【書籍版1巻2/20発売】貞操逆転ハードモード異世界を鋼メンタル冒険者が生き抜く 作:風見ひなた(TS団大首領)
和平交渉が成功裏に終わって2日が経ち、僕はドラゴンの宮廷でぬくぬくと過ごしていた。
毎日精霊魔法の空調が効いたあったかい部屋でお嫁さんたちといちゃいちゃしたり、ドラパパ一家と雑談したりしていたよ。
お嫁さんたちはずーっと僕のそばにいて、用を足すとき以外は離れなかった。今回は心配かけちゃったからね、いくらでも一緒にいるよ。あーもう、愛情感じちゃうなあ。
何故かドラコも離れなかったんだけどね。まあこいつも家族だからいいんだけど、夜になっても離宮に帰らない。寝るときは僕のベッドに潜り込んでくるし。
生きてるカイロみたいにぽかぽかだから快眠できたけど、お嫁さんとちょっとエッチなスキンシップができないので、ウルスナとアイリーンは若干ほっぺを膨らませていた。
まあ、どのみちエロいことはデアボリカがいる限りできないんだけどね。
ゴブリンの巣に行く前とは打って変わって、昼の間は家族みんなで過ごせるゆとりある日々を楽しませてもらったよ。
エロマンCarの利権はスノーゴブリンに譲ったから、これでもう自動車の絵を四六時中描かされることもない。
ドラコとドラパパの分はどうしても僕が描いてほしいと言われたので、今後も描くことになるけども……。
ゴブリンの絵は正直僕なんかより全然うまい。
だからゴブリンに描いてもらった方がよほどいいと思うんだけどな。どういうわけか2人とも僕に描いてほしいと頑として譲らなかった。
まだ10歳のドラコにエロメディアを与えていいのか? とは思ったんだけど、よくよく考えたら僕も精通迎えた10歳の頃はエロに興味津々だったからね。おじいちゃんのPCにログインしてエロサイトのアカウントを使わせてもらうのを覚えたのもその時期だ。
自分がやっといて他人には禁止しちゃ理屈が通らないからね。
こっそり自分で楽しむためなら僕は目くじらを立てないよ。何よりご褒美として頑張れるんなら、ドラコの成長にも有益だろう。
そもそも自動車の絵やぞ……。
なお、ゴブリンの絵師志望者には脳に自動車の絵の植え付けをして回った。
いずれは記憶も薄れていくだろうし、定期的にやらなきゃだめかなと思っていたんだけど……。
なんと彼女たちは精霊石を加工して、自動車の3Dモデルを作り出してしまった。この世界初のミニカーの誕生だよ。これを参考にして絵を量産していくとのこと。
器用だと思っていたけど、まさかそんなこともできたとは……。
これの存在はドラゴンにも露見し、いくら黄金を積んでもいい! ぜひ譲ってほしいという申し出が殺到した。この世界初のエロフィギュアの誕生でもあるのか……?
しかしゴブリンたちは黄金にも宝石にもまるで興味を示さなかったので、対価として支払えるものがないということで交渉は流れたようだ。
ドラゴンとゴブリンの友好の印として、ポピーちゃんが作った1/6スケールくらいのF1カー1つだけがドラゴンに寄贈され、こちらは国宝として宮殿に展示されている。
なんかミロのヴィーナス像みたいな扱いされてるの、すごいシュールなんだけど。
これのおかげでゴブリンは芸術家集団という認識がドラゴンの間に広まり、好意的な感情を持つようになっているようだから、正しく友好の役に立っているようだよ。
ゴブリンのライブビジネスはどんどん進化している。
ポピーちゃんを皮切りに、男の子の格好をしたゴブリンたちのアイドルユニットが続々とデビューを果たした。
これがドラゴンのお姉さんたちに大変に受けており、ゴブリンたちにとっても新しい遊びとして熱心に歌やダンスのレッスンを楽しむ子たちがたくさん出てきている。
オスドラゴンにとっても普通に可愛いアイドルとして受け入れられているみたいだね。
服の出どころはドラゴンの男の子の古着なんだけど、何やらそのデザインの最高峰はドラコの服だと評判になっていて、サウザンドリーブズの仕立て屋に発注することも計画されているそうだ。
まさか僕の従姉の腐女子ねーちゃんも、自分の性癖を詰め込んだファッションが異世界でアイドルライブの衣裳としてもてはやされるとは思ってもみなかっただろうね……。
まあそれはいいんだけど、引退ライブをしたはずの僕はゴブリンたちに連日連夜特別ゲストとして呼ばれ続けている。
「やっぱり初代ロックスターがいないと!」
「そうだよー、男性ボーカルだからこその良さってあるもん!」
「あたしたちもっと初代の歌が聞きたいのー!」
……まずい。
どれだけ女性ボーカルがカッコよく歌っても、男性ボーカルの代わりにはならないということに気付かれ始めている。
このままだとやっぱり僕を引退させられないと言われかねないので、はやいとこお
ゴブリンたちへの自動車の記憶の植え付けも終わったし、そろそろ帰るべきだろうね。
「そんなわけで、明日には帰ろうと思うんだ。デアボリカからも早く帰ってゴブリンへの輸出品の用意をさせろってせっつかれてるしね」
「む、そうか……また急ですな」
「でも会おうと思えばすぐ会えるし。また遊びに来るよ」
「それは確かに。この狭い島の中の話だからな」
二家族合同でのんびりと過ごしていた昼下がり、僕の申し出にドラパパは黒々とした立派な髭を撫でながら頷く。
まあ、言ってもドラゴンにとってはほんの数時間しか離れてない距離だからね。このブリシャブ島って日本とほぼ同等の広さがあって、この里とサウザンドリーブズは数百キロメートルは離れているんだけど、時速200キロ近い速度で飛行できるドラゴンにとってはご近所扱いなんだろうね。
つくづくとんでもない種族だよ、ドラゴンって。脳内で無線会話できるし、生きる戦闘機みたいなもんだ。よく人間からこんな形に進化したもんだよ、自然ってすごいなあ。
「次来るときはおいしい
「それは楽しみだ。しかし……そうなるとちょっと困ったな。1日繰り上げようか」
「え、何を?」
何か楽しいお祭りでもあるのかな。そう思って聞いた僕に、ドラパパはにこやかに告げた。
「ああ、今回の事件のきっかけとなったドラゴンの公開処刑だよ。先生の命を危険に晒した愚か者だ、ぜひ先生にも特等席でご覧いただこうと思っていたのだが」
「ぶっふぉ!?」
思わず口にしていた酒を噴き出して、思いっきりむせた。
いや、何言い出してんだこの人!?
「いらないいらない! そんなの見たくないです!」
「え? でも、古くから自分を危機に陥れた者の処刑を間近で鑑賞する“断罪ざまぁ”は、復讐者の特権として認識されているし……」
「趣味が悪いな!? 誰だよそんな呼び名付けたの!」
……いや。もしかして、僕の大先輩の仕業なのか?
この世界、僕とは別の転生者がいる。それはずっと過去の時代でもそうだったのか?
僕より前に転生した誰かが、その呼び名を広めた……?
だとしても僕とはちょっと価値観が相容れない人かな。
僕、今回の一件で悟ったことがあるんだ。
それは僕が心底血を見るのが嫌いで、平和を愛する
まあ平和ボケした典型的な日本人だね。だけどそれはとても意義があることだと思う。
もちろん断罪ざまぁ! 俺の足を引っ張った奴は皆殺しだ! ってタイプの作品が人気があることは知っているけどね。
僕は苦難を越えて敵味方が手を取り合う方が好きだよ。お花畑な思想ではあるけど、だけど敵を許すことは殺すことより難しく、尊いことだと思う。ああ、あくまで僕個人の意見だよ。どうしても相容れない相手は殺すしかないことも理解はしてる。
……よくもまあこんな性格の人間が、冒険者なんて流血に
で、だ。
そんな僕が処刑に対してどう思ってるかなんだけど。
「処刑なんてしなくていいよ。僕はこうして無事に帰って来たし、ゴブリンとも友好を結べた。結果オーライでしょ?」
「いや……さすがにそれは」
しかしドラパパは渋い顔を浮かべ、僕の言葉に頷いてくれなかった。
「結果がたまたまうまく転んだだけだよ、先生。貴方が死んでしまう可能性もあった。というか、確かに死んだのを見たって報告もあるし……。なんで生きてるのかはこの際問わないけど、先生を危機に晒した罪は重い。死をもって責任を取らせねばならんのだ」
なんで? 危険に晒された本人が許すよって言ってるじゃないか。
全然納得できないな……そう思っていると、ウルスナがちょいちょいと僕の袖を引っ張り、耳打ちしてくれた。
「ユージーン、これは威信の問題なんだ。族長一家の大事な客であるお前の命が危険に晒された。そんなことをしでかしたドラゴンを許しちゃ、族長一家のメンツが立たないんだよ。恐怖によって民を締め付けないと、ドラゴンは……いや、この世界の貴族はやっていけないんだ。
それに、お前はさっきから嫌悪感を隠さない顔をしてるけど、俺たちの世界では公開処刑というのはエンターテイメントなんだ。みんなああ誰かが死んだと恐れ、それが自分や家族じゃなくてよかったと胸を撫で下ろす。……民衆はそうやって死のスリルと安堵を味わい、退屈な日常に帰っていく。そういうものなんだ」
……マジで?
え、ハードモードな世界だと思ってたけど、そこまで殺伐としてるの?
嘘だろ。人ってもうちょっと賢くて理性的な存在じゃないの?
僕は周囲を見渡してみんなの顔を確かめてみるが、確かに公開処刑に嫌悪感を抱いている人はいなかった。
そうかぁ。この世界の人にとっては、これは当たり前の文化なんだな。
ここは血に飢えた残酷な世界で、そのルールを小さい頃から刷り込まれた人は当然のように受け入れている。
だとしても、それを僕が受け入れてやる必要はないな。
郷に入りては郷に従う、それが日本人の美徳だとは言うけれど。
だけど僕は僕の良心が叫ぶ限り、断固としてNO!を主張し続けてやる。
「僕は嫌だ。人死になんて見たくない。それが僕が関わることならなおのことだ」
そう耳打ちし返すと、何故だかウルスナは目を細めて微笑んだ。
そして僕の頭をぐりぐりと撫でると、小さく囁く。
「任せろ」
ウルスナはバンダナを外し、お団子にまとめた金色の髪を解いて、ドラパパの前に跪いた。
「黒王閣下、お耳汚しですがどうかわたくしに貴重なお時間をくださいませ。夫であるユージーンの命を危機に晒されたこと、妻であるわたくしはとても許せません。かの愚かなドラゴンへの憎悪で
え、どういうこと? 死刑阻止に協力してくれるんじゃなかったの? これじゃまるっきり逆じゃん。
思わず開きかけた僕の口を、誰かが後ろからそっと塞ぐ。振り返ると、アミィさんがウィンクしてこちらを見ていた。まあ見てろと言わんばかりの彼女に頷き返し、僕は黙って話の行方を伺う。
「……うむ、そうであろうな」
「はい。で、あれば。ただ一度の死を
「……ほう? 具体的にはどのようなことだ?」
「はっ。かのドラゴンを、わたくしどもの住むサウザンドリーブズへ派遣していただくというのはどうでしょうか。そうですね……1週間に1度、ゴンドラを担いで寄越してください。そのゴンドラには我が夫の
「ワハハハハハハハハハハ!!」
ウルスナの言葉に、ドラパパは腹を抱えて笑い転げた。ドラママもクスクスと顔を伏せて噴き出している。
うーん、うまい……!
なるほど、死刑よりも使い走りの方が辛いってことにしてしまえば、殺さずに済む。
それに僕たちにとってもドラゴンとのホットラインをもてるのはとてもいい提案だ。ドラゴンの里に何か届け物をしたいときに、わざわざドラコに飛んでもらうのも大変だしね。そんな使い走りをやりたがるドラゴンもいないだろうし、その人員も確保できる。
一手でいくつもの問題を解決できる策だ。
ウルスナって本当に頭がいいんだね。
まだ笑い転げているドラパパは、心底愉快といった表情で目元を指で拭った。
「うむ、まさしくそれはドライグにとって死より辛い刑と言えような! よかろう、ではそのように取り計らおうではないか。この同胞への刑を以てどうかその怒りを鎮め給え」
「しかと承りました」
跪いたウルスナは、深々と頭を下げる。
そんな彼女に、ドラパパはどこかそわそわとした態度で口を開いた。
「……君、もう一度名前を聞いてもよいかな?」
「はっ。ウルスナと申します」
「なあウルスナ君、吾輩の部下にならんか? ドライグは知っての通り力頼みでな。君のような知恵者がいてくれれば本当に助かるのだが……どうだろう。給料は言い値を出そう」
「ちょっと、ダメですよドラパパ! ウルスナは僕のものなんだから! 絶対目の届かないところになんかやらないからね!」
「そうだよ! ウルスナ、行かないで!」
僕とアイリーンは慌てて割って入り、ウルスナにしがみついた。
夫の前で妻をヘッドハンティングとか何考えてるのさ! ……いや、別にそうおかしなことでもないのか?
でも海外赴任とかありそうだし。新婚早々にお嫁さんと別居とか絶対やだよ!
うーん、でもこれって元の世界だと私情で夫の出世を阻む悪妻みたいな感じかなあ……。
ウルスナはどう思ってるんだろう。
僕がそんなことを思っていると、ウルスナはにっこりと微笑んでドラパパに頭を下げた。
「申し訳ございません。折角のお言葉ですが、わたくしは鶏口となることを望みはしても、牛後につくつもりはないのです」
「フ……そうか。そうだろうな。何事も頭を張るのが一番楽しいものだ。君のごとき才人ならばなおのことよな」
「身に余るお言葉、ありがとうございます。また、いずれ別の形でお話しさせてくださいませ。そのときは共に組織の頭として」
「ああ。楽しみにしていよう」
ドラパパは重々しく、どこか楽しそうに頷いてから、ドラママの方を振り向いて「振られちゃった!」と舌を出しておどけた。
「もう! 妻の前でよその妻を口説いちゃダメでしょ!」
「へへへ」
ごりごりと頭を掻いててへぺろなんかしてるドラパパ。
僕、この人が時々やたら軽い口調やジェスチャーするの好きだなあ。
多分「吾輩」とかの一人称や、仰々しい口調は威厳つけるための演技なんだろうね。
そりゃ青年時代までずっと行商人やってたんだから、素はお調子者だろうなあ。
「ねえドラパパ、僕ずっと気になっていたことがあるんだけど……訊いていい?」
「ん? 何だい先生、吾輩が答えられることならいいよ」
「ドラパパの本名って、なんて言うの? まさかドラゴンの王様になる前から黒王って名前だったわけじゃないでしょ?」
「ああ、名乗ってなかったか……こりゃ失敬」
ドラパパは中指の背でこつんと自分の頭を叩いた。
「“クロウ”だよ。ほら、髪の色がカラスの羽根のように黒いだろう? まあ、ドラゴンの名前の由来としては軽いと思われてか、周囲がいつの間にか“黒王”と呼んでくるようになって、吾輩もそれに乗っかったのだが」
ああ、なるほど……。
「でも、“俺”はずっと自分の名は“クロウ”だと思ってる。人間の養父母が、吾輩を拾ったときに付けてくれた名だ。こんな得体のしれない子供を拾ってくれた、お人よしの親からの贈り物だ。たとえ軽い名だと思われようと、これを捨てることなど俺にはできんよ……」
「いえ、そんなことないです。これ以上なく貴方を表している名だと思いますよ」
「そうかい? ありがとう」
ドラパパはそう言って、どこか照れたように鼻の頭を掻いた。
うん、苦労人のクロウどん。本当になんてぴったりな名前なんだ……!
「だからな、先生。吾輩は、同じ黒髪を持つ先生のことを、どこか他人には思えんのだよ。まるで年の離れた兄弟のように感じることがあるのだ」
「……ドラパパ……」
い、今のタイミングでそういうこと言われるとめっちゃ気まずい! 失礼なこと考えてごめんなさい!
でも、この人にそんな親愛をもってもらえてたこと、すごい嬉しい……。
「さて」
僕は無理やり話を変えるように手を叩き、笑顔を作った。
「じゃあ後は公開処刑の代わりに、みんなを楽しませるショーを見せてやんないとね。今夜は僕の復活&さよならライブだ! 盛り上げるぞ!!」
「おお! そうだな、今度はドライグからもたっぷり食料を持ち出して、盛大な送別会にしようじゃないか!」
その日のライブは、そりゃもう盛り上がったさ。
僕も下手なりに歌声を披露したり、ドラコと一緒に踊ったり、ゴブリンたちとプチミュージカルしたり、ミニコントを披露したり。
そして歌いながら願った。
いつか公開処刑なんて悪趣味なショーの代わりに、この楽しくて賑やかなライブが世界中に広がりますようにと。
それが僕なりの平和への祈りだ。
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