を垂らしていたからね。
これで用が足りるというのなら是非もない。
「よし! じゃあサウザンドリーブズから、この毛皮を定期的にゴブリンに送ろう! とりあえずこのコンテナの中身は、この場で全部あげるよ」
「はあああああああああああああ!?」
僕の言葉に、デアボリカが奇声をあげる。
そんな彼女を無視して、僕はさらに提案を続けた。
「それから、ゆうべのライブでみんなにワインを配ったでしょ? ゴブリンには結構好評だったみたいだし、あれも交易品にどうかな。サウザンドリーブズからは定期的に毛皮とワインをゴブリンに譲ろうと思うんだ」
「そ、それは思ってもみなかった申し出じゃが……。いいのか? そんなことをしてもらっても、ゴブリンから人間に渡せるものなど何もないぞ?」
「ふ、ふ、ふ、ふざけるなああああああああ! 貴様、何を勝手なことを! このウサギの毛皮もあのワインも、ドラゴン様に買っていただくための極上品だぞ! それをゴブリンみたいな賤しい連中にくれてやって、しかもこれからも渡すだと? 何の権利があってそんなことをぬかすか貴様ああああああ!!」
デアボリカは僕の胸倉を掴むと、威嚇しながら詰め寄ってくる。
「あーうるさいな。ドラゴンは買ってくれなかったんだろ? どっちのコンテナも僕が買ったんじゃないか。えーと、確か合わせて金貨200枚だっけ? 後でちゃんと払うから安心しろよ」
「ほ、本当だろうな!? 絶対取り立てるからな!」
たしか金貨1枚が15万円だから、ざっと3000万円くらいかな。
「き、金貨200枚じゃと……!? ロ、ロックスター。さすがにそんな大金の施しは受け取れぬ……!」
元から青白い顔をさらに青く染めたポピーちゃんが、声を震わせる。
金銭文化をもたないゴブリンでも、大金ってことはわかるのかな。
「いいよいいよ、気にしないで。返そうなんて考えないでね。これは僕からの平和への祈りだ。ドラゴンとゴブリンが仲良くしてくれるなら、金貨200枚なんて安いもんだよ」
「なんと……! ロックスター、お主という男は……!」
「……流石は先生だな」
実際3000万円でライブを大盛り上がりさせて、戦争までやめてくれたんだから、とんでもなくお得な費用対効果だよ。ゴブリンもドラゴンもすごく喜んでくれたしね。
あれ以上のお金の使い方なんて、僕にはちょっと思いつかないな。
まあ手持ち以上の出費にはなるけど、そのうちドラパパから教育費6000万円をもらうことになってるから余裕でしょ。
そもそも僕には過ぎた大金だったから、どっかで手放したいなと思ってたんだ。
身の丈に合わない金なんて持つもんじゃないよ。おかしな手合いも寄ってくるし。たとえば
「だ、だが! だがな! お前が買ったコンテナ分は好きにしていいが、今後も勝手に贈り物などさせんぞ! そもそもこいつらに物資を渡して、何の見返りがある! ゴブリンなど、この世で最も賤しく貧しい連中だ! 金なんて持ってないんだぞ!」
「うん、だからドラゴンからもらえばいいじゃない」
「は?」
「……ああ、そうか!」
デアボリカが訝しげに眉を寄せる横で、アミィさんがぽんっと手を打ち合わせた。
「サウザンドリーブズを噛ませて、3拠点で貿易を行おうというのだな! ゴブリンからドラゴンへ、ドラゴンから人間へ、人間からゴブリンへ!」
「そうそう、そういうこと」
さすがアミィさんだ、理解が早い。ウルスナもアミィさんの言葉に、おお……と納得した顔をしている。
えーとこういうのなんていうんだっけ?
三角貿易……だったかな。三店方式……は絶対違うな。
まあいいや。
「3者で同じ価値のものを物々交換するなら、金銭という文化がなくてもいけるでしょ。人間からはゴブリンに毛皮とワイン、あと食料品を。ゴブリンからはドラゴンに自動車の絵と
「うむ、任せてくれ。新大陸とインディスパイスから極上のスパイスをかき集めて来るとも!」
「話は決まりだね」
ドラパパもさすがは元商人だ。理解が早くて助かる。
貿易で利害関係作っちゃえば、お互いの存在が不可欠になるはず。
でも2者だけでそれをやると、どう考えても商売に疎いゴブリンが不利だ。まさかとは思うけど、将来的に搾取される可能性だってある。
だから人間を巻き込んで、3者で物資の流れを可視化して相互に監視させようというわけだ。
僕が知っている中で最も適役の人間は……そう、デアボリカだ。ちょうど理解が追いついてきた顔をしてるね。
ウサギの毛皮とワインは、こいつに任せれば喜んで調達してくれるだろう。
絶対に不正するから、その点は重々監視しておく必要があるけどね。
スターティングメンバーとしてのこいつはとても役に立つ。ビジネス回の両〇勘吉みたいなもんだよ。きっと全力で儲け話をものにしようと、環境を整えてくれるだろう。汚職し始めたら首をすげかえればいいでしょ。
「ええ……と?」
ポピーちゃんとアイリーンは話についていけずに固まっている。まあ、この子たちには後で噛み砕いて説明しよう。
「あのぉ……ユウジさん、それって……つまりぃ……」
金の匂いを嗅ぎつけて、デアボリカは揉み手しながらへっへっと興奮している。
こいつ……。まあ、今回に限っては心強くもあるけど。
「要するに、ゴブリンに毛皮とワインと食料を渡せば、ドラゴンからスパイスがもらえるってこと。よかったな、スパイスって売れば儲かるんだろ?」
「おひょおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!! 利権! 独占利権だぁーーーーーっ!!!」
肩をぽんと叩いてやると、デアボリカは飛び上がって奇声を上げた。うるさっ……! 音に特化した魔術特性って、もしかしてこいつがうるさいからついたの?
デアボリカは途端にポピーちゃんの前に這いつくばると、シュボボボボボボと高速で揉み手をしながら、眉を下げ切って媚びた笑顔を浮かべた。
「おお、麗しのゴブリンクィーン様! このデアボリカめは、貴方様の一族は他のゴブリンどもとは一線を画する高貴さを備えておられると感じておりましたよ! うちの毛皮とワインでしたらどうぞどうぞ、いくらでも持って行ってくださいませ! 貴方様がたのお体を温めるのに使われるのであれば本望でございます~~!!」
そんなデアボリカに、ポピーちゃんは嫌悪感たっぷりの表情で後ずさった。
「き、気持ち悪っ……! なんじゃこいつ、わらわたちを世界で最も賤しい種族とか面罵しておいて……! 人間とはこんなに卑しい生き物なのか!?」
「そいつはすべての生き物の中で一番卑しい存在だから一緒にしないでくれ」
「うるさいっ! 金はこの世で最も貴い存在なんだぞ! それが濡れ手に粟でがっぽがっぽなんだ、頭なんていくらでも下げるわ! よくぞこんなボロい儲け話を持ってきたなユウジ、褒めてやるぞ! お前も私の隣に座ってドラゴン様とゴブリン様に頭を下げろ!」
「褒めるという言葉を辞書で引いたら?」
……人選間違ってるよなあ。でも僕が知ってる人間でこいつが一番金勘定できそうだし。あとこれ以上、ニートを家に飼っとくのやだし。
嬉しさのあまり情緒がぐちゃぐちゃになったデアボリカを捨て置いて、僕はドラパパとポピーちゃんに向き直った。
「……という提案なんだけど、受けてくれる?」
「ああ、もちろんだ先生。本来は大取引するなら何らかの保証が必要だが、この度はそんなものはいらぬ。先生の存在こそが最大の保証に他ならぬからな」
「これでわらわたちはもう盗賊働きをする必要はない……ということか? そんなことをせずとも、ただ絵を描き、曲を奏でて生きていけると……?」
ポピーちゃんはまだ信じられないようで、呆然とした顔をしている。
まあ……そりゃそうか。これまで千年以上も続いた種族の生態とはまるっきり異なる暮らしをしようという提案をされたんだから。
だけどそれは事実だ。
だから僕は、力強く頷いてやる。
「そうだよ。もうスノーゴブリンは他種族を襲う必要はない。そんなことしなくたって人間から食料を買えばいいし、繁殖相手が欲しければ人買いから買うなり、支度金を用意して他種族から婿をもらうなりすればいいんだ。闘争本能が疼くというなら、モンスターの狩猟とかで発散してもらって。……だから前に言ったろ? 生き方は変えられるんだって」
「……ああ、まだ信じられぬ。ロックスター、汝は我らを解放してくれたのじゃな。未来永劫迫害される運命、永遠に憎悪を向けられる宿命、その
ポロポロと涙を零すポピーちゃんに、僕はぎょっとして首を大きく横に振った。
「え? いやいや、僕はそんなんじゃないよ! 絶対にそんな大それたもんじゃないから! そんな変な呼び方しないで!」
聖者呼ばわりだけでも持て余してるのに、そんな大それた称号なんていらないよ! 古今東西、救世主呼ばわりされた人間が平穏無事に死ねる話なんてめったにないじゃん! 僕は詳しいんだぞ!
「いや……だって先生は歌で戦争を止めたんだろう? これ、絶対後世で伝説になるよ? その場にいた吾輩も、もはや奇跡の領域だろと目を疑ったもん。もちろんドライグにとっても、ED問題に終止符を打ってくれた先生は種族の救世主だよ。これについてはマジでそう思ってる」
「ドラパパまでそんなこと言うの!? やめて! ただエロで盛り上がっただけでしょ!? 絶対僕の名前なんか残さないで!」
「何を言うのじゃ。この偉業を残さないなどありえんじゃろ。ロックスターの名は我らスノーゴブリンの末代まで英雄の歌として歌い継がれるじゃろう」
「もちろんドライグも未来永劫伝え抜くからな」
「やめてーーーーーーっ!?」
はぁ、はぁ、はぁ……! やべえ、全力で叫びすぎて喉が枯れた。
そんな僕を見て、ドラパパとポピーちゃんはぷっと噴き出した。
くそっ、さてはからかってたな? まったく……。
僕も2人に合わせて笑顔を作る。
3者の笑い声が響く中で、ドラパパが手を差し伸べた。
彼の手にポピーちゃんが小さな手を重ね、僕が続く。
『この貿易協定を我ら3種族の友好の証とする! ドライグ、ゴブリン、そして人間の融和が、末永く続かんことを!』
こうして、長きにわたる種族の諍いはついに終結のときを迎えたのだった。
なんか結局、僕が人間代表って扱いになってるのどうなってんの……?
田舎町に暮らしてる町人Aに過ぎない僕が、勝手に人間代表みたいな顔してよかったのかなあ。
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